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『ぼくだけのこと』

森 絵都 作
スギヤマカナヨ 絵
理論社
2003年6月刊
24×25cm
本体1200円

子どもを認め、励ましたい
原 良子

 ちょっと自慢したい自分だけのこと、ちょっと困った自分だけのこと、って誰もが持っているのではないだろうか。この絵本は、そんな「ぼくだけのこと」を読者に教えてくれる“ようた”が登場する。
 “ようた”は、どこにでもいそうな、普通の小学生の男の子だ。両親と兄、妹の5人家族だが、兄弟の中で、ちょっとうれしい「ぼくだけのこと」は、右のほっぺにえくぼがあること。でも、家族の中でちょっと困った「ぼくだけのこと」は、いつも蚊にさされること。友だちの中で、得意なことは、悲しいことは、と次々に「ぼくだけのこと」が出てくる。学校の中で面目ない「ぼくだけのこと」とは、運動会の閉会式で貧血を起こして倒れたこと。町の中で、ちょっと不思議な「ぼくだけのこと」は、凶暴な犬のチャッピーに吠えられないこと。
 次々に「ぼくだけのこと」を挙げているうちに、ようたは気づく。いろいろ「ぼくだけのこと」を持っているぼくって、世界で一人だけかもしれない。ぼくと似ていても、同じ人は世界中に一人もいない。これって、すごい!
 小学校低学年の子どもたちに読み聞かせをした。皆、面白そうに聞いてくれる。
 ようたが、「ぼくだけのこと」をいうと、次のページには、必ずそのようたの話を認めてくれる人が登場する。そこで、子どもたちは、半信半疑であったことも「ふーん」と納得してしまう。ようただけ有名人のサインがない理由を友だちが言ってくれる。面目ないと言うようたに、面目ないのは、長話をした自分だ、と校長先生が言ってくれる。これらはとても大事なことだ。子ども自身がちょっと自慢に思っても「そうだね」と認めてくれる他人がいないと確信にはなりにくい。自分だけダメなことだと思っていることも、やむを得ない理由や、そんなことないよ、と他人が言ってくれると、自分はダメではないかもしれないと思える。他人に認められたり、励まされたりすることで、子どもは自分自身を知り、誇りを持てるのだ。
 読み聞かせの後、子どもたちに「自分だけのことってある?」と聞いてみると、次々に出てきた。家族で自分だけ、風邪をひかないこと、野菜が食べられないこと、身体が柔らかいこと、恐がりなこと、おしゃべりなこと。兄弟の中で、自分だけ可愛がられていないというAちゃんもいた。この絵本は、子どもの心の中にしまってある「何で私だけ?」という複雑な思いを言わせてしまうほど、自分自身と向き合わせてくれるのかもしれない。Aちゃんだけでなく、「ちょっと困った自分だけのこと」を言う子どもたちが多かった。自分の良いことより、悪いこと、直さなくてはならないことばかり思いつくのだ。それだけ、自分に自信がない子どもたちが多いのかもしれない。「ダメね」「もっと頑張って」と言われている子どもたちが多いのかもしれない。また、子どもたちは家族、友だちまでの世界で自分を考えている。町で、世界で、宇宙で、と広げて自分の存在を考えられるのは、おとなに言われたり、本を読んだりして気づくのだろう。
 この絵本は、「君は、世界でひとりだけ。かけがえのない命なんだよ。」というメッセージを子どもたちに送ってくれていると思う。それなのに「ぼくだけ、できない子?悪い子?弱虫?」などと考えてしまう子どもがなんと多いことだろう。だからこそ、この絵本を子どもたちと一緒に読んで、良いことも、ちょっと困ったことも、あるがままの自分を好きになり、誇りに思えるよう、子どもを認め、励ましてやりたい。君たちは広い世界のたった一人なんだ、って気づかせてやりたい。
 子どもの気持ちをしっかりつかみ、奥の深い絵本を創る森絵都さんは、すごい。難しい話を易しく伝え、いろいろな世界の様々な人間を描き、子どもたちの視線をくぎづけにするスギヤマカナヨさんはすごい。

(『子どもの本棚』2004年2月号掲載)

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