RPG
「桃太郎?」  ハレは不服十分な声で抗議の声を上げた。  つまりはこういうことである。昨日、学級会があって今年の学芸会の出し物について話 し合ったのだが、ハレは不運にもその日は風邪をひいて学校を休んでいたのだった。  別に仮にハレが学校を休まなかったとしても、ハレのきわめて小さい権力では学級会の 議決になんら影響を与えなかっただろ。例年のようにやる気のないレジィがここぞとばか り睡眠時間を主張し、マリィがやはり例のごとくこういったイベントに熱をあげて、ただ 唯一の意見を主張し、そして押し切ったのである。  ハレはどうしてこう、クラスのみんなが学芸会の出し物について積極的でないのかと他 のクラスメイトを恨みたくなる。別に昆虫採集の研究発表でもいいではないかと思うのだ。 どうしてこう、進んでヒトの見せ物になることを好むのであろう。と。  いや、問題は学芸会で桃太郎をするということではないのである。別に小道具Aとして ささやかに舞台の袖でみんなを見守る役になれたのなら。  そう、そうなのである。困ったことに、ハレは桃太郎の中でけっして小さくはない役を 押しつけられてしまったのだ。どうしてこう、滅多に風邪をひかない自分が昨日に限って 高熱を出してしまったのかと悔いても今更である。もちろん、休みの人間にとりあえずめ んどくさい役を押しつけておけという下心がみんなにあったとしても、それなら自分は納 得する。間違いなく、こんな重要な日に欠席した愚か者に非常にめんどくさい、誰もやり たくない仕事を押しつけるのには賛成である。例えばゴミ係だとか、便所掃除だとか。  では、何が問題なのかというと、実は配役は学級会で決まる以前から決定されていたの である。マリィがこの日のために寝ずに企画を練ってくれたらしいのだが、実に迷惑なこ とだ。  もう賢明なあなたなら気づいているかもしれないが、ハレが後悔しているのはマリィが “善意をもって”桃太郎の配役を発表したときにその場で抗議できなかったことである。 実は薄々ながらわかっているのだ。マリィの提案を拒否することなど、ハレにはできない ということを。それでも、決定前であれば、もしかしたら神の奇跡とやらを期待してもい いのではないだろうか。と。  桃太郎のメインキャストはこう決まった。  桃太郎のおじいさん、ウイグル。  桃太郎のおばあさん、ウェダ。  桃太郎一家の番犬、ハレ。  お供のサル、トポステ。  お供のキジ、マリィ。  どうも納得のいかない配役である。特に自分が番犬だというあたりが。どうも、こう、 未来というか現在を暗示しているようで。  そして主役の桃太郎が保険医で、敵役の鬼がダマだとしたら・・・。もうこの世界は終 わったも同然である。 「世の中って不公平なのね・・・」  マリィお手製の犬の着ぐるみを着て、台詞あわせの途中でハレはため息をつく。  とりあえず、鬼はのぞいて始まりの部分のパートだけあわせているのだが、演出兼監督 キジ役のマリィが何度となく駄目だしをし、異様に高いテンションでやる気があまりない (と思われる)その他の役者たちに熱い演技指導をするのだった。 「ふっ、何を不満に思っているのだ?桃太郎の犬と言えば、主役に次ぐいい役だろう。グ ゥなんて通りすがりの木Bだぞ」  そんな風に慰めてくれるのは、これまたマリィお手製(と思われる)木のハリボテをか ぶり、顔だけ出したグゥだった。 「ちょ、なんで通りすがりの木Bなんて役があるんだよ」  確かに学芸会では付き物の役周りである。村人AとかBとか。台詞があるんだかないん だかわからない役というものは他にも多数あるのだが、なぜかグゥが通りすがりの木Bな どという役で(つーか、通りすがりの木Aは誰だ?)、妙にいい表情をしているあたりが 嵐の前の静けさとでも言うべきか、背筋が寒くなる思いをする。  はたして、こんな配役でまともな劇などできるのだろうかと、今更ながら考えずにはい られないハレだった。 「ハレ〜、がんばるのよ〜」  がやがやとざわついたジャングルのホールで、一際通る声がハレの元まで届いた。  あっという間に月日は過ぎ、今日は桃太郎の劇の本番である。  みんながみんな少なからずハレ舞台に緊張している。