再びお金の話

 久々のアップです。(誰も読んでないか)今日の新聞の投書で一般の人はこんな事考えてるんだあという見本のようなものがありましたので紹介致します。40歳の主婦の方の意見として。小児科標榜している病院では料金が高くなる、院外処方箋だと 処方箋料だけ高くなる、明細ももらえない、高くて明細の不明瞭な病院にはかからないなどでした。ニュアンスとしては病院が診察料を決めて余計にとっている病院があるという感じ。
完全な勘違いです。
病院は好むと好まざるとに関わらず厚生省の決めた範囲で料金を取らざるを得ないのです。そうです、日本の医療の料金を決めているのはズバリ
厚生労働省です。
一般の会社での課長というのはまあまあ地位が高い程度のものですが、厚生労働省の課長さんはそんなモンじゃありません。国立の医学部の教授より病院長より、もう少しえらくて県知事なんかよりずっと権限も強くえらいのです。関係者も時々広報誌などで談話をのせているのですが、この人達が10年後20年後の医療を決めているんだそうです。確かにそれだけの権力はあります。とある薬品について使用上の制限がありました。どこで制限がかかっているのかと調べましたら厚生労働省の課長の談話だそうです。要するにしゃべっただけで既にその薬の許可不許可が決まってしまうのです。どうです、恐ろしいでしょう。我々一般の勤務医はもちろん太刀打ちなど出来ませんし、意見を言っても蟻がはっている位しか思われていません。(蟻の保護団体の方ごめんなさい)
 10年後20年後の医療を云々ですが、確かに厚生労働省は明らかな意図を持って保険点数(要するに料金)を設定します。小児科標榜が高いのは小児科医のなり手が少ないので請求料金が高くなればきっと小児科医は増えるベという浅はかな考え方から出たものです。小児救急など今盛んに言われている分野で足りないのは小児科の勤務医です。開業医ではありません。残念ながらかつては小児科の開業医の先生はわたくしなどが夜中に熱を出しても見てくださいました。必ず尻に抗生物質をうたれるので尻にうつからペニシリンだと思ってました。現在こんな奇特な先生はほとんどいません。夜中に電話すると”○○病院の救急外来(当然勤務医しかいません)を受診してください”という留守電が流れるだけです。いくら請求を高くしても小児科の勤務医のポケットには全く入らないのです。モチベーションがあがりますか?
 処方箋料の話も同様です。彼らのやりたいのは医薬分業です。分業させるために薬価の差益を小さくして病院で院内処方をすると赤字になるように持って行き、処方箋料というあめ玉でつって院外処方箋を出させようとしています。一方院外薬局は差益が小さくても量が多いため当然問屋に値を下げさせることも出来ます。最近は処方箋にかかれている薬剤ではなくジェネリック(後発薬品、値段が安い)を院外薬局が出しても良いということにしてますます院外薬局に有利に運んでいます。私自身としては医薬分業は賛成です。薬剤に関する勉強の遅れている医師を導く位の薬剤師さんがいてしかるべきと考えています。院外薬局のおかげで複数病院にかかっている患者さんでは処方の重なりなどが無くなりとても良い結果もあります。しかし院外にしたおかげというか薬剤師の勉強不足で多大な迷惑を被ることもあります。例えば告知もしていない患者の抗ガン剤を詳しく本人に説明してしまったり、消炎鎮痛剤で潰瘍からの穿孔などのトラブルがあるよと説明しておいたのに薬剤師がそんなモンは見たことがないと患者さんに説明したりです。結局利益誘導で院外処方を進めれば結果は質が下がってしまうと言うことなのです。
 明細を出す、レセプトを公開するということは医師会は反対していますが、本来的には全くかまわないことなのです。何が問題かというと
医学上病名をつけてもレセプト上にそんな病名がない、医学上無いような病名がレセプト上に存在する、予防的に使った薬剤でもレセプト上はその病気にかかってしまったことになってしまう。
ということなのです。わかりにくいかもしれませんが。早い話が病名というのは医学上つく病名とレセプト上つく病名の二つが存在するのです。当然医学上の病名で説明された患者さんにとってはレセプトの病名を見るとびっくりします。更にひどいのは最近の保険会社で、”正式手術を書いてください”のコメントの下に保険点数表にある術式名を書け、とわざわざ書いてあります。さらにご丁寧に保険点数表の該当する記号まで書いておけとのありがたいご指示です。最近は慣れましたが、当初正式な術式名は胃癌で胃切除術、直腸癌で腹会陰式直腸切断術です。間違ってもレセプトの胃悪性腫瘍手術なんてのは外科の教科書には載ってません。また単に直腸切除も載っていません。さらに毎度書いてますが手術料の値引き踏み倒しも厚生労働省は平気でやります。利益誘導などすればそれぞれの疾患に対し別々の入院で手術をやった方が儲かるわけで、せっかく一度に見つけて一網打尽にした甲斐が全くない点数評価です。(当然一網打尽に出来る病院というのは通常格が高いのですが)
 最後に皆さんに言っておきたいのはこのような点数表は(料金の請求)役人だけでは無理なのです。そのバックには政治家がついています。政治家を選ぶのは誰なんでしょうか?
