’99日本シリーズを振り返って〜必然的な勝利と敗北 1999/10/28

清松みゆき

 ’99日本シリーズは、あっと驚くホークス4勝1敗の圧勝に終わった。もちろん、シリーズは短期決戦であり、僕自身、「どちらかの4タテ含め、いろんな展開が考えられる」と書いている。ゆえに、結果が4−1であったこと自体は、そんなこともあるだろうってことで、驚くほどではない。両チームの戦力などすべて互角で、勝率が5割で拮抗していたとしても、計算上は、1/4の確率でどちらかが4−1としてしまうことになる。4−2や4−3でなければならない理由はない(4−0:1/8、4−2:5/16、4−3:5/16の確率)。
 しかし、この日本シリーズ。振り返ってみれば、ホークスが圧勝したのは、偶然ではなかった。ドラゴンズは負けるべくして負けた。その理由があまりにプロとしてふがいないゆえに、ホークスファンである前にプロ野球ファンである僕の神経に障った。
 3戦目永井、4戦目星野で勝った後、その勝利の余韻をかみ締めながら振り返ってみたとき、彼らの好投の真の理由に思い至り、僕はむかむかと怒気を感じ始めたのだ。日本シリーズを日本プロ野球最高の舞台と定義するがゆえに。

「敵を知り、己を知らば、百戦して危うからず」
 微妙に言い回しが違うこともあるが、有名な格言である。

 日本シリーズに臨む前、奇しくも両監督は同じ言葉を使っていた。

「自分たちの野球をやっていれば勝てる」と。

 だが、この言葉に、僕は微妙なニュアンスの差を感じ取っていた。振り返れば、このときから、このシリーズに「イヤな予感」を感じていた。
 ホークス王監督、ドラゴンズ星野監督が、それぞれ、自チームと対戦チームとの戦力について尋ねられたとき、二人は内容以前に姿勢においてまったく対極の回答をしたことがある。

 かたや、丁寧に項目ごとに答えていった王監督。
 かたや、冗談ごかしに「監督采配以外は」と付け加え、その他はすべてドラゴンズが上と、あっさり答えた星野監督。

 確かに、日本シリーズが始まる前の野球解説者諸氏の予想は、圧倒的にドラゴンズ有利だった。ホークス有利を言ったのは、フジTVのホークス贔屓担当員、OB池田氏1人ぐらいだったろう。それも、かなり苦しそうに。
 しかし、その戦力比較、本当に正しかっただろうか? 僕には、その根拠があまりに貧弱に思えたものだ。

 何より、くだんの野球解説者諸氏は、あまりにパ・リーグを見ていない。篠原の決め球をフォークと言ったり、ペドラザを見極めやすい球筋の投手だと言ったりするのである。こんなもの、登板1つ見るだけでわかることだ。篠原はストレートで三振を取りにいく投手で、落ちる球はない。ペドラザは腕が大きく遅れて出てきた上に、内外角低めに曲がり落ちるとんでもなく癖の悪い球を投げる投手なのだ。

 そうした、パ・リーグ知らずの解説者たちは、口に出さぬまでも「最近のパ・リーグはセ・リーグよりレベルが低い」と言いたげだった。ここ6年でパ・リーグが日本シリーズで1勝しかしていないことと、2年連続でオールスターを全敗したことが、その論拠だと聞く。

 過去6年の日本シリーズ戦績
 93ライオンズ3×−○4スワローズ
 94ライオンズ2×−○4ジャイアンツ
 95ブルーウェーブ1×−○4スワローズ
 96ブルーウェーブ4○−×1ジャイアンツ
 97ライオンズ1×−○4スワローズ
 98ライオンズ2×−○4ベイスターズ

 93ライオンズ−スワローズは、ともに前年もリーグ制覇を果たしており、再戦にあたる。これは4勝3敗できわどくスワローズが前年の雪辱を果たしている。
 94ライオンズ−ジャイアンツは、シリーズ途中にライオンズ森監督の解任が発表されるという異常事態。ライオンズ選手は士気崩壊を起こして敗れた。
 95ブルーウェーブ−スワローズは、4年で3戦目とシリーズ経験豊富なスワローズに、ほとんどシリーズ経験のないブルーウェーブが挑んで敗れた。
 96ブルーウェーブ−ジャイアンツ。連続出場のブルーウェーブと、1年空いたジャイアンツ。シリーズ経験はほぼ同等のこの戦いは、ブルーウェーブが圧勝している。
 97ライオンズ−スワローズ。監督ともども選手が大幅に入れ替わったライオンズと、ほぼシリーズ常連化したスワローズの戦いで、スワローズの勝ち。
 98ライオンズ−ベイスターズ。ベイスターズ権藤監督の「予告先発」策略にはまったライオンズが、マシンガン打線の長所をふんだんに発揮されて、敗れることとなった。

 こうしてみると、戦力とは無関係に、シリーズ経験など「試合以前の要素」が、大きくはたらいたものがやけに多いことに気づく。これらを抜いてしまうと、こうなる。

 93ライオンズ3×−○4スワローズ
 96ブルーウェーブ4○−×1ジャイアンツ

 何だ、こりゃ?(笑) どこがセ・リーグ優位だって?

