ある日、僕は星を見上げた。
270度のパノラマから見える美しく、輝ける星。
地上の高層ビルの一階一階の灯かりと、大地の暖かい灯かり。
そこから垣間見る星。
それは見知った星図とはまるっきり正反対であった。
いや、どこかに違和感を覚える。正反対なのではない、逆さまなだけだ。
それも、星が逆さまになったのではなく、自分が逆さまに、地面に寝そべって首を宇宙
に、うなじを地面に付けて見ていたのだ。
キィキィキィキィ‥‥と鳴く虫の音が耳に入ってくる。
土の懐かしい香りと、草の夜露の瑞々しさと、
静まり返った自分の心の水面を投影しながら‥‥。
次に気がついた時は僕は無限の大海原の中にいた。
永遠に広がる漆黒。
それを彩る無数のイルミネーション。
眼下に見下ろすのは緑豊かな青い宝石だった。
鳥の視点から見る地球。
艦に乗って見下ろす地球。
足を大地に付けて見る地球はどうだろうか。
こんお美しさは高い位置から見下ろさないと到底、手に入らない。
でもモザイク画のようなものであったとしても、その一片一片は実に豊かなドラマを持
っていた。
それは遠くからではけっして見えない。
自分にとって憧れた宇宙と、そして異世界の星の大地とでは、はたしてどちらが貴重な
のだろう。
貴重という言葉はあまりにも失礼かもしれない。言いなおせば、どちらが僕にとって重
要なのだろう。
クロードはソーサリーグローブの調査のために北上していた。
相棒のレナ。それにアシュトンに、プリシス、セリーヌ、オペラ。今はこの5人のメン
バーで旅をしている。エルネストとボーマン、ディアス、レオンはちょっとわけあって別
行動している。
「ねぇ、クロードぉ。もうすぐ温泉のある村なんだよね。一緒に入ろ♪」
「っは、こ‥‥混浴?えっと、あの、その‥‥男女一緒なんてイケナイよ‥‥」
いつもながらのいつもの風景。先頭を歩くクロードの腕に子猫のように抱きつくプリシ
スと、脈がないのに必死の抵抗をするためにプリシスにべったりのアシュトンの言葉だ。
誰もアシュトンと一緒に入るなんて言っていないのだが、一人で頬を赤く染めて、人指し
指同士をこねこねとしている。クロードは、いつものようい困惑気味だった。
「毎日毎日、クロードも難儀ですわねぇ」
婚約者のいる余裕か、セリーヌは道端で何故か露天を開いていた『バーニーのアイスク
リーム屋さん』で買ったトリプルのストロベリーをなめていた。
「イヤがっているのがわからないのかしら。でも、男って悲しいわよね。どんな嫌いな女
の子でも毎日『スキ』って迫ってきたら、自然と気になっちゃうものなのよ。しかもそれ
が妹みたいに可愛い娘だったら‥‥」
ちらっと横目でセリーヌの隣で平然とチョコ味のアイスをなめているレナの姿を見る。
一応、挑発(?)には乗ってないみたいだ。平面上は平然と、妹と兄がじゃれ合っている
のを見守っている。
「レナ?そんなんじゃあの娘にクロードを取られちゃいますことよ。あなたは外見は可愛
らしいのにオシが足りないんですから」
「私、クロードとは好きとか、恋人とか、そんなの関係ありませんから!」
ちょっとムキになってレナは不機嫌に断言する。セリーヌは「レナってばすぐに顔に出
るからカラカイ甲斐があるのよね」と、知らんぷりして溶けかけてコーンに伝わってきた
アイスをぺろっとなめとった。
「関係ないなら、私もクロードに背中でも流してもらおうかしら」
「なっ!セリーヌさんは王子様がいるじゃないですか!」
ぺろっとなめた所で、いい閃きにあったセリーヌがいやらしい目つきでレナを見ながら
言った。
「いいのよ。私だってクロウザーと離れて久しいし、寂しくなる夜だってあるのよ。ちょ
っとくらい楽しんだって‥‥バチはあたりませんことよ」
「あたりますっ!もう、前から言おうと思っていたんですけど、そんなに移り気だと嫌わ
れちゃいますよ。オトコってみんな、自分のことは棚に上げて女性に純潔とか従順とかを
求めるんですから!」
「あ〜ら、何か知った風な言いぐさね。処女のくせに」
「しょっ!アバズレ女に言われたくありません!!」
「温泉と言えば、日本酒に卓球に浴衣に縁日に射的‥‥。腕がなるわね」
オペラが意味深に来るべき饗宴を予言する。なんだかセリーヌとレナも険悪なムードに
なっているようだが‥‥。クロードのさらなる苦労が忍ばれる。
名もない小さな温泉町‥‥。
町というのも恥ずかしいような小さな村だったが、それでも温泉があるために近隣から
多数の人を集めている。
クロードたちはその村で一番大きな宿に泊まることにした。実際にはクロードたちのよ
うな団体様を受け入れられる宿がそこにしかなかったからなのだが。だが、おかげで広い
和室の部屋(男女別)と、4つの温泉(男湯・女湯・混浴露天風呂・日替わりで男女が別
れる展望大浴場)、それにゲームセンターに卓球にカラオケと至れり尽くせりの施設が揃
