胃、十二指腸潰瘍の話

 今回は胃潰瘍について説明をします。現在胃潰瘍十二指腸潰瘍で難治性のモノはその原因がヘリコバクターピロリであると言われています。これまで医者は間違ってもあんな酸の多いところで細菌など生えるはずがないと思ってきました。事実人間の体の中でばい菌のもっとも多いところは口の中でこれが胃にはいると胃酸でほとんど殺菌されます。このため別に口の中を殺菌消毒しなくても、腸の病気はある程度抑えられます。実際コッホはコレラの実験を行い口からはいるモノによって感染すると結論づけたのですが、どうしても収まらない反対派の男はなんとコレラ菌をのんでみせ、何も発症しないとコッホを責めたそうです。実はこの反対派の男はかなり胃酸過多でどうも胃の中でコレラ菌が殺されたようなのです。

 一方ピロリ菌はなぜあんなに最近見つかったのでしょうか。実は顕微鏡を見て何かいると言うことに気づいた人は結構あったのです。しかしそこは日本の教授制度の悲しいところで教授がカラスは白いと言えばみんなでカラスは白いと言ってしまう体質です。本来なら慢性胃炎の多い日本で見つかったはずですが、実際報告を行ったのは欧米の人たちでした。

現在内科的な胃潰瘍の治療法の主流はこのピロリを除菌する薬と胃酸を抑える薬を組み合わせると言うものです。

 一方胃、十二指腸潰瘍の外科的な治療は適応も狭くなり、術式どんどん縮小されています。かつての潰瘍の手術適応は、出血、穿孔(胃に穴が開いて腹膜炎を起こしている状態)、狭窄(潰瘍による変形のため胃の出口が狭くなり食べても吐いてしまう)でした。
 術式は胃の下2/3切除がほとんどでした。何故胃を切るかと言いますとこれによって潰瘍のもとになる胃酸の分泌をおさえられる(胃酸を作る細胞の数が減ります。)ということでした。でもこのことは結構誤解されていて、胃の切除をすると無酸になると信じ込んでいる外科医もいます。(残った胃にも胃酸を産生する細胞がありますし、残胃のpHも酸性であることは珍しくありません。)生理学的にも解剖学的にもあまり理解されてないことが多いのです。胃酸を作る細胞は胃の上の方に多いので、酸を減らすのであればむしろ上半分を切除した方がいいかもしれません。ついでですが胃酸を出させるホルモン;ガストリンをだす細胞は胃の出口付近にあり従来の下2/3切除をすれば取れてしまってホルモンの値は低くなるはずですが、むしろ高くなる人もおり、この辺は未だよく分かっていません。

1.出血

 出血についてはまず薬による治療が行われるようになりぐっと手術は少なくなりました。さらに最近では内視鏡的に出血している潰瘍内の血管にクリップをかけることにより止血してしまいます。特殊な場合を除いては出血では手術にならないのが現在の常識です。


2.穿孔 

 穿孔については、腹膜炎(消化管の中はばい菌が多いのですが、消化管自体はばい菌を透過しない上に消化管の粘膜はばい菌に強いため普通の状態ではこれらのばい菌はあまり悪さをしません。しかし一旦穴が開いたりするとばい菌はここから抵抗の弱い消化管の外に出ていき繁殖します。これが腹膜炎のはじまりです。)をおこしているため、手術になります。余談ですが、穴はあっという間に開きます。鎮痛剤の使用後などを契機にそれまで全く潰瘍の既往がないのに数時間で腹膜炎状態になるのにしばしばも遭遇します。以前は手術術式は胃の2/3切除がスタンダードでしたが、現在では大網という胃の下にぶら下がっている脂肪組織を穴のところに詰め込んで穴を塞ぐ手術が主流です。大網充填術と言います。胃は切られず全部残るので機能的に障害が残らない優れた術式ですが、問題は潰瘍が再発しないかということです。ストレスなどで胃酸の分泌が亢進するとまた他に穴が開く可能性があるのです。結局胃酸を抑える薬を下手をすれば一生飲み続ける必要があります。胃酸をおさえるため神経を切ってしまう(迷走神経切離といいます)方法もありますが、胃の運動が悪くなるため胃酸がかえって胃の中に停滞してしまうというやっかいなトラブルもあります。まだ術式の決着はついていません。私は潰瘍の既往がある人は胃切除、無い人は大網充填にしています。 

3.狭窄

 狭窄は胃酸を抑える薬が開業医さんでも日常的に出される現在あまり多くはありません。この場合は胃切除をするしかないと思います。狭窄をおこした患者さんは潰瘍を繰り返していることが多く、下手をすると癌の手術よりよっぽど難しい手術になります。かつてはその困難さのためバイパスを造るなどされていましたが、バイパスにより余計なトラブルが増えるため、切除がベターです。     
 まあ手術にならないためには胃が痛いと思ったら病院にかかることですね。内視鏡を受けたら早期胃癌が見つかった何てこともありますから。