地域情報資料23

水無月には水無月を

 京都には数多くの伝統行事や風俗・習慣が、ややもすると平安時代から続いているようなものが多く残っています。6月に入ると、数多ある和菓子屋さんの店先には「水無月」あるいは「みな月」などと貼りだされています。これは別に「今は6月ですよ」と分かりきったことを知らせているわけではなく(でも京都に来た頃の私はそう思っていた)、「水無月」という和菓子がありますよ、さあ(ウチの店で買って)食べましょうね、というアピールです。そして、それは6月の30日に食べるものとされているのです。
 じゃあ何で6月30日にそんな菓子を食べるのかというと、夏越の祓だからです。何だそりゃ?と思ったら、「京都大事典」で調べてみましょう。

夏越の祓 なごしのはらえ
各神社で六月晦日に行う神事。大祓(おおはらえ)・名越祓・水無月祓ともいう。一月から六月まで半年間の罪けがれを除く伝統的な神事で、一般に、茅の輪をくぐる茅輪(ちのわ)神事が行われる。――以下略――
とあります。ちなみに、「京都・観光文化検定試験 公式ガイドブック」によりますと「日本最古の宗教行事でもある」と書かれております。そういえば、大学でもそんなことを聞いた記憶があります。言葉の響きが好きでなんとなく覚えていましたが。
 ということで、夏越の祓とは厄払いの行事なんですね。人間とは欲と業の深い生き物でして、半年もすれば罪けがれだらけになる、と。さらには、できればそんな嫌なものは神様に祓っていただきたい、というそれも欲ではないかという願望も持っている、と。

 それじゃあ、その罪けがれを大いに祓ってもらおうではないかということで、「今年は本厄だから厄払い行脚しています」という酔いどれパンダさん、「何それおもしろそう、あ、私も後厄やん」という感じの酔いどれ図書館員さん、そして「夏越の祓の日ってちょうど定休日じゃん」と言い出しっぺの私・きよこ(後厄)の3人で八坂神社へと繰り出しました。あ、八坂神社を選んだのは交通の便がよいからです。

 神社境内に着きますと、おっきな輪っかが鎮座しております。これが噂の「茅の輪」ですね。

さあ、くぐりたまえ!

唱えよ! 大人がちょうど通れるくらいの大きさです。一応の予習はしてきましたが、右の方に作法が書いてあります。3回くぐり抜けるのですが、一度めは左回りに、二度めは右、そして最後また左にくぐるそうです。ものによっては右足からくぐる、と書いてあるものもありました。さらに、唱え言葉を唱えながらくぐるようです。こういう言葉です。
みな月の なごしの祓 する人は 千年(ちとせ)の命 のぶというなり
思う事 みなつきねとて 麻の葉をきりにきりて 祓いつるかな
蘇民将来。蘇民将来。」(繰り返す)
これをくぐるときに順番に唱えるようです。では早速くぐってみましょう。
千年も延びるの? ×3
さあ、祓えたかな?

何だろう?  と、そうこうしているうちに、何やら人の動きがあります。15時からの神事が始まるもよう。人の集まっているところへ行き、流されるまま神職の方から何やら白い封筒を渡されます。これは記念品とかお土産ではなく、中に人形(ひとがた)が入っておりました。神職のお兄さんが何度も「これは持って帰ってはいけません。これは神事です。」と繰り返されていたのが印象的でした。

低頭!粛々と神事は執り行われます。「低頭」と言われれば参列者は皆立ち上がり、脱帽低頭します。低頭している間、何やら祝詞というのか、お言葉を読み上げておられました。がんばって少しでも記憶しようとしていたのですが、3日もあれば忘れるのには十分すぎるくらいです。おそらく、半年分の罪けがれを祓います、――といったことではなかろうかと思います。そして、先ほど渡された封筒を開け、中に入っている小さな四角い紙切れを左、右、左の順にばらまきます。その後、残った人形(ひとがた)に三度息を吹きかけ、悪いところをなでて、先ほどの神職のお兄さんに渡します。

こんなのが入っています 左っ、右っ、左っ ふーっ、ふーっ、ふーっ

集まった人形は、祓い清められ、いずこへか持って行かれました。しかるべき場所でしかるべき処置をされるのだと思われます。

 全てが済みまして、改めてみんなで茅の輪くぐりを行います。おそらく総代さんみたいな人たちが先にくぐられ、一般参列者が後に続きましたが、ものすごい行列です。50人、100人ぐらいはいたのでしょうか? みんなが順番にひだーりー、ぞろぞろ…、みぎぃー、ぞろぞろ…、最後にひだりー、ぞろぞろ…とくぐるので、結構な時間を要しました。その間、神社の方が例の唱え言葉の説明をしてくださっています。これこれこういう言葉を唱えます。このような意味があります、と。でも、三つめの蘇民将来の説明がよく聞き取れず、気になったので調べてみました。ええ、やはり「京都大事典」です。疫神社の項にあります。

