『気楽なスピーダー』

「奴に残っ たのは左眼だけだ! やつを捕らえろ!」
 僕が何をしたっていうのさ?
「左眼だけの人間は危険だ! 捕らえなけれ ば……!」
 眼がどうしたんだよ。右眼が痛いだけじゃないか。
「早く捕まえろ! 覚醒する前に!」
 覚醒? 俺はそんなこ とができるのか……? 眼が痛いからか? 左眼に何がある……?
「禁忌が呼び起こされる……それだけは避けろ!」
「覚醒って何?」
 あれ……? 何で僕は追っ手の後ろにいるんだろう? 僕は、何を喋っている……?
「右眼の効力が消えるということは――」
「馬鹿 ! それは禁忌だと――」
「訊かせてくれよ」
 まただ。また僕は知らないうちに移動してる。
「この右眼が、どうしたんだよ。何を失っ たっていうんだよ」
「それは――」
「早く言わないと――」
 右手が熱い。魔術? いつの間に? これじゃあ、この人を殺し てしまう……!?
「やめて!」
 痛い。魔術かな……。それで、僕は飛ばされた?
「ラキル……どうしたの……? やめて……」
「僕にも……わからないよ……この眼を大人達が見ただけで……皆血相を変えて僕を襲ってくる……」
 それに、体が自分の思い通り に動かない。
「何で……何があったのよ……」
 俺にも、わかんないよ……・
「今だ、捕まえろ!」
「きゃぁ!」
「エレナ !?」
 くそっ! 体が動かない!
「よし捕まえ――」
 まただ。僕はまた気付かないうちに動いてる。この人の……心臓を後ろ から掴み取ろうとしてる。
「エレナ……を……傷つけるな……」
「やはりもう覚醒が始まっている! もはや我々では……!」
 駄目だ、この人を殺してしまう……
「ラキル!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 

☆★☆★☆★☆★


 太陽が一番高い位置にある。真上からの光線は地上からさらけ出されたものを、必要以上に照らし出し、地面は熱気を吐き出す。影は無い。だが 、そこに一つの存在はあった。
「ここを真っ直ぐかな? でも曲がってもいいかなぁ。どっちにしたって街があるんだよな。どっちが大きい街 かな」
 少年は、手元の地図に目を配らせながらつぶやいた。銀色の髪で、身長は165程度。服装は、黒いローブを纏い半袖のこれまた黒いシャ ツに、茶色の長ズボンで、先ほどから太陽の光線を浴びた黒い服装は、その熱気を逃さないと言わんばかりに熱さを帯びている。そして右肩には灰 色のリュックが掛けられている。
「んー。ただ右や左とかに行くのはおもしろくないし。斜め。そうだ斜めどうだろ」
 そして地図を見る と、右斜めには山脈、左斜めには何も無い、荒野が広がっているだけであった。
「駄目か。名案だと思ったんだけど。どうしよう」
 その時 、風が吹いた。南から北へと吹きぬける風。今、自分の立っている位置から考えると左方向へと吹く風だ。そしてその方に歩けば街がある。
「よし 。こっちの街だな。いい風が吹いたんだ。いいことがあるに決まってるさ」
 少年は、左――北へ向けて歩き始めた。
「行動を起こすきっかけ なんて、どんな些細な事でもいいんだ。深く考えないでさ」
 少年――ラキルは鼻歌混じりに歩き始めた。

 今、ラキルがいるこの場所は 、大きな眼で見れば一つの巨大な大陸。小さい眼で見れば小さい村だった。大陸は測る事が困難なほど広い。というより、測る事は無理だろう。大陸の中 心には、溝があり、その周りを取り囲む海にすら、亀裂が走っており、両間の移動が人では不可能なのである。あらゆる手段を用いようと。
小さ い眼で見たラキルがいる村はミクル村。村にしては比較的広く、人も多い。そして回りが通行の便がよく、情報も入りやすい。
そしてラキルは情報 が集まりそうなところに居た。そこは未成年者が居るのはほぼ皆無と言っていい、酒場であった。

