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『ビッグTと呼んでくれ

K・L・ゴーイング作
浅尾 敦則訳
徳間書店
2007年3月
B6判 / 292p
本体1500円

クールな出会い
浮田優子



 まずは、この表紙を見て欲しい。かなり目を引く裝幀だ。太っちょの少年が、訴えるように何かを叫んでいる。
 
 この少年こそが、物語の主人公トロイ・ビリングズ。十七歳の高校生にして身長185センチ、体重134.5キロの巨体(横綱・朝青龍並みの体格!)である。彼はすぐに息が荒くなって、口からパフパフとバカみたいな音を出してしまうものだから、自分がいつもみんなの笑い者であると思い詰め、自殺をしようと駅のホームに佇んでいた。その時、ガリガリにヤセて汚れきった男が声をかけてきた。それがカートだった。カートはトロイの通う高校にたった一人しかいない本物のホームレス(!)で、パンクロックの天才ギタリストという『伝説の男』だ。カートは自分のギターラインを支えてくれる力強いドラマーを探していたのだ。彼に突然声をかけられたトロイは、少しばかりドラムを叩いたことがあると口をすべらせたばかりにバンドを組もうと誘われる。トロイは、カートが何気なく「おい、ビッグT」と自分を呼んでくれたのが嬉しくて、ドラマーになることをOKしてしまう。なぜならトロイは、これまで人からニックネームで呼ばれたことが一度も無かったからだ。生まれて初めてニックネームが付いた少年と『伝説の男』。二人は五週間後ライブハウスでのデビューを目指し、練習を始めるが…。
 汗っかきのデブ、ズタボロになったデブ、超絶デブ、クジラみたいな巨体のデブ、無責任なデブ…トロイの一人称で綴られるこの物語には、自分自身の情けなさを持て余すかのように、自虐的な言葉が頻出する。
 ボディーガードをやっている屈強な父や、ハンサムでスポーツマンの弟に比べて見劣りのする自分はドラムの腕はさっぱりだし、何をやってもダメな人間なんだといじける毎日だ。そんなトロイに不器用ながらも「おまえも、本当の姿をさらして生きるんだ」と言うカート。その言葉はトロイに真実を見極める洞察力と、ありのままの自分を受け入れようという心の変化をもたらす。
 カートは劣悪な家庭環境による疎外感からホームレスを続け、ドラッグにまで手を出し、「人生はクソだ!」と公言していた。しかし、その言葉とは裏腹に、音楽への熱い思いをトロイに語り始める。それまではただ一人ギターをかき鳴らすだけで周囲の人間を圧倒してきた彼にとって、目の前にいる相手に自分の思いを言葉にするのは初めての体験だったにちがいない。
 周囲の目を気にするあまり自分自身を見失っていたトロイと、拒否されることを怖れて他人を寄せ付けず、自分だけの世界に身を置いていたカート。価値観や生き方が違う二人は、お互いがかかわり合うことによって独自性を保ちながらも、自分たちが周りの人々と繋がっていることを発見していく。それは、二人の”アイデンティティ“が形成されていく過程と言えるかもしれない。カートの言葉を借りれば「こんなクールな出会いって、もう二度とないかもしれない」のである。
 登場人物の設定がいささか戯画的な感もするが、トロイの父、弟デイル、カートのバンド仲間オリーなど、二人を取り巻く人々も魅力的で親しみやすく描かれている。特に、カートがトロイに連れられ病院の救急室に運ばれていくシーンで、父がトロイに向かって「おまえを誇りに思うぞ」と言うセリフには泣けた。息子の成長ぶりをこんなにも率直に称える父親は、そうざらにはいないだろう。
 ライブは成功するのか?二人の関係はこの後どうなる? それは読んでからのお楽しみにしておこう。

 パンクロックって何?と言う人のために、訳者はあとがきで分かりやすい説明を付けてくれている。
 トロイと同年代の子どもたちにとって、この物語はきっとクールな出会いとなるに違いない。

(『子どもの本棚』2007年9月号掲載)

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