腸閉塞

 今回は腸閉塞です。一般的には腸捻転とか言われているものです。原因はホントに沢山あります。全部同じ病気にされてしまうことが多いので、ここでちょっと分類してみましょう。

手術を受けたことがある人

 虫垂炎、胃の手術、胆石の手術、大腸の手術などなどおなかを切る手術の場合、術後の癒着による腸閉塞が起こることがあります。癒着?何それ?とよく聞かれます。イメージ的には業者との癒着など悪いイメージでしかとらえられていません。が、これがなければあなたのキズは治らないのです。
切り傷で縫われた経験のある人ならわかると思いますが、術後1週間目に糸を抜きます。糸を抜いてもキズは開きません。服であれば糸を抜いたりすれば服がバラバラになります。なぜ人体ではバラバラにならないのでしょうか。生体では(死体では無論これは起こりません。)体に傷が付くとそこを修復しようと、まず血液が固まり、そこに肉を盛らせる細胞が集まり増殖してキズをふさぎます。これは意識していなくても自然に体が行います。(まあ印象として元気の良い人、意欲的な人ほど傷の治りは早いようです。医学的な根拠はありません。)
ところが都合のいい部分だけにこの「治る」という現象が起きるわけではありません。手術では臓器を手で触りますが、さわられた臓器にとっては微細な傷がついてしまうのです。

腸閉塞の原因: では手術を受けるとみんな一様に腸閉塞になるかというと、一生何も起こらない人もいますし、何回も腸閉塞をおこす人もあります。
 癒着の起こる程度というのが、元の手術の病気や、個人個人の体質によって違いがあります。例えば腹膜炎状態で手術を受けた人はそうでない人に比べ癒着は広くおきます。癒着しやすい体質というのは悪いように見えますが、裏返すと治ろうとする能力が高いとも言えます。外科の雑誌にこういうテーマで論文が載るのはほとんど見たことはなく、どの程度の癒着がおきるかという事を予測するのは全く研究されていません。(たぶん研究は無理です。)
また癒着していれば毎日腸閉塞をおこしても不思議はないと思われるでしょうが、実際たまたまおきているというかんじです。引き金になるのは、炭酸の入った飲み物を飲み過ぎたときとか、暴飲暴食をしたときとか言われていますが、いずれも具体的にどれくらいということは示せません。また私個人の感触としては、天気の悪いとき(低気圧が近づいたとき)発症することが多いように思いますが、根拠はありません。
 一旦このような腸管が詰まった状態になりますと、その部分が腫れてますますものが通りにくくなるという悪循環になります。
 また盲腸の手術を30年前にやったと言う人でもこの腸閉塞をおこすことがあります。また、最近取り上げられているカメラによる手術でも小さいながら開腹をしていますので、癒着が起きます。腸閉塞をおこさないと言う保証はありません。

腸閉塞の対策:症状としては嘔吐、お腹が張ってくる、ガスが出なくなると言ったところです。このような症状が立て続けにおきてきます。個人で出来ることは、それ以上は食べずに、手術をしてもらった病院または最寄りの全身麻酔の手術が出来るある程度の規模を持つ病院へ受診して下さい。それ以上食べたり飲んだりすればますます腸閉塞が悪化します。私はこのような症状でみえた患者さんは、入院にします。なぜなら、飲まず食わずの状態では、点滴がなければ命に関わる状態になるからです。
 点滴というのは一般的に「ちょっと調子が悪かったから点滴してもらって調子が良くなった。」程度の認識しかされていないと思います。でも現代の点滴はここから1日に必要な栄養や水分やビタミンを全て入れることが可能で、全く飲まず食わずでも、何年でも生活が出来ます。
 こうして腸を休めているだけでも結構治っていきます。ダメなときは次の段階としてイレウスチューブというチューブを鼻か口から入れ、これを小腸の中までレントゲンを見ながら誘導するという治療を行います。このチューブを通して小腸の中にたまった腸液や食物を吸引すると、詰まっていた小腸の腫れが取れ、腸閉塞が治ります。大概は1週間以内に治りますが、治らないときは状況に応じて手術になります。かつては私も喜んで腸閉塞の手術をしていたのですが。が、この手術により先ほども説明したとおりまた癒着が起き、ますます複雑な状態となることがあり、下手をすると、多数回の手術によりコテコテに癒着し、傷の下に腸管が団子状になってくっついて、もう開腹も出来ない(無理に開腹すると多数の腸管を切ってしまい収拾がつかない)状態に陥ります。この状態に陥らせないためになるべく手術は避けたいので、私は場合によっては2週間位吸引を続けることもあります。(他の外科医に話すと「長すぎる、もっと早く手術しろ」と言われてしまいますが。)

