菊澤ゼミナール(社会人)
中央大学
国際会計研究科ゼミ(社会人)と
総合政策研究科博士課程

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 中央大学大学院アカウンティングスクール(社会人)菊澤ゼミナール

(来年度から慶応義塾大学へ移籍のため 募集中止)
 
 私のゼミでは、取引コスト理論、エージェンシー理論、所有権理論、行動経済学など新制度派経済学、組織の経済学、限定合理性アプローチと呼ばれている理論を徹底的に理解し、それを多様な現実に応用する研究を進めています。したがって、きわめて実務的で即役に立つような研究は一切しておりません。

 逆にいうと、今日、経営学という学問もかなり進化し、昔のようにアカデミックな経営学は理論ばかりやっていて役に立たないという時代は終わりつつあります。アカデミックな研究は役に立つのであり、役に立つ学問はアカデミックなのです。

 このような学問と実践性の一体感を作り上げる可能性を秘めている学問が、「人間の限定合理性」を仮定して展開される「組織の経済学」「新制度派経済学」「行動経済学」なのです。

 こういった信念のもとに、私のゼミでは各業種の社会人学生と研究を進めています。この分野は最先端分野の一つですので、できれば、みなさんと英語の文献を読んでみたいというのが、私の願いです。現在もときどき、英語の文献を読んでいますが、社会人ゼミ生の半分以上はかなり英語能力のある人がいますので、タイミングがあれば、前面的に実行したいものです。

 また、最近は数学のできる社会人の方もゼミに入ってきましたので、楽しみにしています。オリバー・ハートの新所有権理論の本を輪読できる可能性もあります。昔、数理経済学がはやった時代をすごしている私は、一時、反数理モデル派でしたが、最近、関心が芽生え始めています。

英語と数学好きな人は、特に歓迎です。
私のゼミはマニアが多く、また私の専門分野は好き嫌いがはっきりしている分野ですので、ぜひ私の本を読んでこの分野が好きかどうか、自問して来てほしいものです。

(ゼミの構成員)
1期生が4名(女性1名)。
2期生は5名(女性1名)です。
3期生は3名(女性1名)です。
4期生は4名(女性1名)です。
卒業後もOBはゼミに参加しています。

その他
ゼミは、防衛大時代の教え子たちや中央大学大学院生や私の研究に関心をもっているコンサルタントの人々が突然参加することもあり、なかなか刺激的なゼミになっています。勉強あるいは研究の好きな人は大歓迎です。

また、卒業した1期2期生も、仕事が忙しい中、引き続き自由に参加しています。さらに、立教大学の若手研究者たちも参加してくれています。

(ゼミの雰囲気)
私のゼミは、勉強の好きな方に対してオープンです。まさに、K.R.ポパーの「開かれた社会」になっています。この大学のゼミのおもしろさの一つは、いろんな大学出身者が集まっていっしょに議論できる点です。東大・一橋・早慶・・・・などいろんな大学出身者の社会人と議論できるのは、とても刺激的で、私自身わくわくしています。しかも、私のゼミは様々な業種・産業の社会人学生から構成されており、まさにカオス状態です。

以上のような意味で、このスクールは既存の中央大のイメージを超えていると思います。私が育った慶応の大学院とそれほど差もないように思います。研究会では、上下関係はなく、論理性のもとに批判的議論を展開します。この点でも、ポパーの「開かれた社会」になっています。ただし、研究会を一歩でたら、互いに気配りをするというのが、大事です。


ゼミでは、先に述べたように、「取引コスト理論」、「エージェンシー理論」、「所有権理論」、「行動経済学」などの限定合理性アプローチ、新制度派経済学、組織の経済学と呼ばれている理論をしっかりマスターし、それを多様な現実に応用し、新しい解釈を導き出すという研究を進めています。

具体的には、
演習1では、新制度派経済学、組織の経済学、行動経 済学に関する論文を読んで、理論をマスターする。
演習2では、上記の理論を現実に応用した論文を書き
 上げ、毎回、発表する。
演習3では、修士論文に向けて指導する。

以下は、具体的な例です。
(1期生の研究テーマ)
「知識資産の経営学ーナレッジマネジメントの取引コスト理論分析」
「マスメディアの比較制度分析ー新制度派経済学アプローチー」
「信託関係のエージェンシー理論分析ー受託者責任の経済分析ー」
「ベンチャー・キャピタルのエージェンシー理論分析ーベンチャーキャピタルをめぐるコーポレート・ガバナンスー」
いずれの論文もレベルは高いと思います。

