リンガぞ春の錦なりける  〜前編〜
リンガぞ春の錦なりける  〜前編〜 ※注 この話は、ラクールに向かう途中の話です。 ここ、エクスペルは非常に地球に似た惑星である。地方にもよるが、春夏秋冬が存在するし、植物の体系も 似通ったものがいくつかある。そう、そんな共通の植物の一つが・・・ 「桜ってわけかぁ」 クロードは、随分と感動したような口調で、言った。何分にも彼とて、『桜』と言うのを、実際に見た事は ほとんど無い。それも、人工の植物庭園のみで、大自然の中、満開に咲く桜など見るのは初めてだ。 「そんなに桜って珍しいかな?」 隣にいた、アシュトンが話しかけてくる。クロードは、「うん」と答えると、再び桜に見入った。 これほどの自然、青い空、美味しい空気・・・地球では絶対に味わう事のできない、科学に 浸食されていない惑星そのままの素顔、とでもいうのだろうか。地球生まれの彼にはどこまでも新鮮で 美しかった。 「ねえ、じゃあ、お花見しない?」 と、レナが提案すると、クロードは、すぐさま「うん!」と、返事した。その勢いに、彼を除く全員が、 一瞬引いたほどだった。 そう、全てはここから始まったのである・・・ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  「じゃあ、まず準備しなきゃ。今なら、一番の見所はリンガだよね、ここからも近いし」 と、プリシスの一言で、一行はリンガへと向かった。 さて、リンガである。何人か、花見のために場所取りをしている者が目立った。一刻も早く場所取りを しなければいい所は取られてしまうだろう。役割分担、と言う事で、それぞれに課題が課せられた。 「それじゃぁ、アシュトンは場所取りを御願いしますわ」 そういって、セリーヌはどこから取り出したか随分と大きなマットをアシュトンに渡した。 「ええ?何で僕が?」 ごもっともである。彼の場合、どっかの柄の悪い兄ちゃんに絡まれたり強い態度に出られたら、自分の強さも 顧みず明け渡してしまうかも知れないのだ(要は自分より弱い相手でも、渡してしまいそうだという事)。 「貴方自身に期待しているわけでわありませんわ、ギョロとウルルンに期待してますのよ」 なるほど、こいつらが後で睨みをきかせていれば、誰も近よりまいて。いざとなったら、アシュトンを 乗っ取ってもらえばいいのだ。・・・アシュトンには随分失礼な話である。 が、それ以上アシュトンは何も言えず、へこみながら場所取りに向かった。合掌。 「それと、レナは食事を御願いしますわね」 「わかりました」 まあ、妥当なところである。誰も依存はなかった。 「プリシス、貴方はお家が近いんだし、お花見に使えそうな物、適当に持ってきてくださいまし」 「おっけ〜、じゃ、いってくるね〜」 そういって無人くんともうダッシュで駆けていった。 ずてっ ・・・こけた。・・・起きあがる。駆け抜けていった。 「あの、僕は・・・?」 クロードが、セリーヌに尋ねてくる。 「そうですわね・・・?クロードは、ボーマン先生達を呼んできてくださいます?折角リンガに来たんですし あのお二人も呼びましょう」 「はい、じゃ行って来ます」 「じゃ、私はこれで・・・」 「ちょっと待てい!!!?」 クロードは思わず叫んでいた。セリーヌさん。あんたは何もしてないやないか。なめんなこら。 「まあ、何ですの?」 「何ですの?じゃないですよ!セリーヌさんは何もして無いじゃないですか!」 「失礼ですわね!たった今的確な指示を出したじゃありませんの!リーダーとしての責務を果たし ましたのよ!」 悪びれもせずに彼女はほざいた。 「料理を手伝うとか、場所取りを手伝うとか何か使えそうな物買ってくるとか何かしらあるはず でしょう!?」 「私は調理は苦手ですし、場所取りはギョロとウルルンがいますし、プリシスが持ってくるからわざわざ 花見道具を持ってくる必要はないですわ。年長者は動かず。ですわ」 「誰がそんな事言いますか!」 「私が」 「なめとんかこの年増!」