遠い地平線を過ぎ、
遙かに見渡す草原を抜けて一陣の風が吹き渡る。
向こうに見えるは薄霞む連綿たる山々、
沈みかけた太陽が鈍い光を放って全てを照らしていた。
一人の少女が無限に続く黄昏の草原でたたずんでいる。
黒髪、黒目、こんがりとした健康的な肌。どこかの村娘といった表現がよく似合うどこにでもいる娘。
しかし、どこか世間知らずな印象を受ける娘。さらに旅慣れた旅装をしているとすれば、
彼女のことを説明するのは苦労する。
彼女の名前はイリアという。
彼女がなぜこんな所にいるのか、それは彼女自身もわからなかった。
彼女は遠い地平線を眺めていた。
どうして?
それは自分が聞きたい。
意志の強い瞳が一瞬、濁る。
ボクはどうしてこんなところにいるのだろう。
「ウリック、なにをぼさっとしているんだ!腹減った。飯を作れ」
暴慢としか言いようのない言葉が脳裏によみがえる。
「あ。ごめん‥‥」
初めて破顔して彼女は向き直る。
しかし、一瞬のうちに破顔した表情は硬直した。
幻影が消える。そこには沈みかけた太陽だけが虚しく光っていた。
「‥‥‥‥」
ぎゅっと自分の身体を握りしめる。言い知れぬ感情が心からわき出てきた。
「イリア〜。
ん?だいじょうぶ?また、あのことを思い出したの?」
彼女の背後からひょっこりと可愛い妖精が現れた。
ほんの手のひらにすっぽりとおさまりそうな小さな妖精。
透き通った4枚の羽根をはばたかせて彼女の周りを翔んでいる。
「レム。だいじょうぶだよ。ちょっとね、シオンがいたときのことを思い出しちゃっただけ。
あのワガママ太郎、どこに行っちゃったんだろうね」
笑う。今はもうシオンはいない。兄さんも。
それでも、さっきのようにふらっと自分の前に現れるのではないかと信じてる。
どっちも変な人たちだから。
また笑う。しかし今度のはちゃんとした笑みだった。
「ねぇ、レム。カイ兄さんに十六夜君に‥‥ええっと、乱暴な人‥‥」
「ジェンドだってば」
「‥‥うん。みんないい人だね。いつかみんなと、それに兄さんやシオンと一緒に暮らせたらいいな」
「えぇ〜?絶対に疲れるよ。だってマトモな人いないじゃん」
「あはは。そうだね」
兄さんにシオン、飴のお兄さんに十六夜君、ジェンド、それからボクとレム。
一つの家で暮らすんだ。そうしたら、どんなに楽しいだろう。
今からでもその嬉しそうな光景が見える。
「そのためにはなにをしなきゃだめかな」
そのためには平和な世界が必要だった。
人とモンスターが一緒に暮らせる世界。それをつくるためにボクは旅を続けているはずなのだ。