好きな人に好きと言えたら、どんなにいいことだろう。
私には、そんな勇気はない。
自分の傍にいると、好きな人をまた失ってしまう気がする。
たとえ、有数の剣士ともてはやされるくらい強くなった今でも。
所詮、僕が好きな人を護るって口にしても、力が不足しては何もならない。
力不足なのは言われなくったって自分でもわかっている。
だけど、僕はこの手で好きな人を護んだ。
他人に任せるなんて絶対、嫌だ。
「ふん」
つい、顔を合わせるとそっぽを向きたくなる。
それも二人とも、同時に。
クロードもディアスも基本的に仲が悪い。いつもはレナなりセリーヌなり、他に誰かが
いるから破滅的になることはまずないが、ごく稀に二人きりになってしまうと、簡単に喧
嘩までしてしまう。
これまでの戦績、138戦、138引き分け。
たいていは決着がつく前に誰かが止めにはいる。それでも15回ほどは両者力尽きてノ
ックダウンしているから、二人の実力は伯仲していると言えるだろう。
二人は仲が悪かった。
それは性格が合わないとか、あいつなんとなく気に食わないとか、小学生の子供が言う
ような低レベルな仲の悪さということはない。二人とも相手の実力を認めているから、そ
して二人が好意を抱く女の子が同一なことから、いつも二人はライバル心を燃やしてしま
う。
好きな娘を護りたい。
恐らく、両者が共通して抱いていることである。
しかし、二人は好きな娘を護るプロセスの根底的な違いがあった。クロードは、いつで
も好きな娘を護りたかったし、護っていたかった。一方、ディアスは好きな娘のために、
自分がその娘から遠ざかることを良しとした。即ち、自分では好きな娘を護り切れないこ
とを知っていたからである。いや、彼ほどの実力の持ち主なら、どんな娘でも、どんな危
険からも容易に守り抜くことができるだろう。それでも、消し去ることができない過去の
記憶が、彼を、好きな娘を身近で護ることを忌避していたのである。
今日も、不幸にも、または幸運にも二人は二人きりになってしまったのである。理由は
簡単だ。みんながみんな、分担して街で買い物、旅に必要なものを買い揃えることにした
のだ。そして各々買い物を済ませたらメインストリートの噴水前に集合ということになっ
ているのである。
初めに買い物を済ませたのが、買い物に色気を出さないディアスである。彼はいつも不
必要な行動を避けた。つまりレナやプリシスがするような余分な買い物とかはしないし、
またはボーマンがするようにアコギな値切りもしない。ただ店頭に並ぶ値札のままに買い
物をするのである。他にアシュトンはアシュトンしているし、オペラとエルネストは、古
本屋に行って貴重な文献を探しているのだろう。つまり次に現れるのがクロードなのは、
ある意味当然と言えた。どうして誰もこの危険性について気がつかなかったのかといえば
恐らく、それはみんな久しぶりの街での買い物が楽しみだったからに違いない。単に話が
始まらないという作者の個人的理由では決してない。お願い、信じてね。
まあ、そんなこんなで二人はレナが買い物を済ませてくるまでの僅かな時間、しかし二
人には病院の待ち時間のように長い時間が待ち受けるのである。
「ふん」
二人ともお互いを丁重に無視できるほど大人ではない。特にクロードなんかは売られた
喧嘩は必ず買うたちだし、ディアスにしたって外見ほど心が大人ではないのである。結果
二人とも背中合わせにそっぽを向き、そしていかにも不機嫌に仏頂面をして相手に悪意を
伝えるのである。
沈黙が耐えられなくなると、二人は例外なく口論に発展する。こんなように。
「やけに買い物が早いんだな、ちゃんと買うものは買ってきたんだろうな」
「ふん、それはこっちの台詞だ。お前こそなんだそのクマのぬいぐるみは。そんな余計な
ものを買ってきて、ちゃんと頼まれたものは買ったんだろうな」
「これは福引きの景品だよ。買い物をしたら抽選券が付いてきたんだ。お前だって貰わな
かったのか?」
「そんなくだらないことは私はしない。たかがクマのぬいぐるみなんて欲しくもない」
「あ、言ったな、これでも3等賞なんだぞ。それに1等はお薬セット3年分だったんだか
ら当たったら嬉しいだろう」
「当たったらな。だいたいどうするんだ、そんなバカデカイぬいぐるみなんて。旅に邪魔
になるだけだ」
「可愛いだろ。プリシスが喜ぶんじゃないかと思ってね」
「なんだ、レナにプレゼントするんじゃないのか。まったくお前というやつは‥‥、いつ
