医療業界側の自己責任:馬鹿は死ななきゃ治らない
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前回予告しましたとおり今回は医療側の自己責任についてです。
いつものように最近の事故からの例題からです。
喉に割り箸を突っ込んだ子供の事件です。耳鼻科の研修医が対応に当たり、問題無しとして帰してしまった。その後患者は意識がおかしくなり死亡。でその研修医の責任についてという話です。
確かに医者は医師国家試験を通った時点から医師としての責任はあります。しかしもし彼が学校を出たてだとして、全責任を負いかぶせていいのでしょうか?研修医とは文字通りまだ研修の身で、一人前ではありません。でもだからといって現在の医療体制では責任をとってくれる人は決まっていませんし、逆に彼に責任を持って指導する立場の人間も、法的には決まっていません。おかしいでしょうか?
この事件でその耳鼻科の教授が責任をとるという話も聞いたことがありませんし、指導していた医者が誰だったのかを問題にしたマスコミも全くありませんでした。さらにこういった外傷についての知識というのは全く体系化されておらず、教科書にも載っていないというのが問題だと思います。何かが刺さって見た目のキズより大きな損傷を与える外傷は刺杭創とか杙創(何とかワープロソフトにありました)と呼ばれていますが、外科の教科書にはありませんし、人によっては一生お目にかからないタイプの外傷です。そんなに大事なものなら外傷のデータベースを作り、注意を喚起しておけばいいようなものですが、現在あるのは中毒のデータベースのみです。業界では上手くいった例えば「人工肛門により救命し得た直腸杙創の一例」という場合は発表しますが、「見逃して死亡した直腸杙創の一例」は発表にも論文にも出てきません。業界関係者はこんな事をデータベースにすると訴訟の元になるといいわけをしていますが、実のところは自分が所属している医局の面子が立たなくなるのを恐れています。業界のえらい人たちはこういうマイナスな事件が起きた場合、自分自身の経験があればいいのですが、無いとそれこそむちゃくちゃなことを言います。「何で分からなかったのかあ?調べたのかあ?こんな事は常識だろうう!」と自分は知りもしないのに責め立て、さらに学会に出ていき同じような例で上手くいった話が出たとき、「浅沼大学の大塚先生、何かコメントはありますか?」と不幸にして話を振られた哀れな偉い先生達は「うちではそういう症例はありませんねええ。まあ今後来るようなことがありましたら今のお話を参考にさせてもらいますう。」などとしゃあしゃあと嘘をつくなんてのは業界の常識です。面子のためならあったことでも否定し、あったことがばれても、下のものがドジをふみましてで済ませます。(学会でここまで追求することは実際は殆どありません。相手の面子がつぶれるからです。)
こういった外傷などの救急については本来救急科という独立した科が専門に診るべきですしデータベースもつくって行くべきだと思うのですが、この業界も保険機構の巨大な赤字で、とても各病院が救急専門の医師を雇う余裕はありません。またテレビで「救急病院24時間」などと紹介されている救急病院の救急科もどこまで救急科がやるかについて他の科との軋轢があるようです。
単純な事件に見えて実は業界での面子、救急の不備などいろんな問題を含んでいることがわかります。
次に患者取り違え手術事件。大手の病院では分業制が確立しているため、麻酔がかかるまでは麻酔医が、かかると研修医が消毒をして布をかけて(この時点で患者さんの顔は見えなくなります)そこへ患者さんに話をした偉い先生方が登場します。確かに出棟時確認していない看護婦の責任という医局の先生方の言い分は分かります。でもこの悲劇はどう見てもそのあとまず手術室の看護婦(術前訪問で患者さんの顔を見ているはずです)麻酔医(術前訪問で見ているはずです)さらに手術に立ち会った外科医師によりその後でも見つかったはずです。医療事故は確かにミスの連鎖から起こりますが、ここまでやってしまうと全員が連帯責任でしょう。ところが現実は責任のなすりあいになります。どうしてこうなるのでしょうか?結局各スタッフに明確な責任範囲が示されていないのです。確かに最終的には医師の責任になるでしょうが、他の人たちは無実でしょうか?
医師法という戦前の法律があります。日本ではまだこれが幅を利かせています。何でも医師の責任になるようになっています。逆に言うと看護婦さんや技師さん達の資格というものをはなから認めていません。責任を持たせていないのですから。また医師の責任がその法律通りとすると人間業とは思えない神様並の巨大な責任になります。当然逃げまわる医師が出てきます。口だけは「責任者だあ!」と達者に出しますが、その実自分の言ったことには責任を持たず、それで何かトラブルになると「困ったもんだあ。どう責任をとるんだあ!」ととても責任者と思えないセリフを口にします。「こう言ったじゃないか」というと「どこに証拠があるう!俺がいついったあ!何時何分だあ!」とガキ並です。こうなるとフライトレコーダー並みに会話を記録する必要も出てきます。まさに馬鹿は死ななきゃ治らないです。
確かに日本人は一般に契約社会には向いていません。細かい約束事を嫌いますし、喋ったことには責任をとらなくても良いと思っている人が多数います。でもこういう責任が大きい仕事ではそれぞれに細かく責任を限定しておかないと、総無責任体制にすぐになってしまいます。また指導する立場の人間が間違った命令を口にしているとき、これを指導されている人間が「違っている」と指摘できる公の窓口が必要です。これがないためたいがい指導されるべき立場の人間は、何か言うと不利になる上に自分の仕事まで妨害される事もあるため、黙っています。情報公開と口だけは勇ましいのですが、こういうフィードバック機構を持った病院は殆どありません。
日本の医療は偉い先生が口だけは情報公開だのチーム医療だの調子のいいことを言ってますが、「偉い先生が間違っている」と研修医が訴えられず沈黙した状態で、どうすれば実現できるのでしょうか?また病院で働く全員がそれぞれ立場に合わせた責任を持たなければ、今後も総無責任、ミスの連鎖、医療事故という悪循環は断ち切れないと思います。