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・何ですって?」 「はう!いや、えーとその・・・ぐべっ!」 セリーヌが、にこやかに微笑みながらクロードの首を絞めた。だんだんクロードの顔が青ざめていく。まるで ブラッディーアーマー。この世からグッバイか、クロード!?・・・取りあえずクロードはこの世から さよならする前にセリーヌが手を離した。彼女はにこにこ微笑みながら。 「クロード・・・私は優しいですから、ボーマン先生の所まで、紋章術で送って差し上げますわ」 そういって、自分の杖をクロードに向ける。 「え・・・?ちょっ・・・!」 呪文を唱える。 「そおおおおおおおおおおおれ!て・れ・ぽ・お・お・お・おおおおおおおおと!」 ンな紋章術は・・・無い。テレポート、もといウインドブレイドの連発を受けクロードはボーマンの薬局の 方向へと吹っ飛んでいった。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ひゅうううううううううううううううううううううううううううううう・・・・・・・ 冷たい風が肌を刺す。ステキだと思うほどの浮遊感・・・・クロードは吹っ飛びながら、それに 酔いしれていた。紋章術で吹っ飛ばされた事なぞ気にならない・・・ ずごきっ!!!地面に落ちた。 「な・・・何の音だ!?」 彼が落ちたのはボーマン薬局の真ん前である。やったねクロード。成功だ(そういう問題じゃねえだろ)。 外に出てきたボーマンに、クロードは失礼にも地面から足を出すだけで、 挨拶もしなかった。(できねえって) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 一方、場所取りに来たアシュトン。ラッキーな事になかなかいい場所が見つかったのでマットを 引いていると案の定・・・ 「おいこら、なにやっとんじゃわれうぇ!?」 後から意味不明な言葉がかけられてくる。アシュトンが後をふりむくと顔に傷のある男とか、刺青の腕を さらけ出した男とか、腹巻きをまいた男(あるのか?)とか、リーゼントの男とかがいた。 「ひいいいいいいいいぃいいいいいぃぃぃぃいいいいぃぃいいいいいいぃぃぃいいいいぃいいいいいぃ!」 思わず悲鳴を上げるアシュトン。そうか、ここらはヤクザの縄張りだったんですね。そういえば周りには 誰もいませんね。まあ、アシュトンってば大ピンチ。 「ぅおらぁ!?ぬぁんに変なっくせさりーっけとンじゃるうあっ!?」 ※訳 「おらあ!?何変なアクセサリー付けとんじゃあ!?」(←ギョルウルの事) 「のおおぉおおぉおおおおおおおおおおぉおぉぉぉぉっっっっぉぉおおおお(涙)」 「くぅこはうちらの縄張りやぞ、あ!!?」 「いやあああああああああぁあああぁぁぁぁああああああああああ!!」 誰も助けてくれません。人の世も冷たくなったものです。・・・と。それまで泣いていたアシュトンの 目つきが変わった。 「何だと貴様・・・調子に乗るなよ人間風情が!」 ギョロとウルルンである。それまでとはうって変わってとてつもない迫力を発するアシュトンに、一瞬 驚いたけれど、ここでビビッちゃあ、男がすたる。ヤクザにとっては大打撃。 「っだこらぁ!のかっあ!?」 ※訳 「なんだこら!やんのか あ!?」 「黙れクズが!燃えろっ!!!」 気合い一閃、ギョロが炎を吐き、男を黒焦げにした。男は髪の毛がドリフの爆発みたいになってそのまま ボテッと倒れた。ぴくぴく動いているあたりまだ生きているだろうが。 「な、なんじゃこいつぁ!兄貴〜しっかりしてくだせえ!」 兄貴(だったらしい)をやられた子分どもは兄貴に駆け寄ると彼を揺さぶった。黒焦げの男は 「・・・綺麗な花畑が見えるぜ・・・あ、婆ちゃん・・・今そっちへ行くよ・・・」などととぎれとぎれに 言っている。アシュトン(と言うかギョロ)は、不適な笑みを浮かべ、 「さあ、テメエら、そいつも死にやあしねえよ。とっとと消えろや」 「ひい!にげろ!」「兄貴!ほら立って!」