っていた。
「ねぇ、クロード。ちょっと広すぎない?」
二十畳の部屋の真ん中でポツリとたたずむクロードとアシュトン。明日の朝には別行動
のディアス、エルネスト、ボーマン、レオンが合流するから、広すぎるということはない
が、それでも現状ではやはり二人には広すぎる。アシュトンもそうなのだが、クロードも
独身の士官用の寮はさして広くなかったし、戦艦カルナスの士官用の部屋も当たり前のこ
とだが広いわけもない。どちらかといえば窮屈な部屋に慣れていたから、二人には広すぎ
る。逆に‥‥。
「狭いですわね。ちょっと無理してでももう1部屋とるべきでしたかしら」
ちょっと窮屈な状況を見回して、セリーヌが顎に手をあてて考えながら言う。
「無理ですよ。今日は他に空き室がないみたいですし。それに、私はこういう、大所帯っ
て賑やかでけっこう好きですけど」
レナにセリーヌ、さらにプリシスにオペラと、本来二人用の部屋に4人は少し窮屈だっ
た。まぁ、この程度なら広くはないっていう程度なのだが。
旅装を解いてそこかしこに、銃器だとか杖だとかナックルだとか、埃で汚れた服とか、
下着とかが散乱していた。
「ねぇねぇ、レナぁ。浴衣もあるよ。ひーふー、ちゃんと全員分あるみたいだし、みんな
で着てみない?」
プリシスが一番乗りで自分の‥‥子供用(おい)の浴衣を手に取って服の上から重ねて
みせる。レナとセリーヌは顔を見合わせてから、にっこりと微笑んでクロゼットに畳まれ
ていた浴衣を手に取った。
「サイズは‥‥。ちょうどいいや」
きゅっと帯を締めてクロードは姿見の鏡の前でくるっと一回転した。
「わ〜、クロードって和服も似合うんだねぇ。オ・ト・コ・マ・エ♪」
茶化しているのか本気なのかわからないが、アシュトンも同じように浴衣を着ていた。
ただ、ギョロとウルルンがいるだけ、ちょっとだけ違和感があるか、それともお笑い芸人
のように見えるのだが。
「ご飯は18時からだって。まだ時間があるし、こんな所にいても暇だからお風呂に入り
に行こうよ。ギョロとウルルンも入りたいみたいだし。ねぇ?」
どのお風呂に行くべきか考ようと思うが、アシュトンはどこでもいい感じだった。優し
く二人の龍に問い掛け、ギョロとウルルンは“ゲフゲフ”と嬉しそうに猫なで声をあげて
いた。
「温泉、龍にも効くといいなぁ」
どたどたどたどたどた。
「やっほー。クロードぉ、元気してる?」
少なくとも、ギョロとウルルンを剥がすことは無理なんじゃないかな、とか思っている
と、廊下を走る音が聞こえ、何事かと思ったら急にばたんとノックもせず、問答無用にプ
リシスが部屋に踏み込んできた。
「プリシス!僕に浴衣姿を見せるために逢いに来てくれたんだね。そんなに息を切らして
‥‥。僕は嬉しいよ」
「や、やぁ‥‥。元気‥‥だけど‥‥」
勘違いしているアシュトンは置いておいて、クロードはやや呆気にとられる。プリシス
は走ってきたためか少し胸元がはだけていた。それを見て男共二人はちょっとだけ頬を明
らめて視線を外した。
「わぉ♪クロードも浴衣着たんだ。似合うじゃん。それに、あたしとお揃い♪」
「僕もプリシスとお揃いだぁ」なんてアシュトンがもじもじしているが、やっぱりプリ
シスの瞳には映っていなかった。御愁傷様。
「ちょっと、プリシス!いきなりクロードの部屋なんかに遠慮なく入っちゃって。はした
ないじゃない!」
と、やっぱり男の部屋に何の感情も抱かずにずかずかとレナが入ってきた。
「ぶー。別にいいじゃん。あたしとクロードは一緒に寝食をともにしている仲なんだし、
それってコイビトみたいなものだと思わない?」
レナももちろん浴衣だった。旅館の名前がプリントされた浴衣。それはプリシスとお揃
いであって、もちろんクロードたちともお揃いだ。
「まーったく。二人ともお子様なんだから。そんなことどうでもいいじゃない。さ、さっ
さと温泉にでも入りにいきますわよ」
同じく浴衣姿のセリーヌとオペラが遅れて顔を覗かせた。二人もとさすがに大人の女性
って感じで、浴衣を着る姿から艶やかさが醸し出されていた。
「も、もしかして‥‥。一緒にお風呂に入ろうって誘いに来たの?つまり、つまり‥‥、
混浴‥‥プリシスと一緒にお風呂‥‥」
「なわけないでしょう。私たちは女湯。あなたたちは男湯ですわよ」
アシュトンの妄想を非情にも一瞬で弾けさせたセリーヌ。アシュトンはがっくりと肩を
落とした。
あとがき
またつづいてしまいました。この辺が一息で書ける限界なんですよね。さて、これからどうなるんでしょう。定番といえば定番の温泉ものですけど、入浴シーン(小説じゃ意味なし(笑))と卓球とそしてプリシスとクロードを巡る男と女の戦いが・・。(あるんですかね)早めにつづきを書いちゃいましょっと。
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