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第五話 私、誘拐されたわ!
俺はもう駄目だ。会社もリストラされ、家族とも離婚した。何もかも嫌になりギャンブルに走り大負け、
金貸しに金を借り、また負け、借り、負け・・・、そして莫大な借金を抱える羽目に・・。
もう俺は駄目だ、この世の中金だ。金で何でも買えるのだ。俺は、もう死ぬか、それとも大きな賭けに出るかしかない。
それは誘拐だ。銀行強盗も考えたが、一人では無理だ。やはり誘拐しか道は無い。
最近、医者の娘で、無防備な女を見つけた。いつも1人で行動をしている、こいつを誘拐するしか無い。
私は芝居にはうるさい。何せ私は、勤務してる高校の演劇部顧問だからだ。この間、ぴあを見て、劇団名が
面白いところがあったので、賭けで何も判らず行ってみた。こういう事はたまにするのだが、大当たりのときもあれば、
大はずれの時もある。今回は見事に大はずれだった。金を返せなんて言わない。金なんて関係無いわ。
この世の中、金がすべてじゃない。それに劇団がどんなに金銭的に苦労してるか判ってるつもりだし。
けど、時間を返して欲しいと言いたいわね。劇場までの時間・芝居の時間・帰りの時間。
それだけの時間があればもっと有効な事に使えたのに!その時、丁度、むしゃくしゃしてた時だったの。
その日の私の授業に、生徒がボイコットしやがったの!高校は義務教育じゃねーつーの!
嫌なら学校辞めやがれ!ま、そんなむかつく事が重なって、帰りに大酒を飲んだの。
そしたら、芝居の事が頭から離れずムカムカしてきて、あの役者達を殺したくなったの。で、勢いに任せて
元夫に電話して、「元パパ?真剣頂戴。もう我慢できないの!」と言ったら、次の日、キラ子が
「ママ久しぶり!今日からよろしくね!」と言って来た。なぜだろう?
キラ子の親権がママに移った。キラ子は私の玉を狙ったり、キラ君と言う馬鹿男に「大回転」なる新技で
子供まで作りやがった。こんな子は勘当するしかないと思っていた時に、ママから「親権頂戴」と言われたので、
即OKした。これで私の第二の人生をスタートすることができる。最近、私の病院の看護士が「俺、俺詐欺」
の話をしている。何でも電話で「俺、俺、事故った、金がいる、ココの口座に金を振り込んでくれ」と言うらしい。
勘当はしたが、キラ子からもしそんな電話が来たら、私は間違い無く金を振り込むだろう。しかし、そんな親心を
利用して金をぶん取ろうとする輩は全くもってけしからん。
私、誘拐されたわ!ダンスの帰り道、後ろから車が来て、無理やり乗せられた。そして目隠しされ、気がついたら
なんだか判らない場所に連れていかれた・・。私の人生はこれからだって言うのに、こんな所で終わってしまうの!嫌よ!
目の前の変な男がパパの連絡先を聞いてきた。私の親が離婚して、今、私の親権がママにあるのを知って、
少し驚いているようだった。けど、その男はパパの病院へ電話を入れている。
最近夜勤ばかりで疲れた。昨日は徹夜だったのに、次の日も朝から働いている。お陰で何人か医療ミスで殺してしまった。
しかし、そこは秘密主義の病院の利点だ。上手くもみ消そう。しかし眠い。仮眠室で少し休むことにする。
やっと眠りについて少ししたら、私の眠りを遮る一本の電話が入る。
「ふぅぁい、もひもひ、どひらさんでひょうか?」
「院長先生かい?娘は預かった。」
「娘は軽かった?確かに久しぶりに娘をおんぶして軽かった経験はあるな。」
「・・・。そうじゃない、娘は預かった。」
「娘はハゲだった?それはショックだろう。実は私もハゲだ。」
「・・・。そうじゃない、娘を誘拐させてもらった。」
「娘を幽体離脱して儲かった?それは凄いな。」
誘拐男が電話で悪戦苦闘している。パパ、私のことを本当に心配しているのだわ!嗚呼、何て素晴らしいパパなの!
誘拐男が私に近寄ってくるわ!恐いわ、パパ!助けてパパ!
