田中伸尚の論集 満を持して刊行!

不服従の肖像

(装幀/熊澤正人)

四六判 カバー付き 312ページ 1500円

【内容より】

心は裏切れない

思考停止/安岡正彦さん
13対12/小林誠司さん
心を奪うカード/蒔田直子さん
マイノリティの教育権/紀井早苗さん
休憩時間訴訟/松岡勲さん
良心宣言/渡辺厚子さん
スミ塗り/福山昌也さん
校長処分事件/渕上和俊さん
強制異動/伴はるみさん

 

想像力の射程を伸ばして

人権を獲得する人びと

出逅いを求めて 北星学園高校講演より

 

アイヌの人びと

少数民族の尊厳と自由 


金洙榮さん

この国は、いつまで「在日」の障害者を年金から排除するのか


「国家の被害者」遺族たち

靖国神社の無断合祀を問う

静謐の中での抗い


井上とし枝さん

「違和」のもつ魅力、「共生」をも示唆 歌集『鎮魂』に思う


川瀬氾二さん

「戦場」から憲法九条を訴える

あとがき

 本書に収めた北星学園高校の講演で、触れた故エドワード・サイードがインタビュー集『ペンと剣』(中野真紀子訳、クレイン、一九九八年〈二〇〇五年一二月、ちくま学芸文庫に収まる〉)の中で「メディアに騙されないようにするにはどうしたらよいのでしょう?」(インタビュアー=デーヴィッド・バーサミアン)と訊かれて、次のように答えているところがある。少し長いが掲げたい。
 「懐疑は人間の知的、批判的能力の一部です。どんなニュースに対しても懐疑を働かせる必要があると思います。テレビのニュース番組は二二分が相場ですが、この二二分の間に提示されるもの以上のものを求めようとするべきです。これは誰にでもできることです。別の情報源は必ずありますから。本を読むなり、図書館へ行くなりすればいい。こういう能力を磨いて、あらかじめまとめ上げられ思想的な味付けを施された情報をただ吸収するだけの、受け身の存在になるのを拒絶することです。テレビのメッセージはすべて、一種の加工済み思想パッケージ以外のなにものでもないのですから」
 テレビだけでなく日本のマスメディアが、腐朽して死臭を漂わせるようになってすでに久しい。これは受け手の側の私たちの「懐疑力」が失われ、あるいはすり減ってしまったことと関係していよう。マスメディアから連日のように加工された「思想パッケージ」として送りこまれてくる「国家言語」を疑い、自衛隊派兵・その延長、共謀罪、靖国、教育基本法改悪、憲法改悪……これらの本質を見極める「懐疑力」の回復・獲得が今こそ大事な秋はない。
 本書で取り上げた人びとは、誰もが現場を離れず、現在を手放さずに生きている。そして彼/彼女らは研ぎ澄まされた「懐疑力」を持ち、アマチュアであるがゆえに、境界にこだわることなく、自由に現状を批判し続ける。
 けれどもこうした人びとの営みは、決して国家や支配的な集団の歴史──それには今や現代史を語っているマスメディアも入る──の中ではほとんど語られない。あまりにも少数者の、そして正史への対抗的なナラティブ(語り)であるから。
 本書に登場する人びと、たとえば学校現場で「日の丸・君が代」に抗している教員らは、安岡正彦さんが裁判で負けたらアハハ……と嗤うと語ったように、「勝つ見込み」があるから、不服従をしているのではない。押しつけの全体が不正義であるから抵抗するのである。また渡辺厚子さんが「良心宣言」をしたように、真実を語り、歴史に残したいという意志があるから不服従を続けているのである。
 『ペンと剣』の序文を書いたイクバール・アフマド(パキスタン出身のアメリカの政治学者)は、サイードの知的活動を支えている動機について、抑圧された側の物語/歴史が消されていくことを「断じて許さない決意です」と述べている。そしてパレスチナ人でアメリカ市民でもあったサイードは、非暴力と不服従を主張し続けた。私たちの身近なところにも、抵抗の語りや歴史を自ら叙述し、詠い続ける知性と批判力を持って動いている人びとが少なからずいる。こうした対抗的な語りや歴史を創っている「不服従の人びと」によってのみ、「別の道」が拓かれる可能性がある。私が本書で取り上げた人びとは、そうした人びとの中のごくわずかでしかない。
 
 本書に収めた作品などは、この二年ほどの間にさまざまな雑誌等で書き、語った中から樹花舎の花村健一さんと協議しながら選んだ。収載にあたって、ほとんどの人びとについて再び会って話を聴き、かつ語り合った。それらはそれぞれ「追記」の形で書き加えた。また初出時の稿にも相当の加筆補正をした。ただ井上さんについては、手の届かない世界へ逝ってしまったために、話をうかがうことができなかった。そこで「長い交わり」の中で、まなかいに浮かんだ像をわずかに記した。
 初出誌などから本書への収載を快く同意していただき、また私のややしつこい取材に、日常の仕事に追われながらも時間を割いて下さった皆さんに衷心から謝意を表します。ありがとうございました。またこうしたほとんどマスターナラティブ(正史)に無視されるだろう人びととの「出逅い」の機会をつくっていただいた吉野宣和さん、チカップ美恵子さん、松田浩二さん、菱木政晴さん、北上田毅さん、増野徹さん、竹森真紀さんら多くの皆さんに深く感謝します。さらに初出誌などからの転載に際しては、当該の雑誌・出版社、市民団体などのご協力をいただきました。ご厚情に御礼申し上げます。
 花村さんとは、単著としては三冊目のおつき合いになりました。いろいろと注文をつけましたが、快く引き受けていただき感謝に堪えません。
 最後になりましたが、いつも素敵な「衣装」で拙著を包んでいただく熊澤正人さん、ありがとうございました。
 
                       日本の敗戦六〇年、二〇〇五年一二月二三日に記す 
                                          田中伸尚

 

●本書には「障害者OK」の「自由利用マーク」を付けました。

●また、視覚障害その他の理由で、印刷媒体による本書のご利用が困難な方のために、本書のテキストデータあるいはPDFデータをCDーRにて提供いたします。ご希望の方は希望のデータ形式を記したうえに、送付先を明記したメモに本書に付してあるデータ引換券と送料分の200円切手を同封して当社(〒111-0056東京都台東区小島1-3-9 樹花舎)までお送りください。なお、本書の概要とバリアフリー出版についての案内は本書と本書の読者カードに印刷してあるSPコードに収録されています。

本書をインターネットからご注文するにはこちらからどうぞ。

樹花舎から刊行されている田中伸尚の本

●生と死の肖像

●合祀はいやです。

●国立追悼施設を考える

 

樹花舎の入り口にもどる