音井家の恐怖。
 僕?僕の名前は音井正信。
 ロボット工学界未曾有の天才、音井信之助の息子と言えばわかりやすいかもしれない。
 今はアトランダムで情報管理局長なんていう役職についているけど、まぁ、一言で言っ ちゃえばめんどくさい仕事を押し付けられる事務方ってことだよね。
 それは、僕はロボットを作ったことがないし、作ればそれなりのものを作れる自信はあ るんだけど、どんなにがんばったって父親と比べられるしね。改造には自信があるけど、 それだけじゃあまり実績として見られないから。それを思えば今の役職もかなり大役と言 えるかもしれない。
 ロボットを作らないのかって?
 そうだね。今は、まだ作るつもりはないよ。父親を超えるようなロボットを作れるとも 思えないけど、実際は、ロボット作りは何かとお金もかかるし、時間もかかる。それだけ のものをつぎ込むなら、プログラムやら新兵器やらを開発していた方がいいよ。そっちの 方が僕も楽しいしね。
 そう、僕が今、休暇をとってトッカリタウンにいるのは、その‥‥僕の『仕事』が理由 だった。せっかくパルスにレーザーとブレードを付けたのだから、それがしっかり役に立 っているかどうか気になるじゃない。もちろん、これまでの実戦のデータは入手してある が、それでもやっぱり生で見たい。
 ちょうど今、パルスはシグナルと戦闘訓練(喧嘩とも言う)をしている。
「シグナル!今日という今日こそは許さんぞ」
「何を言うかパルス!顔に落書きしたのはちびの話だろ。それにだな、この前、信彦とオ セロをしていたときに後ろからアドバイスとか言って余計なこと言ってただろ。おかげで ミスして負けちゃったじゃないか!」
「くっ、だいたい、負けたことをヒトのせいにしているからお前はいつまでたっても弱い ままなんだ」
「へぇ〜、その言葉、そっくりそのまま返させてもらいますよ、おにーさま。ぼくなんて 生まれてまだまもないから弱くて当然だもんね。反面、おにーさまはどうなんです?無駄 に年食っているのに戦闘型じゃないオラトリオに一度も勝てないじゃありませんか」
「弱いのを開き直ってどーする!?ったく、これだからお馬鹿は‥‥」
「馬鹿って言うなー!」
 ぼかっとシグナルがパルスの頭を殴る。シグナルはキックにしてもパンチにしても直線 的な動きが多い。パルスよりスピード、パワーの両方でシグナルが上回っているのだが、 あまりにも動きが単純で、次にどう動くのかまことに読みやすい。まぁ、シグナルのこと はこの際、どうだっていい。それよりもパルスだが‥‥、いつもなら闘牛士のように冷静 に力をふるい分けて性能的に上のシグナルの疲労とバランスを崩す機会を探っているのだ が、今は頭に血が上ってシグナルと同じようなことをしている。レーザーとブレードが彼 我の戦力差を埋め辛うじて互角に持ち込んでいる。このままではパルスはエネルギーを使 い果たしてお昼寝だろう。
 シグナルも強くなったものだ。初めて会った時と比べると見違えるように強くなった。 反面、パルスはそれほど強くなっていない。確実に差が埋まっていっている。この調子な ら、そう、数年としないうちに今の立場が逆転するかもしれない。
 バネ、筋力、反射神経全てに申し分がない。それでいて、そのパワーを上手に使いこな している。力を入れるだけでなく、止めることも必要になる。ターン、ストップ、防御か ら攻撃へ移る瞬間、全てがバランスが必要になる。
 これがミラで、シリウ
スか。
「はっくしょん!」  頃合いを見計らって信彦がくしゃみをする。シグナルが小さくなって、パルスが安堵し てお昼寝モードに入る。我が息子ながらよくわかっている。技術に優るパルスは徐々にシ グナルを追い詰めていったが、残縁ながらエネルギー不足だった。これ以上やれば、おそ らくどちらかが傷つくだろう。どちらも余裕がなくなっていた。