「おい!お前、電話かわれ!この親爺頭いかれてる!早くかわって、助けを乞え!」
「パパ!私よ、私!パパ助けて!!」
「お!キラ子か!?どうした?」
「私誘拐されたのよ!早く助けて!お願い助けて!お金出せば助けてくれるって言ってるわ!お願い助けて!」
「なに!誘拐された!!なんてことだ!判った助けてやる、何処にお金を振り込めば・・
(まてよ・・。これは今、巷で流行っている「俺、俺詐欺」の新バージョンでは無かろうか?そう言えば看護士の子も
「俺、俺詐欺って言っても、女性の場合もあるみたいね。」と言っていた。これは「私、私詐欺+誘拐されちゃいました」
と言う合わせ技一本を狙ったものに違いない。ふふふ・・・、馬鹿な詐欺師だ、この私を甘く見たようだな。)
「状況はわかっただろう。警察に電話したら娘の命は無いぞ。」
「いいよ。殺しちゃってください。」
「え?あんた何言ってるの?」
「だって親権はママにあるんだもん。僕ちゃん関係無いもん。」
「娘がどうなってもいいのか?」
「だから娘じゃないから、僕ちゃん新しい娘を作る為に頑張るッチャ!」
「お前の父親は駄目だ、母親に電話しろ!お前が電話しろ!もっと切羽詰った状況だってことを伝えろ!」
「ママ!私、キラ子!助けて!知らない人に連れていかれちゃったのよ!お願い助けて!」
「大根役者ね。ママは芝居にうるさいのよ。そんな芝居じゃオスカーは狙えないわ。」
「・・・・」
「お前の親はどうなってるんだ!?というか、お前の言い方が良くないんだ!もっと感情を込めろ!俺はなぁ、若い頃は
役者を目指してた!そんな芝居じゃ、人を感動させて納得させることはできねーぞ!もっと命かけて電話しろ!
もう誰でも良いから電話して、誘拐された事を伝えろ!リアルにやれよ、リアルに!」
「キラ☆君!お願い助けて!私、誘拐されたわ!」
「あ、キラ子ちゃん。ごめん今電車の中なんだ。またかけ直すよ。」
「私の誘拐と電車のマナー、どっちが大事なの!?」
「ごめん、今、シルバーシートの前なんだ。それに電車で携帯はまずいだろ。マナーからルールになっちゃうから。じゃ。」
「てめーの話し方にリアリティーが感じられねーんだよ!この馬鹿!片っ端から知り合いに電話かけろ!」
「A子ちゃん!お願い助けて!私、誘拐されたわ!
「B子ちゃん!お願い助けて!私、誘拐されたわ!
「C子ちゃん!お願い助けて!私、誘拐されたわ!
「よしよし!段々良くなってるぞ!あと一息だ!」
「ハイ先生!」
「先生じゃない!師匠と呼べ!」
「ハイ師匠!」
「D子ちゃん!お願い助けて!私、誘拐されたわ!
「E子ちゃん!お願い助けて!私、誘拐されたわ!
「F子ちゃん!お願い助けて!私、誘拐されたわ!
「よし!その調子だ!もう少しだ!」
「もしもし!私キラ子です!私誘拐されたわ!」
(おっ!キラ子君の話し方にリアリティーを感じる!一皮剥けて来た!彼女には演技のセンスがある!まさに迫真の演技だ!
まるで本当に誘拐されているようだ!・・・・、ハッ!俺は今、彼女を誘拐しているんだ!すっかり忘れていた・・。
忘れてしまった理由に、彼女のひたむきな演技に対するハートだ!久しぶりに熱くなったこの気持ちは何だろう!?
そうだ、俺は役者を目指していたのではないのか!?それが人生に妥協して好きでもないサラリーマンになり、
結局リストラされ、俺の人生は何だったんだと考えて・・。しかし、今からならやり直す事ができるんじゃないのか?
彼女は俺の夢を思い出させてくれた。そうだ今からでも遅くない、今からでも役者の夢を・・・)
「師匠!やりました!私の熱意が充分通じました!し・・師匠?どうしたんですか?泣いてますよ。」
「いや・・、ちょっと目にゴミがな・・。良くやったキラ子君。君は一流女優になれるぞ!」
「ハイ、ありがとうございます!」
「で、何処に電話したんだ?」
「警察です!」
「え?」
つづく(?)
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