判例に学ぶ

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オフィス惠愛堂

1 障害基礎年金不支給決定取消等請求事件  
(平成20年10月10日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 原審:東京高等裁判所)

20歳前傷病障害基礎年金

_NowPrinting.jpg 社労士試験の学習で障害給付を学び、支給要件や等級を知ることとなったが、それは机上に止まっている。判例を読み事例にふれることは、机上の知識の実際への応用になり、役に立つ。
 まずは、最近新聞で読んだ判決を取り上げてみる。

 国民年金は原則として一定の保険料納付が必要であるが、国民年金にもいろいろあり、例外的に保険料納付要件が問われない、福祉給付的な性格のものもある。ここで取り上げる20歳前傷病による障害基礎年金も、保険料の納付がなくても支給される。
 20歳未満であれば法律上は未成年者であり、また在学中のことも多く、一律に保険料納付要件を課すのは酷であろうし、その上、障害基礎年金は障害等級1、2級という重い障害を対象にしており、これに該当すれば稼得能力を大きく失うこととなる。このような事情を考慮した制度である、と理解している。
この年金は「疾病にかかり、又は負傷し、その初診日において二十歳未満であつた者(国民年金法30条の4)」が対象であるが、本件では、「初診日において二十歳未満」という要件(いわゆる初診日要件)に例外は認められないのか、が問われた。

統合失調症

 統合失調症は、症状がなかなかはっきりせず、発症初期は他の症例と似た状態を呈することもあり、医師の診察を受け診断が確定するまでに長期間経過することも少なくない、とのことである。本件事例もこの例にもれず、初診日が20歳後(21歳2箇月)であった。
統合失調症の病理及び特質につき、判例では次のように記されている。
 「統合失調症は、素質や遺伝等による内因性の精神病で、発病が最も多いのは17歳ころから27歳ころまでであるとされる。統合失調症の経過は、通常、前駆症状として、神経衰弱様状態を呈し、強迫症状、抑うつ状態を示すこともあるが、その段階においては妄想知覚や妄想着想などといった統合失調症に特徴的な症状は出現せず、この時期に診断を受けた場合には、神経症性障害、うつ病などと診断されやすい。このような状態で数日ないし数年間が経過するうち、上記のような統合失調症に特徴的な症状が現れる。統合失調症は、初期の段階では思春期、青年期特有の悩みと病的な症状との区別が困難で、本人に病識がないのが通常であることなどから、発病から医師の診療を受けるに至るまでの期間が長期化しがちであるという特質がある。」
 しかし、本件では、初診日は20歳後であるものの、「統合失調症を発症し医師の診療を必要とする状態に至った時点において20歳未満であったことが医学的に確認」され、障害基礎年金の裁定請求を行った。しかし裁定請求は認められなかった。
 原審(東京高裁)では、統合失調症の特質から、初診日要件の形式的適用はかえって法の趣旨に反し、初診日要件を満たしたものと解するのが相当とされ、支給を認める判決となったが、最高裁は、「20歳前障害基礎年金の支給要件を定めた同法(=国民年金法、筆者注)30条の4にいう『その初診日において20歳未満であった者』とは、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病について初めて医師等の診療を受けた日において20歳未満であった者をいうものであることは、その文理上明らか」と判示し、原判決は否定された。

反対意見 

 最高裁の判決には反対意見があり、「発病と近接した時期に医師の診療を受けることが期待できない特段の事情がある疾病については、初診日要件を厳格に守ることが制度の趣旨からして必ずしも合理性があるとは考えられない」とし、医学的な証明があることや保険料納付要件を問わない福祉年金的制度の観点から、初診日要件を「拡張解釈をすることが制度本来の趣旨に沿うものと考える」としている。
反対意見ではさらに、「年金行政の実務の運用として、知的障害及び先天性の身体障害については、20歳前に医師の診療を受けたかどうかを問うまでもなく、一律に、初診日において20歳未満であった者として、20歳前障害基礎年金を支給する取扱いがされていることも、上記のような拡張解釈の一例ということができる」としている。
これは、知らなかった。実務経験は欠かせない。

冷たい印象の判決だが・・・

 最高裁の判断は特殊な事例に対し例外を認めず、訴えた人に冷たい感じがするが、私は、裁判所が精神医学の分野における「医学的証明」について懐疑的なことがその背景にあるのではないか、と勘ぐった見方をしている。
 例えば、刑事裁判で犯行時に心神喪失であったか否かについての鑑定が分かれたりする事例があるが、同一の事例で鑑定結果が分かれたのでは、採用されなかった鑑定は法的に信頼性を欠くものと見られたかどうかはともかく、精神医学的な鑑定は、現在のところ裁判所では必ずしも十分に信頼されていないのではないか、と私には思われる。ただ、それを明言することはせず、文理解釈に徹するという、結果として冷たい感じの判決になったのではないか、というのが私なりの見方である。
 将来、精神医学上の鑑定が区々に分かれることがなくなり、裁判所にとっても安定感をもたらすこととなれば、判断は変わってくることも、考えられないではない、と思うが、いかがであろうか。

こんな事件も・・・「鬱病」偽り傷病手当5500万円詐取

bind_16.jpgYahoo! JAPAN のニュースを見ていたら、平成21年2月8日8時0分配信 産経新聞の記事で、「「鬱病」偽り傷病手当5500万円詐取 各地に“ニセ社員” マニュアル、実技も」と題するものがあった。「「詐病見抜くのは難しい」医師困惑」という小見出しで始まっている。
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090208-00000068-san-soci
 こういう記事を見ると、精神医学上の診断については、少なくとも現時点では、その法的信頼性に慎重になるのは無理からぬものを感じる。


2 割増手当請求事件  
(平成19年10月19日 最高裁判所第二小法廷)

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