Nearly Equal (≒)
〜 passer-by 〜

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「そのアレンジ、気に入らねぇな!」
「でも、さっきよりはまとまってるカンジだろう?」
「まとまってりゃ何でもいいワケじゃねぇだろ!」

(スタジオに入るなりこれか・・・)

秋人より早く来た卓と仁が、毎度のコトながら飽きもせずにアレンジでもめている。
ケンカの仲裁のように洋が卓の気に入りそうなアレンジを加えていくのも、いつもの光景だ。

俺はその会話に入ることなく、悠が来るのを待ってアンプの横に転がっていた椅子に座った。

卓はグループの中でも自己主張の強い奴だし、このバンド「SUDDEN DEATH」にいることを
誰より誇りに思っている。
と同時に、その人気も追っかけてくる女の子の数も、彼のプライドを充足させるものとして
必要不可欠だった。(卓にとっちゃ、自分の見せ場が重要なのはもっともだな。)
クチにだせば今度は俺に矢面がむくのでやめておいた。

「遅れて悪かったな。」と悠が慌てるでもなく入ってくる。

「来週のライブまであまり時間がないからな。今日は全体にまとめておかないとダメだぞ。」

悠が来ると、なんとなく空気が締まるカンジがするのは、リーダーの
リーダーたるところだろうか。
さっきまで自己主張ばかりしていた卓も、仁からはなれてチューニングをしなおしていた。

「来週か・・・(また宝生 円は来るんだろうか・・・)」

洋の出す音をもらいながら、俺はどこかでふとそんなコトを考えていた。
今は歌うことだけに集中しよう・・・そう思い直して、俺はマイクを引き寄せた。


+++++


練習のある日は、たいていどこにも寄らず家に帰ることが多いのだが、
今日はなんとなくそんな気にもなれずにいた。

(闇屋で晩飯すませて帰るか・・・)

平日ということもあって、それほど店の中も混んでもいなかった。
店に入ると、珍しく都がカウンターでひとり呑んでいた。
時折手がすいたおやっさんが相手をしていたようで、
都はおやっさんに向かってちょうど話し掛けていたところだった。

「おや、今日は練習があったんでしょう?ココに来るなんて珍しいですね。」
「都こそ、ひとりで呑むなんてことがあるんだな。」
「あははは、おかしいですか?僕はもともと独りですよ?」

ふと思い出した。

(独り・・・・・似た人間・・・・・)

莢は昨日あんなことがあったばかりだから、今日ココにくることはないだろう。
このところは特に気にもしていなかったが、都のことをふと聞いてみたくなった。

「誰とも予約が入っていないなら、今日は俺と呑まないか。」

もう呑んでるじゃないですか、とまた微笑いながら都がうなずいた。

「秋人のことですからね、何か話したそうな顔は見てわかりましたよ。
何をそんなに抱え込んでいるんですか?練習で何かありましたか?」
「いや、バンドのほうは相変わらずだ。構成もまとまってきたし。」

実際、バンド連中とはメンバーになってからはさほど大きな衝突もなくやっているし、
むしろ腹をわって話してみれば、それなりにイイ奴らの集まりだった。

来週のライブのことは、宝生 円が来るのか?というのも少し気になっているのは
否めないが、それよりもさっきの都の言葉のほうが、ずっと前から気になっていたのは確かだ。

こうして話すにはいい機会だろう。
始めの一杯を空け、おやっさんに二杯目を「ローゼズの黒にしてくれ。」
と頼みながら、俺は前から気になっていたことを聞いた。

「ほら、昔『自分も独りだから。』って言ってただろう?なんでだ?」
「またいきなりですねぇ。懐かしい話を、どうしたんですか?」
「俺と似て・・・って、なんなんだ?」

