知りたいと思うことの素晴らしさ
鈴木正代
この絵本の書名にある「おさるのジョージ」とはH・A・レイ作『ひとまねこざるときいろいぼうし』(光吉夏弥訳 岩波書店)の主人公、知りたがりやの「こざる」のことである。おさるのジョージは、物語の楽しい内容からは想像できない戦争の時代を、作者のレイ夫妻とともにくぐりぬけてきたのである。ユダヤ人であるレイ夫妻が、ドイツ軍のフランス侵攻時に、アメリカへの移住を決意し住んでいたパリを脱出した時、この物語の原画と草稿は、僅かに持ち出すことのできた荷物の間に大切にしまわれていたのだった。
本書の著者ルイーズ・ボーデン氏は、彼らの脱出についての詳細を知りたいと強く思っていた。残された何百もの資料を丹念に調べ、人々の話を聞き、知り得た一つ一つのことをつなぎ合わせることによってこの本を仕上げた。ジョージたちのたどった道のりは、挿絵調の地図として描かれていて、道のりの長さと困難が想像できる。そして、アラン・ドラモンド氏の挿絵は、やさしい色使いとタッチであるのに、戦争の時代を生き抜く人々の緊迫した状況を十分に理解させてくれている。
第1章には、レイ夫妻の生い立ちと出会い、パリでの生活が描かれている。当時撮りためられたという写真からは、美しいパリの町並みや人々の様子がわかり、そこで暮らすレイ夫妻へと思いを馳せることができる。また、これらの写真のイメージが、二人の作る絵本の絵に反映されている様子もうかがえる。
おさるのジョージの原型である「フィフィのぼうけん」を生み出し、「戦争中だからなおのこと、子どもたちにはよい本や歌が必要」と、フランスとイギリスの童謡の絵本を書くなどの活動をする二人の、子どもの文化に対する強い意志が伝わってくる。
第2章では、パリからの脱出の詳細、まさに著者が知りたくてたまらなかった部分が明らかにされている。
脱出に使った2台の自転車は、自転車が売り切れてしまっていても諦めず、部品を手に入れて、自力で組み立てたものだった。親切な農家に寝る場所を借りながら、二人で走った距離は100キロ以上になる。自転車、汽車、船を乗り継ぎ、ニューヨークに到着するまでには4ヶ月という月日を要した。
しかし、その困難の中にあっても自由な気持ちを失うことはなかったようだ。自分たちの力ではどうすることもできない事が起きている中でも、想像する力さえあれば何者にも妨げられず自由でいられる。二人は、創作のよろこびを忘れることはなかったのだろう。一刻も早く遠くまで行きたいはずの旅の途中でも、紙と絵の具を買い求めている。
列車の中で役人にスパイと疑われた時には、自分たちの創作した「フィフィのぼうけん」をもっていたことで、その疑いを晴らし危機から救われる。夫妻と一緒に戦争をくぐりぬけたこの「フィフィのぼうけん」が、アメリカに渡った翌年『しりたがりやのジョージ』(邦訳『ひとまねこざるときいろいぼうし』)となって出版された。フィフィがジョージと名前を変えたのだ。
アメリカに渡る船の中では、既に、新しいアイディアを出し合っている二人の様子が、挿絵に描かれている。前向きな行動力、希望を見つけ出すことのできる二人の力が、長年に亘って子どもたちを喜ばせる、絵本をつくる原動力となっていたのだろうと思わせる。
著者が、レイ夫妻の旅の詳細を知りたいという思いで調べたことが、作家の生き方そのものを伝える絵本となった。読後、戦争についても考えさせずにはおかない絵本だが、力の湧いてくる絵本でもある。