舞台袖で主人公専用席にどっぷり と座って、足を組みながらタバコなんかふかして尊大に構えている保険医をのぞいては。  客席の方はというと、ジャングルらしく、そこはかとなく適当な雰囲気だ。誰も我が子 が舞台に立つということで当事者以上に力が入っていたりとか、ビデオカメラのアングル を盛んに調整しているとかいう人は誰もいない。「コケコーラいかがっすか〜、ビールに おつまみ、アイスクリームもありまっせ〜」なんていう売り子の声が緊張感なく響いてく るくらいだ。  ドクドクと緊張して、ハレは舞台の開演を迎えた。 「むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさ んは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきます」  ナレーションはマリィが兼任している。おきまりのフレーズから物語の始まりが告げら れると、重い緞帳が徐々に開いていった。そこは大道具班が徹夜して作った小屋の前で、 老夫婦が日課をするためにお辞儀をして別れたところだった。  付け髭をし、背中に籠と鎌を背負ったウイグルと粗末な普段着に洗濯物を抱えたウェダ がそれぞれの役目をするために移動する。物語にはウイグルの役は関係ないので、暗い舞 台の上でウェダの方にだけスポットライトが当たっていく。 「おばあさんが川に洗濯に行くと、川の上流から大きな桃がどんぶらこ〜、どんぶらこ〜 と流れてくるではありませんか。その様子を見て、おばあさんは目を丸くします」 「あ〜ら、美味しそうな桃だこと♪きっと常日頃から貧乏でも一生懸命働いてきたあたし のために神様が天から流してくれたのね」  さっそく、ウェダは洗濯物を放り投げて、袖まくりをして果敢に川の中に入っていき、 千載一遇の機会を逃さないように大急ぎで桃を捕まえた。 「うっ、ずっしりと重いわね。死体でも入っているんじゃないだろうね。ふっ、重いくら いじゃあたしは諦めないわよ。舌切り雀なんて目じゃないのよ」  欲深さ120パーセントでウェダは桃を川からあげ、そのまま転がしながらさっそく家 まで持ち帰ったのです。 「ふ〜、やっとついた。さ〜て、さっそくいただきましょうか♪桃も鮮度が命だし。旦那 が帰ってきてないけど、ふっふっふ、あたしが運んだんだもの、独り占めすべきよね」  腹黒いおばあさんである。ウェダは台所からチェーンソーを持ち出すと、じゅるっと舌 なめずりをして大きな桃に刃を入れた。 “ういーん”  時代にそぐわないモーター音をあげて桃が真っ二つになる。中の桃太郎は安全なのかと ちょっと心配に思うが、食欲に狂ったウェダには関係ない。  ぱかーっと桃が真っ二つに割れると、中からリアルマジックショーを体験したクライヴ が顔面蒼白になって産まれてきた。 「ちょっと、先生?台詞はおぎゃーおぎゃーでしょ?」 「んなのわかってるよ!つーか、オレを殺す気か!?」  慌てて桃の中に入ったためか、なぜかタバコを加えたまま桃太郎は登場した。恐ろしく イメージダウンだが、この際はタバコがチェーンソーによって真っ二つにされ、火が消え ているところを言逃してはなるまい。ちなみに、本来ならタバコでなく、なぜかおしゃぶ りを加えているはずだったのだ。 「おばあさんが桃を切ると、中から大きな赤ちゃんが産まれてきたのです。と、ちょうど このとき・・・」 「ただいまー。ウェダちゃん、今日も疲れたよ〜」 「と、最悪のタイミングで(?)おじいさんがにこにこした表情で帰ってきました」 「って、ウェダっちゃん?な・・なに・・その子?はっ、わかった。きっとあの都会の男 の子供だな!?よく見たらあの卑しい男の顔つきにそっくり!ウェダっちゃんひどいよ。 僕という男がありながら・・・」 マジに涙を流しながらウイグルがウェダの腰に抱きつく。 「ちょっ、あんた、何寝ぼけたこと言っているのよ。いつあたしのお腹が大きくなったっ ていうの。あたしでも一晩で子供なんか産めないわよ」  じゃあこの子は何なのさと問い尋ねると、ウェダはあらすじを話した。結局、わかった ことは食い扶持が増えたというだけだった。生活が楽ではないというのに。  恨めしそうにウェダとウイグルが保険医を見る。 「そうねぇ、タバコ漬けで食べても美味しくなさそうだし、ハレ(犬です)の餌にするの もなんかねぇ。