(2期の修士論文テーマ)
「企業の情報システム化の比較制度分析」
「金融市場をめぐる規制措置のエージェンシー理論分析」
「コンサルティング・ファームの比較制度分析」
「化学産業の経済分析」
いずれの論文もレベルは高いと思います。

3期生のテーマはこれからです。

以上の研究の内容はバラバラですが、ゼミ員は分析アプローチとして「組織の経済学」「新制度派経済学」を共有していますので、相互に研究を理解でき、議論することができるようになっています。

(その他)
ゼミが終わってからは、毎回、飲みにいっています。(最近は、ゼミが終わるのが遅いので中断しています)こちらの方が、ゼミよりも実はもっと楽しいかもしれません。まだ、私も若いので、つき合うことができます。そのうち体がついて行かなくなるかもしれません。卒業しても、菊澤ゼミではOB・OGは自由に私の研究会に参加できます。

(今後)
現在、ゼミの学生と共同して本を書くプロジェクトを立ち上げています。かなり出来上がってきました。近いうちに、出版したいと思っています。

その内容を少し紹介しておきましよう。



 学生との共同プロジェクト本 

戦略と組織の経済分析(仮題) 
(中央経済社より出版決定!!!!)
                            菊澤研宗編著
                             
序  論
T部 オールド・エコノミーをめぐる新制度派経済分析
第1章 マス・メディア業界をめぐる比較制度分析
1 はじめに
2 取引コスト理論からみたマス・メディア
2.1 コースの取引コスト理論 
2.2 ウィリアムソンの取引コスト理論
2.3 取引コスト節約制度としてのマス・メディア
3 3つのマス・メディア制度の特徴
3.1 新聞について
3.2 テレビについて
3.3 インターネットについて
3.4 3つのマス・メディアの特徴のまとめ
4 マス・メディアの比較制度分析
4.1 「データ」をめぐるマス・メディアの比較制度分析
4.2 「情報」をめぐる比較制度分析
4.3 「知識」をめぐる比較制度分析
5 結 語:予想される3つのマス・メディアの方向性

第2章 日本の化学工業の取引コスト理論分析
1 はじめに
2 日本の化学工業に対する従来の見方とその限界
2.1 日本の化学工業に関するイメージと実体
2.2 化学工業に関する従来の分析
2.3 従来の見方の限界:機能性化学品に焦点をあてた見方
3 取引コスト理論と企業の境界問題
3.1 新古典派経済学の議論
3.2 コースの取引コスト理論と企業の境界
3.3 ウィリアムソンの取引コスト理論とイノベーションと企業の境界
4 なぜ日本の機能性化学品が高いシェアをしめることになったのか
4.1 一般的な説明
4.2 日本の化学工業の取引コスト理論分析
5 結 語
第3章 酒類業界の組織戦略をめぐる比較制度分析                                        
1 はじめに
2 組織戦略の取引コスト理論分析
2.1.取引コスト理論
2.2 多角化戦略の取引コスト理論分析
2.3 多角化と企業の境界
3 酒類メーカーの組織戦略をめぐる取引コスト理論分析
3.1 事業部制組織戦略
3.2 カンパニー制組織戦略
3.3 二つの組織戦略の一般的意味
4 結 語

U部 ニュー・エコノミーをめぐる新制度派経済分析
第4章 コンサルティング・ファームをめぐる比較制度分析
1 はじめに
2 コンサルティング業界の歴史 
2.1 日米コンサルティング・ファームの起源
2.2 米国の現状
2.3 日本の現状
3 コンサルティング業界に存在する3つのファーム・グループとその特徴
3.1 戦略系ファーム集団
3.2 IT系ファーム集団
3.3 総合系ファーム集団 
4 コンサルティング業界の取引コスト理論分析
4.1 コースの取引コスト理論とコンサルティング業界の存在
4.1.1 新古典派経済学
4.1.2 コースの取引コスト理論
4.1.3 コンサルティング業界の取引コスト理論分析
4.2 ウィリアムソンの取引コスト理論
4.2.1 基本仮定
4.2.2 取引コストと取引の特徴
4.2.3 取引コスト、資産特殊性、統合形態
4.2.4 コンサルティング・ファームの制度比較分析
5 経験的事例研究
5.1 仮説(H1)と事例分析
5.2 仮説(H2)と事例分析
5.3 仮説(H3・1)および(H3・2)と事例分析
6 結 語

