虫垂炎再考
凄いことになってきました。最近の3Dと言われているCTのことです。外傷でも頭から足まで一発 再構成をすれば素人目にも診断がついてしまう。(失礼)こんなのが出てきてからまた虫垂炎の治療は変わってきました。
前回の虫垂炎の項目で結構保存でいいかななどと書きましたが、このところ画像診断が進歩し、虫垂炎がほとんど初心者にも診断できるようになりました。3Dの装置を使うとCTの画面がスクロールで連続して見られ、頭の中で容易に3Dにできます。以前のCTではスライスが荒いため病変がスライスの間になって描出されなかったりが結構あったのです。
これだけはっきり腫れた虫垂が指摘できるとなると保存よりは手術かなと思い始めました。
かつて私の小さい頃50年近く前は”近所の○○ちゃんが盲腸になったけど腹膜炎で手遅れだったんですって”(念のため付け加えると手遅れで死んでいたということです)細菌による感染症は結構最近まで死ぬ大きな原因だったのです。(現在でも途上国ではもちろんこれが大きな死因です)
そのため虫垂炎治療は疑わしきは罰するで片っ端から手術になってました。触診以外にはまともな画像診断はありませんでしたから。でも若い女性などで結果たいした所見のない虫垂炎で手術後に傷に感染されたりすると治療経過がかなり長くなり、非常に罪悪感を感じた覚えがあります。
その後超音波診断(これも機械が良くなったのですが)がすすみ、CTが進歩しあまり所見のない虫垂は確実に切らずにすむようになりました。(但し書きですが、壊疽性と言われる虫垂が溶けてしまうようなものでは画像診断は役に立ちません。)さらに3DCTがかなり多くの病院で採用されるようになり、画面を動かすとあたかもパラパラ漫画(分からない方はお父さんかお母さんに聞こう)のような動画で連続的に患者さんの断層像を見られるようになりました。これにより炎症を起こしている虫垂炎の全体像やその周辺の膿瘍(虫垂が破れて菌が外に出た状態)さらにひどい腹膜炎状態なども診断できるようになりました。
ここまで進歩したところで虫垂炎の保存療法という考え方が欧米を中心に広く起こってきました。保存にした方がコストが安いとかいらない外科治療をせずにすむとかいろいろな理由が付けられました。ただここでちょっと考えてほしいのは欧米では虫垂炎ごときでは一昔前の日本の外科医のように「CTなんて必要ない。贅沢だ。」と思っているようなのです。以前我々の仲間が虫垂炎のCT診断で海外の学会で発表したとこも同様の質問がされたと聞きました。(欧米ではそもそもCTが日本のように津々浦々まである状態ではない。ほんとに以前住んでいた韓国領とも言われている対馬の診療所にすらCTあります。)
私自身はこの保存療法の方が日本ではコストパフォーマンスが悪いと考えています。CTをとって診断することには大賛成でこれで明らかな虫垂炎の診断がついたら手術を受けるように勧めるべきだと思っています。もし画像診断もせずに保存を勧めた場合、他のもっと重症の疾患であったらどうするのか。実際癌があったということもあるのです。また前回書いたかもしれませんが、動脈瘤の破裂!なんてこともあります。画像診断で所見があったと、そこで保存というのもあまりお勧めできません。というのは経過観察中に悪化した場合手術をしますという但し書きがあるのです。悪化かどうか判断するには多分触診だけでは済みませんので改めて採血や画像診断を行うでしょう。さらに以前臨床外科学会誌に投稿されていた報告ですが、保存で数日抗生剤を使っていて手術になった、その後違う抗生剤を使っていたらMRSA腸炎で亡くなったというものです。訴訟ものになりそうなのにさらに投稿してくるとは恐るべしですが。要するに虫垂炎で手術をしたけど合併症で死んじゃったということなのです。とうてい今の世の中で許して貰えるものではないでしょう。最初に手術を受けておけばまず違う抗生剤も必要がなかったしMRSA腸炎も起こらないだろうと私などは考えてしまいます。他の例では保存で入院治療して退院して(退院時には画像診断はありません。理学所見だけです)その1週間後にかなりひどい膿瘍を作って手術になったというのがあります。最初の退院がやや早かったのか画像や採血データが十分では無かったのか。
それに比べると診断がついて即手術であれば退院までも時間がかかりませんし余計な検査もされずに済みます。またひどい状態ではなければ腰椎麻酔という下半身麻酔でできますからずいぶんと術後がラクです。(全身麻酔がしんどい話はどこかに書いてあると思いますが、だいたいあれは人間を仮死状態にするわけで毒ガスの一種です)たかが虫垂炎です。早く治療できる方法を選びましょう。されど虫垂炎です。重症化すれば未だに死亡原因となります。リスク対効果を考えれば早期診断」早期手術が一番お勧めなわけです。
むろん患者さんの意志を無視しろということではありません。治療について対話をする際に手術療法を一番に勧めて下さいということだけです。修学旅行や会社が倒産しかけとか大変な事情でとても入院すらできないこともあるでしょう。
ただ何回も炎症を起こした後の虫垂炎の手術はかなり難易度が上がります。その分トラブルが起きやすくなります。強力な抗凝固剤を(パナルジンという薬でした)飲んでいる患者さんで2週間抗生剤を使ったあげく手術をしたら見事に腸管の変形まで起こしていて泣く泣く腸管切除をしたこともあります。
もう一度言いますが、たかが虫垂炎されど虫垂炎です。リスク対効果をよく考えて下さいまし。