「覚えてやがれ若造!」 ガラの悪い兄ちゃん達は泣き言を言いながら逃げてゆきました。 「・・・・・・・・・・・・」 彼らが立ち去ってから数秒後、アシュトンの目つきがまた気弱そうなものに変わり、その瞳が、二匹の龍を 見上げると、 「・・・ねえ。お礼は言うけどさ・・・何でこんな事に協力してるの?二人ともこういうのに興味ないん じゃないの?」 二匹は、「別に」と言った感じで鳴いた。 「・・・セリーヌさんから何をもらうの?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・☆ 二匹は沈黙した。よく見てみると、冷や汗を垂らしている。 「・・・もういいよ。ああもういいともさ畜生」 何かもーヤケ。 「あら、アシュトン、いい所取りましたわね」 後から声がかかる。セリーヌだ。 「まあね」 「何ですの、その白い目は」 「べええええええええええええええええつにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」 「な・ん・で・す・の・?」 ずずいっと顔を近づける。 「何でもないよ。別にセリーヌさんがギョロとウルルンになんて言ったのかなんて気にしてないよ」 「あら、それはいい場所を取るための手段ですわ。貴方に対して害意がある訳ではありませんわ」 「屁理屈だよね。仲間を利用するなんて最低だよ。せめて僕にその事言えばいいのにさ」 「・・・気にしちゃ駄目ですわよ」 さすがに、アシュトンのとんでもねえ白い目に気圧されたのか彼女の弁明(?)も奮わなかった。 「ところでセリーヌさんは何しに来たの?自分の仕事は?」 「え?」 彼女はそういうと、アシュトンの隣に帽子と例の浮いているリングを外して座った。 「いや、『え?』じゃなくてさ、セリーヌさん何か買ってきたりしたんでしょ?どうせ暇だから見せてよ」 「そんなモノありませんわ、私はみんなに指示を出してからここに直行してきましたもの」 「うおいっ!?」 「あ、クロードと同じ反応しましたわね!私はリーダーとしての責務を果たしましたのよ! 文句ありまして!?」 「大ありじゃあ!誰かを手伝うとかせいや!」 「あら、だからここに来ましたのよ場所取りは二人いた方が何かと便利ですのよ 何か用入りになったとき とか、お手洗いの時とか」 「・・・・・・む・・・・・・」 アシュトンはそれ以上何も言わなかった。セリーヌは、「勝った」といったような顔で「ね?」と言った。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「暇ですわね」 3分ほど経ってセリーヌは突然言った。 「・・・はあ?」 「暇、と言ったのですわ、花より団子ですわよ、やはり」 要は、まだ他の連中が来ないので、食事がないのが嫌らしい。 「セリーヌさんってさ、大人ぶってるわりに結構実は子供だよねー」 「あら、そうですの?」 「だってねえ・・・3分しか待ってないよ?折角これだけ花が綺麗なんだからもう少し花だけで楽しめない?」 「花は綺麗ですけど、おなかが減っては花を見る気もなくなりますわ」 「・・・非常に現実的な発言ありがとう・・・」 アシュトンが、呆れた顔でそう言うと、彼女はどうやら気に障ったらしく、どういう事ですの?、と白い目で 言ってきた。アシュトンは、適当にごまかそうとしたが、彼が口を開くより先にセリーヌは、まくし立てた。 「まるで私が、ロマンのかけらもない女に聞こえるじゃありませんの!失礼ですわ!その上子供みたいだ なんて付け足した日には私が食欲ばかりの子供、ってことになるんじゃなくて?そのような発言には政治的 意図を感じますわ!謝罪を求めますわ!」 どこかズレとる・・・というか、完全に因縁付けだ。なんだ政治的意図って(笑)。立ち上がって責め立てて くるセリーヌに、アシュトンは「別にそんなつもりじゃないよ」というような意味の言葉を小声で言っている。 まあ、どちらが正しいかは別として、優勢なのはセリーヌである。