 オールスター2年連続全敗については、その監督を見ればいい。勝ち負けよりも、ライバルチームの戦力探りや、自チームの戦力隠し、身びいき推薦の好きな東尾監督が、勝手に負けているだけのことである。
 この東尾監督、97年のシリーズで野村監督の挑発に乗り、98年シリーズでは権藤監督の策略にはまる。実に、短期決戦の苦手な人間でもある。

 そう、日本シリーズとオールスターの戦績は、個々の選手の戦力比較という面では、まったく無意味だったのだ。
 あったのは、パ・リーグを見ていないがゆえに「弱ければ、それでもかまわないですむ」という願望だけだ。
 そして、ほとんど経験のないものどうしの今年の戦い。それぞれリーグ優勝が決まった段階では、試合とは無関係な要素は存在していなかった。野口・川上・武田の実績(格)なんてのは、こと日本シリーズという舞台に限れば、若田部・永井・星野と同じ「0」なのである。
 シリーズ経験という意味から言えば、まだ、工藤・秋山を擁するホークスに分があった。

「レベルが違う」などという馬鹿な偏見を除き、リーグ内での成績をもとに戦力比較をするとこうなる。
 投手力は? 各先発4人と中継ぎ・抑え4人。これは、順当にリーグ内成績(順位)からはかって、互角。負けパターン投手ではドラゴンズ優位でリーグ内防御率(順位)で、結果的に総合で上にいく。しかし、どちらも勝ちパターンになったら譲らないから、ここの比較に重きはおけない。ドラゴンズA+、ホークスA。
 打力は? 打率と繋ぎはドラゴンズで、長打力はホークス。どちらも一長一短あり。それが順当な評価となる。B−とC+。
 機動力は? 盗塁数はドラゴンズ78、ホークス80。誰でも走れるという面も含めて差はまったくなし。ただし、ホークスは3塁の信号機が壊れている(笑)。BとB−。
 守備力は? 遊撃手または三塁手にリーグ最多失策×福留を置き、外野はコンバート組しかいないドラゴンズ。対して、内野は鬼でもないがザルでもなく、外野は◎秋山・◎村松・○柴原・×ニエベスのホークス。こりゃ、ホークス優位じゃん。C−とB+(事実、シリーズ始まってみれば、井上がニエベス並だったことが明らかになるほどだったのだ――第5戦の松中のタイムリー?を見よ)。

 いざ、当たってみなければわからない要素もある。だが、リーグ終了時点で「圧倒的優位」と呼べる戦力差は、とてもではないが、ドラゴンズには存在しなかった。

 だが、しかし、解説者諸氏はドラゴンズ圧倒的有利と叫んだ。そして、あろうことか、ドラゴンズ自身がその評価の上にあぐらをかいてしまった。
 日本シリーズが、ホークスの圧勝に終わり、ドラゴンズが力を発揮できずに敗れた理由はここにある。ドラゴンズは「慢心」してしまったのだ。

 では、当初の「自分たちの野球をやっていれば勝てる」発言に戻ろう。王監督のそれは、若手主体のチームに対し、彼らに自信を持たせ、シリーズでその100%の力を発揮させるためのものであった。
 だが、一方の星野監督のそれは? 自軍戦力を「圧倒的優位」と錯覚し、「何もせんでも勝てるわい」という油断の現われではなかったか?

 これは、監督だけの問題でない。ドラゴンズの周囲全体に蔓延していた。
 僕が目を疑った記事が、ドラゴンズ・スコアラーの次の台詞だ。
「タイガースやスワローズによく似た打線のチーム。失投を打ってくるが、うちの投手は失投しないからね」
 一発のある打者が6〜7人も並ぶチームに対してこの台詞である。それだけの数の打者に失投しないなどとよく言えたものだ。
 結果、シリーズでは、その趨勢が決まった4戦目までに各試合1本ずつのホームランを、それぞれ、やっちゃいけない場面で配給することになった。第1試合は先制、第2試合はせっかく自チームが2点先制した直後、第3試合は先制、第4試合は2−0になって膠着が続いていたときの「先の1点」。第1・3・4試合はそのまま勝敗に直結した。第2試合だって、2回から若田部が立ち直っていたらどうなっていたことか。

