産科医が足りない

 また久々のアップです。(誰も読んでないか)本日のNNNドキュメント(中京テレビ制作)子供が産めない町。よく取材してくれました。つっこみが足りない部分は多々ありますが、朝○新聞などのかしこぶった社説や医事紛争の興味本位の取り上げとは全く違う視点でよく取り上げて下さいました。外科医のHPなので本来関係ないと言いたいところですが、医療全体に関わることなのでうんちくを述べさせて頂きます。

厚生労働省および医学部を統括している文部省は一体何をやっとるんだあ!
番組中にまた課長さん(一般の会社での課長というのはまあまあ地位が高い程度のものですが、厚生労働省の課長さんはそんなモンじゃありません。国立の医学部の教授より病院長より、もう少しえらくて県知事なんかよりずっと権限も強くえらいのです。)登場。産科の医者が足りないというのはしょうがない(裏に勝手に他の科を選ぶ医者が多いのがけしからんという態度が見えてます)から産科医を集約して拠点となる病院に集めるしかない。とおっしゃっているのです。まあこの無責任かつ天下りに関係しないことには触りたくないという」態度には思わずテレビを殴りそうになりました。いつものせりふで有識者と懇談会を持ちなどとおっしゃっている。あのね大事なのはユーザーでしょうが。地域住民なりいま産科にかかっている患者さんなりから話を聞くべきなんじゃあないですか。
医者の数は統計では増えているとのことですが、病院あたりの勤務医の平均数は増えているのでしょうか。美容整形はやりの昨今当然そちらも就職者は増えます。女医さんも増えています。男女差別というかもしれませんが、結婚して家庭を持って子供も育てたいとなるとそのまま勤務医を続けられる人などまさにスーパーウーマンです。緊急の呼び出しも子供をほったらかして病院に出掛けられる鬼のような女医さんはそんなに多くはありません。(どちらが良いとか悪いとかではないのです)
産科は医師一人あたりの訴訟件数が多いこともこの番組でははっきり示していました。確かに正常に生まれて当然で鉗子分娩とかで少しでも麻痺が起きようものなら訴訟の嵐です。分娩ってそんなに安全な物なんでしょうか?私個人としては目の前で羊水塞栓からDICになり即座に心停止を起こした若い妊婦(子供は助かったと記憶してます。)を見て以来出産は板子一枚下は地獄の世界だと思ってます。
なんで医者になったんですかあなどと番組中にも間抜けな質問がありましたが、医者になって最大のやりがいはやはり患者さんの感謝な訳です。どんな理不尽とも思えるような重労働になっても患者さんが助かり感謝されればそれでチャラです。しかし訴訟の多い昨今こんな感謝はなかなか医者の元に届きません。するとなるべく恨まれない、なるべく重症にならない、そんな仕事または専門科を選択するのが人の常です。
大垣市民病院では厚生労働省の決めた2年間の研修の後産科を選んだ研修医はゼロだったとのことです。うちの病院ではまだ時々産科や次に問題になっている小児科志望が時々現れますが、圧倒的多数は耳鼻科眼科精神科などあまり人の生き死にに関わらない科へ行きます。厚生労働省も研修のマッチングをアメリカにまねるならついでに志望科のマッチングも取り入れるべきだったと思います。病院の人事権の弱いこの国ではとても無理かもしれませんが。
医師の派遣業についてもこの番組は取り上げています。医局の人事権が弱くなってきているから派遣業者へと。しかしこれも誤った路線です。人事権はその人を育てた組織が持つべきです。つまり研修病院です。派遣業者は確かに医局に不満な人たちを斡旋するというお題目を唱えています。しかし裏を返すとある意味医局にいらない人、トラブルメーカーという見方も出来ます。私自身もすんでの所で医局から放り出されるという経験があります。ま政治的なからみがかなりあったんですが、私自身も自慢の出来る事ではありません。こういう人たちはある意味札付きで使えない人がかなりいるのです。あまり健全な業種とは思えません。人の逆恨みを商売にしているのですから。
いつものお題目ですが、大学の医学部は医者を作る事が目的ではありません。文部科学省の指導の元、”研究者”を作るのが主な目標です。もひとつ開業医と勤務医は同じ医者ではありません。全く違う業種です。
尾鷲で産科医を雇うのに5500万もの年間契約料がかかったと問題になってますが、開業しているお医者さんにとってそのくらいの保証を取るのはあたりまえです。自分のクリニックを閉鎖してその間評判が落ちるのも計算に入れると安いくらいです。何で問題になったかというと勤務医を雇った場合市の条例などから部長クラスでもおそらく年収は1500万以下だからです。ギャップが大きすぎるというのが非難の的になったのでしょう。さらにその契約料でも2年後に解除されてしまった事実は見逃せません。当たり前ですが、勤務医を雇うのであってもそれ以上の金額でなければよほどのばかでない限り応募はしてきません。
開業医にとってお客さんが少ないというのは致命的です。産科も小児科も当然人口の多い需要の多いところを選んで開業します。さらに彼らにとってバックアップしてくれる大きな病院があるかないかもおおきな問題になります。異常分娩の場合胎児が未熟であることもありNICUも備えているような大きな病院が近くにある方が安心なわけです。Drコトーはあくまでも空想の世界です。全部出来る医者などいるはずもありませんし、いて欲しくもない。だって中途半端ですから訴訟の嵐に巻き込まれるでしょう。開業は町中が有利になるわけです。
人数が少ない状態でも一人でも産科医をと尾鷲市は学生のリクルートの場所まで出向いてスカウトしようとしていますが、肝心なことを忘れています。医者を育てるのにはそれなりの先輩が必要なのです。教科書だけではとても無理です。いくら医師免許を持っていても卒業したての彼らには監視の元でなければ何も任せられません。任せられても彼らが困るでしょう。員数あわせでは話にならないのです。ついでに言いますと医者の技術的なことを教えているのは大学の医学部ではありません。市中病院の勤務医です。教えても手当が出るわけではありませんが、後輩が育たないと自分が困るから教えているというのが現状です。
今回は産科のみに絞りましたが、今後いわゆる田舎の病院には産科どころか内科すらそろわない病院も出てくるでしょう。実際いくつかの内科の専門科のない病院が出てきています。むりやり医者を連れてこようとするのはコスト高な上良質な医者も連れてこれなくなり弊害ばかり大きいと思います。今後どうするかはあなた達患者さんが決めることだと思っています。当座の間に合わせではなく今後も続けられる、また医師のモチベーションを高く保つことが出来るシステムをよーく考えて下さい。

結論:今回の番組はマスコミの垂れ流しているマッチポンプ型ではないことはかなり評価できます。(マッチポンプというのは一方で医療は信用できない出来ないとあおっておいて、今度はそれに嫌気がさして医者が足りなくなると、医者が足りないとヒステリックにわめく事を指しています。販売部数しか頭にないんじゃないか、太平洋戦争時代と全く変わりないと思います。)いい加減な医療ドラマ(フィクションですと断ってはいますが誰だって信じてしまいますよ。)作っている暇があったらもう少し良質なドキュメントを作って下さいな。