明日香探偵団 〜セカンドパフューム〜
 コツ、コツと勇基は机の端を指で叩いていた。
「・・問題は明日香がどうでるかなんだよな」
 明日香探偵団なんていうものが出来てしまったこと自体が勇基にとって失敗だったと言える。前回の失敗でどれだけの損失をこうむったか。金銭的な問題じゃない。精神的な問題だ。あんなものは即刻、解散させるべきだったが、明日香が「名誉挽回させて」光線を出して目じりに涙なんかをためたときは、いったいどうやって抗えばいいんだ?
 しかたなく、オレは明日香に第一級警戒態勢をとって用心深く明日香の行動を注視した。
 次に選ぶ仕事が安全で、そして明日香が満足して探偵団を解散(飽きるとも言う)させるように誘導しなければならない。
 いくつかの安全な(しかしやりがいのある)仕事をそれとなく明日香の目のとまる位置に置いてやり、明日香の仕事を受けるかどうかの諮問に賛成しなければならない。問題はアイツ、戒だ。戒が「明日香、その仕事は・・」なんて言わなければ問題ない。もし言いそうになったら思いっきり足を踏みにじってやる。
 そんなこんなで選んだ仕事はあるVIPを海水浴に連れて行くこと。明日香には護衛だと言い聞かせているが、実際は「おもり」だ。戒は気づいたようだが、やっぱり足を踏んづけて黙らせた。
 しかし、VIPが誰であるかというのに迂闊にもオレは気がつかなかった。明日香が張り切って荷物をまとめて、さらに水着も新調して待ち合わせ場所に向かった先には、なぜだかジュマの奴がいた。
「やぁ、君たちだったんだ。本当は君たちを誘おうと思ったんだけど、電話したときは勇基、君が「うるさい、馬鹿!浜辺で脳みそでも溶かしてろ」とか言っていたじゃないか。まぁ、よかったよ。明日香にも会えたし♪」
 ジュマの奴、オレがじろっと睨んでもご機嫌でお構いなく明日香とべたべたするし。まるで「ぼくがクライアントなんだから何したっていいだろ」って感じだ。ジュマが依頼人だということがわかって急に戒の奴も機嫌が悪くなるし。オレの責任じゃないだろ?
「明日香、水着はちゃんと持ってきた?ビキニ?ワンピース?きっと可愛いんだろうなぁ。これから行くところはぼくの家のプライベートビーチだからゆっくりくつろいでいいよ。
 あ、勇基。お弁当買ってきて。お茶もだよ。電車が発車しちゃうから急いで」
 このガキ〜!沸々とこみ上げてくる怒りをぐっと飲み込んで勇基は駆け足で駅弁を買いに行く。何の因果でオレがこんなことしなきゃならないんだ?まったく、不公平だ。
「明日香、見てよ。この新製品のCPU。今までのと基本構造が革命的に違うんだ。これを初めて見たときは感動したよ。明日香に初めて会ったときも同じような感動があったんだ」
 しかしジュマは相変わらずよくわからない。んなことを言われて喜ぶ女がいるだろうか?明日香が鈍いから?マークを頭の上に浮かべているだけですんでいるけど、普通の女なら逆に怒るんじゃないか?