第5章 証券アナリストのエージェンシー理論分析                                
1 はじめに
2. 証券アナリストの制度上の問題
2.1  証券アナリストの概要
2.2  セルサイド・アナリストをめぐる諸問題
2.2.1 米国での事例(1)―株式相場の下落と倫理問題
2.2.2 米国での事例(2)―エンロン事件と利益相反
2.2.3 米国での事例(3)―その他の利益相反
2.2.4 日本での事例・・・企業評価の上方バイアス
2.3  アナリストをめぐる利益相反問題
3 証券アナリストをめぐるエージェンシー理論分析
3.1  エージェンシー理論
3.2  証券アナリストをめぐるエージェンシー理論分析
3.2.1 基本的エージェンシー関係と証券アナリストの存在
3.2.2 第一のエージェンシー関係: 不誠実な代理人
3.2.3 第二のエージェンシー関係: 忠実な代理人
3.3  利益相反問題からエージェンシー問題へ
4 現状考察
4.1 規制を中心とした防止策
4.2  利益相反問題防止策の限界 
5 証券アナリストのモラル・ハザード防止に向けて
5.1  独立系リサーチ会社
5.2  上場企業
5.3  ゲートキーパーと証券取引所
6  結論

第6章 ベンチャーキャピタルをめぐるエージェンシー理論分析                                                                                                       
1 はじめに
2 ベンチャーキャピタルをめぐる二つのエージェンシー関係
3. ベンチャーキャピタルとベンチャー企業間のエージェンシー理論分析
3.1 1990年半ばまでの第二のエージェンシー関係
3.2 1990年半ば以降の第二のエージェンシー関係
3.3 ベンチャー企業をめぐるエージェンシー問題の解決案
4 ファンド出資者とベンチャーキャピタルのエージェンシー理論分析
4.1 米国のベンチャーキャピタルをめぐる第一のエージェンシー関係
4.2 日本のベンチャーキャピタルをめぐる第一のエージェンシー関係
4.3 ベンチャーキャピタルをめぐるエージェンシー問題の解決案
5 結 語:もうひとつの対策

V部 新しい動きをめぐる新制度派経済分析
第7章 ナレッジ・マネジメントの取引コスト理論分析
1 はじめに
2 従来のナレッジ・マネジメントの問題点
3 新しいナレッジ・マネジメントの理論的研究
3.1 取引コスト理論からみたナレッジ・マネジメントの企業観
3.2 企業が扱う4つの知識
3.3 洗練されたナレッジ・マネジメント
4 洗練されたナレッジ・マネジメントの経験的妥当性
5 結 語

第8章 企業の情報システム化をめぐる比較制度分析                                                
1 はじめに
2 情報システム化の3つの方法
3 情報システム化の比較制度分析
3.1 コースの考え
3.2 ウリアムソンの考え
3.3 情報システム化の比較制度分析
4 情報システム化失敗の分析
4.1 内部組織化失敗の分析
4.2 分社化失敗の分析
4.3 アウトソーシング失敗の分析
5. まとめ

第9章 コーポレート・ガバナンスの所有権理論分析
1 はじめに
2 なぜ企業は存在するのか
3 企業を効率的に統治できるのは誰か
3.1 完全合理性の世界と絶対的単一所有
3.2 限定合理性の世界と絶対単独統治不可能性のテーゼ
3.2.1 株主主権論
3.2.2 コア従業員主権論
3.2.3 債権者主権論
3.3 ステークホルダー主権論
3.3.1 状況依存的なステークホルダー主権論
 3.3.2 ステークホルダー主権論の理論的基礎
 3.3.3 分離型と統合型のステークホルダー・ガバナンス
4 日米独企業を効率的に統治してきたのは誰か        
4.1 ドイツの企業統治
4.2 米国の企業統治
4.3 日本の企業統治
5 結論