 小さくなったシグナルは信彦が抱えて、眠っているパルスはクリスが引きずって家の中 に入っていった。最後に、正信だけが取り残される。
「ふ〜む。ブレードもレーザーも、やっぱり性能がいま一つ‥‥かな。特にHFR相手に なると、そんなに驚異的な威力を持っているわけじゃないんだな。‥‥ということは、や っぱり新兵器が必要かな。よし、あれを試してみようか。これで、パルス、君はまた強く なれるかもしれない‥‥」
 キラっと眼鏡が光った。妖しげな含み笑いを残して、正信もゆっくりと家の中に消えて いった。


「おはよう、パルス。お目覚めはいかがかな」
 キュっと手術用の手袋をはめてにっこり微笑んで挨拶をする。もちろん、僕は手術用の 白衣をまとっている。何のためだって?野暮なことは聞いちゃだめだよ。
「おはようございま‥‥って、な、なんだこれは?身体が動かないぞ?それにこの鼻を突 く消毒液に匂いは?わっ、若先生!?」
「慌てなくていいよ、別にとって食おうってわけじゃないからね」
 そう言いつつもメスを掲げて曇っていないかどうか確認する。
「ちょっ、若先生?説得力ってものがないんですけど‥‥」
「だぁいじょぶ。ちゃんと説明してあげるから。時にパルス、最近、シグナルが強くなっ たと思わないかい?」
「‥‥」
 パルスは沈黙した。素直にシグナルの強さを認めたくない。だが、否定するのも自分が 弱くなったような気がして口が裂けても言いたくない。それが沈黙になる。
「シグナルはどんどん強くなっている。君の想像を超えて。君が弱くなっているわけでも 成長していないわけでもないが、格段に差が縮まっている。もしかすると、3ヵ月後には 君を追い抜かしているかもしれない、というのは少しシグナルの肩を持ちすぎだがね」
 わざとシグナルを持ち上げたとみせて、持ち上げすぎない。パルスの自尊心をくすぐる ように、うまく誘導する。
「パルス、君の心情としては、そろそろレベルアップが必要だと思ってないかい?君とシ グナルの差は、技量でいえばシグナルは君の足元にも及ばない。ブレードの運び、レーザ ーを撃つタイミング、相手との駆け引きと、微妙な力のさじ加減。ほぼ、完璧な領域にあ ると言っていいだろう。だが、性能的な差で君はシグナルに遠く及ばない。残念だとは思 わないかい?君の技術が完璧に活かされないだなんて。そして、君の後輩に、ただ、肉体 的な能力に恵まれているというだけであっさりと抜かれてしまうだなんて」
 言いおえた時のパルスの表情を見ると、何が必要なのかはわかったみたいだ。パルスに は僕の力が必要だ。また、強くなるために。
「安心していいよ。改造っていっても、外見がちょっと変わるだけだから。レーザーをマ イナーチェンジしたんだよ。精度と威力をあげることと、省エネ化に成功した。ブレード も切れ味をアップさせる。レーザーもブレードも君にとって大きな戦力アップに繋がって いたけど、反面、君に負荷を与えていた。その負荷を抑え、さらにパワーアップもさせよ うというだけだから。あと、2、3細かい箇所の改造があるけどね。
 さぁ、おやすみ。起きたら君は、また強くなっている。強く、ね‥‥」
 半ば強制的にスリープモードに移行させ、正信はゆっくりと執刀した。


「ええい、今日という今日こそは兄というものの偉大さを教えてやる!」
「へっ、言わせてもらうけどさ、いつもいつも兄らしく全然ないじゃないか。大人げない し。すぐにキレるし。さらに寝坊助だし。今度、寝ているアホ面にマジックでいたずら書 きしてやるよ」
「前科持ちが何を言うか。ラジオドラマで貴様は私の顔に落書きをしたじゃないか」
「あっ、あれはちびがやったことだろう。ぼくは関係ない」
「この前、ちびも貴様も同じだとか言っていたじゃないか。というわけで貴様の罪だ」
 いつものように、パルスとシグナルが喧嘩していた。毎度のことではあるが、正信には 好都合だった。
