CODE:DANTE(IT’S SHOWTIME!!)
「・・・店長」
「「オオクニヌシ」、と呼ぶこと。・・・なんです?」
「あの銀髪、誰なんですか」
少し離れた席。テーブルの上には高いものばかりボトルが数本。
端正な顔立ちで口の端に薄く笑みを浮かべている、銀の髪を持つ見知らぬホスト。
女性客の嬌声がそのテーブルを一層華やかに彩っている。
「・・・ああ。貴方は知らないかもしれないですねえ。
あれは、「ダンテ」ですよ」
「ダンテ?」
「そう。・・・この間、DMCっていうお店、ぽしゃったでしょう?
あの店を一人で支えてた、お方」
瞳を細めて、この者特有の艶やかな笑みでもって答える。
この店にホストとして入って約3ヶ月。
新人とはいえ最近はテーブルに着くことも増えウリエルは忙しい毎日を
送っている。
ちなみに今日はたまにしかフロアに出てこないくせに、出ると必ず指名を受ける
店長のヘルプについていたりした。
今日は、かなり忙しい。そのうち他のテーブルにも呼ばれるだろう、と思って些か
うんざりしたときに目に入った、その人物。
客の帰ったテーブルのグラスを片付けながら今日はナイスな売り上げになりそうですねえ、
などと呟いているオオクニヌシに尋ねると、返ってきたのはそういう返事で。
「あの店の売り上げの8割はあの人一人であげてましたからねえ・・・」
「8割」
「でもなんだか知りませんが、欠勤3ヶ月続けたそうで」
その間に店がぽしゃったらしいんですが。
「まあ丁度よかったですけど、ね。・・・龍斗様が「あの人、欲しい」って再三
言われてましたから」
「・・・龍斗様が」
“あの人が、欲しい”龍斗の口から出たのであろうその言葉を頭の中で反芻する。
なんとなく胸が痛むような気がして思わずウリエルは頭を振った。
「・・・おや、貴方もちょっとイタイと思ってしまったクチですか?」
獲物を見つけた猫のような瞳でオオクニヌシが哂う。
「実はどうやらウチのナンバーワンもご機嫌が斜めのようでねえ」
オオクニヌシが言った途端に、その「ナンバーワン」の席にボトルが入ったらしい。
今日はこれまた珍しくフロアに出ていてしかもロキにヘルプとしてついていたオセが
通りすがりにオオクニヌシに走り書きの伝票をちらりと見せて小さく笑う。
「・・・おやおや」
「やる気で、結構なことだろう?」
そう言ってオセは足早にフロントに行ってしまった。
「・・・なんです?」
「ウチで2番目に高いボトル」一本80万円也、ですって。
思わず天井を仰いだウリエルにくすり、とオオクニヌシが笑って、言う。
「もうすぐ月末ですし。・・・今月途中参加の新人なんぞに負けたくないんでしょう、
ロキとしては」
今日なんてたまたまオセの客がいないと見るや、いきなり専属ヘルプに指名しましたしねえ。
・・・あれは相当、やる気。
「・・・やる気?」
「そう。・・・新人さん達でもつかせてあげればいいのにねえ」
ヘルプ能力にも、格段の差がある。オセはバイトとはいえ常に売り上げ10指に入っている
格上のホストである。めったにヘルプにはつかない、が。
「今日、ロキのお客様多いですからね。・・ま、仕方ないでしょう」
そう。ナンバーワンの彼は常に忙しい。たくさんの席を廻ってうろうろしているうちに
彼が戻ってこないことを不満に思って席を立ってしまう客も出てこないとは限らない。
「新人じゃあ、繋げないんですよ、ナンバーワンの席は」
テンションを落とさず、不快に感じさせず。状況判断は的確に。
「お客様もプライド高いですし、ね。・・・だからさり気に気の廻るあの人が、最適」
その言葉どおり、今日のロキの客の中では最も太い客だと思われる女性とオセは談笑して
いる。
「あ。伝票書いてる。・・・なにか入れてもらったな、あれは」
「・・・と、いうわけで。あれがナイスヘルプの見本です、新人さん?」
ライター出すタイミング、間違えないように。
最後に薄く反省会を開かれてしまい、「新人さん」は苦笑した。