矢継ぎ早に聞いたように思われたのか、相変わらず都は微笑っている。
確かに、俺は最近ワケがわからないことばかりで少しイラついているかもしれないが。

「そのことですか・・・まぁ、僕は本当はイヤな奴だ、とだけ言っておきましょうか。」
「さらにワケわからんことをいうな。」
「仕方ないですねぇ・・・聞いたって、つまんない話ですよ?」

バド生をハイボールに切り替えながら、
都は自分のことをぽつぽつと話しはじめた。

「ずっと、・・・・・僕は自分を演じてきたんですよ。」

都が小さい頃から、都の両親が不仲だったというのはこれだけ長い付き合いをしながら
初耳だった。

ものごころついて以来、いつも両親の顔色を伺いながら、
両親からは見つけられない笑顔を探し続けていたこと。

母親から「私の我慢はあなたが大人になるまでなのよ。」と
いつも言い聞かされていたこと。

父親に他の女性がいることを、中学の時すでに知ってしまったこと。

それでも自分が頑張れば、家庭を・・・家族を・・・繋ぎ止められるんじゃないか?と
一生懸命に優等生でいたこと。

そしていま・・・・・都の了承を得て両親が離婚調停をはじめたこと。


「・・・・・そうだったのか。」
「えぇ。だから、僕には恋愛感情ってのもどっか欠けてるのかもしれませんね。
いつもどこかで愛されたいと思っていながら、何を求められているのかわからないんです。
誰と付き合っていても、誰と寝ても、何か満たされないんですよ。
でもね、自分が求められることで、自分の存在価値があるような気がしてしまいましてね。」

そう言うと、都はちょっと淋しそうにグラスの丸い氷を回していた。

(独り・・・似た人間・・・)

俺は都の言いたかったことが少しわかったような気がした。


「莢は本当に大丈夫でしょうか?」
そういったと同時に、いつも通りの都に戻っていたが、俺もそれに違和感など感じなかった。
「あぁ、あいつのことだ。平気だろう。」
今ごろ、莢はクシャミでもしてるんじゃないか?と二人で笑いながら、
おやっさんに挨拶をして闇屋を出た。


+++++


木曜日の2限は、3人とも必修になっている国際関係論をとっていた。
向こうから莢が手を振りながら小走りでやってくる。

「秋人!ニュース!ニュース!!」
「なんだ?いきなりお前も騒々しいな・・・」
「宝生サン情報よ♪興味ないわけじゃないでしょう?」

自分のことが片付いているわけでもないだろうに・・・どうも最近、莢は宝生 円のことを
よく話題にする。
ちょっとした探偵気分なのか、そうすることによって一時の現実逃避をしているのかは
わからないが。
莢は、前の席で講義を受けたがる都を制して、俺達を窓際の後方に座らせた。

「まぁ、この講義、ちゃんと聴かなくてもあまり叱られはしませんけどね・・・。」
「いーからいーから!都ちゃんはどうせ授業聴いてなくたってAもらうんだし!」
「莢がニュースだって言うんだから、今日はその話題に付き合うとしますか。」
「莢、俺には悪いと思わないのかよ?」
「秋人は講義と宝生サン情報とどっちが大事なのよ!それに前にいたって後ろにいたって
工学以外の一般教養でAなんて取れないでしょ!」
「・・・・・。」

俺が叱られるのも、なんだか筋違いな気もしなくはないが・・・。
こういう時の莢は、誰が何を言っても言うことを聞きっこないのは充分わかっていたので、
2人で素直にその情報とやらを聞くことにした。

「あの子、聖ヨハネ学院出身だわ。しかも、アタシたちと同級生よ。」
「聖ヨハネ?!あの?」
「えぇ、そうよ。」
「おや?この前は、たしか一年生だと言っていましたよね?」
「アタシの従姉妹が今も聖ヨハネなんだけどさ、
彼女、高校の時に一年休学してるらしいのよ。」
「今も・・・ってなんだよ?」
「幼稚舎と小学部はアタシも聖ヨハネだったの!」

