保険業界を斬る

 国民健康保険、社会保険など世界に冠たる保険制度をもつ我が国で、なぜか国民全員が生命保険に入ってしまう。この異常な事態について今夜は検証してみたいと思います。

 そもそも生命保険というのはどういう形で出来たのでしょうか。「Surgeon」という名著を書かれたアメリカのドクターがいます。先生は手術代金となる保険から下りた金を患者がブランディに変えてしまい支払不能になった患者を目の前でみます。神戸からアメリカに旅立った木村健先生も同様にに患者さんから金が払えない(保険からの金は他に使ってしまった。)という電話を受け、「今回だけはただでいいですよ」と答える。
 ようするに病気になったときその病気の療養に対する支払いを生命保険が請け負っていたのでした。翻って日本では生命保険はどんな役割なのでしょうか。死を賭けた無尽。病院の一時支払いには役に立つかもしれません。でも高額医療の場合あとで戻ってきてしまいます。要するに病気をするとかなり儲かってしまうわけです。
この病気で儲かるという図式に気付いた生命保険は日にちを長く設定することで(20日以上の入院)簡単には儲けさせないようにしました。入院が長くなるときっと病院も喜ぶべーと思っていた生命保険はやがて思惑がはずれていくのに気がつきました。入院が長くてもあまり病院にはメリットがありません。満床に出来る位のことです。その間を開けて次の患者さんの治療をした方が遙かに稼ぎがいいのです。患者さん側からは論を待たずです。自分がはずれたら出来ないような仕事の場合、退院は早ければはやいほどいいのです。現実日帰り手術をやる病院も増えては来ていますが、もう一つの入院期間を満たさないと金が下りないという生命保険の呪縛で早期退院を諦める人もあるでしょう。
 日本の保険会社は言い切ってしまうと医療には全く興味がありません。勧誘するおばちゃんと資金運用のトレーダーの顔しか見えてきません。
 支払い部門はどこぞの官庁顔負けの傍若無人で、まず保険の証書を統一しない。なんか各社バラバラの書類を持ってくる。何枚もあるのを手書きにするのはとても苦痛です。しかも手書きにするとあの医者のは読みにくいとかいうクレームが付き、しっかりした楷書で書くようにというお達しまで書類に書いてある。そんなら書式のはいったワープロの定型的なソフトを配布するかと思いきや、コピーはOKという返事のみ。記入する項目が微妙に違っているのにどうすればコピーOKなのだろうか。
 払う金額も全く医学的な根拠がないようである。虫垂炎も腹膜炎がつくとかなり支払いが違うと先日読者がぼやいていたが、保険点数ではさほど差がないものにどのような差を付けたのであろうか。何を根拠に支払額を決めているのか聞いてみたい物である。というか情報公開せい。
 私自身が被害にあったのは4件である。一つは虫垂炎、骨盤腹膜炎の診断名をつけて置いたら、帝王切開の既往があるから腹膜炎は認められないと言ってきた。帝王切開をすると腹膜炎に絶対ならないならこれは新しい学説である。次は病名告知をしていない患者さんで、家族との間で書類の受け渡しをしていたのだが、書類の不備を指摘しあろうことか本人の所に「あんた病名癌なのにこの腫瘍という病名でいいのか。」と問い合わせた思い切りあほな保険屋もいた。3番目も同様で結腸癌で肝転移があり、本人には告げられなかった(家族の要望で)ため肝腫瘍と大腸腫瘍というあいまいな病名をつけた。保険屋曰くこんなウソの病名はダメです。ちゃんとした病名をつけて下さい。」と指導された。「いや家族の希望で・・・」と話すと、告知は当たり前のことです。私だって告知して欲しい。今時告知をしないというのはおかしい。」と半ば喧嘩腰になり、「じゃおまえが末期の癌になったときは必要なくても絶対に告知してやる。」と過激な約束をして物別れに終わりました。4番目はもっと基本的なことで、病状を聞きに来るのに患者さんの委任状を忘れたとのことでした。委任状がないなら取ってくるしかないねと突っぱねた私はあくまで正しいと思ってます。さらにそいつはその後全く現れませんでした。
 欧米の保険がいいかというとまた問題があります。確かに医学関係の文献をよく読んでます。で膵臓癌です。これに対する手術として膵頭十二指腸切除という術式があります。アメリカの保険屋さんはしばらくこの術式に対し「こんな成績の悪い手術に対しては金ははらえん。」と結論し、お陰でしばらくアメリカの病院ではこの手術はされませんでした。例外的にマサチューセッツジェネラルホスピタル(MGHと略します)はこの術式を続けたらしく単にこの手術を100例近くやったというだけで有名な雑誌に論文が載ってます。日本じゃ考えられねえ。拒否されちゃう。
 もう一個欧米の保険が問題になったのは上皮内癌は癌として認めないという項目でした。日本じゃ早期胃癌という立派な上皮内癌があるのですが、これは認めないと言うことになります。事実欧米の雑誌はつい最近まで日本で言われている胃の早期癌を癌と認めていませんでした。まあこれは流石に最近保険屋も日本仕様にして認めるようになってますが。
 また映画「黒い家」で見られるように保険屋さんが往生してしまうような患者、病院があるのも確かです。あまり特約などのおまけを付けずに本来の医療費の支払いに使われるように制度を改善してもらいたいものです。

結論;現在の日本では保険屋さんはある意味完全におじゃま虫です。医療費の支払いには赤字だらけでひいひい言っていますが、日本の健康保険制度はまだ機能しています。(だいぶ問題がありますが。)日本の医療における技術料が世界レベルに引き上げられたとき初めて出番があるでしょう。現行の医療保険制度ではしばしば踏み倒しがあります。例えば胃癌の患者さんで偶然大腸癌も見つけてしまい同時に手術をやったら片方の手術手技料は半額しか払って貰えない、などです。この場合悪徳に徹して別々の機会に手術をやった方が遙かに儲かります。つまり診断能力が無くて見つけられない病院の方が儲かってしまうと言うことです。麻酔料はそれぞれで取れますし、術前医学管理料も別で取れます。さらに半額に踏み倒されることは無いのです。まあまだまだ日本の勤務医は良心的なのでなんとかなってますが、儲ける必要のある株式会社などにしたらたぶん医療保険制度は簡単に破綻すると思います。宜しくね。厚生労働省さん。