もちろんあなた方患者な訳です。
 厚生労働省の役人はかなりの割合で医師免許は持っています。しかしほとんど病院で勤めた経験が短い人ばかりです。以前話題に出した研究ばかりでほとんど臨床医の経験がない人間が院長を務めることと差はありません。医療は会議室や研究室で起こっているわけではないのです。厚生労働省に対抗するものとして医師会がありますが、これはほとんど開業医さん向けの団体でろくに会費を納められないような勤務医はどうでもよいと考えられてしまいます。臨床経験の深い勤務医は早い話があなたのご主人と同じサラリーマンです。働こうが働くまいが給料は一緒、なのですが、なぜか休日返上、夜間かまいなし、当直あけ関係なしで働いています。そういえばこの間傑作な投書がありました。休日に医者が白衣ではなく診察に来たのはけしからんというものです。この医師はおそらく時間外などつけてないでしょう。ボランティアに近い形で心配だから様子を見に来たはずです。苦情があれこれあるのは分かりますが矛先が違ってませんか?というのが私の意見です。お金の話は勤務医にとってとても遠いところにあります。新聞やテレビに出てくる話、もう少し裏を考えて矛先を決めて下さい。ちなみに例の呼吸器を止めて患者さんを殺したという医師の話、おかしいです。呼吸器をなんの許可もなく止めれば殺人になる(通常外科医は免許がなければ手術自体が傷害罪に当たります)のに。多分権力争いとにらんでいたらやはりそのようなにおいがします。勤務医は弱いから特別扱いしろと言うことではありません。勤務医には公に話を持って行くだけの権力も(教授が権力を持っていますが、勤務医の待遇改善に尽力などすれば研究至上の文部科学省から失格の烙印を押されるでしょう)ありません。しっかり政治家を選び、新聞の裏を読み、勤務医に対し暖かく厳しい目を持って頂くことが私の願いです。

結論:マスコミの垂れ流している医療情報は世間受けが良いように必ず一歩下がったところから出しています。しかし医学は一面科学で、証拠がある以上下がれないものがあります。しかもその科学すら無視されがちでお金中心で話題が進んでしまう傾向があります。限りある医療資源です。WHOにもっともやりくり上手と評価を得た(世界第1位)保健医療ですが、医者医療を神の領域などと考えていれば早晩破綻します。みんなが出来るだけのことをやって欲しい、どれだけでも良いから長生きさせて欲しいと考えれば、癌末期でやってもやらなくてもさほど予後が変わらない蘇生を全員にやることになり、あっという間に保険財政が破綻します。お金の話の主役はむしろ患者さん自身であることをよく理解して欲しいなと思います。でなければ数十年前のように薬を買うために娘を売った世界が再現するしかないでしょう。(数カ国を除く諸外国ではアメリカも含めてすべてこの調子です)繰り返しますが文句を言うなということではありません。保険財政、勤務医の状況をよく理解した上でそれでもという形で矛先間違えずに文句をつけて下さい。このまま放っておけばカモメのジョナサン気取りの役人達(下は見えるが上から鷹が襲ってくることに気がつかず皆をそちらに誘導してしまう)にいいようにふりまわされますよ。