序  論 ―本書の目的、アプローチ、内容概説―
1. ことのはじまり
  本書は、2002年に新設された中央大学アカウンティング・スクール菊澤研究室のゼミナールで発表された社会人学生の修士論文にもとづいている。実際の修士論文はもっと量が多く、しかもより専門的な内容をもち、さらに企業秘密にかかわるような内容もあるため、本書ではその一部をやさしく書きなおして再構成している。
 当時の中央大学菊澤研究室では、毎週土曜の夜6時30分から10時まで中央大学市ヶ谷キャンパスで熱い議論が展開されていた。参加者は、菊澤ゼミの社会人学生のみならず、ゼミOBの社会人や博士課程に進んだ社会人学生、若手の経営・経済学研究者たち、そして私が防衛大時代に教えた現役自衛官や飛び入みで参加する人々、他学部の大学院生など多様な人々からなる多国籍軍であった。 
このようなメンバーによって、菊澤ゼミナールでは、私の専門である「新制度派経済学」あるいは「組織の経済学」を共通の理論的基礎として、現実の企業組織がこれまでと異なる形で解釈でき、今日、どのような問題を抱えており、どのような解決が可能なのかを研究していた。理論それ自体の研究だけではなく、ほとんどの学生が業種の異なる社会人であるため、ほとんどの人が理論の現実への応用に強い関心をもっていた。
特に、アカウンティング・スクールに入学する社会人学生は、企業の経済的側面に強い関心をもっており、会計的視点から企業を分析することに関心をもつ学生が多かった。このような学生が、私の専門としている組織を経済学的に分析する新しいツール「新制度派経済学アプローチ」あるいは「組織の経済学アプローチ」に関心をもったのも、ある意味では必然的であったといえるだろう。
もちろん、アカウンティング・スクールの学生は基本的に会計・ファイナンスに関心をもっており、私の研究室は非常にマイナーな存在であった。しかし、逆にいうと、私のゼミに参加している学生はすでに会計・ファイナンスについて、ある程度、知識があり、さらに高い学問的刺激を求めてきているかなり優秀な学生が多かったように思われる。
このような好奇心の強い優秀な学生が多かったために、彼らが書いた修士論文もかなり興味深い内容をもち、しかもある程度の水準をもった研究がこれまで多く展開されてきた。その成果は、「応用新制度派経済学」と呼ぶにふさわしく、菊澤ゼミ内にとどめておくよりは、広く一般にその成果を公開した方がいいのではないかと思い、本書を企画した。
以上のような背景と目的をもつ本書によって、これまで理論は役に立たないとか単なる屁理屈だとかとかいわれてきたが、このような理論をめぐる偏見は払拭されることになるだろう。

2.本書の新制度派経済学アプローチとは
 2.1 限定合理性アプローチ
 さて、本書では、今日、経営学や経済学分野でよく知られている「新制度派経済学」あるいは「組織の経済学」と呼ばれているアプローチを一貫して用いて分析が展開されている。このアプローチは、主に「取引コスト理論」、「エージェンシー理論」、そして「所有権理論」といった三つの理論群から構成されている。
 このアプローチの最大の特徴は、新古典派経済学で仮定されている完全合理的な経済人に対して、基本的にどんな人間も完全に合理的ではないが、逆に完全に非合理でもなく、人間は「限定合理的(Bounded Rationality)」だとみなす点にある。これは、H.A.サイモン(H.A.Simon)によって明示的に導入された人間観である。
 このような限定合理的な世界では、人間が頭の中で合理的だと思って行動したとしても、実際にはその行動は非効率になったり、不正行為になったりする。たとえば、人間は頭の中で合理的に車を運転していると思っていたとしても、事故に巻き込まれ大けがをするかもしれない。また、ある従業員は、会社の利益ために合理的に働いたとしても、実際にはその行動は不正で違法なものとみなされるかもしれない。
このように、あくまで人間を人間らしくみていこうとするのが、新制度派経済学アプローチである。すべての人間は、情報収集、情報処理、そして処理した結果を伝達し表現する能力が限定されており、人間はこの限定された情報能力のもとに意図的に合理的にしか行動できないのである。このような限定合理的な人間観にもとづいて現実を分析する点に、このアプローチの特徴の一つがある。