「ふっ、強くなった私の力を味わえ」
「あん?また若先生に魂を売ったのかよ。というか、改造してもらったんならパルスの力 じゃなくて、ブレードの力じゃないのか?」
 パルスのブレードがシグナルの髪を凪ぐ。一瞬、シグナルの反応が良かったから怪我を することはなかったが、それでも紙一重だったことで、接近して戦うことを一瞬、躊躇す る。そのわずかな迷いを狙ってパルスのレーザーがシグナルを襲った。
「あわわ‥‥」
 ブレードの間合いの外だからと油断した。容赦なく焼き焦がす一撃がシグナルの足元に 炸裂する。ちょっと足に命中して熱がって飛び跳ねる。
 ふむ。
 パルスは口のなかでひとりごちる。
 ブレードの切れ味、操作感が格段にアップしている。手に馴染むというのはおかしな表 現ではあるが、それほど、違和感なく操作できる。レーザーの方も、前までの負荷感がな い。いい改造をしてもらったと思う。
「パルス、実は、アトランダムとカルマにレーザーを無効化されたそうだから、遠距離戦 用にロケットランチャーを付けたんだ。右手をかざしてロケットアターックって叫ぶと腕 からロケット弾が発射されるよ」
 何!?
 とんでもない改造をされたような気がする。ロケットアタック?なんだそれは。
「甘い!」
 しまった!気を取られた。その瞬間にシグナルに飛び込まれ、一気に接近戦というか、 取っ組み合いの喧嘩になってしまった。
「へへ、この位置なら自慢のブレードもレーザーも使えないもんね」
 シグナルがパルスに馬乗りになって得意気に言う。だが、勘違いしているというか、こ っちからもけっして攻撃できないわけじゃない。すぐに、殴る、掴む、ひっかくの大激闘 となった。
 両者がなんども上に乗っかっているのが交代し、土埃だらけになり、また、たんこぶや アザだらけになって泥仕合の様相が見えてきた時、恐るべき事態が起こった。
 殴る、ひっぱたく、叩く、噛みつく、そんななんでもありなら、当然、髪を引っ張ると いうのもアリである。というか、両者とも、最後はそこい行き着くしかないとも言える。 そしてパルスが先にシグナルのプリズムパープルの髪を引っ張ってシグナルが「痛たた‥ ‥」と悲鳴をあげ、そのお返しとばかりにパルスの長い黒髪をおもいっきり引っ張った時 にその恐るべき事態は起きた。
 なぜなら、パルスの髪がシグナルが引っ張るままにずるりとズレたのだった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 なんだか取り返しのつかないことをしてしまったようにシグナルは思った。そして、パ ルスの頭皮がちょこっと見えた瞬間、シグナルは我を忘れてパルスの髪を元に戻そうとし たのだった。パルスと喧嘩しているのも忘れて。
 しかし、それが致命的にいけなかったのか、慌てて元に戻そうとしたものだからかえっ て変な方向に力が入って、パルスの髪が全部、つるんと取れてしまったのだった。
「○×☆△□!」
 シグナルは声にならない悲鳴をあげる。そこには、見事につるっつるにハゲてしまった パルスの頭があったからだ。パルスもすぐにそのことに気づいて、シグナルの手から必死 に髪(というかカツラ?)を奪い取って、そのままワナワナと震えた。
「あっはっはっはっはは‥‥。なんだよ、それ。パルス、ハゲてるじゃん。若先生に改造 されてストレスでハゲたのかよ」
 お腹を抱えて笑い転げるシグナル。二人の喧嘩を見ていたギャラリーからもどっと笑い が弾ける。
「きっ、きっ、貴様〜。やってはならないことを‥‥」
 パルスの怒りが頂点に達した瞬間、パルスのハゲ頭が光って、物凄い出力のレーザーが シグナルを外れて遠く向こうの大木を直撃、焼け焦げてずっしーんと倒壊したのだった。 笑い転げていたシグナルも、そのレーザーの出力を見て笑いを失う。
「な‥‥なんだこれは?」