どっかに人買いとかいたかしら。まぁ、でもこう愛想が悪くて不健康そう じゃ二束三文で買いたたかれるのがオチね」 「いっそのこと、桃に詰め替えして川に流すとか・・」 「おいこら、身よりのない赤ん坊を捕まえておいて、なんつー言いぐさだ!ちっとは俺の ことを大切にしろ」 好き放題言っていると、さすがに保険医が文句を言い出した。というか、自分の居場所 を作るための必死の抵抗ともいえる。  なんやかんやで最後には桃太郎はウェダ家の市民権を得るのだが、成長していくにした がって、ロクでもない大人になるのは目に見えていた・・・。 「ちょっと、クライヴ?もう10時すぎているのよ。いつまでも寝てないで、ちょっとは 働いたらどうなの」  いつものウェダ家でいつもの時間、いつものパターンが繰り広げられていた。 「寝てなんかいねーよ。それに、仕事だって、一応、開業医っていう看板を掲げているん だから・・」  そう言って箒とハタキを持って部屋の掃除に来たウェダをあしらい、ウェダに背を向け て春画を読んでいる。 「お医者様って、お客様なんてだ〜れも来ないじゃない」  そうなのである。腕は悪くないどころか優秀なのだが、若い女性相手にはセクハラをす るは、それ以外の客には法外な治療費を請求するはで、ただでさえ過疎化が進む村にあっ てあっという間に桃太郎治療院を訪れるものはいなくなってしまった。 「それだけみんな健康ってことじゃねーの?」 「およよ・・。図体ばかりでかくなっちゃって、今年もまた村で一番イヤな奴ナンバー1 になってしまうのね。お母さん、肩身が狭いったらありゃしないわ。それに、生活だって どんどん苦しくなっているし・・。お父さんだってあれからすっかり人が変わってしまっ て、酒に溺れてしまって。はぁ、けっきょく、ハレの食費が一番に削られちゃうんじゃな い」 「犬なんてどうせ、ハラが減ったときに食うために飼っているんだろ」  まったくもってふてぶてしいやつである。番犬のハレがまた餌が減らされると知って殺 気を覚えたらしいが、この話と今の話は直接関係ない。 「もう、とにかく起きなさい。そしてちっとはあたしのために村で評判の息子になってく れたっていいじゃない。そうね〜、ちょうど鬼ヶ島で鬼が出没してみんな困っているらし いし、それを退治してきたら、領主様から金銀財宝もらい放題よ。そうなればあたしも新 しい着物が買えるし、そうね、そうしましょう。というわけで鬼退治にでも行ってらっし ゃい♪」  口調とは裏腹に実力行使である。クライヴの寝ている布団をひっぺ返すと、持ち前の怪 力を発揮して家からたたき出し、お皿に山盛りの塩を持ってきて、おもいきって塩を玄関 先にばらまいた。 「さぁ、鬼退治してくるまで家に入れさせないからね!って、たった一人で放り出されち ゃうのも可哀想だから、番犬のハレを連れて行っていいわよ。それから、これ。はい、吉 備団子。とりあえずお約束だから作っておいたけど、自分で食べちゃだめよ」  結局、不審者相手に吠えたりもしない無気力なハレと無駄飯食らいのクライヴを追い出 すことになった。ピシャンとドアを閉めてしっかりと閂まで掛けている。青天の霹靂で家 を失ったハレがこの際、一番、割の合わない役だったのだろう。 「鬼退治、鬼退治。かったるいんだよなぁ・・・」  めんどくさそうにぼやくのは、家を追い出された張本人、クライヴだった。とりあえず 家を出されたために適当に、鬼ケ島のある方へ歩いているのだが、まるっきり鬼退治に行 くようには見えない。 「やっぱり、今日日鬼退治なんて流行らねーんだよ。そんなことする暇あったら女の子の ケツ追っかけていた方がよっぽど楽しいんだけどなぁ」 「ふざけんなこら!ヒトを道連れにしておいてナンパとかするなよ?」 「やかましい。貴様は“ヒト”じゃないイヌだ!犬畜生の分際でご主人様に楯突くな」 「誰のせいでこうなったっていうんだよ?」 「あ〜、あ〜、どうせ俺のセイですよ。だから言っただろ。お前にも可愛い雌イヌを紹介 してやるって・・」 「ふざけるな!」 「ふざけてねーよ。あ、それとも雌イヌより人間様のメスの方がお好みなんだっけ?」  などと、もう延々5時間も似たような問答を繰り返していたのだった。