  2.2 制度論アプローチ
 さて、新制度派経済学アプローチによると、すべての人間は限定合理的であるために、絶えず人間は相手の不備に付け込んで、自己利害を追求するように悪徳的に行動する可能性がある。それゆえ、人間はすきがあれば契約どおりに行動するとはかぎらないし、機会があれば相手をだましても自己利害を追求するような行動にでる可能性がある。このような行動が「機会主義(Opportunism)」あるいは「モラル・ハザード(道徳欠如)」と呼ばれる現象である。
このような機会主義的行動は、それが契約を守らないという意味で倫理学的に不正で悪しき行動であるといえる。また、不正を通して能力のない人が資源を無駄に利用する可能性があるという意味で、経済学的に非効率な行動でもある。
しかし、実際には、それほど多くの人々が相手をだましたり、不正をしたりしているわけではない。なぜか。新制度派経済学では、このような不正で非効率な行動を可能なかぎり抑制する様々な統治制度、ガバナンス・ストラクチャー、ルール、慣習、法律などのフォーマルな制度、インフォーマルな制度、セミフォーマルな制度が現実に展開されているからだと考える。
そして、このような観点から、新制度派経済学は様々な既存の制度がなぜ存在しているのかを説明するともに、今後、どのような制度が必要なのかを政策論的に考案することになる。この意味で、新制度派経済学は制度論的アプローチの特徴をもつ。制度は、人間の合理性の限界を補完する役割を果たすものとみなされる。
このように、制度に関心をもつ研究は、過去、すでにヴェブレン(T.Veblen)などによって展開されていたために、新たに発生したこの制度派アプローチは新制度派と呼ばれているのである。



 

2.3 比較制度分析アプローチ
 さて、新制度派経済学アプローチのもう一つの特徴は、それが「比較制度分析」を行うという点である。先に述べたように、従来の新古典派経済学では、人間の完全合理性が仮定され、唯一絶対的な理想的な効率モデルが形成され、この理想モデルと非合理な現実が比較され、より理想モデルに近づくような政策が展開されてきた。
 しかし、このような政策がどういった形で説明されようと、基本的にそれは実行不可能なものにならざるをえない。というのも、新古典派が目的とする経済はすべての人間が完全に合理的でなければならないからである。それは、人間にとって実行不可能なのである。
これに対して、新制度派経済学アプローチでは、唯一絶対的な方法はないとみなされる。ある状況のもとで、限定合理的ないくつかの実行可能な複数の制度が比較され、どれがより効率的な制度なのかが比較分析される。そして、もしある制度が別の制度よりもより効率的であれば、それに移行した方がよいという方向で実行可能な政策提言がなされることになる。
もちろん、別の状況では、別の制度がより効率的なものとして比較制度分析されることになるかもしれない。例えば、国が異なると、ある制度への移行がより効率的であることもありうる。この意味で、限定合理的アプローチは唯一絶対的な解を求める一元論ではなく、多元主義的なのである。
本書では、新制度派経済学のこの特徴を利用して、各産業内でそれぞれ比較制度分析される。

3.本書の構成と各章の要約
 
さて、以上のような新制度派経済学アプローチにもとづいて、本書では対象を三つに区別して分析が展開されている。すなわち、(1)オールド・エコノミーと呼びうる従来から存在している産業を分析するパート、(2)ニュー・エコノミーと呼びうる新しい産業や業界を分析するパート、そして(3)これらいずれの産業にも関連する新しいトピックスを分析するパートに分けて、分析が展開される。それぞれの章は独立しているので、読者は興味に応じて、どの章から読んでも全く問題がないようになっている。その道しるべとして、以下、それぞれの章の内容を要約しておきたい。

3.1 オールド・エコノミーをめぐる新制度派経済分析
まず、第1章の神田論文は従来のマス・メディアをめぐるこれまでの見方と全く異なる見方でマス・メディアを分析する革新的な論文である。すなわち、この論文では、マスメディアを、データー、情報、そして知識などの知識資産を人々に効率的に配分する知識配分制度とみなし、経済効率性の観点から、新聞、テレビ、インターネットといった三つのマスメディアをウイリアムソンの取引コスト理論にもとづいて比較制度分析するきわめて挑戦的な論文である。そして、その分析の帰結として、本論文では唯一絶対的に効率的に知識資産を配分するマス・メディアは存在しないことを明らかにし、何よりもデータについてはインターネット、情報についてはテレビ、知識については新聞が効率的な知識配分制度であることを明らかにしている。この論文によって、マスメディアが経済学的に分析できることが明らかにされた点に、この論文の意義がある。