疫神社 えきじんじゃ
東山区祇園町北側にある八坂神社境内摂社。祭神は蘇民将来(そみんしょうらい)。蘇民将来社とも称す。社伝によれば素戔嗚尊(すさのおのみこと)が一夜の宿を求めた時、巨旦(こたん)将来はこれを拒んだが、弟の蘇民将来は求めに応じ粟飯でもてなしたので、尊はこれにこたえて、悪疫が流行しても「蘇民将来之子孫也」と記した茅の輪を腰に下げれば免れると告げ、このため蘇民一家は無事に暮したという。一月一九日の例祭疫神祭では、この故事にちなみ社前の鳥居に茅の輪を掛け、これをくぐると悪疫から免れるといい、参詣者に粟餅を授ける。また七月三一日にも茅の輪を掛けて夏越祓(なごしのはらえ)をし、茅の輪守りを授与する。
なるほど、それで「蘇民将来、蘇民将来」と唱えるんですね。納得。そういえば祇園祭の粽にも「蘇民将来之子孫也」と書いてなかったかなぁ。

解けるかな? とにもかくにも、これにて夏越の祓は終了。八坂神社クイズが開催されているのでちらりとのぞいて、でも解くことはせず、八坂神社を後にします。そして、この日の締めくくりはもちろん、水無月。実は小豆というか甘いものが苦手なので、私・きよこの人生初水無月です。だいたい、京都に来るまでこんなものの存在知りませんでした。ところで、水無月とはいったい何でしょう。「京都大事典」に聞いてみましょう。

水無月 みなづき
六月三〇日、夏越(なごし)の祓(はらえ)の日に食べる生菓子。三角形の白い【米参】粉(しんこ)菓子の上に、甘く煮た小豆を散らす。陰暦六月一日を氷の朔日(ついたち)・氷の節句と称し、この日氷を口にすると夏痩せせしないといわれ、宮中では臣下に氷室の氷を賜わった。水無月はこの氷をかたどったもので、宮中にならって民間で祝うもの。上にのる小豆は悪魔祓いの意ともされる。
*「米」へんに「参」で「しん」。「しんこ」菓子についてはご自分で調べてください。
水無月とコーヒー

ういろうだと思っていたら(実際、下はういろう生地であるとしてあるものが多い)、しんこ菓子なるものなんですね。まぁ、私にはどっちでもいいです。酔いどれパンダさんによると「小豆は天然痘のもがさの赤いぶつぶつを表している」「いやいや、氷室の氷についた砂を表している」との情報があるとのこと。そんな知的会話を(主に)交わしながら、茶房華心で水無月をいただきました。もっとくどい甘さかと思っていましたが、意外にすっきりしたお味でした。

 こうして祓いに祓ったので、身も心もすっきり!――となればよいのですが、もうすでに下半期の罪けがれが積み重なりつつあるのを感じずにいられません。それはそれとして、初めての夏越の祓体験を、とどこおりなく負えることができました。

おことわり:私・きよこは神事にとことん疎い(何せペーパーとはいえ坊主である)ため、文章中に間違いや勘違いや不謹慎と思われる発言や、その他おかしなところがあるかもしれません。間違いはやんわりと指摘していただいたらありがたいですし、なおかつ笑って許していただけたら嬉しいです。

行事名称:夏越の祓(なごしのはらえ)(と、水無月)
効能:1月〜6月の半年分のけがれを祓う。無病息災。夏痩せしない。
実施場所:京都市内各神社(今回記事は八坂神社)
八坂神社へのアクセス:阪急「河原町」、京阪「四条」から徒歩5分ぐらい。市バスは「祇園」下車すぐ。
備考:7月31日に疫神社の夏越の祓(祇園祭のラスト)があるそうです。
参考資料:佐和隆研ほか編「京都大事典」(1984年、淡交社)
     京都商工会議所編「改訂版 京都・観光文化検定試験 公式ガイドブック」(2005年、淡交社)
(2008/7/3)


前の情報資料へ

感想等はこちら

次の情報資料へ

前のページへ
地域情報資料室へ
トップページへ
トップへ


Copyright(c) 2008 きよこ All Rights Reserved.