「・・・ウリエル、頑張ってる?」
「龍斗様。・・・いつの間に」いつの間にかひっそりと席に現れたオーナーに少々驚き
ながら、苦笑する。
「・・ええ、なんとか」それだけ答えたウリエルに満足そうに龍斗は目を細める。
「うん。・・・泣き言言わないね。そういうとこにプライド高い人、好き」
「龍斗様。・・・ウリエル、指名とれたんですよ、今月」
オオクニヌシが龍斗にグラスを手渡しながら、笑って言う。
「えー?すごい。お祝いしなくちゃあ、ね?」
酷く無邪気な仕草で手を叩いて喜んでくれる龍斗に頬が緩むのを止められない。
この人の為にならなんだってできるような気がする、そんな自分が存在するのも事実で。
「とりあえず、俺がなんかいれてあげましょう」
オオクニヌシ、いい?と首を傾げる龍斗にオオクニヌシが苦笑して、言う。
「いいでしょう。お祝いですし、龍斗様言い出したら聞いて下さらないし」
「うんうん。・・・ウリエルは俺のお気に入りだし、内緒で、ね?」
通りかかった新人の子に「コールはいいから」と伝票を手渡して龍斗が笑う。
やがて細かい水滴で覆われたシャンパンが、ワゴンに乗せられて登場した。
「・・・ピンク」
「そ。・・・ご不満ですかー?」
不安そうに首を傾げる龍斗に慌てて首を振る。
オーナーがホストの為にシャンパンを入れてくれること自体、ありえないことである。
そのうえ、ドンペリ・ピンクとくれば。破格の扱いと言えるのではないだろうか。
「・・・おめでと、ウリエル」とりあえず、目指すはナンバーワン、の最初の一歩に
乾杯。グラスに並々とシャンパンを注いで、龍斗が笑う。
「そうですね。これからも売り上げに貢献して下さい」
「またオオクニヌシはそういうことをーーー」
3人でグラスを傾け、乾杯した後、龍斗がちょいちょいとウリエルを呼んだ。
「ありがとうございます、龍斗様。・・・なんですか?」
龍斗がウリエルの手を引っ張る。「え・・・?」
一瞬だけふわりと唇が触れた頬と、耳許で囁かれた言葉。
「おめでと、ウリエル。・・・10人指名とれたら、どっか遊びに連れてってくれる?」
無邪気に笑う彼。ウリエルは思う。この人こそホスト向き、天然仔悪魔なのだと。
「そうですね。貴方の行きたいところへ」
・・・・認めてしまえば、楽になるのだ。
この人がナンバーワンを獲れと言うなら、そうする。
そしていずれは、この人を手に入れてみせる。
本来の目的を忘れ去ったウリエルを面白そうに眺める目があることに、彼は気がついていない。
その後もなんとなくお付き合いで片付けを手伝ってくれたりして側にいる龍斗に嬉しくなりながら
ふと顔をあげると。
強い視線。蒼氷色の瞳が自分を見ている。
眉を顰めて見つめ返すと、ふいと目が逸らされた。
「・・おや、面白い。あちらもなんだか、「オモシロクナイ」と思ってるみたいですよ?」
行儀悪くテーブルに肘をついてオオクニヌシが笑う。
「・・・「オモシロクナイ」?」
「そ。・・・自分が主役はってるのに、何故かお姫様、違った、王子様は下っ端に御執心」
龍斗に聞こえないように呟いて、肩を竦める。
「確かにお客様は主役ですが。・・・ホストも裏では、主役を張れる」
大変ですよ?「自分」を即座に「金」に換算されてるようなものですし。
「まあどうせ札束で顔叩かれるような商売してるなら。出来るだけ太い札束で叩かれたいと、
そう思いませんか?」赤い唇が、哂いの形に歪められる。
「ここでは、「金」が「愛」や「自らの価値」に換算されるのですよ」
「あ、シャンパン入った」ダンテ、今月誕生日あったらしいですからねえ。
「このままシャンパンががんがん抜かれたら、ロキ危ないかも」
おや、月末でもないのにゴールド3本。すごいすごいと笑ってオオクニヌシは言った。
「コールがはじまりますよ?従業員集合、って」
「・・・店長は?」「私は免除」苦笑して席を立とうとすると店内にコールが響き渡った。
“----様から、ゴールド3本頂きました!”
