少年の日のシグナル 1時間目
 きーんこーんかーんこーん。
 ホームルームの開始の予鈴のベルが学校中に鳴り響く。
 シグナルはトッカリ小学校のぴっかぴかの1年生だった。
「おはよう、シグナル君」
「おはよう、エララさん!」
 ちょっと息を弾ませながら、シグナルは朝一番の元気な声で挨拶をする。学校はあまり 好きでないシグナルだったが、隣の席にクラスのアイドルがいるとなれば話は別。くじ引 きでエララの隣の席になったと知った時は、本当にくじ引きの神様に感謝したほどだ。シ グナルは毎日、ちょうど予鈴が鳴る頃に登校する。それはエララの「おはよう」の時の、 12時間ぶりの笑顔が見られるからだ。エララに迎えられての登校。そのために、エララ より先に来ないようにしてさえいる。
「今日の日課は‥‥、1時間目が学活で、2時間目が体育、3時間目が算数で、4時間目 が国語、それからお昼ごはんだね。で、午後は社会科‥‥と」
 ランドセルを机の上に置いて、教科書を机の中に入れていく。教室内は予鈴とともにほ とんどの席が埋まり、1日振りに会った友達と昨晩のことを好き勝手に話し、喧騒の中に 包まれている。
 きーんこーんかーんこーん。
 がらがらっ。
「みなさん、おはようございます」
 ホームルームの開始の合図とともに、担任のカルマ先生が教材を抱えて入ってくる。カ ルマ先生は毎日必ず、精密時計のようにチャイムの終わりと同時に入室してくる。温和で 優しい先生だけど、遅刻には厳しくて簡単には許してはくれない。遅刻をすると、相似当 番を強制的に1週間ほどさせられる。
「きりーっつ、れえーいっ、ちゃくせぇっき」
 学級委員、我がクラスのタワーことオラトリオが独特のリズムで号令する。
「ではさっそくですが、出席をとります。赤川君‥‥井口さん‥‥石川君‥‥」
 ゆっくりと教壇に向かうと、手にいっぱいの荷物を脇に置いてからおもむろに黒い出席 簿を開いて名前を呼び上げる。
「‥‥エララさん」
「はい」
「‥‥オラトリオ君‥‥河上さん‥‥‥‥シグナル君」
「はいっ!」
 次々と名前が呼ばれ、途切れなく返事が返ってくる。ぼくの名前が呼ばれて、大きく返 事をした。
「‥‥土倉さん‥‥能登君‥‥パルス君‥‥。パルス君‥‥?」
 いつものことながら、パルスのところで一度止まる。別にいないわけでなく‥‥。
「ZZZ‥‥」
「またお休み中ですか?まぁ、遅刻をしなくなったのは感心ですけど‥‥。クリスさん、 起こしてあげてください」
 1学期中、遅刻の学校記録を更新していたパルスは、2学期からクリスと一緒に登校す ることによって遅刻することはなくなったものの、朝に弱いのは変わるわけもなく、寝て いるところをクリスが引きずりながらパルスを連れてくるのだった。
「パルス、ちょっと、起きなさいよ。まったく、どうしてあんたはいつもいつも寝てばっ かなのよ。先生が怒るわよ」
 パルスの女房(?)隣に座るクリスが突っ付くが、パルスは一向に起きる気がしない。 そうなるとカルマ先生の必殺技が発動される。
 一発で狙い済まし、手のスナップを効かせてチョークが一直線に気持ち良さそうに爆睡 中のパルスの額に命中する。100発101中の一撃は、パルスを一瞬のうちに夢の世界 から引き戻した。チョークが粉々になるほどの威力に「何事か?」と席を立つ。そして辺 りを見回して、やっと事情を飲み込んで‥‥また睡眠モードに入った。
『くおぅら、寝るなぁぁぁぁぁぁ!』
 クラス中のツッコミがパルス目掛けて炸裂した。

「さて、1時間目は学級活動です。今日は、クラスをよりよくするために‥‥っていうテーマ で話し合ってもらいます。では、学級委員長のオラトリオ君、議長をお願いします」
 クリスにボコボコに殴られて気絶しているパルスを横に、授業は進んでいく。学級委員 長のオラトリオが自信満々に前に進み出る。小学生だと言うのに、カルマほどあるオラト リオが教壇に立つと、一瞬、先生でないかと思ってしまう。
「おほん。え〜、では、本日の議題ですが、正しいナンパの仕方なんて‥‥」
「ぶー、ぶー、ぶー」
 当然予想されたことだけど、クラス中の女子から大ブーイング。しょんぼりと肩を落と してオラトリオは自分の席に戻っていった。
「提案〜。最近、男子共の間で流行しているスカートめくりについて〜」
 学級副委員長のクリスがめんどくさそうに提案する。
「スカートめくり!なんて破廉恥な。男ならちゃんと合法的にスカートめくりを‥‥」
 オラトリオが毅然と復活して立ち上がるが、すぐにクリスが投げた黒板消しによって沈 黙させられる。
「ったく、委員長なのかねこの男は。だいたい、女子からの苦情の8割はあんたにやられ たって来ているんだけど‥‥」
 オラトリオとしては当然のスキンシップだと思っていたらしいのだが‥‥、何も言えな い所を見ると犯罪行為とわかっているみたいだ。天井を斜めに見上げながら、口笛なんか を吹いている。
「では、スカートめくりなんかをした輩は1週間女子のかわりに掃除当番をするってこと でいいですか?はい、じゃあ、オラトリオと‥‥あとは、誰でしたっけ。被害者は名乗り でてください。」
「シグナル君はそんなことしてませんわよね」
 次々に戦犯(?)が議事録に書き込まれていく中、エララさんが声も小さくにこやかに 聞いてくる。
「‥‥う‥‥うん‥‥‥‥」
 シグナルとしてはキッパリと肯定したいところではあったが、実はオラトリオに誘われ て一度だけやったことがあったのだ。魔が差したとしか言えないが、どうせするのだった のなら、エララさんのをしたかった。もとい、エララさんにだけは知られたくなかった。
 ドキドキしながら審判の時を待つ‥‥。
 もしエララさんに知られてしまったらどう思われるだろう。軽蔑したような瞳で睨まれ るだろうか?もし、一生、口をきいてさえくれなくなったら‥‥。
 しかし、幸運にも被害者はシグナルの名前を口にしなかった。オラトリオも一緒だった から、オラトリオのインパクトが強すぎたからかもしれない。神様と一人の女の子に胸の 中でだけ感謝する。
 その後、学級会の恒例的に掃除当番をサボる男子や廊下を走る男子、雨の日に廊下でボ ールを使って遊ぶ男子−どれもシグナルが含まれていたりするのだが−について議論がか わされ、見事、シグナルは有罪になり、1ヵ月間のクラスで飼っているウサギの世話係に 任じられた。
 ただ、そのこと自体はシグナルにとって、なんら罰になっていなかった。なぜなら、ウ サギの世話をする生物係はエララだったのだから。体育係のシグナルにとって、エララと 一緒にいる恰好の口実ができたのだから。
 二時間目に続く。




あとがき
1年生という設定に無理がある気が・・。(笑)キャラが足りません。このままでは信彦も出るハメに・・・。ってある意味でまんまですがな。(笑)ネタそのものもある意味でお約束ですね。次回は体育なのでやっぱりお約束かもしれません。(おい)しかし、エララちゃんって書くの難しいですね。いつもながら。

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