エルネストとの遭遇
「ふふふっ、ふはははっ、はぁーはっは」  じめじめとした洞窟内に男の哄笑が響いた。 「ついに、ついに見つけたぞ」  男は古びた祭壇の前に立っていた。目には狂喜の色さえ窺える。 「‥‥‥‥‥‥‥‥。  そういえば近頃空から人が降ってきて何かをぶっ壊すという面妖な事件が多発している  そうな。私も気をつけなければ‥‥」  ふと町に立ち寄った時に得た情報が脳裏をよぎる。  上を見上げた。  天井だ。天井しかない。この上にフロアはないはずだ。 「何を心配する必要がある、エルネスト。ここは洞窟だ。空から人が降ってくるなんて物 理的に不可能ではないか」  自分を安心させるためにそうつぶやくがそれでも一抹の不安を振り払えなかった。 「しかしこれは世紀の発見だ‥‥」  改めて祭壇に祭られている彫像を見た。 「すごいぞエルネスト。これは考古学史上に残る発見だ。今までの概念というものをすべ て覆すほどだぞ。わかるか。これを発表すれば学会は騒然となるだろう。そしてすぐに自 分に喝采が贈られるはずだ。偉大な発見をした考古学者として。教科書はもちろん、ノー ベル賞だって目じゃない」  あまりの嬉しさについこの彫像の偉大さを語ってしまった。 「はっ、いかん、すぐにでも記録を取らねば」  あまりの嬉しさに目の前の彫像が泡のように消え失せてしまうのではないかという感じ がした。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」  何?そんな馬鹿な。  突如として洞窟内を何者かの悲鳴が轟いた。  そして、  どっかーん! 「あ、あ、あ‥‥‥‥」  不安はあたってしまった。金髪の少年が降ってきて彫像をぶっ壊してしまったのだ。 「いたたた‥‥。  ここはどこだろう。って‥‥ええ?」  目の前には三つ目のおやぢがいた。金髪の肩のあたりまで伸びた髪。角張った顔。不精 髭。そして白衣。どう見たって普通じゃない。  や、やばい‥‥。  心の中でつぶやいた。じめじめとした洞窟内。この変な男の両脇には黄金の燭台が辺り をほのかに照らしている。自分のいる場所は祭壇の上だった。後ろを見ると御神体だか何 だかおどろおどろしい絵が壁に描かれていた。 「あ、悪魔‥‥教‥‥?」  これ以外思いつかなかった。いや、これ以外の説明がつかなかった。 「き、貴様ぁ、よくもやってくれたな」  男は急に怒りだした。目、目がマジ。お願い、誰か助けて‥‥。 「私の出世が、世紀の発見が‥‥!」  ひぃぃっ、こ、殺される。きっと生贄にされて麻酔もかけずに内臓をえぐり取られるん だ。いや、生き血を全部搾り取られてミイラのようにしてからかもしれない。 「だあぁぁぁぁぁぁ」  僕は恐怖から無我夢中で父さんから預かった銃をぶっ放した。  ちゅっどーん!  はっしまった。殺してしまったかもしれない。いやこれは正当防衛だ。罪には問われな いに違いない。 「何をするかぁぁぁぁ」  爆煙の中からあの男が血だらけになりながらもこっちに向かってきた。  ば、化け物‥‥?  これで死なないなんて人間じゃない。やっぱり妖しい宗教の人なんだ。  ちゅどーん、ちゅどーん 「来るな、来るな!」  二度目は吹き飛びもしなかった。まったく効いていないようでそのまま直進してくる。  カチカチ、カチカチ  ひぃぃっ、エネルギー切れだ。く、喰われる‥‥。  僕が結末を見届けることが怖くなって目をつぶった時、男は語りかけてきた。 「人を殺す気か。ったく、歴史的な発見を台無しにしてくれただけに及ばずなんてことを してくれるんだ」 「れ、歴史的発見‥‥?」  何を言っているんだろう? 「そうだ、この遺跡は考古学的に見ても新発見であることだけにとどまらず、人類の進歩 の秘密を解明するのにも役立つほどのものだったんだ」 「あ、あの、悪魔教の司祭ではないんですか‥‥?」 「何だそれは?私は世界的考古学者(予定)のエルネスト・レヴィードだ」 「考古学者‥‥?」 「そうだ。道への探究、人類の謎への挑戦、危険との戦い、これが悦なのだ。人類史上で 一番の職業、それが考古学者だ。ふぁあーっはっは」  この人、自分の世界に入っているんですけど‥‥。 「そうだ君、歴史的遺産をぶっこわしたお詫びとして私の助手をやらないか?人類の進化 を解明するこの仕事、断りはしないだろう?」  ずいと顔を近づけて聞いてくるエルネスト。こんな状況で断れる人がいるだろうか?  こうして僕とエルネストさんの珍道中、もといエクスペル探訪が始まった。




続く
あとがき

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