書評一覧へ戻る
『くものすおやぶん とりものちょう 』

秋山あゆ子 さく
福音館書店
2005年10月出版
32p 20×27cm
本体800円

絵本で試みた捕物帳
黒瀬圭子


 表紙を開くと、薄桃色の見返しに桜の花が散っている。とびらのページをめくると、
 「はるらんまんの むしの まち さくらの はなも まっさかり」
 テ、テン、テン、テンと、祭り太鼓がきこえてきそうなお江戸の町が描かれている。
 本所・深川の門前町なのか、浅草の観音さまが近いあづま橋の袂なのか、江戸絵図でしか見たことのない町の風情が彷彿と描かれている。
 橋を渡ってきた「くものすおやぶん こと おにぐもの あみぞう。はしこそうに おやぶんの あとをついてくる はえとりの ぴょんきち。」川のふちに立って、往きかう船を見ている町娘(粋な格子縞の着物を着ている)。荷を運ぶ人足の姿や、商家の大旦那の姿も見える。魚売りや竹竿売り、天秤かついだ物売りの声も聞こえてくる春爛漫の虫の町。
 あすは むしまちの はるまつり。くものすおやぶん、ぴょんきちをつれて はなみだんごも ひょうばんの ありがたやの みせさきを とおりかかると、「あっ おやぶんさん」と、かけよってくる みせのもの。「た、たいへんです」「なにっ」おやぶんの心が騒ぐ。
 みせのおくの ざしきでは、しゅじんを はじめ ありたちが おいおいないていた。
 「こんや くらのなかの おかしを ちょうだいする かくればね」
 「かくればねだと。ふてえやろうだぜい」
 商家の奥座敷の情景が、みごとに描かれている。一間の床に龍の掛軸、違い棚、千鳥に波の襖の絵柄。
 「よしっ おいらに まかせな」
 おやぶんは そういうと、へそから いとを くりだして、かしぐらに ぐるぐる くものすを はった。
 おやぶんの早技にみとれる、奉公人のありたちの姿がいい。顔の表情は見えないが、おそれと不安な後姿が、一ぴき、一ぴきに、にじみでている。
 よも だいぶ ふけたころ、くものような ぶきみな ぶったいが ぶあん ぶあん と、くらのなかへ はいっていく。
 「しまった。あれが かくればねか。いそげ ぴょんきち」「がってん しょうち」
 ふみこんだ くらのなか。ちゅうを まう、だんご まんじゅう あめ ようかん。
 壁の色に変身した かくればねの さんきょうだいが、つぎつぎと まゆの ふくろに 菓子を投げ入れる。
 にがすもんかと ぴょんきちは、ふくろを つかんで おおあばれ。
 「ありがたや」の座敷に追いつめられた かくればね さんきょうだいは、タンスや 襖や 掛軸の絵柄に変身し、逃げまどうが、満開の夜桜の中に消えた。
 くものすおやぶんは、みごとに さえる いとの わざで かくればね さんきょうだいを 捕える。
 さて、よは あけて、さくらもようの かくればねは、おかしを つめた まゆを はこんで はるまつりの かいじょうで おわびの ごほうこう。
 それから、すっぱり ぬすっと稼業から足を洗って、いまでは 町の運送屋。
 いっけんらくちゃく めでたし めでたし。
 謎ときの構造が、幼い子どもにもわかるように、絵本の世界で捕物帳という新鮮な試みをした醍醐味が味わえる。
 「ありがたや」の店先の賑わい、商家の間取りを俯瞰でとらえた見ごとな絵。
 江戸という時代をこまやかに描いている。
 江戸時代の風俗が彷彿と描かれた、作家の遊び心が伝ってくる楽しい絵本である。

(『子どもの本棚』2006年4月号掲載)

このページの最初に戻る

書評一覧に戻る