第2章の藤本論文は、これまで日本の化学工業は小規模乱立状態にあるために、国際競争力がなく、日本の産業の中でも非常に弱い産業とみなされてきた、この見方を覆す挑戦的な論文である。しかし、一見遅れた産業とみなされている日本の化学産業の中でも、機能性化学製品に関していえば、世界をリードしている。この点に注目し、その理由をウィリアムソンの取引コスト理論にもとづいて分析し、これまで批判されてきたこの産業の小規模乱立状態が、逆にこの業界のイノベーションを促進してきた可能性があることを論証したアイロニカルな論文である。

また、第3章の坂本論文は、酒類業界において2002年以降の法改正によって、自由に酒が販売できるようになり、業界内の競争が激化し、それに適応しようとする企業の戦略的な行動を分析する興味深い論文である。この業界では、同じ業界であるにもかからず、一方でより組織を拡大し組織化を進めるような組織戦略的な行動があり、他方でより市場化を進め、組織的なつながりを緩めて行くような組織戦略的な行動がみられる。このようなM.ポーターの競争戦略論では説明できないような組織戦略行動の違いをウィリアムソンの取引コスト理論によって説明しようとする確信的な論文となっている。

3.2 ニューエコノミーをめぐる新制度派経済分析
第4章の片山論文は、コンサルティング・ファーム業界をめぐる再編の動きに注目し、なぜコンサルティング・ファームが存在するのか、そして今後この業界がどのような方向で再編成されていくのかを取引コスト理論的に分析する革新的な論文である。この論文によると、コンサルティング・ファームは、企業が知識資産を社内で内製して利用するよりも、外部の専門企業から購入したほうがより取引コストを節約できるときに発生すると説明している。また、特殊な資産にかかわる取引ほど市場での取引コストは高くなり、そのような取引コストを節約するように企業は行動するというウィリアムソンの取引コスト理論にもとづいて、特殊な「知恵」を主要な知識資産とする戦略系コンサルティング・ファームは組織化されやすく、一般的な「技術」を主要な知識資産とするIT系ファームは独立して市場に残る可能性が高く、さらに「会計財務情報」を主要な知識資産とする総合系は中間的な形態で存続していくことになるという興味深い帰結をもたらしている。

第5章の寺沢論文では、証券アナリストめぐる諸問題を明らかにし、それを抑止するために展開されている規制が果たしてどこまで妥当なのかをエージェンシー理論にもとづいて分析する鋭い論文である。この論文では、証券アナリストをめぐる諸問題は、これまで「利益相反」という日常言語で語られてきたが、問題の本質は実は投資家をプリンシパルをとし、証券アナリストをエージェントとするエージェンシー問題であることが明らかにされ、そえゆえこれまで導入されてきた「利益相反」をめぐる従来の規制措置は必ずしも有効ではないことが明らかにされている。何よりも、投資家と証券アナリストとの間のエージェンシー問題を解決するためには、一種の競争原理を導入し、セルサイドに所属しない独立系の証券アナリストを育成することが急務であることを明らかにしている。

第6章の高田論文は、マイケル・ジェンセンによって展開されたエージェンシー理論にもとづいて、日本のベンチャーキャピタルをめぐる問題点を理論的に明らかにし、その対策を理論的に提示する興味深くかつ有用な論文である。この論文では、まずエージェンシー理論にもとづいてベンチャーキャピタルが分析され、ベンチャーキャピタルがベンチャーキャピタルとベンチャー企業、出資者とベンチャーキャピタルといった二つエージェンシー関係の中に置かれていることが明らかにされている。そして、日本ではいずれのエージェンシー関係においてもエージェンシー問題が発生しているため、米国と比べて日本のベンチャーキャピタルはいまだ効率的に活動していないことが明らかにされている。しかも、これら二つのエージェンシー問題を解決する制度的解決案が、それぞれ米国との比較で示されているとともに、これら二つのエージェンシー問題が相互に独立した問題ではないことも明らかにされている。すなわち、日本でベンチャー企業をベンチャーキャピタルが十分ガバナンスできていないのは、実はベンチャーキャピタルを出資者が十分ガバナンスできていない点にあることを鋭く指摘する優れた論文である。  