道は幸いにして すれ違うものは誰もなく、見苦しい掛け合いは誰にも見られずにすんだが、もし見られた としたら、どうしようもなく虚しい言い争いをしているように思えただろう。もちろん、 言い争いは時に実力行使に発展し、二人の身体に無数の噛み傷なんかもある。どうやら、 クライヴと保険医の緩衝役になるべき人が必要なんだが・・。 「あ〜、腹減った。きび団子とやらはさっそく食っちまったし。たまには犬鍋にでもする かなぁ。ウェダもいざという時は食っていいってワケでコイツをお供にしてくれたんだろ うし」  桃太郎としてやってはいけないことをクライヴは堂々とやってしまっている。はたして この後、どうやってサルやキジを仲間にするのだろう。 「食うな〜!つーか、オレもハラヘリなんだ。食われる前に食っちゃる。煙草と薬漬けで マズそうだけど」  両者、唸り声をあげて牽制しあう。こんな調子なら鬼退治など夢のまた夢だが・・。 「も〜もたろさん、ももたろさん♪お腰につけたきび団子、一つ、私にくださいな♪」  小鳥のさえずりのような歌声で現れたのは両手に大きな羽と、また大きな嘴をつけて、 手にマイクを持ったマリィだった。 『ねぇよ』  残念ながら、クライヴとハレが同時に言う。そして二の句は別々だった。 「保険医が食ったんだ」 「イヌが欲張りで制止する間もなく食われた」 「嘘つくな、嘘!貴様が食ったんだろうが。観客が証人だぞ!」 「観客なんているか!桃太郎様が一番偉いんだ。どっちがご主人様かこの際、はっきりさ せておく必要があるな。いいか、桃太郎様がカラスは白いと言ったら、白いんだ」  などと、またしても取っ組み合いの噛みつき合いの大喧嘩に発展しそうだった。 (ちょっと、ちょっと。シナリオと違うじゃない。先生もハレもしっかりやってよ)  ひそひそ声でマリィが制する。それでやっと本来の役割を思い出して、二人とも肩を組 んで表面上だけ笑顔を作る。 「はっはっは、残念だがキジさん。きび団子は生憎、品切れだ。袋の残り香でよければ好 きなだけ嗅いでいいぞ」  結局、言葉が変わっただけだった。 「ん〜、どうしたんだ?きび団子はないのか?せっかく、仲間になってやろうと思って駆 けつけてやったのに」  そう言って現れるのは、出番はもっと後なはずだったサルだった。 「まっ、いっか。きび団子なんかくれなくても、鬼の財宝で手を打つぜ。あんたはどうせ 領主様からがっぽりご褒美をもらうんだろうし」 「そうよ、そうよ、あたしも鬼のお宝もらってびとんのバックを買うんだから♪」  所詮は安物のきび団子より金ということらしい。保険医は鬼の財宝と領主のご褒美とい う乙女の夢(らしい)賞金の二重取りを狙っていたが、この際はしかたがないと諦める。 というか、雀の涙ほどの宝を分け与えて手を打とうという腹黒い魂胆だったのだ。 「じゃあ、オレも鬼の財宝で新しいゲーム買おうっと。謎の箱、欲しかったんだよな〜」  などとちゃっかりハレも儚い夢を抱いたりなんかしても、やっぱり、 「お前はきび団子を食ったからダメだ」  などとクライヴに言われ、ゲンコツを脳天に喰らう。もちろん、ハレはきび団子なんか ヒトカケさえも食べてはいないのだが。 「さぁ、はりきって鬼退治行くわよ〜」  三者が三様、それぞれの想いを抱いて、ここにとりあえずサル、イヌ、キジと桃太郎を お供する仲間たちが集ったのだった。  そこは悪夢の始まりとも言える場所だった。  そう、鬼ケ島。鬼が棲む島。  誰が初めにそう呼んだのかは定かではない。何世紀も前はそこが鬼ケ島なんて呼ばれて はいなかったことを知る者は、残念ながらもうこの世にはいない。  そう、そこは起源の始まりから鬼ケ島ではなかったのだ。  いつの間にやら、誰知らずうちにその島に鬼が棲むと言われていた。  事実、何人ものうら若き男たちがその島に鬼退治に向かい、そして誰一人としてそのま まの姿で帰って来るものはいなかったのだ。  恐怖のあまり自我を崩壊させ、記憶を失った男だけが、鬼ケ島から帰って来た。しかし それはもはや廃人の他になかった。頬はげっそりと痩せこけ、髪は恐怖のあまりか若くし て真っ白になり、「鬼怖い・・、鬼怖い・・」とうわ言にように繰り返す様を見て、誰し もが鬼の恐ろしさを知ったのだった。  