雨が降っていた。
ポツ、ポツと。
いつの間に降り始めたのだろう。記憶にない。
服の濡れ具合からして、それほど昔とは考えにくい。だが、ついさっきというのには、あまりにも体が冷えている気がする。
ポツ、ポツが本降りになってびしょ濡れになる。あいにく、傘なんてものは持っていない。持っているのは剣だけだ。髪から滴り落ちる水が視界を横切る。
通りは夕暮れで、もう既に暗くなり始めている。晴れていたならそこは買い物客で賑わっているのだろうが、人通りは疎らだった。ほとんどすれ違う人がいるわけではないが、その少ないうちの大多数が足早に通り過ぎ、または追い越していく。 おそらく、濡れない我が家を目指しているのだろう。ごく稀に、傘を忘れた人が鞄を傘代わりに頭上に乗せて走っていっていく。たった一人ではあるが、水たまりに転んで泥だらけになった女がいた。
通りにある商店は、雨が降れば商売にならないことを知っているのだろう、ほとんどが手早く店じまいしてしまった。まだ開いている店もあったが、多くが傘を売っている店だった。軒先に連なる商品の山も、濡れて商品価値がなくならないように、慌てて店の中に入れたのはもうずいぶんと前の話だ。
どうして人間は雨が嫌いなのだろう。雨が降ると、ただでさえ不機嫌そうな面が、よりいっそう、不機嫌に見えてくる。いや、たった今わかったことだが、私も雨が嫌いだ。髪が濡れるのが特に、気に入らない。
じゃあ、私はなぜ傘をささないのだろう。
あれは便利そうだった。少なくとも、何もないよりは数百倍マシだ。傘は持っていないが、すぐそばにいくらでもある。調達は簡単だろう。人間の使う道具など使うものかと思っていたが、気が変わった。
というわけで、店から奪ってきたのだが、なかなか調子がいい。店のオヤジが何かわめいていたが、関係ない。
エルフは元来、森に棲息している。森から出ることも滅多にない。傘などは、エルフにとっては不必要なものだった。ある程度の雨ならば、森の木々がほとんど吸い取ってしまって、濡れることはあまりない。せいぜい、朝露か朝霧に濡れる程度のもの。それ以上の土砂降りの時は、災害に巻き込まれる恐れがあるので外なんかには出ない。住処でじっと雨が止むのを待つものだ。
だが、私は今は人間の世界にいるわけだし、何も持たないわけにもいかない。この傘というものはどうやら旅の必需品のようだ。ちょっと荷物があるが、色といい柄といい気に入った。しばらくは使っていよう。
しかし、この傘というものは、頭が濡れることはほとんどないが、足下はまったくダメだ。せめて魔法で足下の水を弾くとかできないのだろうか。ふっ、これだから人間は間抜けなのだ。それから、もう完全に濡れた後に傘をさしてもあまり意味がないようだ。
「くしゅん」
ううっ、完璧に体が冷えてしまった。風邪を引いてしまうだろうか。あれは本当に辛い。温泉にでも入って暖まれば不覚にも風邪を引くなんてことはないのだが・・・。
まぁ、風呂で我慢しよう。カイあたりなら甘酒を飲めば一発さ、なんて言うだろうが、あんなもの飲めたもんじゃない。酒は苦手だ。
十六夜も旅館で待っているだろうか。まさか、私のように雨に濡れて寂しい思いをしているのだろうか。
「・・・・・・・・・・・」
傘を見上げて、考える。
そうだ、早く帰ろう。
私は雨が降り続く中を、他の人間と同じように、足早に、待ち合わせをしている旅館に向かった。
あとがき
たまには短編もいいかもしれませんね。気分転換に。でもちょっと後半部分が荒いような。もうちっと丁寧に書いてあげたかったです。
今回は初めて、一太郎で書いて、そんでもってそのままHTML用に。今まではワープロで作って、それは40字で強制的に改行されるので<PRE>タグでそのまま使えていたんですけど、ワープロソフトで書くとその手が使えないんですよね。というわけで悩んだあげく、ヘルプを探して改行コードを特定の文字・・この場合は<BR>に変換できないかと調べてみたら、できるじゃありませんか。ちょっとソースが見づらくなるんですけどね。(笑)というわけで次は改行コードの前に改行タグを自動的に入れられないか・・。できたらすっごく便利なんですけどねぇ。む。もしかすると・・。なるほど、便利なものですねぇ。(たぶん)
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