 何が起こったか自分でもわからないでいると、タイミングよく、正信が立ち上がって解 説してくれた。
「うん、いい質問だね。実は、パルスのレーザーの出力を上げようとも思ったんだけど、 エネルギーとの関係で実現は難しかったんだ。そこでちょっと発想を転換してね。新しく 頭にレーザーを取り付けたんだ。その名も、ハゲレーザー」
 さも当たり前のように正信は解説する。しかし、解説さててもパルスには到底、納得で きるものではない。(当たり前だけど)
「ま・さ・の・ぶ〜!なんだこれわあぁぁぁぁぁぁ!!こ、こんなもの付けてくれなんて 頼んだ覚えはないぞ」
「うん、そうだろうね。でも言ったじゃない。レーザーとブレード以外に細かい改造が入 るって」
「全然、細かくないわーーーーーー!」
 パルスが怒ったと同時に、また頭がピカーっと光って大出力のレーザーが炸裂した。今 度は音井家の壁を焦がした。
「だめだなぁ、パルス。僕を信用しちゃ」
 まったくです。でも、それはちょっと言っちゃいけないかと。
「それに、けっこう苦労したんだから。パルスのエネルギーを使わずにレーザーを撃つよ うにするって。でも思いついた時は感動ものだったよ。電車に乗っていた時に、前の座席 に座っていたハゲの人の頭が太陽の反射で光ってね。これだ!と思ってさっそく実行しに 来たんだ。君からエネルギーは取れないから、太陽光線を使っているんだよ。これならい くら撃ってもエネルギー切れにならない。ただ、太陽が出ていないと撃てないんだけど。 それに、ちょっと制御ができにくいのが難点だね」
 あはは。と正信が笑う。その瞬間にも、またパルスのレーザーが暴発した。
「まだ使いこなせてないみたいだね。でも練習次第ではちゃんと標的に当てられるように なるから。それに、君のハゲ頭を見たらみんな笑い転げるだろうから、その隙にも当てら れるという驚異的なシステムなのだよ」
 それは確かに驚異的かもしれないけど、でも、ハゲ頭でレーザーを練習しているパルス を想像したくないんですけど。
「ふ・ざ・け・る・な〜!元に戻せぇぇぇ!!というか、お願いですから元に戻してくだ さい」
 急に弱気になって涙を流しながら懇願するパルス。でも、世紀の大発明(だと本人は思 っている)をした正信が簡単に頷くわけがない。
「はっはっは、泣くほど喜んでもらえたのか。僕も嬉しいよ」
 全然、違うと思いますけど。
 唇を噛んで悔しさを表すパルス。しかし、できることと言ったら、もう一つしか残され ていなかった。すなわち、レーザーで正信を焼くこと。
“ビィィィィ”
 またパルスの頭が光って今度は正信を襲う。しかし、必中の一撃は、なぜか正信にひら りとかわされてしまった。標的を失ったレーザーは運が悪いことに抱腹絶倒と言えるシグ ナルを直撃した。レーザーによって黒こげになったシグナルが足をピクピク痙攣させてい る。
「そう、その調子だよ、パルス。もう少し頭の角度を寝かせると命中しやすくなるよ」
“ビィィィィ”
 次の一撃も何故か正信には当たらない。まるで製作者に危害が加えられないようになっ ているかのようにレーザーが軌道を変えて別の破壊を誘発する。
 結局、3度ほどシグナルを焦がした後に、太陽が雲に隠れてレーザーは打ち止めになっ た。肩でパルスは息をしていたが、正信を恨めしげに見る瞳はけっして忘れられるもので はない。
 数日後、クリスの応急処置でなんとか髪をカツラとして付けている昼下がり、パルスは 真剣にアートネ○チャーのカタログを見ていたらしい。

『END』




あとがき
シグナル君に次ぐ不幸王、パルス君です。しかし、このネタの応用は一度使ってしまっているんですけどね。まぁ、いいかな。もう少し丁寧にパルスのハゲっぷりを書いてあげたかったですけど(おい)あんまり本人に祟られそうでもね。(笑)というわけで下手でも許してやってください。(さらにおい)

戻る