〜QUARTER〜
> 0:Introduction
私はA−Qクォンタム・クォータ。
Dr.クエーサーに作られたロボット。
ただし、ただのロボットではない。
「音井教授によって作られたロボット」のコピーのひとつ。
オラクルのガーディアン、A−Oオラトリオのコピー。
彼の仕事はオラクルをハッカーから守ること。
大切なものを敵から守ること。
彼のコピーである私も大切なものを守る。
それが私の仕事?
では私の大切なものは何?
私の大切なものは・・・。
それは・・・。
> 1:Origin
「今・・・なんとおっしゃったのですか?」
端正な顔に驚きの色を浮かべてクォータはクエーサーを見た。
「私はもうじき死ぬ。そういったのだよ、クォータ」
口元に皮肉そうな微笑みを浮かべたまま、静かに言葉を繋ぐ。
「不治の病というやつだ。どんなに科学が、医療が発展しようと決して無くなることはない」
「そんな・・・」
足下が揺らぐ。
大切なものが無くなる。
守るべきものが、無くなってしまう。
「驚くほどのことではない。人間というものはもともと不完全なのだ」
「では・・・では、Aナンバーズの破壊は? まだ始まったばかりですが・・・」
少し前に、クエーサーより命じられたこと。
それはそう簡単に完遂できることではない。
自分自身の能力から判断しても、Aナンバーズ全ての破壊は難しい。
しかしクエーサーは近いうちに『死ぬ』という。
「結果が見られないのは少々残念だな」
その言葉に愕然とした。
クエーサーは、もう結果を見ることを諦めている。
(私は・・・私はどうすれば・・・)
大切なものからの残酷な告白に打ちのめされ、混乱し、床を見つめて考える。
何が最良の判断かを、考える・・・。
> 2:Judgment
クォータはオラトリオのコピー。
オラトリオはオラクルを守る。
大切なものを守る、それが使命。
クォータはDr.クエーサーを守る。
大切なものを守る、それが使命。
もしもオラクルが無くなったら?
その時は同じ電脳を共有するオラトリオがオラクルの代わりになる。
オラトリオはオラクルのスペアだから。
もしもDr.クエーサーが亡くなったら?
そこでおしまい。
だってクォータはDr.クエーサーのスペアじゃないから。
じゃあ、どうすればいい?
私の使命は大切なものを守ること。
オリジナルのオラトリオをコピーしたときに一緒にコピーされた使命。
私の存在理由。
守るものが無くなるなんて、考えたこともなかった・・・。
(私はどうすればいい?)
あのときからずっと考えているが、最良の答えが出ない。
いつも同じ場所をぐるぐると回ってしまう。
(オラトリオのように、私がスペアになれれば良かったのに)
出来もしない願いはいつまでも消えることがない。
(人間はロボットとは違う。脳を共有など出来ない。世界にたった一つなのだから)
そこでふと、考えが変わる。
(体が不治の病に冒されているのなら、体を変えてしまえばいい)
不完全な人間の体ではなく、ロボットの体にしてしまえば。
(そうすれば病に悩むこともない。結果を見ることも可能だ)
「そう、体のスペアを作ればいい」
それが、最良の判断。
> 3:Proposal......But,It was rejected.
「ロボットの体?」
クォータの提案を聞いたクエーサーは、いつものように口元に皮肉な微笑みを浮かべる。
「はい、そうすれば病に冒される心配もなく、先日私に命じられたAナンバーズ破壊の結果も見ることが出来ます」
自信を持って最良の判断を提案する。
クォータが出来るのは提案。決定するのはDr.クエーサー。
だが、クエーサーならばきっとこの提案を快く受け入れてくれるだろう。
この案以外に、この案以上に最良のものなど無い。
「くだらんな」
しかしそれは一笑に付された。
「何故です!? それ以外に最良の判断はありません!」
最良の判断が否決された。
これ以上の最良の判断など、無いはずなのに。
「クォータ。私はこれ以上生きるつもりはない」
「生きるつもりは、ない?」
わからない。
「そうだ。そんなことよりもAナンバーズの破壊はどうなっている?」
わからないわからない。
「順調に、滞り無く、進んでおります」
口が、他人のもののように勝手に応答する。
どうして。わからないわからないわからない。
「そうか、ならばいい」
完全に拒否するように背を向ける。
先ほどの提案など、最初から無かったように。
どうしてどうしてわからないわからないわからない。
わからない。
> 4:Lunatic
わからない。
幾度考えてもわからない。
守るべきものが無くなるなんて、そんなことがあってはならない。
世界にたった一つしかない、大切なものなのだから。
そう、やはりアレが一番最良の判断。
Dr.クエーサーは認めなかったが、早急にロボットの体に変えるべきだ。
彼は人間は不完全だと言った。
ならば、先ほどの答えは間違っていたのかも知れない。
不完全ならば判断を誤るかも知れないではないか。
「私が、守らなければ」
杖と溶液の入った器を手に、クォータはクエーサーの元へ。
早く、早くしなければ。
だんだんと早足になり、クエーサーの元へついたときにはすでに走っていた。
「クォータ? どうかしたのか?」
ずいぶんと急いでやってきたらしいクォータに、何があったのかと振り向いたとき。
目に入ったのは杖を模したニードルガン。
声を上げる間もなく、Dr.クエーサーは床に倒れた。
横たわるクエーサーに足早に近づき、完全に息を止めているのを確認する。
早くしなければ脳自体が死んでしまう。
クォータは慎重に、だが手早く頭部を解体した。
しばらくして、無事に脳を取り出すことに成功した。
深紅に染まった両手に、灰色の脳を乗せ、そっと頬ずりする。
「すぐに、ロボットの体に移して差し上げます。それまで少しお待ち下さい」
壊れ物を扱うように、脳を容器の中へ。
そして容器の中へ収まった脳をうっとりと見つめる。
「これで、ずっとお守りできます」
幸せそうにクォータは微笑んだ。
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