もいつもそうだ。あの小娘かレナかどっちか一方を選ぶんだな」
「お前には関係ないだろ。レナはレナだし、プリシスは妹みたいなんだから」
「妹?この前その妹さんに抱きつかれた時鼻の下をのばしていたかのように見えたが、そ
れは私の気のせいか?」
と、だんだんと険悪なムードになっていく。
「ぼくは誰かさんと違ってモテるんでね。羨ましいならその暗い性格をなんとかするんだ
な。色男さんよ」
バチバチと火花が散る。
「お前みたいな奴にレナは任せられんな」
「へん!お前みたいに自分自身でレナを守れない奴に言われたかないね」
もう背中合わせでそっぽを向いていたのは昔の話。今はお互い顔と顔を近づけて一触即
発の睨み合いを展開している。睨み合いが殴り合いに発展するのは時間の問題だ。
「私がどうかしたの?」
『レナ!』
日米大決戦、もとい、クロ・ディア大戦争は未然に回避されることになった。二人の意
中の少女、レナが買い物を済ませて集合場所に来たからだった。よかった。本当によかっ
た。もし二人が闘えば間違いなくこの噴水前広場は壊滅する。「朱雀衝撃破」「ソードボ
ンバー」なんてなりかねない。他のごく普通の人たちの身命健康のためにレナが現れたの
は幸運だった。
「ん?私の顔に何かついている?」
その多くの人達の未来と健康を保った幸運の少女は二人がまさか派手な喧嘩をしようと
は思ってもいない。いきなり、正確にはクロードとディアスの方がレナにいきなり現れら
れてびっくりしているのだが、二人に名前を呼ばれてびっくりする。
「い、いや、レナ。お帰り。早かったね」
「レナ、変な男に絡まれなかったか?」
熊をも一撃にする二人の戦士がレナの前では猫のようにおとなしくなる。二人にとって
は少なくとも、レナの前で喧嘩をするなんてもってのほかなのだ。
「ディアスったら、いっつも私のことを子供扱いするんだもん。大丈夫よ。
そうそう、クロード、そのぬいぐるみ福引の景品でしょう?すごいね、当たったんだ」
「う、うん。プリシスにあげようと思っているんだけど‥‥」
「そうね、プリシスと福引き所で会ったけど、そのクマのぬいぐるみ欲しいって言ってた
よ。私の分の福引き券もプリシスにせがまれちゃったもの」
「そう、じゃあまだ来ていない所を見ると‥‥」
「きっと地面に落ちている福引きの補助券でも集めてるかもね」
簡単にその姿を想像できるところがなんだか怖い。
「あ、じゃあ早く教えてあげた方がいいかな」
「プリシスきっと喜ぶよ」
「レナ」
「なに?ディアス」
レナは声に振り向くと、恥ずかしそうに視線を逸らして、何か小さな箱を手渡そうとし
ているディアスだった。
「ほら、この前、サルバの街の宝石店で欲しそうに眺めていただろう」
「ああっ!ディアス、余分なものは何も買ってきていないようなこと言っておいてちゃっ
かりプレゼントを買ってきていたんだな!
と、えっと、どこだっけ‥‥、あっ、あった!
レナ、これ‥‥」
先を越されてはたまらないとクロードも慌てて小さな箱を手渡す。
「クロード、ディアス。ありがとう」
レナは満面の笑顔で二人にお礼を言った。ライバルも一緒にお礼を言われたのが、普段
なら癪な所だけど、この笑顔を見ると、そんなことも忘れて至福な気分になる。
二人とも、ちゃんとレナのためにプレゼントを買っておいたんだね。
夜、ホテルの部屋でこっそり開けた二つのプレゼントは、レナの誕生石でできたリーフ
ペンダントだった。
「♪」
二人の想いを重ねてレナはペンダントをつける。鏡に映る胸もとを見て、レナは頬が緩
むのを感じていた。
どちらも、レナにとっては嬉しいプレゼントだった。今はまだ二つのペンダントと一緒
で優劣はつけられない。いつかどちらか一人を選ぶ時が来るとしても、今は二人との関係
を大事にしたかった。
クロードも、ディアスも、もっと仲良くなってくれたら嬉しいな。
結局、二人とも似た者同士なのかもしれない。
あとがき
クロードとディアスの話です。あまり内容がないですね。(苦笑)ところでこれを載せてよかったのかどうか。プレゼント用だったのでちょっと個人的に納得していないかも。でも1年近く経つので時効ですよね。(おい)ところで、ディアスって設定ほど強くないんですよね。私は使いにくかったです。あ、そうそ、春用のお話を考えている・・かも。って、また送ろうかな。
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