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『ファンタージエン 秘密の図書館 』

[原書名:Die geheime Bibliothek des Thadd¨aus Tillmann Trutz ]
ラルフ・イーザウ
酒寄進一 訳
ソフトバンククリエイティブ
2005年10月出版
503p 23×16cm
本体1800円

ほんとうの自分になりたい
新垣邦子


 「けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときにはなすことにしよう」、これはミヒャエル・エンデの『はてしない物語』にたびたび出てくる有名な文句である。エンデは読者がファンタージエンに新しい花を開かせる余地を残した。エンデの担当編集者だったロマン・ホッケ氏が呼びかけて、不思議なファンタージエン国への新たな冒険に、エンデとその著作をこよなく愛するドイツの六人の作家が創りあげた「ファンタージエン」シリーズ。その第一弾がラルフ・イーザウの『秘密の図書館』である。
 「カールほどの臆病者はめったにいないだろう」という書き出しではじまるこの物語の主人公カールは、二十四歳の本好きな青年。新聞の求人広告を見て、古本屋の老主人トルッツ氏を訪ねる。カールは、広告文の「途方もないことでも決断する勇気を持ち、どんなことにもひるまず挑戦する人物であること」に逃げだそうとするが、「想像力」ならある。
 驚いたことに、一見小さな店の奥にはなんと広大なファンタージエン図書館がひろがっていた。しかも図書館では本が次々と消え、消えた後には暗黒の「虚無」が徐々に広がりつつあった。このままではファンタージエン全体が滅んでしまう危機に直面していた。この「虚無」の謎をつきとめるために姿を消したトルッツ氏を探しにカールは旅立つ。
 トルッツ氏と再会したカールは、地図制作者の娘クトピアらの協力を得て、「幼ごころの君」を救い、ついに図書館から本を盗み出す邪悪な存在グモルクと闘うことに。ファンタージエンにやってきた人の子は思いもかけない変化をとげ、真の英雄となったカールはあかがね色の本『はてしない物語』を携えて、あの古本屋の小部屋に戻ってきた。
 トルッツ氏の後継者となったカールこと、『はてしない物語』に登場した古書店主カール・コンラート・コレアンダー氏である。つまり、『秘密の図書館』はコレアンダー氏の若き日の物語である。
 執筆依頼を受けたイーザウは、イタリアの田舎に一ヵ月間籠って、いつも『はてしない物語』を見ながら、コレアンダー氏はいつファンタージエンに行ったのか、そして何を経験してきたのかを書きたかったと語る。
 来日記念講演会でイーザウは、「期待の家」の総鏡張りで六角形の空間に入り込んだカールが六つの自分の鏡像を見る場面を朗読した。”ぼくは、ほんとうの自分になりたい“、ほんとうの自分ってどれだ? カールは真剣に自分自身に向かい合う。ファンタージエンでの冒険を通して、カールは自分を育てる経験をしてきたのだ。自分の中に自分を見出し、読者に現実に立ち向かう勇気を与える、そこにこの物語の大きな意味を見出す。
 さらに、物語の根幹をなすテーマは、エンデの思想である「想像することの大切さ」だ。イーザウは「想像することによって新しい扉をひらき、新しい道すじを歩んでいく、それが私たちが生きる上で大切なことだ。ファンタジーは現実逃避と批判されることがあるが、想像力は新しい何かを発見することであり、むしろ現実を豊かにする」と唱える。
 『秘密の図書館』は、スリリングなストーリー展開で、読者を飽きさせず、ユーモアに満ち、その世界観はエンデとの共通点が多く見られるが、決して『はてしない物語』の続編ではない。現実とファンタジーの世界、その両極を見やすく描き、ナチスによる焚書など、歴史とかかわる独自の手法、独自の解釈により、新しい光を浴びた物語である。
 ある中学生が「おもしろかったけど、むずかしかった」と感想を述べた。主人公が二十四歳という設定であり、ドイツでは一般小説として出版された。イーザウは「私にとって読者は十三歳から百三十歳まで」と言うように、読む人によって違った世界を見せてくれる奥の深い作品である。日本の作家もぜひファンタージエンの世界で遊んでほしい。

(『子どもの本棚』2006年3月号掲載)

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