マイクから低い艶やかな声が流れる。
“オオクニヌシ、ロキ、俺のシャンパン空けてくれるだろう?・・・あとは、そうだな”
・・・ウリエル?
マイクを新人に投げ返して、不敵にダンテが笑っている。
シャンパンの一気飲み指名は宣戦布告のようなものだから。
・・・引くことは出来ない。
龍斗「王子様」は面白そうな顔をして成り行きを見守っている。
「・・・チクショウ」顔に似合わない言葉を吐いて、苦笑しながらオオクニヌシが立ち上がる。
見るとロキも髪をかきあげながら苦笑して立ち上がったところだった。
「・・・いつか。あの2人を席に呼びつけてシャンパン一気飲みさせてやりなさい」
「・・・言われなくても」
それがホストの主役の張り方だと囁いて、オオクニヌシは哂った。
店がひけた後の、店長室。
今日は忙しかった為か、オオクニヌシはまだ戻ってこない。
「・・・おい」ソファに座り、乱暴に長い足を投げ出した男が呟く。
「あれがお前の「お気に入り」のホストか?」
血統書つきの、猫みたいだな、あれは。
そう呟いてグラスを両手に近づいてきた龍斗を乱暴に引き寄せる。
「向いてないんじゃないか?・・・あいつは」
なんだ水かよ、と龍斗の持ってきたグラスの中身に顔をしかめて。
そのまま額をこつん、と合わせて囁く。銀色の髪が頬に触れた。
「・・・お前はここで、俺になにをやらせるつもりなんだ?・・・リュート」
息を呑むほどの端正な美貌が触れるほどに近くに寄せられるのにも構わず、龍斗は
のんびりと笑った。
「なーんにも?・・・ダンテさんはいつもの通り、ショウタイムの主役でいてくれれば、
いいよ?」
何ヶ月か前の、「ロキ」のバースデイ。
ナンバーワンの誕生日だけあって、他のホストクラブからも何人もお祝いにきていた。
多分、店長の代理で来店したのであろう、その銀の髪のホストに。
『・・・ダンテさん、ウチに来てくれると嬉しいかも』
オーナー龍斗は「一目惚れ」していたり、する。
「よそのお店から引っこ抜くのは反則ワザだからねえ」
こんなこと言ったら駄目なんだけど、と龍斗は首を傾げる。
「つぶれてくれてありがとう、みたいな感じ?」
ダンテが「本業」の為、3ヶ月ほど日本から離れていた間に経営状態が悪化した店。
もともとダンテ一人でもってるような店だったから潰れるのは時間の問題だとは思っていた
のだけれど。
実は過保護な保護者2人がなにか裏で悪さしたのではないかとひっそりと龍斗は思って
いたりするのだが。
「あれはあれで、居心地がいい店だったんだが、な。万事アバウトで。・・・
おい、酒ないのか」
「ないよー。ダンテさんさっき散々飲んでたじゃん。・・・ロキからも「お呼び出し」
くらってたし」あの一気飲みの後すぐにロキのテーブルにもシャンパンが入った。
そのとき、ダンテが「コール」をかけられたことを言っているらしい。
「やるねえ、お前の「ナンバーワン」は」美しい獣のようでいて、どことなく気品の
漂う自堕落なナンバーワン。口の端でダンテは哂った。
「ここにくるような女は、あんなタイプが好きだろう?」
「俺も好きだよ、ロキ」ふふ、と笑って得意げに龍斗が言う。
「・・・で、お前はロキにも、「好き」だの「惚れた」だの、言ってるわけ、な」
勿論、アイツにも。
そう言って目を細めるダンテに、龍斗は曖昧に微笑んだ。
「だって、「好き」なんだもの」勿論、ダンテさんも好き、とダンテの肩に頭を持たせ
かけて目を閉じる。
「俺は、「好き」なものは「好き」だって言うし」くすくすと笑う龍斗の頭を軽く小突いて
ダンテはあきれたようにわざとらしくため息をついた。
「飲みすぎなんだよ、未成年。・・・大丈夫か」
「ん。大丈夫ー。・・・あのね、ダンテさん」
俺は、強い人が好き。強い輝きを持った人が、好き。
「ダンテさんや、ロキは最初に会った時に、わかったから」
