ホーム ある時期の2年間に86例のタバコ誤飲があり、それらに対して2〜3日以内にアンケートを実施した。アンケートに回答があった50例のタバコ誤飲症例を検討した。
年齢及び性差
年齢は生後6か月〜2歳1か月で、平均10か月であった。生後6か月〜12か月までの乳児が全体の82%をしめていた。特に生後7〜9か月に集中し全体の56%をしめていた。性別では男女比1:0.85でやや男児に多い傾向あり。
誤飲発生から受診までの時間
5分〜24時間(平均1時間13分)で82%が誤飲1時間以内の受診。
誤飲したタバコの量
1/3〜1/2本誤飲が52%、量の不明が40%、タバコ浸潤液(約1/4ジュースが残ったジュース缶にタバコの吸い殻2〜3本浸したもの)が1例。1本以上誤飲した例はなかった。
来院時の症状
86%は無症状。来院までに症状があったのは7例。嘔吐、顔面蒼白、不機嫌、四肢冷感など複数の症状がみられた例もあったが、いずれも軽微で一過性の症状であった。前に述べたタバコ浸潤液を誤飲した例は、誤飲から1時間後にぐったりして、顔色不良となって来院した。
家庭での処置
96%がなんらかの家庭での処置をしていた。とにかく吐かせたのが25例でうち有症状例は1例。水などをのませて吐かせたのが20例でうち有症状が4例、家庭でなにもしなかった例が3例で有症状はみられなかった。水分のみ飲ませた例が2例ありすべて有症状であった。
異物誤飲の既往歴
90%が初めての誤飲で、既往のあったのは5例。
家族構成および喫煙歴
子供ひとりの世帯が64%、ふたりの世帯が32%、両親のみの核家族が93%と大半を占めた。また、同居喫煙者数が2人以上の世帯は16%に過ぎず、78%は父親のみの喫煙であった。
家庭での飲水の処置と有症状について
飲水群と非飲水群とにわけて検討してみると、水分を飲ませた群(催吐を併用した例も含める)では22例のうち6例でなんらかの症状が認められた。これに反して非飲水群(催吐のみ、あるいは無処置)では28例中1例しか症状がみとめられなかった。飲水群と非飲水群では、飲水群で有症状率が明らかに高かった(P<0.05)。嘔吐させる目的で飲水させることは必ずしも嘔吐に成功するわけでもなく、かえってタバコに含まれるニコチンの溶出を早めるので注意が必要と思われた。
来院時の処置と予後について
胃洗浄を施行したのは12例(24%)で、うち有症例は3例であった。36例は来院時に無処置で、うち有症例は4例あった。2例は外来で点滴のみであった。入院はタバコ浸潤液を誤飲した1例のみで胃洗浄と点滴をおこない、翌日退院した。帰宅後2〜3日以内に症状を呈した例はなかった。胃洗浄、点滴の有無にかかわらず全例とも予後良好であった。
まとめ
調査期間中では、72%は受診時無処置で経過観察したが、受診後に症状を呈した例はみられなかった。胃洗浄の必要性は従来教科書的に述べられているほど高くなく、症例を選択して胃洗浄を実施してもよいと思われた。胃洗浄の適応基準についてさらに検討が必要である。胃洗浄に関しては積極的な意見と消極的な意見があり、まだ統一した見解がない。
嘔吐を目的に飲水を家庭でするのは注意した方がよい。飲水後、必ずしも嘔吐が成功するものではなく、かえってタバコに含まれるニコチンの溶出を早めるのことがあるのでの、飲水は避けた方がよい。
タバコ誤飲の大半は親の不注意によるものである。我が国では乳幼児の誤飲事故のなかでタバコ誤飲が最も高く24〜59%を占め、さらに1歳未満に限ると全体の73%におよぶといわれている。欧米では異物誤飲に占めるタバコの割合が0.6%と報告されている。この違いはテーブルとイスの生活と畳の生活の違いといわれており、畳や床のような低い所に生活用品を置く習慣が原因とされている。もし、タバコの誤飲を完全に防止できれば、全体の誤飲事故を2/3〜1/2に削減できるわけであるが、わが国ではその具体策はとられておらず誤飲の発生頻度は減少していない。
こどもの誤飲のなかでタバコが占める割合が高いこともひとつであるが、タバコの有毒成分のニコチンが問題となっている。タバコ中毒が恐れられるのは、ニコチンの致死量が成人で40〜60mg、乳幼児で10〜20mgと毒性が極めて高いこと。タバコを温水に1時間浸潤するだけで含有ニコチン量の70%が溶出し、しかも肺、皮膚、消化管かのいずれもからもたやすく吸収される。タバコの箱に書かれているニコチンの量は火をつけてフィルターから回収出来る量を示しており、実際の含有量は10倍以上である。したがって、紙巻きタバコ1本のニコチン含有量は10〜20mgで、乳児の致死量に匹敵する。
しかし、ニコチン含有量がこれだけ多いのに、現在までタバコ誤飲による死亡例の報告はなく、重篤例もきわめて稀なケースとされている。なぜなのだろうか。その理由として、乳児がタバコを口にしても実際の誤飲量が少ないこと。誤飲しても強酸性の胃液中では水と異なりタバコからニコチンの溶出が遅れるためニコチンの吸収に時間がかかること。吸収されたニコチンは強い催吐作用を有するため嘔吐により摂取量の大半が体外に排除されることなどが考えられている。
また、灰皿などでタバコが水につかっていた場合には大量のニコチンが溶出されるので、タバコ浸潤液を誤飲すると重篤な中毒作用が現れるとされているが、実際には重篤例の報告はわが国ではないように思われる。全国で誤飲例はたくさんあるが、本当にタバコ誤飲の重篤例は極めて稀なケースなのだろうか。外国の文献では中枢神経症状の出現した例も報告されている。
胃洗浄に関しても積極的と消極的の意見があるが、胃洗浄の際の患者の負担、誤嚥の危険性を考えれば、無条件に胃洗浄を施行することに問題があろうと思われる。 胃洗浄の適応に対して明確な基準はないが、誤飲量が1本以下で症状が見られない症例、あるいは始めに軽い症状があっても時間の経過とともにそれが軽減している症例、誤飲から数時間以上経過している症例に対しては胃洗浄は不要であると考えている。たばこ誤飲=胃洗浄の図式は当てはまらない。
当サイト編集人は、胃洗浄に対しては消極的で、積極的な胃洗浄は必要ない意見である。たばこ1本以上摂取したことが明らかな症例、摂取量は不明だが、たばこ溶出液など大量摂取している可能性がある症例、中毒症状が持続する症例に対しては胃洗浄などの治療が必要であると考えている。