クラシック音楽庵 indexクラシック音楽〜陰の名盤・ウラの名盤>ショパン:ワルツ全集/フリッツ・ケルマン(Fritz Kermann)


ショパン:ワルツ全集(円舞曲全集:全14曲)
演奏:フリッツ・ケルマン(Fritz Kermann)
LP:Teichiku UDL-3030-V (OVERSEAS〜Musidisc France 原盤)

(*注意:STEREO表記だが実際は擬似ステレオのように聴こえる)

(Nov 22, 2004 by kinji)


 

*** ビリティスの両手からこぼれ落ちる清流のしずくのように美しい ***

 フリッツ・ケルマン・・・。このピアニストについて恐らく誰も知らないのではないだろうか?

 検索してみたところ、海外サイトの掲示板で「ワルツ」の録音がある旨の書き込みがあったのと、これは同一人物かどうか不明だがバッハのトッカータとフーガのオルガン演奏の録音で同名の記述があった。日本のサイトでは安田さんという方がテイチクの廉価盤シリーズのディスコグラフィを公開されていて、そのなかにこの盤も含まれていて、その他にフリッツ・ゲルマンという名でショパンの即興曲と幻想即興曲およびバラード集の2枚が載っていたが、同じ人だと思う。

 そしてその他の2枚というのを私は持っていないので、実をいうとこの記事の投稿には躊躇した。世間にケルマンの素晴らしさが知れて、入手し難くなっては困るから(笑)

 いずれにしてもケルマンがどういう素性のピアニストなのかは全く不明だ。

 ところで私はショパンが苦手で、一部の曲を除いて殆ど聴くことは無いのだが、このケルマン盤のワルツ全集は別で、何度でも繰り返し聴きたくなってしまう。

 まずリズムのノリが良い。テンポ・ルバートはあるのだが、遅くした後はすぐに速くして、全体としてプラ・マイ・ゼロになっているので、粘りやダルさは全く感じないし、上昇音階と下降音階の描き分けがバライエティに富んでおり、見事だ。テクニックもしっかりしているというか、胸のすくような颯爽とした演奏なのだが、技術の披露が目的なのではなく、奏法が理に適っており曲にピタリとマッチしているとしか言いようが無い程の素晴らしさだ。

 全体に間(マ)のとり方もこれ以外にありえないという位のうまさだし、タッチや音色が美しい。まるでビリティスの両手から、すくい上げられた清流がキラキラと輝きながら、はかなくこぼれ落ちるような美しさだ。

 イ短調作品34-2の序奏から主題に移るところの大きな溜めなど少しも嫌味にならず、しみじみとした趣で聴かせる。そして主題に続く「トゥルン、トタタ、タララッタッタ・・・」のフレーズでは悲しみを吹っ切るようにコントラストをつける演奏家もいるようだが、ケルマンはそうはせず、むしろ悲しみをじっとこらえて噛み締めるような表現が素敵だ。

 変イ長調作品42ではトリルからテーマに入るところの自然で微妙な絡み合いに味わいを見せ、中間部での力強い盛り上げも素晴らしいが、続く部分も含め、実はさり気無く精神の崩壊して行く様を表現しているのだ。崩壊する精神といえば同じ変イ長調の作品64-3も、そんなイメージだ。

 また、嬰ハ短調作品64-2では注意深く丁寧に陰影をつけた表現をしており、大げさになりがちな部分は速めのテンポでさり気無くかわすなどで、決してキッチュに陥ることは無い。今までこの曲はあまり好きになれなかったのだが、ようやく安心して聴ける演奏に巡り合えたのがうれしい。

 そしてロ短調作品69-2・・・。言葉では言い尽くせない美しさ、とだけ言って置こう。ヘ短調作品70-2も同様だし、最後に置かれたホ短調の遺作までの全曲を聴き終えた後には、「ふう・・・」とため息をつくのがやっとだ。

 ショパンのワルツは単なるサロン音楽というよりも、傷ついた魂の孤独な踊りであるといわれるが、フリッツ・ケルマンの演奏を聴いて私にはようやくそれが解った次第なのだ。でも実はショパンをあまり聴き込んでないので自信が無く、参考のために世評の高いリパッティ盤を購入して聴き比べてみた。そのうえでこの記事を書いているのだといえば、伝えたいことは解っていただけるだろうか?



 *** ビリティスとは、写真家デヴィッド・ハミルトンの写真集に登場する美少女達全般をイメージして「ビリティスの両手から・・・」と表現したものです。氏による同名の映画が語の元になってますが、私は観逃したので・・・。 ***

 


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