この世界で、舞台のど真ん中でスポットライトを浴びることができるのはほんの一握りだけど。
「貴方や、ロキは、「絶対そう」だと、思った」
「・・・じゃああの御曹司もそうなのか?」
一瞬龍斗はきょとんとし、それがウリエルを指して言っているのだと思い当たって少し笑った。
「あの人はー、多分ホストやりたくてやってるんじゃないからー」
でも、目標さえあれば。
「目的の為には、手段を選ばないし、やり遂げることができる人だよ、あれは」
いいと思わない?冷ややかに美しく、この王国に君臨するナンバーワン。
「・・・で?お前があれの「最終目標」になってやることにしたわけか?」
「・・・どうだろう。ナンバーワンになるころには、俺のことなんて忘れちゃってるかも」
ころころと龍斗が笑う。
「俺は、光るものは磨く主義だよ、ダンテさん」
そう言って眠いー、と額を肩に押し付けてくる龍斗にダンテは苦笑する。
それじゃ俺の役割は、砥石か、それとも咬ませ犬なのか、とか。
お前のやってるそれは、まんま「色恋営業」じゃないのか、とか。
・・・言ってやりたいことはたくさんあるのだが。
「・・・お前は「面白い」な、リュート」細い顎を無骨な指が持ち上げる。
「俺やロキは、アイツの踏み台か?」
きょとん、と龍斗がダンテを見上げてきた。
「なんで?ダンテさんはショウタイムの主役でいてくれればいい、って言ったじゃん」
俺は、「一番」が好きだよ。舞台のど真ん中で主役張ってる貴方はすっごくかっこいい。
にこりと笑って言うこの子供が、実は一番性質が悪いのかもしれない。無邪気で我侭な、天然ホスト。
「ロキもおとなしく踏み台になってるような人じゃあないしー」
首を傾げる龍斗を腕の中に引き込んで。
毎夜行われるショウタイム。
それは華やかな「戦場」でもある。
弾丸のかわりに客の抜いたシャンパンの栓が飛び交う中、戦って勝つことこそが全て。
「・・・俺も「争奪戦」参加していいか?」
低い声が耳に直に流れ込んでくるのに、龍斗は目を細めて答えた。
「あったりまえ!ダンテさんならナンバーワン狙えるしー」
気づいているのかいないのか、わからないが。
ナンバーワンの玉座はたったひとつしかないのだ。
・・・もちろん、「王子サマ」もひとりきりである。
そしてその王子サマは「一番」が好き、ときた。
「・・・なんの争奪戦なんだか」ため息をつきつつ。
・・・全てはこの天然ボケボケ我侭王子の為に。
「・・・まあお楽しみ、が増えたってことで、いいか?」
自分も到底、脇役では我慢出来ない性質である。
「ダンテさん、頑張ってね。俺、応援するからー」などという惚けたコメントを発する
龍斗の口をうるせえよ、とため息まじりにダンテの唇が塞いだ。
金と愛とプライドを賭けて戦う、戦場で。
勝負は、これからなのだ。
終。
あとがき。
さてさてホスト6です。
愛が金に換算されるこの「王国」で、りゅーちゃんはロキとダンテとウリエルにいくらくらい
貢いでもらえるのでしょうか(笑)
しかも何気に黒い、黒いぞ、りゅーちゃん。悪気がない分、サイアクっぽいぞ。
そして悪魔の囁きなオオクニヌシ。
みんな周りはライバルで仲間で恋敵だぞ。頑張れ、ウリエル。
ラフラフがヘルプに最適かと。
そしてダンテ出してしまいましたので。この先も奴は登場するでしょう。
ゲストにしようかとも思ったのですが「ダンテ」を使える方が、話的に伏線はりやすいかな、
などとセコい考えにより、レギュラー決定。
そして次回こそ、幻魔編。でも魔王ネタが降りてきてしまっていたり。嗚呼。
そしてこんなもんをキリ番のダンテ主でホストよーん、と押し付けられる木龍さん。
もんのすごーくごめんなさいなのでした。
書き直し要求可ですしーーーー。
一応、愛を込めまくってーーーーvvvvv
