教えるということ2
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今回は教えるということの現状と歴史について考察することにする。
まず歴史について
私が研修医だった頃。教える人というか担当の人は決まっていなかった。例えば就職してすぐに救急外来に出る。一年上が1ヶ月は付いている。しかし彼らだって教えるほど救急になれているわけではない。とりあえずの処置をするのに必要なこと例えば痛み止めとか熱冷ましとかの処方を教えてもらう。点滴も全くやったこともないので先輩のやり方を見よう見まねする。さらに研修医室でお互いに刺しあう。脱臼の整復。とくに子供の肘内障、親が手を引っ張ったために肘が不完全に脱臼して腕を上げられなくなった状態。やり方は口では教えてもらうが、目の前で見たわけではない。試行錯誤である。(教材もそのころは乏しい状態。コンピューターもまだ黎明期で録画を見ることもできないし、パワーポイントの説明もない。)
ただその当時の救急は今ほど無力感漂うものではなかった。外科関係の患者さんについては毎日病院に泊まっているという伝説の外科医(今の言い方だと後期研修医にあたる)がいて、いつ何時呼び出しても必ずすぐに顔を出してくれた。整形外科、口腔外科も待機のポケットベル(その当時は最新鋭の機器)当番がいて呼び出せばたちどころに対処してもらえた。しかも目の前で手技が見られるので大変勉強になった。小児科はその当時は子供も丈夫でとりあえずの処置をして「明日小児科に来て下さい」といえば親も引き下がってくれるという状況であった。産科は当直医ほとんどお任せであった。困ったのは耳鼻科眼科であった。眼科は外傷が来ても来てはくれず、電話でやりとりしながら慣れぬ手つきで眼圧測定をした覚えがある。30分以上電話つながりっぱなし。
なにより助かったのは若造が診察しても文句いうどころか感謝してもらえたことである。医者がそんな患者の態度に右往左往するようでは困ると昨今のブログではよく語られているが、医者だって人の子である。しかも夜中で眠たくてしょうがないのである。
まあまとめるとその当時は教える体制や義務はなかったものの個人の善意で技術の伝承がなりたっていたわけ。
次に医科大学での状況
もっとさかのぼって学生の頃を考えてみる。もっともいい印象に残っているのは血管外科の実習である。これは大学の分院というところで受けた。いつものことであるが、1年目の研修医は大学にも分院にもいないため、分院では学生がその立場におかれた。手術の第2助手、検査の助手など学生では通常行わないような業務をこなし、スタッフとほぼ同じ時間まで院内で待機し、同じ店から出前を取って、一人前に雷を落とされるという貴重な体験をした。大学本学ではこんな実習はなく、学生はあくまでもお客さんであった。なかには某脳外科の某先生のように頭蓋骨のレントゲンを並べて「読んでおけ」といったきり解説も何もなく放っておかれたこともあった。医師を育てようという意志は分院の数少ない経験を除いては全く感じられなかった。これは指導した先生を責めているのではない。文部科学省は教えることは当たり前として教える技術や工夫はなおざりにし、文部技官として研究を至上としてきたことによる。つまり官僚主義というシステムのせい。文部科学省にとっては医者になってくれるより研究者になって論文を出してくれる方が成果になる。
さて医学部って医師を育てるところじゃなかったっけ?早い話がこのまま文科省に医学部を任せちゃあいけないってことだ。アメリカで医学教育を受け医師免許を取った赤津晴子先生にとってはとても理解ができない状況だと思う。ちなみに先日うちに講演に来て頂いたが、聞けば聞くほど日本の現状に絶望感が増すばかりであった。(息子の話を聞いても30年前と状況は全く変わっておらず。医療はともかく医学教育ではかなりアメリカに差をつけられていると思う。)
現状
うちには後期研修が3人、そのすぐ上に1人という状況。教える方はそれより数が多い。このためある意味べったりくっついて、うざいくらいの指導を行っている。むろん昨今の若手が出るとすぐ文句を言うという患者側の問題もあるが。ある意味うらやましくはあるが、見ているとパソコンの入力待ちよろしく自分の判断である程度こなしていく姿勢には乏しい。しかし私も最近考え方を変えた。医師を育てていくということは自転車の練習と同じ。当初補助輪をつけてしばらく走りその内次第に補助輪をはずしていく。突然はずされたらこけるしかないのであくまでもゆっくり。医療では理屈で教えられる証拠に基づいたことがらもあるが、どちらかというと職人の技の伝達に似た部分が多い。ついつい手が出てしまうこともあるが、なるべく我慢している。でも時代は変わったといわざるを得ない。かつて私が研修医だった頃部長クラスに手ずから教わるというのは例外1人を除いてなかったのだが、現在ではうちの研修医はほぼ全部長クラスの手ずからの教えを受けている。うらやましいが、これが時代の変化である。給料に教えることの教授料も入っていると勝手に判断して厳しいハリセンをとばしているのが現状。
結論:研修制度は悪くない。研修制度のために医師を引き上げたというのは悪い冗談。教わる研修医と教えるスタッフを同等に扱っちゃあいけない。大学に研修医がいないからといってスタッフを引き上げましたなどというなら、では大学ではスタッフクラスに研修医の仕事をさせているのでしょうか?と聞きたい。実際は研究に必要な中堅どころが次々大学を離れているのが原因じゃないの?ただでさえ視聴率の上がる虚報が大好きなマスコミ相手に嘘付いちゃだめ!