そこは誰も近づかない島になっていた。 「気味が悪いわね〜」  真っ昼間だというのにその島には霞がかかり、いかにもなにか“居そう”な雰囲気を醸 しだしている。そこはおあつらえ向きの島でもある。 「鬼ケ島って鬼がわんさかってわけじゃなかったんだな・・」  少なくとも、目の前には鬼がいなかった。噂では鬼のバーゲンセールをやっているとか いないとか。三歩進めば鬼にあたる。笑う角にも鬼来る。鬼も歩けば棒に当たる。関係あ るんだかないんだか、とにかく、鬼、鬼、鬼・・のはずなのだが。 「まったく、出てくるはずがないね」  まさか別の桃太郎が既に退治してしまった後だとか、そんなオチはないだろうとお互い が顔を見合わせる。  だが、この微妙な雰囲気こそが、まだそこが平和になっていないことを物語っている。 「ぎしゃーーーーーー」  ページの都合もあって、ソレは唐突に、奇声をあげて茂みから登場した。鬼そのものと 言えるドレッドヘア、目は焦点が定まっておらず、白目があちらこちらに動く。やせ細っ たその体躯と長い手足を虫のように動かす様は、確かに鬼・・のようだった。少なくとも ソレを人と認定するのは難しかった。人でなければ鬼としか言いようがあるまい。まるで 地をカサカサと這う黒い悪魔に遭遇したかのように、桃太郎一行は硬直し続けた。 「お・・・お前が鬼なのか・・・・・?」  辛うじて現実世界に戻ってきたのは、クライヴが一番だった。主人公の義務(?)もあ ってとりあえず一番にソレに問い尋ねてみる。 「おじいさーーーん♪」  鬼相手にコミュニケーションを取ろうとしたのが間違いだった。声をかけたことで獲物 (合掌)と認定されたのか、はたまたナンパされたとでもまことに勝手ながら勘違いした のか、鬼は目をハートにし、まったく意味不明な単語を絶叫して、とても人とは思えない 速度で(鬼とかそういうレベルでさえない!)クライブに迫ってきた。  それを見て、クライヴは真面目に顔面蒼白になる。舞台の粗筋とはまったく逆の展開を 予知して、かつての苦々しい記憶を思い出して、一歩、あとずさる。 「ぎげぎょむっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」  なんというか、予想通りというか、鬼ダマは桃太郎からの呼びかけに熱烈な感情、沸き 上がってくる気持ちそのままを表現した。すなわち、深すぎるほどに深いディープな口づ け。不気味な体液を垂れ流す口でクライブの口を塞ぐ。鬼の必殺技は強烈だった。おそら く、それを前にして生き残れる人など皆無であろう。鬼のなんと恐ろしいことか。  ぐったりと酸欠状態になって、クライヴは地面に倒れ込む。元来、白い髪なのだが、そ の瞬間は本当に真っ白になっているかのように見えた。  ニマッと満足げに鬼ダマは笑うと、気絶したクライヴを抱え込んで自らの巣に持ちかえ ろうとする。 「ちょっと待ちなさいよ!そいつを持っていくなら、ちゃんと金払いなさい!」  えっと、なんと言うべきか、キジのマリィはちゃっかり、補償を要求したのだった。鬼 は一瞬首をかしげるが、すぐに理解して、上着の裾をまくり上げ、ため込んでいた宝石類 を無造作に落とすと、嬉々として再び茂みの中に消えていった。 「そうそ、浮気しちゃだめよ〜」  恐ろしい度胸で鬼に対して対等に語りかけるマリィ。最終的に誰が最も怖い人なのか、 ハレはわかったような気がした。  結局、桃太郎は鬼退治に成功したと構成には伝えられている。桃太郎が鬼ケ島を訪問し て以来、鬼とクライブの姿を見たものはいなかった。マリィは鬼から結納としてもらった 宝石類を換金して、好き放題、ブランド物を買いあさった。ウェダもウイグルもトポステ も、それ相応の分け前をもらったのだった。もちろんハレも、ささやかながらゲームソフ トを買うことができ、今日も現実逃避に走っている。 「今日も鬼ケ島では鬼と桃太郎の蜜月が続くのです。もしかしたら、今頃はダマとクライ ヴの子供が、楽しそうに島を駆けめぐっているのかもしれません」  最後にマリィのナレーションが入って、とんでもない桃太郎は終幕を迎えた。




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