聖ヨハネ学院といえば、この達宮県内屈指のお嬢様学校だ。
幼稚舎から大学院まである、私立の中ではかなり大きなミッション系(プロテスタント)の
学校で、近県からの越境入学も少なくない。
九条院家の莢が通っていても、確かに不思議はない。

「じゃぁ、なんで中等部から先も行かなかったんだよ?」
「毎週毎週教会通いがイヤになったのよ!
校風もなんだか窮屈なカンジだったし。」

そんなことで・・・と唖然としたが、妙に納得もしていた。
北城大学はそういった莢には合っているかもしれない。
公立ということもあるが、自由な校風が人気のひとつでもある。
子供の頃から、敷かれたレールに乗るのがイヤになってるあたりは莢らしい。
きっと両親は聖ヨハネのエスカレータに乗せて、大学まで行かせたかったんだろう。

濃紺のブレザーに丸襟のブラウス、緑のチェックのスカートは、
市内でも時々見かけるが、流行に合わせて着くずす生徒もあまりいなくて、
そういった意味でもお嬢様学校の気品がある。
小学部の紺に赤のチェックのスカートを着た幼い莢は、
まだこんなに鼻っぱしらも強くなくて、結構かわいかったのかも
しれないな・・・などと思ったりもした。

「まったく・・・時々お前が本当にお嬢様なのかわからなくなるな。」
「うるさいわね!秋人。
そのおかげでこうしてみんなに会えたんだからいーでしょっ!」
「へへぇ〜。俺たちに会いたくて聖ヨハネを飛び出してきたみたいだな。」
「もうっ!そんなくだらないコト言ってないで、アタシの話、聞くの?!聞かないの?!」

都が、脱線しそうな話題を戻しつつ、徐々に大きくなってきていた
ヒソヒソ話の声を抑えるように言った。

「まぁまぁ。でも、同級生なら莢もクラスが別でも名前くらい知らなかったんですか?」
「彼女は伊城南校舎だったらしいの。アタシは北城校舎だったんだけど。」
「そういえば、県南部にも聖ヨハネの校舎がいくつかあるようですね。」
「そうそう。中等部と高等部はみんな北城校舎で、大学になるとまた学部によっては
伊城南校舎に行くことになるわ。」
「で、休学って?お嬢様だから留学でもしてたのか?」
「そうじゃないの。それがね、なんの病気かわかんないけど
達宮総合病院に何ヶ月か入院してて、その後、復学するまで
遠蔵サナトリウムにいたんだって。」
「遠蔵サナトリウム?」
「ほら、去年、ウチの別荘がある遠蔵高原にみんなで行ったでしょ?」
「あぁ、夏休みにテニスをしに行ったところですね?」
「そうそう。あそこに慢性疾患とか、長期治療が必要な人のための小さな療養所があるのよ。」
「じゃ、彼女はわりと大きな病気をしていたのでしょうね。」
「うん、そうみたい。それが何かまでは、
さすがに聞くのをためらわれたわ。」

名探偵気取りでいながら、病気についてまで調べるのを
踏みとどまったのは、莢本来の優しさだろう。
病気がなんだったかは、特に知る必要もないので、
俺も都もそれ以上は何も言わなかった。

なにかが引っかかるのに、それが何なのかがわからなかった。

(聖ヨハネ学院・・・・・達宮総合病院・・・・・遠蔵・・・・・なんだ?なんなんだ?)

しかも、莢の元婚約者である相模 萬は、過去に俺と宝生 円が会っている、と言った。
あれは思いつきや、からかって惑わせるために言ったことじゃないくらい、俺も察した。

一度、本人とキチンと話すべきかもしれない・・・と俺は感じ始めていた。

いつのまにか講義は終わっていて、みんなが席を立ちはじめていた。
少し遅れてしまったが、とりあえずカフェに向かうことにした。

To be continued...



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