 守りで勝ってきたチームと喧伝した。「ミスをしたほうが負ける」と、さもホークスのほうがミスが多いだろう、失策が多いだろうと言わんばかりに。
 しかし、蓋を開けてみれば、井上がニエベス並みであることを晒け出し、村松や秋山のスーパーキャッチの前に茫然とダブられる。内野では、小久保が鮮やかな逆シングルを見せる横で、福留がタイムリー・エラーを連発。
 自他の戦力比較なんて、まったくできていなかった。しもせずに、自分たちが劣る場所を優位だと思いこみ、相手にかけたつもりのプレッシャーに自らがはまりこんだ。

99/10/30追記:
 言っておくが、ホークスの内外野守備力は、パ・リーグでは平均クラスだ。ドラゴンズがあの守備力のままパ・リーグに現われたら、群を抜いて「最低」の烙印を押されるだろう。ホークスがわずか5試合で記録した二塁打10のシリーズ新記録は、対戦相手がパ・リーグのどのチーム相手でもありえなかった。


 第1試合を工藤の完封で飾ったホークスだが、第2試合で若田部が自滅。その後を継いだ投手が四球を連発して大敗を喫した。
 ホークス・ファンから見れば、これは自滅であり、そして、シーズン中に何度も目にした「捨てゲーム」だった。一度、流れを失った後に、どれだけ点を取られても、「はいはい、またですかあ」ですませるだけのこと。不安を抱いたのは吉田までがおかしかったことだけ。逆に、藤井はちゃんと抑えたねと安心できた。ヒデカズや山田が無失点ですませたことに驚きさえした。
「慢心」ドラゴンズはこれを自分たちの力と錯覚した。これが繋ぎの野球だと。10安打10四球10残塁で8得点。こんなものを僕は「効率のよい攻め」などとは決して呼ばない。もっと点が取れるだろ? と思うだけだ。

 そして、ドラゴンズ打線は永井に対して驚くのである。「フォークボールがボールにならない」と。永井は、ボールになるフォークで勝負するピッチャーだから、フォークは見送れば全部ボールのはずだったのにと。
 そんなもん、最初にバファローズに待球戦法をくらった後、シーズン前半戦の間に修正している。
 星野に対して戸惑う。「スピードはないのに、緩急にやられる。三振はないのに、芯をはずされる」と。星野の癖球をわざわざ当てにいけば、凡打ばかりは当たり前だ。そうやって勝ち星を重ねてきたピッチャーだ。
 あげく、篠原にきりきり舞いさせられ、ペドラザの前に内野ゴロの山を築く。
 何をスカウンティングしていたんだね? あんたたちは? 彼らがホークスの誇る好投手たちであることは自慢にしている。だがね、彼らの得意パターンに、こうもすぱっとはまってしまうのは、何の対策もしていなかった証明でしかない。
 おおかた、スカウティングと称してあらさがしばかりしていたのだろう。

 日本シリーズ5試合。第2試合の秋山の先頭打者ホームランを除けば、ホークスの打者はスロースタートだった。最初は、相手先発投手に自由に投げさせ、その球筋を見極め、事前のデータとどこが違うか、その確認に1打席を裂いていた。
 結果が、3・4・5戦と続いた「打者1巡するころに初得点」だ(緒戦野口のみ、2巡が必要だった)。
 対して、2打席目も3打席目も同じスイングばかりしていたドラゴンズ打線は、何をしようとしていたのか? シリーズ初めてぶつかってから攻略法を考えていて、短期決戦に間に合うわけがない。

 5試合を振り返ってみる。
 第1戦:3−0:工藤完封つけいる隙を与えず。
 第2戦:2−8:若田部自滅。後は、負けピッチャーや馴らしピッチャーで捨てゲーム。
 第3戦:5−0:永井好投を受けて篠原−ペドラザ。
 第4戦:3−0:星野好投を受けて篠原ーペドラザ。
 第5戦:6−4:プレゼントでもらった大量リードを藤井−吉田−篠原ーペドラザ。

 負け試合含めて、全部ホークスの試合だった。対戦相手はここにいない。スコアボードに記されていたのが、ドラゴンズである必然性はまったくない。任意の球団名持ってきてはめこんでも関係ない。

 日本シリーズは、日本プロ野球の最高の舞台だ。12球団のうち、リーグ最強の座を勝ちえた2球団にだけ与えられる栄誉であり、特権だ。
 だから、僕は、それぞれが100%の力を発揮する試合を望む。結果が4−0でも4−1でも関係ない。それぞれのチームの持ち味が出せればよい。

「慢心」ドラゴンズは、勝手に「試合以前の要素」をくっつけ、これを台無しにした。そのことが、残念でならない。僕が見たかったのは、もっと強い、「これぞセ・リーグの覇者である」というにふさわしいドラゴンズだった。
 それは、確かに、そこに存在していたはずだったのだ。
 僕がTV画面を通して見る、福岡ドームとナゴヤドームのグラウンドに。
 何より、戦うホークス選手たちの前に……。


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