腸閉塞の一般的手術: 通常は癒着をはずすことにより、腸閉塞は解除されます。

手術を受けたことがない人

 実はこちらの方が今回の主要なテーマです。手術を受けたことがないのに腸閉塞と言う時、多くのケースで手術が必要となるからです。さらに一般的にこちらについては業界人でも知らない人が結構いるんです。

腸閉塞の原因: ホントにこの場合は原因は様々で、ほとんどがすぐに手術が必要になります。
 一番一般的なのはヘルニアです。そけいヘルニア、大腿ヘルニアで腸管が筋肉の穴でしめられてしまい(詳しくはヘルニアのかんとんを参照して下さい。)腸閉塞をおこします。問題はこの腸管がしめられている間に血流がなくなって壊死し、腸に穴が開いてしまうことです。しめられて何時間経つと壊死するかについては色々意見がありますが、1日以上たっている場合は、壊死している可能性が高いため、症状によっては最初から開腹手術を行うことがあります。このヘルニアというのはくせ者で、大概パンツより下の範囲に出ています。通常お腹が痛いと行ってパンツまで脱がせる医者はあまりいないため、ぱっと見では診断できないことは珍しくありません。私の教訓の第一条「外科医はパンツを脱がせることをためらってはいけない。」の根拠はここにあります。
 次に一般的なのは大腸癌です。(小腸癌というのは滅多にありません。)癌により腸管がふさがり、腸閉塞となります。これも手術が必要です。放っておくと穿孔といって腸に穴が開き、腹膜炎となることもあるので、要注意です。
 お腹の臓器に炎症があるとき、例えば胆嚢炎とかひどい胃潰瘍とかのばあいも腸管が麻痺して腸閉塞状態になります。(医学上は先のように直接腸管が絞められているものを機械性腸閉塞、炎症による麻痺は麻痺性腸閉塞と呼んで区分けしています。)これも手術が必要になることが多い病気です。
 小児の場合多いのは腸重積という病気です。これは腸管がいれこになってしまう病気で、小児では盲腸付近のリンパ腺が発達しており、これが腫れると引き金になると言われています。通常肛門から空気を入れて征服することが多いのですが、48時間以上たっている場合開腹になることがあります。
 時に寄生虫でも腸閉塞が起きます。アニサキスといういるかの回虫がいますが、これは本来の宿主に規制している場合は栄養を少し分けてもらって、おとなしくしています。ところが本来の宿主ではない人間の胃腸の中に入ってしまうと、こんなハズはないと思うのでしょうか、激しく動いて、炎症を起こします。通常は胃の壁にもぐりこんで、胃潰瘍のような激痛を引き起こします。これが腸までいってしまうと腸の壁に潜り込み、結果として腸が腫れ上がって腸閉塞をおこします。イカやサケについているため、これらの新鮮な刺身を食べると一緒に入り込みます。手術は本来は必要ではなく数日するとおさまってしまうと言われていますが、症状が激しいときは胃の場合は内視鏡で取り出すこともあります。腸の場合わかりにくく、結局開腹してしまうことも珍しくはありません。
他にもいくつか原因の病気がありますが、あまり頻度的に高くないので割愛します。

緊急性のある腸閉塞

腸閉塞とわかったらすぐに手術を受ける必要があるものもあります。業界用語で絞扼性イレウスと呼んでいます。通常の腸閉塞と同じように腸が絞められる状態ですが、運悪く腸への血流が途絶えてしまうほどきつくしまった状態を言います。発症から数時間で腸管は壊死し、急速にショック状態に陥ります。手術していなくても起きることがあり、判断にもっとも迷う病態です。
このような状態もあるので腸閉塞症状がある場合は直ちに手術が可能な規模の病院を受診して下さい。素人判断するのは大変危険です。