色なき世界へ虹を架けよう(前)
―ハイデリヒとエドの関係性が描いたものをとつの暴走で語る―
「僕達は、あなたの夢の中の存在じゃないよ 僕は僕だ 確かにここにいる」
ハイデリヒが、最期にエドワードに言った言葉です。
劇中、最も丁寧に言われた言葉は、彼の命をかけた渾身の科白であります。
なぜ、彼が人生の最期にこの言葉を選んだのか。
彼は、エドワードに何を伝えたかったのか。
映画鋼・シャンバラを征く者は、たくさんのテーマを包含する物語ですが、私が、劇中最も心奪われた、ハイデリヒが投げ→エドが受け取ったことについて、私の妄想を大暴走させたいと思います。

みんなー!轢かれる前に逃げるんだ!

■エドワードの思い

まずは、エド。
彼は、それまで自分が育ってきた場所とはまったく違う世界に飛ばされました。
最初の頃は、持ち前の前向きさと根性、行動力で「帰るんだ」と強い眼差しで生きていたのでしょう。
アニメ最終回で彼は言っていました。「アインシュタインはうさんくさい」と。
それは、彼が明日を信じ、一生懸命勉強していた証です。(ちなみに、このセリフは私がアニメ鋼で唯一本気で声を出して笑ったギャグでした。エドらしい、また會川さんらしい大変センスある言葉だったと思います)

劇中、具体的には語られませんでしたが、ハイデリヒがなぜあそこまでエドを好いていたのかというと、出会ったばかりのエドは努力家であり、ロケットの研究も熱心で、ハイデリヒの目にとてもキラキラした人物に映ったからではないでしょうか。
「エドワードさんは凄いなぁ。あんなに熱心に…なんか時々変なこと口走るけど、とてもいい人だし、見た目も結構ハンサムだよね。アハハ。さて、僕も、負けないようにがんばらなきゃ!」とかなんとか。
「ロケ好きに悪人おらず」なんて考えてたら、もっと面白いな。(笑)

ですが、一人の世界は、エドには辛すぎました。
あの世界はエドにとってあまりに寂しく、切ない場所です。
当時は、光の速度で宇宙研究が進んでいました。それが逆にエドにとっての不幸。エドの明日は、光の速度で奪われていったのです。
研究が進むたび、元気をなくすエドをハイデリヒはどんな気持ちで見つめていたのでしょう。
エドがロケット研究の場を去った時、ハイデリヒはその後姿を少し悲しい瞳で見送ったに違いありません。

いつの頃から、エドは空虚になっていました。
あまり世界に関わらないようにしていた・・・
最初は、劇中あの世界に来たアルが言っていた様に、「ここは自分の居てもいい世界じゃないから」という「世界」を考えての「あまり関わらない」だったのかもしれません。
でも、私は、それは自分の未熟さを隠す、建前だったと思います。
なぜ、エドがあそこまで世界を拒絶したか。

それは、やはりあの世界に「居たくはなかった」という自分本位の気持ちからでしょう。
劇中エドは「世界が」とか「夢」とか大きなことを言っていましたが、本当はそんなんじゃない。
もっと個人レベルの「こんな場所にいたくない」という簡単な思いを抱いていたのでしょう。
「自分の居場所がない、異世界」ではなく「自分が居たくない、異世界」。
常に自分の居たい場所を想い・・・郷里を愛しく想い・・・今違う場所にいる自分を認めたくなかった。簡単に言うと現実逃避。
彼は自分で自分が「空虚」であることに、自我を保とうとしていたのだと思います。
シャンバラのセリフで言えば、怖かった。夢の世界に絶望した振りをして、本当は、その夢を失うのが怖かった。

あの世界を「夢」だと思えなくなった時、それが、愛しい郷里との離別を意味するからです。

しかし、やっかいなことに、エド本人には、自己防衛の為の拒絶という意識がまったくありませんでした。
いつの間にかその想いは暴走し、自分を飲み込んでいきました。
劇中前半のエドは「世界」だけでなく、自分の存在さえ、空虚に感じていたように感じます。
これまで、前に向かって進んできたエドなら、なおのこと。ここで希望もなく生きている自分が、まるで偽物の、透明のような存在に感じていたに違いありません。
……もしかしたら、「透明な存在」。それすらも自己防衛の手段だったかもしれませんが。

だけど、その現実を認めない過ちが、どれだけ世界と自分に深い傷を残すか、この時のエドはまだ知るよしもありません。それに気づくのは、物語の最後です。

余談。
他の感想サイト様に、「エドのこの行動は理解できない」という方がいらしたのですが、私はエドのこの行為が、少し理解できます。
私は中学生の時に、家庭の事情でそれまで住み慣れた広島を離れることがありました。行き先は、私にとって辛いばかりの場所。 その場所で、私は周りの一切を切り離すことにしました。
どうしてかって? だって、こんな悪環境にいる自分を自分で認めたくなかったからです。無関心であれば、何も起こらない。失うことも、傷つくこともないから。自己防衛のためだったんです。今思えば、それはなんて過剰な、と思いますけど、当時は必死でした。
「早く元いた場所に帰りたいな・・・」と。かつていた場所だけを思い、今の場所での生活を人間関係も含め、無関心でいようとした・・・ないがしろにしていました。
やがて、帰れる日が決まりました。私は「ホッ」としましたが、数ヶ月でいなくなることを周りには隠していた(というか言う必要がなかったと思っていた)ので、周りの人たちは驚きました。
お別れの日、その場所にいた仲間が、お別れ会をしてくれました。この計画は私に内緒にされていて、私は驚きました。そんなに親しくもなく、対して楽しい思い出もなかったのに。
最後に、花束をくれた時、私はここではじめて「ああ、みんなに申し訳なかったな」と、この場所に対して感情が湧いた。みんなの善意を自分のわがままで踏みにじっていたことに、心の底から申し訳ないと思ったよ。シャンバラを最初に見たとき、この時のことをしきりに思い出しました。あの時の周りの人たち、すまんかった、そしてありがとう。
(余談終わり)




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