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『ワニてんやわんや

原書名:LATER, GATOR
ロレンス・イェップ作 
ないとうふみこ訳
ワタナベユーコ絵
徳間書店
2004年1月出版
198p 21cm(A5)
本体1400円

どうか、ワニを逃がさないで
一色悦子


 子どもにとっては、今、目の前にある家族との生活がすべてだ。こんなに大事にされているのに、弟のほうがミスターおりこうさんで、自分は地球から消えてなくなってもだれも気にしない存在ではないのかと、兄にとっては、そのことが大問題なのだ。
 弟の誕生日に、可愛いペットのかめではなく、ワニの子どもを買ってくる。弟を困らせるつもりが、困るどころか、「お兄ちゃんありがとう」と感謝されるし、ワニのおかげで弟はみんなの注目のまと。
 兄弟のお話であるとともに、これは、アメリカのチャイナタウンに住む中国系の大家族のお話だ。主人公の兄弟のほかに、三人の男の兄弟と配偶者、もうひとりのおばさん、いとこが5人。おばあさん。総勢15人。それだけの大人数が、弟の誕生祝にアパートに集まって、ワニのえさやりをめぐって、右往左往。
 なかでも父さんは、楽しみにしていた鶏肉のカシューナッツいためがワニのえさに消え、ケーキの上にすわってしまうし、子どもの頃を知っている親戚連中の前できどってもしかたがない。威厳のない本音丸出しの大人の姿は好感がもてる。おまけに、生ゴミでも食べさせろといったおかげで、チャイナタウン全体に、困っているらしいとうわさがながれ、親の面目はまるでない。
 そんな父さんだから、ほんの一瞬、母さんの目をぬすんで、ぎゅっと抱きしめてくれたシーンはうれしい。どうしてワニをプレゼントしたか、兄の気持ちを認めている。「プレゼントを買う以外ではいい子だ」と、愛されてないどころか、親戚中からもチャイナタウンの人たちからも見守られていたのだ。自分を認められて安心して眺めてみたら、弟も鋭いやつで、仕返しも考えていた骨のあるやつだった。自分が見抜いていなかっただけなのだ。
 しかし、この本には、人間の家族のありかたは書かれているけれど、ワニからの視点はない。かわいそうに、ワニは逃げ出し、えさも水ももらえずに、かさかさに乾いて死んでしまうのだ。
 『イグアナくんのおじゃまな毎日』(佐藤多佳子作、偕成社1997年)はワニではなく、こちらは、すでに1メートルにもなったイグアナを、同じように誕生日にもらい、サンルームで飼う話である。好きで飼っているわけでなく家族でじゃまにしているが、最後は不思議な情が移り、受け入れるのだ。イグアナはイグアナでなければならず、ここにいてもいいと、どっしりした存在感を与えられている。
 それにくらべて、この話はワニを自宅で飼うことは、最初からなかなか無理な話として設定している。弟を驚かせたあとは、すぐ、引き取ってもらうつもりでもいる。作者は、あとがきに、「絶滅の恐れのある動物に指定されたから、何の考えもなしにワニを買ったりしてはいけません」と書いている。「しかし、わたしが子どものころには、動物が気もちよく安全に暮らせることについてきちんと考える人は残念ながらあまりいませんでした」と、続ける。現在は、動物愛護の考え方がすすみ、ワニを買って死なせてしまう話は、どこかで、これでいいのかな、ちがうなと、すんなり物語に入り込めない危険がある。それで、このようなあとがきになったのだろう。
 でも、誕生日プレゼントは、ワニにしたのだから、ワニでなければならないのだ。どうしても、『イグアナ…』の話とくらべると、ワニを物語に登場させる覚悟が弱い。店に返したり、死なせてしまうのではなく、飼い続けるぐらいの覚悟で話を書かなければ、ワニは立つ瀬がないのだ。どうか、ワニを逃がさないで。
 イグアナは2メートルにもなるしえさ代もかかるのに、物語から退場させないあの家族はあっぱれなのだ。この家族の、ワニをめぐるてんやわんやの中にかいまみえる強い絆を、もっと見たいのだ。

(『子どもの本棚』2005年5月号掲載)

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