 戒を見たらこっちはまるっきり無視してMDを聞きながら一人の世界に入っている。ところで、この話って明日香探偵団だよな。
 海に着いてもジュマは明日香にべったりしたままだ。更衣室までジュマが着いていきそうな気配だったので、首根っこを掴んで男性用の更衣室に引っ張る。
「おい、ひとこと先に言っておくが、明日香にちょっとでも手を出したら・・・オレはこの暑さだ、間違ってコルトパイソンの引き金を引いてしまうかもしれないなぁ」
 ジャキっと無意識のうちにひんやりと冷たい拳銃をジュマのコメカミに突きつけて言う。さすがにジュマも勇基の殺気に気がついてうんうんとうなずく。額には一筋の汗が流れていた。
 それでもジュマというか、水着に着替えてきた明日香を見て勇基が首を掴む隙もなく音速で飛んでいって明日香の手を握り締める。
「やっぱり思った通り似合うよ。水玉もいいと思ってたけど、その向日葵の柄も素敵だね。今度、水着をプレゼントさせてよ。いや、今度のことなんかより今だよね。さぁ、浜辺に行こうよ。ビーチパラソルとかは用意できているからさ。何か冷たいの飲む?それともビーチバレーでもする?やっぱり水際で遊ぶのがいいのかな。そうだ。サンオイル・・ん〜、明日香はきっと白い肌の方がいいよね。じゃあ日焼け止めだね。塗らせてよ」
 日焼け止めを塗らせてと言ったところでギロっと勇基がジュマを睨む。しかし、ジュマは半ば気づいた視線も、勇基の努力(?)の甲斐もなく明日香には当然、効かない。「ありがとう♪」とにっこり笑ってジュマのエスコートされるままに浜辺のほうに向かっていく。
 ったく、戒も難儀な奴だぜ。いくらプライベートビーチっつったって使用人とか誰もいないんだからな。おかげで戒がパラソルとかをたてるように言われてたし。ブーブー言いたそうか顔してたけど、やっぱり丁稚魂が染み付いているのかな。しっかりと仕事をしていたし。
 浜辺まで来てしまえば勇基ももう、ジュマなんて半分しか構わなかった。自分は自分でバカンス気分でも満喫しようと思っていた。水着、グリーンのトランクスもちゃんと用意してきたし、その上にシャツを羽織っている。念のために拳銃は持っているが。
「やぁ、戒、ご苦労さま。水着に着替えてきていいよ」
 手をしっかりつないで現れたジュマと明日香を見てやっぱりむっとした戒だったけど、浜辺で服を着て重労働(?)をした戒は汗びっしょりだった。やっぱり文句のひとつも言わずに更衣室に向かった。
 勇基はもう多少のことは諦めをつけて、パラソルの下のリクライニングのできる長椅子に座ってトロピカルジュースでも飲もうとした。
 パラソルの影に入ると、しかしなぜかそこには見知った顔があったのだ。プロポーション抜群の美女、褐色の肌に白い水着が眩しい銀髪の女。マリアだった。
「おい、どうしてお前がこんなところにいるんだよ。ここはジュマのプライベートビーチじゃないのか?それに、ゲリラっていうのはそんなに暇なのか?」
 文句を言うと、マリアはやっと勇基の存在に気づいて反論してくる。
「いいじゃない、たまには休んでも。それにゲリラとクローフは提携しているから、ビーチを使わせてもらえるのよ。あなたには関係ないことでしょ」
 勇基が飲みたかったトロピカルジュース(確かレジャークーラーには一本しか入っていなかったはずだ)を一口飲んで、マリアは勇基を無視してサングラスをかけなおして横になってしまった。
「マリアさんだ〜。ジュマ君、マリアさんも呼んでくれたの?嬉しい♪これでマリアさんも一緒だったら素敵だなって思ってたの。マリアさん、こんにちは」
 どうも、なにからなにまで気に入らない。ジュマが明日香にべったりなのも、マリアがいるのも、そしてオレが飲みたかったトロピカルジュースを飲まれたのも。こんなときはビールを飲むに限る。ぷしゅ〜っとプルタブを起こしてビールを一気に喉に通らした。
「おい、戒。カキ氷買って来い。オレ、小豆シロップな」
