魔術と言うものは頭の中で構築した連想魔術を声を媒体にして体の外へ と放出するもののことを言う。
だから、ラキルは叫んだ。
「フィンキュシ ョン!」
 飛び降りた地点から見て右、ラキルはそちらの方向へと手をかざし、魔術を 放った。途端、右にいた兵士達の足元が凍り、そのまま上へ上へと氷が侵食し、氷山――否、氷の針山になった。
そして次は左へと向き直る。相手は魔術を見て臆したのか、一瞬歩を止めたがもう一度こちらへ進んできた。だが、彼らにとってそれは致命的な遅れだった。魔術を構築する。
「ブレイブレイド」
 集束された火炎の槍が三本出現し、そのまま三人の兵士の胸を焼き、貫いた。
「躊躇は身を滅ぼすだけだよ……っと」
 何かの気配を感じ、後ろへ飛ぶ。するとそこの地面に巨大な剣が突き刺さった。
「中々の速さだな……だが、それだけではない。経験、とでも言うのか?」
 声がして方向へと向く。そこには、一人の男がいた。身長は190はあるだろうか。上半身は裸だが、心臓がある部分に金属のガードをしている。下半身は、茶色の長ズボンといった動きやすい服装である。
「どうだろうね。単純にそこに虫がいただけかもしれないよ」
「そう言った怯えを、貴様のように簡単に人を殺す人間が持つはずが無いと思うがな……」
 男は、三階の高さはある屋根の上から、見事に地面へと着地してみせた。よろけるなどと言った動作は一つも無く。そして突き刺さった大剣を片手で引き抜く。
「貴様魔術師のようだが……格闘戦はどうだ?」
「さあ、自分の眼で確かめてくれたら嬉しいねそういうことは」
「ならば。――散れ」
 男が、動く。その初速は男の大柄さからは想像できないようなスピードであった。ラキルは右へ跳躍し、男の突進を回避する。
「ほう、おもしろい。なら、今度こそ消えるがいい」
 男が剣を横へ振ろうとするが、それは明らかにこちらに届くはずが無かった。大剣のような大きな武器は、振りかぶる前、又はその後に隙が生まれる。ならば、考えられる事は一つだった。ラキルは、とっさにしゃがみこんだ。その上へを、大剣が回転しながら通り過ぎて行く。
そして、氷が破砕する大きな音が後ろで響いた。
(なんて力だよ……)
 途端、背中に激痛が走り額から倒れこんだ。
「ぐはぁっ」
「小僧、甘い。お前は甘い。しゃがみこむより、俺が剣を振っている間に魔術を唱えた方がよかったはずだ」
「ああ、ごめんねー。その事についてだけどさ。魔術唱えれなかったんだよ」
 一瞬、男の動きがかすかに止まる。
「何故だ?」
「だってさ……本体じゃないもの」
 そのラキルはその場から消えた。
「何!?」
「あんたが突進してきて俺が跳躍した時、一瞬でも俺を見失ったはずだ。俺はその隙を利用さしてもらって亡霊を作り上げた。それだけのことさ」
 男が、後ろへ振り返る。距離にして10メートル、そこにはラキルがいた。
「ほう、俺はその亡霊にとらわれてお前を見失っていたわけか……なるほど。しかし大した素早さだ。普通は亡霊を作ろうが見失うことなどあるはずがないのだが」
「お褒めの言葉、あーりーがーとー。まあともかく、あんたの大剣を失わせれたのはラッキーだよ。でも、張り合いが無いよね。僕は武器要らないから」
 ラキルは懐から短い棒――三十センチほど――を取り出して、
「これ上げるよ。全力で投げるから受け止めれたらやるよ!」
 ラキルは棒の下の方を持ってそれを全力で投げた。したの方を持って投げたので、回転がかかっている。
「何がしたい? 攻撃のつもりか……?」
 男は、その棒を取ろうと右腕を上げる。だが、ラキルは笑みを浮かべる。
「出でよ!」
 棒が男の手へ収まるまでもう少しというところ、棒から白銀が発生し男の右手から右腕を縦に裂いた。
「ぐぁ!」
 男の手は半分に分断され、腕も途中まで避けている状態になった。
「甘いね。大甘だよ、あんた。俺も武器くらい持ってるっつーの。しかも魔術秘具のね。ただ、携帯できるってのと剣の長さをある程度調整できて遠隔操作で剣を発生させる事ができるっていう以外大した事ない魔術秘具だけど」
「貴様……!」
「まあ、とりあえず僕の勝ちってことで。じゃーね。――ヴォルカニックレイド」
 ラキルの右手から出た雷が、男を焼いた。

「それにしても、広い館だね。広すぎだよ。まあ、涼しいだけいいよ。敵弱いからいいよ」
 ラキルは、一階の一室で欠片、又はそれに関する書物などを捜索していた。部屋は広く、本棚を中心に置かれていた。
「まあ、さっきのおっさんは別だったけど。やっぱここには欠片あるね。ついでに言うとまだああいうおっさんみたいな敵はまだいるだろうね」
 独り言を聞く相手は居ないが、それでもラキルは喋る。そうしなければ、自分はもう孤独で押しつぶされていた。
「まあ、天涯孤独ってわけじゃないだけいいだろうけどね……それに帰るところも一応ある」
 今調べていた本棚に手を付けるのをやめて、別の本棚に手をつけようとする――
「誰?」
「それはこっちの台詞ですよ。いきなり人の屋敷にやってきたと思ったらガンク倒してしまいますし。迷惑ですよ」
 ガンクとはさっき倒したあの男だろうか、などと思いつつ振り返る。そこには、自分より背の少し高い男がいた。白のサマーコートで身を包んでいる。
「彼は、我々と共に欠片を入手するため戦った男です。その同士を殺すとは……許せませんね。この穴を補充するのは手間がかかるでしょうね」
「戦う?」
 何故欠片をとるのに戦う必要が出てくるのか、それがよくわからなかった。
「理由は知らないで結構。何故なら、貴方はここで死に至るから。私の名前はアクン。冥土の土産にこの名をどうぞ。それでは――ファイアウォール」
 前方に炎の壁が広がる。後ろ、そして左右には逃げ場は無い。ならば手段は一つ。
「アクリルヘイル」
 炎が、ラキルを中心にするようにして掻き消える。
だが、男は不敵に笑っているだけだった。
「貴方の不利に変わりはないですね……まだ、終わりではありませんよ。――ギガボール」
 力が集束して黒ずんだ球体が、三つ発生して、こちらへ飛来してくる。
(魔術無効化で防げるような甘い力じゃないなあれは――避けるしかない)
 ラキルはそのまま左へ跳躍。窓へ向かう。球体は完全に避け切った。攻撃が当たる心配はなくなり、窓へ頭から向かって飛び込んだ。ガラスが割れる音がし、ラキルはそのまま庭の上を一回転し、すぐさま立ち上がる。
「掛かりましたね!」
(何……?)
 何が起こったのか、何に掛かったのか。それを判断すべく回りを見渡すと、人影があった。左右それぞれに二人ずつ。
「全員魔術師です。貴方は、彼らと、そして私達の攻撃を受けきれますか……? クラッシュバルカン!」
 周囲の魔術師も、同じ構成で同じ魔術だった。高速で力の塊が飛来してくる。
(普通の魔術じゃ受け流す事も無理、眼は論外、なら、この力だ!)
 ラキルは、頭の中でイメージを思い描く。そして、
「フィンキュション!」
 自分を中心にして、氷の針山が発生した。周囲で、氷が突かれるような音が聞こえてきたが――特に耳に入る事はなかった。






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