癌の話2

今回は癌の考え方の基本について書きます。応用編はまた後ほど。

癌はうつるの?

基本的にはうつりません。例外が少しだけあります。b型肝炎ウイルスによる肝臓癌です。母親がb型肝炎ウイルスを持っているとき、それが胎盤を通って胎児に感染し、子供が早期に肝臓癌になることがあります。まあごく特殊なケースです。

癌で死なないためには

結構いろいろ市民講座などで癌にならないためにはとか癌で死なないためにはなどという講座をやってます。しかしたとえば90過ぎの人に癌で死なないためになどという講座が本当に必要でしょうか。その人が同時に脳卒中で死なないためにとか心臓病で死なないためになどという講座を聴いてためになるのでしょうか。いま先に挙げた3つの原因以外でなくなる人はほとんどありません。老衰があるじゃないかと言われるかもしれません。しかし昔は診断する器械がなかったために老衰としか判定できなかったのです。そりゃごく一握りの人は本当に老衰でなくなるでしょう。
逆に考えてみます。先の3つがなくなれば人間はほとんど不死に近くなると思います。死因のほとんどが先の3つである以上100以上の長生きなどたくさんいる状態になると思います。
人間はいつかは死ぬものなのです。古代の人たちは死ぬのは当然だが、そのあとどこへ行くのかという疑問があり、いろいろな宗教を生み出したのです。しかし現代人は違います。俺は死なないと思っているのです。また家族も死なないと思っているのです。
私は死ぬという考えが原点だと思っています。確かに親兄弟を亡くせば悲しい。しかしその人たちが永遠に生き続けることよりはまだましではないのでしょうか。
癌で死なないためには脳卒中か心臓病で死ねばよいというのは確かに悪い冗談です。しかし俺は癌だけには殺されたくないというのは正直な欲望であってもあまり現実的ではないでしょう。

癌は苦しい病気ですか

苦しいとか痛いとかは他の病気と同じです。よくテレビでやっている死ぬ間際に”誰々をよろしく頼む”とか苦しい息の中から言ってそのあとばったりなどという事態は茶番以外の何者でもありません。通常癌の末期になり痛みがでてくると医者は痛みを取ることに奔走します。ありとあらゆる鎮痛剤を使って痛みを取りにかかります。(私だけではないと思いますが)鎮痛剤の中でもっとも強力で副作用が少ないのはモルヒネです。モルヒネの副作用は主に呼吸を抑えてしまうことです。しかしこれも血液中の炭酸ガス濃度があがるのが主なものです。モルヒネを使っていると酸素も下がって窒息するというわけではないのです。(そりゃ最終的にはそうなるかもしれませんが)心臓に関してはむしろ強心作用がありこのため心臓外科でも心臓の能力に余力がない場合全身麻酔剤としてモルヒネを使用します。
末期状態になって痛みがでてくると私は段階的に鎮痛剤を強くしていき最終的にはモルヒネを使用します。さらに病状が進むと通常体力的に癌に負けてしまうのか昏睡状態になります。(これはモルヒネを使わなくても同様です)次に心臓または呼吸が止まり(意識がないため自分の舌で窒息することもあります)最後となるわけです。

モルヒネについて一言

国の宣伝のせいかいつもモルヒネを使うというと家族が顔をしかめます。いわく廃人になる、犯罪の一歩手前等々。しかし現在の鎮痛剤の中でもっとも総合的に優れているのはモルヒネなのです。麻薬撲滅などやられたら私など右往左往です。ついでに医療用のモルヒネは安いのです。厚生省の指導で古い薬ほど値段が下がっていくからです。新薬をありがたがる人が時々いて困惑してしまいますが、新薬というのは海のものとも山のものともわからないのです。確かに臨床実験をして安全だったからといえばそれまでです。しかし古い薬というのはさしたる副作用なしで効き目が大きいと言うことで生き残ってきたわけです。何千人何万人何億人に使用して非常に安全だったからということで生き残っているわけです。これに対し新薬はこれからも未知の副作用がおきる可能性が十分あるのです。実験ではよくても現実重大な副作用がでて製薬会社があわてふためいて副作用を追加するという事態はそれほど珍しいものではありません。
麻薬に対する国や公的機関の態度についてもう一言述べます。まず私が外来でモルヒネを使っていたとします。モルヒネの処方はまず手続がかなり煩雑です。麻薬処方箋に記入しカルテにスタンプを押してどれだけ出したかを書きます。さらに通常の処方箋にも同じことを書かなければなりません。院外処方は認められていません。さらに本人に隠すことが多いため通常の処方箋を切ったあとに患者さんがいなくなってから麻薬処方箋を書きます。この手続の煩雑さの故かなり多くの医者は合成麻薬といわれる麻薬扱いにしなくていい薬を出します。しかし効き目はモルヒネには遙かに及びません。WHOは以前麻薬の使用量が異様に少ない日本にコメントを出しています。もっと使うように。
ここらで厚生省も切り替えたらどうでしょうか。通常の処方箋でも可。他の薬と処方の手間は同じにする。ただし管理はもっと厳重にする。特に外来で出したモルヒネの飲み薬などきかないと本人が判断して捨ててしまうこともあります。体系的な管理をお願いしたい。また簡単に医療用モルヒネが扱えるように法を改正してもらいたい。