3.3 新しい動きをめぐる新制度派経済分析
 第7章の足立論文は、今日、注目されているナレッジマネジメントを批判的に考察し、取引コスト理論を理論的基礎とする洗練されたナレッジマネジマットを展開するきわめて挑戦的な論文である。ナレッジマネジメントは、最近では現実への応用に関心が移っている。しかし、現場では、それほど高い評価をえていない。その理由を、本論文は、知識創造の場や条件といった間接的あるいは消極的なことしか語っていない点にあるとしている。この点を克服し、より直接的で積極的な議論を展開するために、本論文では、企業を大胆に知識資産を調達運用する存在とみなし、企業が調達運用する知識を4つに類型化する。そして、ウイリアムソンによって展開された取引コスト理論にもとづいて、これら四つの知識の調達運用をめぐって発生する取引コストを節約する方法を洗練されたナレッジマネジメントモデルとして理論的に展開している。しかも、この洗練されたナレッジマネジメントモデルが理論的のみならず経験的にも正しいことを示すために、このモデルにもとづいて経験的事例を分析している。

第8章の尾花論文は、これまで多くの企業が効率性を求めて情報システム化を進めてきたが、実際には必ずしも効率性をえていないという事実に注目し、その原因を解明する優れた論文である。この問題を解くために、ウイリアムソンの取引コスト理論を用いて情報システム化をめぐる企業の現状を分析し、以下のような興味深い結論を導きだしている。すなわち、企業は情報システム機能を内部化(組織化)することも、外部化(市場化)することも、そしてその中間的な方法で扱うこともできるが、何よりも取引コスト節約原理に従ってこれらを選択しなければならないということである。しかし、ほとんどの企業はこのことを無視して安易に内部化(組織化)を進めてきたために失敗したということ。したがって、今後はこれらの点を十分考慮したマネジメントを展開することによって、企業は情報システム化による効率性をえることができるという提言に至っている。 

第9章の菊澤論文では、これまで企業統治の主体をめぐって、株主のもの、従業員のもの、あるいは経営者のものといった単独の絶対所有をめぐる議論が展開されてきた。しかし、所有権理論からすると、どのような単独の主体も企業を効率的に企業統治できず、何よりも利害対立する複数の主体によって企業を所有し、状況に応じて株主が統治の主体になったり、債権者が統治の主体になったりするステークホルダーズによる企業統治が効率的であることを説明している。
 
以上のような内容もつ各章は、いずれもこれまで展開されてきた各産業や話題をめぐる常識的に議論に対して挑戦的な内容をもっており、おそらく読者に多くの刺激や示唆を与えることになるだろう。また、これから修士論文を書こうとしている社会学生にとってもある程度刺激を与えることができるだろう。




 中央大学総合政策研究科 博士課程

(慶応義塾大学へ移籍のため、募集中止)

●中央大学総合政策研究科の博士課程(後期)研究指導(企業の経済学研究:コーポレート・ガバナンスやCSR、組織、戦略等に関する論文指導)を担当することになりました。

●私は、中大アカウンティング・スクール所属ですので、本来、他学部の大学院で研究指導などできないのですが、非常に厳しい条件の審査を受け、受け入れていただきました。


●総合政策の博士課程は、社会人も積極的に受け入れており、私は研究指導を後楽園校舎(理工学部)で土曜日に展開しています。博士課程は、論文を書き、発表して行くことが目的なので、基本的に指導教授の授業をとれば十分となっています。したがって、社会人にとって、時間的制約は少ない状況です。

もし頭が良く、かつ素晴らしい修士論文を書いたならば、トライしてみてください。



講義内容
以下の3点を中心に研究指導します。
●まず、最新の企業理論といわれている「取引コスト理論」、「エージェンシー理論」、「所有権理論」、「進化経済学」、「経済心理学」などの組織の経済学理論について研究し、理論的な基礎を固めます。(理論研究)

●次に、これらの新しい理論が、現代企業をめぐる最大の問題といわれているコーポレート・ガバナンス問題、企業の社会的責任(CSR)問題、企業の不祥事発生メカニズム問題、経営戦略問題などに対して、どのように応用できるのかを研究します。(応用研究)

●最後に、このような理論分析によって、どのような解決案や政策的方向性が導かれるのかを研究し、その解決案や政策が経験的にもある程度妥当なのかどうかについて研究します。(正当化研究)


 リンク集

 中央大学専門職大学院CGSA
 中央大学総合政策研究科
 博士課程に関心のある人はこちらから
 Advances In Behavioral Finance
セーラー編著の行動ファイナンス
 Institutions And Economic Theory
新制度派の本


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