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さんざん夜遊びをして、タクシーでマンションまで帰る。
深夜だというのに、マンションの廊下は煌々と明るくまぶしいくらいで、俺は、眼をしばたたかせながら、欠伸をした。
「ん?」
自分のドアまであと数メートル、という所まできて、初めて俺は彼に気づいた。
ドアの前に体育座りで座り込んで、膝に顎を載せている小柄な少年。
彼の事は、今までに何度も見かけた事があった。
隣の部屋に住んでいる男の所に、頻繁にやってきていて、たまに廊下やロビーですれ違ったりする。
目が合えば、軽く会釈を返してくれる、礼儀正しくて可愛い子で、俺は密かに気に入っていた。
色白で、目が大きくて、ほんの少し長めの髪のせいか、ちょっと女の子にも見え無くない。
その彼が、もう深夜の2時過ぎになるというのに、冷たいコンクリートの床に、ぽつねんと座っている。
「!!」
俺の足音に気がついたのか、彼が弾かれたように顔をあげた。
「…コンバンハ」
間抜けな挨拶だけど、これが一番妥当だろう。
「こ、こんばんは…」
彼は、一瞬あからさまにがっかりした顔を浮かべた後、少し赤くなって慌てたように立ち上がった。
「どうしたの?」
俺には他人がどこで何してようと、詮索する趣味は全くないけど、このシチュエーションで聞かないのもなんだかおかしいような気がして、一応聞いてみる。
「えっと、あの…」
彼は、少しもじもじしたように言いよどむと、足下に視線を落とした。
「北野さんを待ってるの?」
俺の隣人は北野さんという、眼鏡を掛けた温厚そうなお兄さん(たぶん30ちょい前だと思う)で、大学だかどこかの研究室だかに勤めている、という話を聞いたことがある。
北野さんとはそれほど親しい訳じゃないけど、ご近所づきあい程度はしていて、会えば立ち話をしたりするし、ちょっと用事を頼んだり頼まれたりもする。
付き合いやすくて良いお隣さんだと思うし、問題があるとすれば…あのくらいだろう。
俺の問いかけに、彼は足下に目を落としたまま頷いた。
「でも、もうすごく遅いよ。君、まだ高校生だろ?家に帰った方が、良くないか?」
今日は私服を着ているけど、制服姿の彼を何度か見かけているから、たぶん高校生だと思う。
深夜2時過ぎという時間は、高校生がふらふら出歩いてて良い時間じゃないよなあ。
見た目からして、不良少年とかじゃなさそうだし、親も心配してるだろうに。
俺がこう言うと、彼はゆっくり顔をあげて俺を見た。
ほんの僅かに潤んだ目が、じっと俺の顔を見つめる。
「…そうします」
彼は、囁くような声で呟くと、俺にぺこりと頭を下げた。
そのまま、踵を返して立ち去ろうとする彼の後ろ姿に、慌てて声を掛ける。
「あ、ちょっと!一人で大丈夫か?」
そんなに大きな声を出したつもりは無かったけど、深夜の廊下に自分の声はやけによく響いた。
彼は、微かに笑みを見せると、
「近いから大丈夫です」
と、やっと俺に届くほどの声で云い、それからもう一度俺に頭を下げて、エレベーターに消えていった。
なんとなく、一人取り残されたような気分になりつつ、部屋の鍵を開ける。
自分の部屋の匂いを、胸一杯に吸い込んだ途端に、猛烈に睡魔が襲ってきた。
服を脱ぎ捨てながら、寝室へ向かい、トランクスとTシャツ姿でベッドへと倒れ込む。
「おやすみ…」
俺は、誰にともなく呟くと、布団にくるまって目を閉じた。
きっと、寝る前にあの子に会ったからだと思う。
俺は、ろくでもない夢ばかり見て、明け方にぐったりしながら目を覚ますと、トランクスがテントを張っていた。
「…ケダモノめ」
起き上がって、ずうずうしく勃ちあがっているムスコに悪態をついてから、シャワーを浴びに行く。
ろくに寝た気がしないけれど、汗をびっしょりかいていて、このままじゃ二度寝もできそうにない。
俺は、ザバザバシャワーを浴びながら、ぼーっと夢の事を考えていた。
あれ、夢だよなあ。
だって、あの子は帰ったし、北野さん留守みたいだし。
俺は、溜息をついて、乱暴に髪を洗った。
俺のマンションは、高級マンションではないけれど、安マンションでもなくて、洒落たロビーがついていて、セキュリティもしっかりしてる、中の上くらいのマンションだ。
だから、そんなに壁も床も薄くなくて、日頃は騒音に悩まされる事はほとんど無い。
けれど、月にほんの1・2回…お隣からの物音が、俺を悩ませる。
よくは知らないけれど、このマンションの部屋は二つずつ線対称で並んでいるらしく、俺の寝室と北野さんの寝室は、どうやら壁を挟んで隣同士に位置するみたいだ。
だからこそ、俺はその音に悩まされる訳で…。
つまり、その物音って言うのは…ありていに言えば喘ぎ声、なんだよね。
俺は、そんなに眠りが浅い方じゃない。
けれど、その声が聞こえてくるとぱっちり目が覚めるって、俺ってやっぱりエロいんかな?
でも、一応俺も理性なんて邪魔なものがあるものだから、壁に耳をくっつけたり、ましてやコップを壁に付けたりなんかはしていないけれど、どうしても息を殺して、聞き耳を立ててしまう。
だって、めちゃくちゃに色っぽい声なんだよね。
女みたいにあんあん喘ぐ声じゃなくて、押し殺した、堪えきれずに漏れてしまったような声や、とぎれがちな小さな泣き声。
時折聞こえる物音と、微かな悲鳴。
妄想力豊かな俺は、二人を知っているだけに、壁の向こうで繰り広げられている光景が容易に想像できてしまって、一人さみしく存在を主張しまくるムスコを抜いてやったことも一度や二度じゃおさまらない。
ここのとこ、しばらくそういう事はなくて、密かにがっかりしたりもしていたのだけど。
昨日、あの子にあったせいで、”隣でエッチしている二人の物音を盗み聞きしながら、一人エッチする夢”なんていう、なんとも情けない夢を見てしまった。
シャワーを浴び終わろうという頃になっても、俺のムスコは一向に収まる気配を見せなくて。
俺は、溜息をつきながら、さっさと自分で処理をした。
抜き終わって、スッキリというよりグッタリして、もう一度ベッドに雪崩れ込む。
今度こそ、余計な夢を見ずに眠れますように!
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