口げんかを制するのは正義でなく押し、 とか勢いとかそういうものである。・・・が。 「あーーーーーーもう!!そうだよ!そう言ってるんだよ!しつこいなもう!」 突如として、アシュトンも立ち上がって、反撃に出た。追いつめられた鼠は猫を噛むわけだなあ。 「な、なんですって!?」 一瞬たじろぐセリーヌ。その隙をついてアシュトンはまくし立てた。 「だいたいねセリーヌさんはホントに子供だよ!ワガママだし、おっちょこちょいだし、強欲だし!いつも とばっちりくらう僕らの気持ちにもなってよね!基本的に他者性が欠けてるんだよセリーヌさんは! もう少し精神的に大人になってよ!謙虚さだとか常識だとか金銭感覚だとかそういったもの身に付けてよ! 自分の事ばっか考えてさ!体ばっか色気過剰で心が幼児だよ!」 一息もつかずに、言い終わると、アシュトンはぜえ、ぜえ、と息をついた。とにかくアシュトンの珍しい 反撃(特に後半の科白)に、セリーヌはしばらく、面食らったような顔をしていたが、すぐに顔を怒りに 赤らめるとすぐに反撃に出た。それに負けじとアシュトンも反撃する。もはやお互いが、相手が何を言って いるかは分かっていない。もはや紛争勃発である。どこからか出しゃばりの大国が平和の名の下に軍隊を 送ってきそうである。 ・・・・・・で、しばらくして。互いに口を動かすのに疲れたらしく睨み合うようになった。 熱戦の次に、一時停戦があると、次に怒るのは冷戦ではなく・・・ 「・・・ひどいですわ・・・アシュトン・・・」 そういうとセリーヌの瞳から、一筋の涙がこぼれた。そう!女の最大の武器『涙』である!この最終兵器は ラクールホープよりも効く。熱戦→停戦→次は、立場が弱いと『思われている』側の『弱さ』(ホントに 立場が弱いのかは関係ない)をあらわす事によって相手を悪人に仕立てるのである。紛争に勝利したければ 自分が『弱者』と思わせるのが、大切な時もある。ワンポイント紛争解決術でした。 「う・・・・・・」 武力を妄信する人物とか、『弱者がどうの』とか関係ない、っていう人ならまあ、こんな方法効かないん だけどね。アシュトンはそういう人物じゃない。だからいつも貧乏くじ引くのだよ、アシュトン。 「私は・・・私は・・・」 涙をぽろぽろとこぼしながら、小さな声で繰り返す。まあ、これ以上の発言をしないあたり、もろに 嘘泣きというのはアシュトンにも分かった。ましてやこの場所はヤクザの縄張りだったらしく誰も いないので他人の目はないのだが、そんな事分かっていてもこのお人好しには無意味なのだ。 「・・・わ・・・分かったよ!僕が悪かったよ!」 アシュトンはもうやけくそ混じりに叫んだ。セリーヌは、パッと顔を晴れやかにすると 「分かればよろしいんですのよ♪じゃあ、お詫びとして何か飲み物買ってきてくださいまし ロマネコンチ とかグーですわよ♪」 そう言って、彼の手を取りつつ、にっこりと微笑んだ。全くしたたかな姉ちゃんである。 「うう・・・わかったよ・・・」 涙など流しつつ、アシュトンは食料品店に向かっていった。 「あ、待ってくださいましアシュトン」 「え?」 「やっぱり私もついていきますわ。貴方のことだから悪い物掴まされる可能性高いですもの」 そう言ってとてとてと後から歩いてきた。 「いや、留守番がいないじゃん?」 「大丈夫ですわ・・・」 そう言ってマットに向かってなにやら呪紋を唱える。すると、マットの周りに一瞬電気のような物が 走った。セリーヌは、アシュトンの方に向き直ると言った。 「結界を張っておきましたわ、これなら取られませんわよ♪」 そう言ってすたすたと歩いていった。 「ちょっとアシュトン!早くしてくださいまし!」 「・・・分かったよ分かったよ」 結局押し切られるアシュトンだった。 十数分後。二人が戻ってくると、様々な機械類がばらまかれた中で黒焦げになってるプリシスと彼女の 父親(らしきもの)が、転がっていた。 〜後編へ〜




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