韓国語と日本語で
吉野美恵
今、私の手元に二冊の『かぜひいちゃった日』の絵本があります。一冊は、岩崎書店から出版されたもの、そしてもう一冊は韓国から取り寄せていただいた絵本です。韓国のものは背表紙が赤い布の製本テープで貼られ、日本のものより少し大ぶりです。カバーも帯もなくコーティングもしていない素朴な作りです。絵がほんの少し大きく、女の子の肌の色も色鉛筆の「はだ色」に近く、微妙な違いなのですが、手にとった時にしっくりします。
ページを開けると、そこは真っ暗な夜。小さな女の子が頭の上に羽根がたくさん入った入れ物をのせ、口に羽根をくわえ、スケーターでお出かけです。頭の上から羽根が一枚二枚と落ちていきます。さあ、これからどんなことが始まるのか、ワクワクする始まり方です。
雪が降った寒い日に、オンマ(お母さん)がダウンジャケットを買ってくれました。その新しいダウンから羽根が一枚飛び出しています。どうして飛び出したのか考えているうちに眠ってしまったわたしの周りには、羽根のないアヒルがたくさん集まってきました。そして、羽根がなくて寒いからダウンの中の羽根を自分たちにくれないかと言います。わたしは、ダウンの中から羽根を一枚一枚取り出して、つけてあげます。最後の一羽までつけてあげると、わたしはアヒルたちと一緒に岡まで駈けていったり、そりですべりっこをしたり、かくれんぼをしたり。
急にくしゃみが出て、わたしは目が覚めます。オンマは、ちゃんと布団をかけて寝ないから風邪をひいたのだと言いますが、わたしはアヒルたちにダウンの中の羽根をみんなあげたからなのだと思います。
ところが、風が吹いたとたん、ダウンから羽根が一枚飛び出しました。みんなアヒルたちにあげたはずなのに。
現実的な大人の考え方と不思議な世界を想像できる子どもの考え方が対照的です。飛び出したこの羽根から、子どもたちは想像力を働かせて続きの楽しい話を作るのかもしれません。
色鉛筆・絵の具・紙など手の届くところにあるもので描かれた絵も、低・中学年の女の子たちに、「わたしも絵本を作ってみようかな」という気を起こさせそうです。右ページの下に小さく描かれている絵やコラージュも遊び心がいっぱいで、早く次のページをめくりたくなります。
本文にハングルの表記がついているように、この本は韓国の若手作家である金東受(キム・ドンス)によって作られました。二〇〇二年のポリム創作絵本公募展の優秀賞を受賞した作品です。韓国の出版事情について知らない私は、知人である山本基貞さん(韓国出身の女性)に本を取り寄せていただいたり、調べていただいたりしました。それによると、ポリム創作絵本公募展は、国内の絵本作家たちの創作精神の鼓舞と想像力の豊かな作品を発掘して、子どもたちによりよい絵本を提供する目的で、ポリム出版社が二〇〇〇年度に第一回を始め、以後毎年開かれているそうです。公募内容としては、三〜十歳の子どもに合う創作が対象となり、大賞一篇、優秀作二篇、入賞作品が選ばれます。『かぜひいちゃった日』は、二〇〇二年の冬休み推薦図書になりました。
山本さんが小さかった約四十年前は、児童書といえば世界の名作と韓国の昔話が主流だったそうですが、今は絵本の創作が活発だそうです。ちなみに、一年生の国語の教科書には、『こいぬのうんち』が載っているそうです。
学校や幼稚園での読書教育も日本と似ているそうで、子どもたちは自分で自由に読んだり、読みきかせをしてもらったりして本に親しんでいるそうです。山本さんと私も、今度『かぜひいちゃった日』を韓国語と日本語で子どもたちに読みきかせようと考えています。この本が架橋になることを願っています。