「おじさん。――とりあえず水はいいから 情報ってあるかな。それはもう色々とあらゆる分野の。あー、もう何か先に色々言われるのは嫌だからとりあえずお金はあります。それはもうたんまりと 、ね」
 ラキルはカウンターに腰掛け、酒場の主人がグラスを洗っているのを妨げるようにして話かけた。その主人は、あからさまに嫌そうな顔と 疑問に満ちた顔つきで居た。
「一応あるがね……ただお前さん、未成年者だろう……。まあいい。金はあるんだな。金は先にもらうよ」
「う ん、ありがとう。とりあえず、願いが叶う宝玉の欠片とかいうの。無いかな?」
 主人は少し驚いたような顔をするがすぐに平静を取り戻し、
「あることにはあるが、高いぞ? 伝説なんてもんじゃないからな」
 願いが叶う宝玉と言うのは、本当に伝説ではない。二百年以上の 前に錬金術師たちが揃い、それを完成させ封印した。そしてその封印を隠蔽しようと錬金術師達は考え、その宝玉を金字塔(きんじとう)へと封印した。しかし、その錬金術師達が世を去って数十年、この大陸で大地震が発生した。その地震により大陸は多大な被 害、具体的には都市の壊滅、大陸の地盤が曲がるなどと言った被害を受けた。そして金字塔も例外ではなくその影響を受け、崩れ落ちた。そしてその 際に宝玉は砕け、この大陸中に散らばった。そして、色々あって今現在に至る。
「高くてもいいよ」
「じゃあ金払いな。――三万」
「高い なぁ。まあいいけど」
 ラキルは、右肩に下がっているバックから袋を取り出し紙幣を三枚渡した。主人はそれをまじまじと見つめて、
「確かに 。じゃあ言うぞ。隣街のメルベルに、その欠片の探求してるやつがいる。居るが、詳しい情報は知らんからあとは自分でがんばるといい」
 ラキルは、 その情報だけで十分満足だと思った。ただ、三万は少し高いなと思ったりしたが。
「ありがとね。場所わかったらあとはがんばってみるよ」
「 ああ――」
 その時、主人の顔が酒場の入り口に向けられ、曇った。
「どうかした?」
「ああ、いつもの客なんだがな。――迷惑極まりな いんだよこれが」
 ラキルも入り口へ目を向けてみるとそこにはガラの悪そうな三人のスキンヘッドの男がいた。どれも体格があり、それなりに喧嘩 も強そうである。一般人から見れば、だが。
「あの人達?」
 主人は頷く。
「よう! 今日も来たぜ! 酒持って来いや!」
 男の一人 が、声を荒げながら入り口付近の席に座る。
「荒い人だね」
 ラキルが、ぼそっとつぶやく。
「迷惑なもんだよ。一応金は払うんだが。店の 弁償代以外はね」
 そう言って苦笑いしながら主人はグラスにビールを注ぎ込んでいく。
「おい、そこのカウンターに腰掛けてるガキ」
  聴こえてきて、それが自分に告げられたものだと知るとラキルは振り返る。
「何?」
「何、じゃねぇよ。てめぇガキだろ。何でこんなとこに居 るよ? さっさと家に帰りやがれ」
「ああ、ごめんごめん。喉乾いちゃって。水もらってたんだけど」
「それでもこんなとこに居てんじゃねぇよ 。さっさと帰りな」
(面倒は避けよう)
 ラキルは、主人にありがとうとだけ告げて、席を立つ。そしてそのまま一直線に店を出ようと考える。 が、その直線上には男達が座っている席がある。
(ま、大丈夫か)
 構わず、歩き出す。やがて、男達の手前までさしかかる。ラキルは、男の足 元に注目していた。ラキルが、男の隣を通り過ぎようとした時――男の足が伸びてきた。足を掛けるつもりである。
(バレバレだよ――ああ、結局こ うなるのか)
 ラキルは、そのまま男の足を蹴り上げた。男はそのまま頭から転倒し――意識を失った。
「こうなるんだよ」
「てめ ぇ!」
 残りの二人が、テーブルを挟んだ状態で立ち上がった。そしてラキルは構わず、倒れている椅子の足を一段目――右足で登る――、 そしてテーブルを2段目にして登る、そのまま右の方の男の顔面にとび蹴りを食らわした。二人目の男も意識を失う。そしてとび蹴りの勢いで三人目の男 との距離が空く。こちらは相手から背後をむいているが距離がある。ラキルはすぐさま反転して、テーブルの下を滑空するようにして、三人目の男の背 後へと回った。
「速――」
 そして、低い姿勢からの起き上がりの勢いを利用し、右肘を相手の首に。成す術もなく男はそれをくらい、倒れる。だが 、男はタフで、まだ意識を失っておらず、体勢を立て直そうとする。
「駄目だよ」
 ラキルは言う。そして、そのまま男が倒れる直前に蹴り上げた。
「がは ぁ!」
 男は両膝をつき、上半身だけ立っている状態に強制的にされる。だが、意識がある。だからラキルは鳩尾に右ストレートを一撃。
「――!」
 そして、今度こそ倒れた。
「ふう。疲れたね。今日は宿を取って寝るかな……」
 ラキルはそのまま店の奥で呆然としている主人に気付かず、店を出た。






戻るときはプラウザの「戻る」をクリックして戻ってください。
第2話へ