 八つ当たり?やっと着替えてきた戒にさっそく用事を申し付ける。戒はぶすっとした顔を見せるが、マリアがいることを見て買ってきた方がいいことを悟って不承不承ながらもまたきた道を戻ろうとした。
「あ、戒、カキ氷買いに行くの?ぼくも・・・、えっと、明日香は何にする?」
「私、イチゴ♪」
「じゃあぼくも明日香と同じので」
 まるでジュマの氷イチゴには毒でも盛りそうな戒の表情だったが、思いも寄らない声が次に入って、さすがにそれだけは思いとどまりそうになる。
「私はブルーハワイをお願い」
 一瞬、場が凍りついたように見えたのはオレだけだろうか。間違いなく、戒とオレは凍りついた。戒を嫌いなマリアが頼んだからだ。
 しかしそれはどうやら思い違いだったらしい。戒は駆け足で(殊勝なことだ)カキ氷を買いに行ったし、ジュマと明日香はマリアを交えて話をはじめた。
 釣りの道具でも持ってくればよかったかな。
 一つしかない椅子はマリアに使われたし、シートは明日香とジュマに占領されている。灼熱の砂浜に腰を下ろして、ビール缶片手に、ひとり思う。
 そうこうしているうちに、戒が戻ってきた。戒はみんなにカキ氷を渡すと、明日香の隣に腰をおろした。さすがにマリアと一番遠い位置をとっているが、よく考えれば戒がマリアを嫌う理由なんてなかったじゃないか。少し、苦手という雰囲気だけ出している。マリアは・・明日香の前だからか見かけ上は普通を保って買ってきてもらったブルーハワイと一口、食べた。明日香もジュマも、そしてオレも溶けないうちにカキ氷に手をつける。キーンとする氷はこの大気が揺らぐような熱さの浜辺に最高の薬となる感じだった。あとで海で泳ごう。
「って、戒、お前のカキ氷なんだよそれ」
 前にウーロン茶なんてかけていることもあったが、今度はさらにすごかった。粋かと思ったが、よく見ると何もかかっていなかった。
「しかたないだろ、甘いのだめなんだから。ウーロン茶とかかけようかと思ったんだけど、クーラーの中に入っていないし。コーラとかも甘くてだめだから・・・」
 うまいのか、それ。
 どう考えてみてもカキ氷の氷だけなんて美味しくもなんともないぞ。まぁ、戒がいいって言うならそれでいいけど。
「戒君のどうしたの?シロップかけてもらうの忘れたの?わたしのあげようか?」
「え゛っ・・・、い、いやっ・・・・・いいよ」
 明日香の拒絶も虚しく?勝手にシロップが一番かかって濃い部分を戒のカキ氷の中に入れてしまう。戒の顔が白くなる。
「戒、明日香の好意はちゃんとありがたくちょうだいしろよ」
 意地悪を言うが、ジュマがある、気づいたことを叫ぶ。
「あ〜っ、ずるい。そこ、ちょっと前に明日香が口をつけていたところじゃないか。間接キス?ああ、そうか。ぼくも別の頼めばよかったよ」
 はっ、そうだった。ジュマに指摘されたことに気づいた戒と明日香が顔を赤らめる。そのことでジュマが少しがっかりしたように見えたが、まぁ、たまにはいいか。さっきからジュマがいい思いばっかりしていたのだから。
 ところで、これのどこが明日香探偵団なのだろう。
 ごく普通に海にバカンスに来ただけではないだろうか。
 ・・・・・・・・。
 うん、きっとそうだ。
 でもまぁいいか。一応、遊んでお金が入ることだし。
 これで前回の教会を爆破して報酬がもらえなかった(当然だ)分も多少は穴埋めできたし。
「あとでスイカ割りでもしようか。もちろん、戒とかはチョーノーリョク禁止だぞ」
 いい夏休みになりそうだ。浜辺で一匹のカニが勇基たちが楽しんでいるのを横目に波と一緒に右に左に遊んでいた。




あとがき
第2作といえど、ぜんぜんですね。(おい)雰囲気もないというか、いったい何がやりたかったのか。たまにはこういうだめだめなのがあってもいいかな。いいですよね。(おい)最近、スランプかな。ということにしておきましょう。ところでジュマの一人称って何でしたっけか。(おい)

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