大阪府の原子力防災問題
臨界事故後に制定された原子力災害対策特別措置法を受けて進められていた大阪府の原子力防災計画の改訂作業は、2002年2月26日の防災会議で案が承認され、その後、国との協議を経て正式決定されました。大阪府地域防災計画原子力災害編
防災会議の承認に先だって、2001年12月19日から2002年1月21日までパブリックコメント制度に基づく意見募集が行われました。
大阪府の対象施設は、京大原子炉、近大原子炉と原子燃料工業などですから、検討の観点としては、
1.国の体制が整うまでの初動時に迅速に対応できる計画になっているか。
2.国が緊急事態宣言を発しない規模の事故でも、府独自に対応できる計画になっているか
を、まず考えればいいのですが、残念ながらどちらも失格です。
今後、修正されるよう取り組みを継続したいと思います。
以下は、組合で提出した意見書です。また、意見本文と府の見解は、こちらにまとめました。
[自治労府職提出意見]
観点1に関係する意見
| 意見@ | (該当箇所資料名:原子力災害応急対策編 第7節放射性物質及び放射線の影響の早期把握のための活動(緊急時環境放射線モニタリング等の実施)) |
| 意見内容 | 原災法で定める事故に該当しない特定事象発生後の段階(原災法10条の通報後の段階)で、緊急時環境放射線モニタリングの準備を行うとしているが、準備だけでなく緊急時モニタリングの実施を行うべきである。 |
| 理由 | ・特定事象の段階でも既に通常時の約百倍の放射線が検出されており、平常時のモニタリングの強化だけでは不十分である。 ・緊急時モニタリングの結果が対策の基礎になるので、できる限り速やかに実施に移すべきである。 |
| 意見A | (該当箇所資料名:原子力災害応急対策編 第13節屋内退避・避難誘導) |
| 意見内容 | 「第1 屋内退避及び避難に関する指標」で、屋内退避及び避難の措置を「国の勧告又は指示を踏まえ」行うとしているが、この「国の勧告又は指示を踏まえ」を削除すべきである。 |
| 理由 | ・「国の勧告又は指示」を待たずに判断できるようにするために、予測線量による指標が設けられている。 ・「国の勧告又は指示」を待たずに独自の判断でもできるように、「第2屋内退避・避難の勧告・指示」で規定されている。 ・国の原子力防災専門官が現地に常駐しているとはいえ、最悪の場合を想定 しておくのが防災計画であり、国の勧告又は指示が遅れる場合も想定すべきである。 ・できる限り早期に屋内退避や避難を行うことが被曝線量の低減につながる。 |
| 意見B | (該当箇所資料名:原子力災害応急対策編 第10節広域応援等の要請・受入れ) |
| 意見内容 | 指定行政機関等の長への職員の派遣要請等は、文書で行うとしているが、いとまがない場合は電話等でできる旨のただし書きを設けるべきである。 |
| 理由 | ・全国都道府県への応援要請では、ただし書きが設けられている。 ・特に初動時は一刻を争い、文書で行ういとまがない場合が想定できる。 |
観点2に関係する意見
| 意見C | (該当箇所資料名:原子力災害応急対策編 第1節基本方針) |
| 意見内容 | 原災法で定める事象に該当しない事故について、事故に対する周辺住民の不安、動揺等の緩和を図るため、周辺住民への情報提供、注意喚起を行うなどの対策を講ずるとしているが、このような対策では不十分である。原災法で定める事故同様に住民の安全確保対策を講ずると記述すべきである。 |
| 理由 | ・原災法で定める事故は、国が前面に出て対策を講ずべき大規模な事故であり、これに該当しないものでも安全確保対策が必要である。 ・放射線被曝にこれ以下なら安全と言う閾値はなく、事故による被曝はできる限りゼロに近づける必要がある。 |
| 意見D | (該当箇所資料名:原子力災害応急対策編 第2節府の組織動員) |
| 意見内容 | 原子力事故対策本部を原災法10条の通報があったときに、災害対策本部を原災法15条の緊急事態宣言のあったときに設置するとしているが、10条通報があった段階で災害対策本部を設置すべきである。 |
| 理由 | ・国が「緊急事態宣言」を行い「原子力災害現地対策本部」を設置する空間放射線量率は500マイクロシーベルト/時とされているが、この値は通常値のほぼ1万倍にあたり、わずか2時間浴びただけで一般人の年間許容線量に達する高い値である。 ・ 原災法の解説書においても「都道府県知事及び市町村長が現地の状況を踏まえ、自らの判断により災害対策本部を設置することは当然可能である」とされている。 ・ 宮城・福島・新潟・福井・島根・愛媛の各県の防災計画で原災法1 0条の通報があったときに災害対策本部を設置するとしている。 |
| 意見E | (該当箇所資料名:原子力災害応急対策編 第15節医療救護活動) |
| 意見内容 | ヨウ素剤の服用の防護活動は「国の原子力災害現地対策本部より指導・助言があったとき」とされているが、独自の判断でもできるようにすべきである。あるいは「国の指導・助言があったとき」と表現すべきである。 |
| 理由 | 国の原子力災害現地対策本部が設置されるのは、通常時の約1万倍の放射線が検出される大規模な事故時であり、それ以下の規模の事故などにおいては、府独自の判断又は国の事故対策連絡会議、原子力防災専門官の指導・助言でも、ヨウ素剤による防護が行えるようにすべき。 |
その他、国の防災指針の問題点と関係する意見
| 意見F | (該当箇所資料名:総則編 第3節災害の想定) |
| 意見内容 | 原子力防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲(EPZ)は、防災指針を十分尊重して、京大原子炉、原燃工から半径500mの地域などとしているが、それぞれの対象施設からの事故想定をもとに設定すべきである。 |
| 理由 | ・防災指針はあくまで目安である。 ・自治体が独自の事故想定に基づいて防災計画を立案することは、地域の実情により即したものになり、実効性が向上する。 |
| 意見G | (該当箇所資料名:総則編 第3節災害の想定) |
| 意見内容 | 計画の基礎とするべき災害(事故)の想定を示している点を評価するが、事故による放射性物質及び放射線の放出形態だけでなく、放出量と予想される被曝線量等も示すべきである。 |
| 理由 | 想定事故の規模は、防災計画立案の基礎的情報である。説明責任があると考える。 |
| 意見H | (該当箇所資料名:総則編 第3節災害の想定) |
| 意見内容 | 計画の基礎とするべき災害(事故)の想定においては、事業所外の運搬事故についても示すべきである。 |
| 理由 | ・事業所外運搬の場合は、民家にも近く影響が大きい。 ・京大原子炉からは放射能量の多い使用済み燃料の搬出が一般道を用いて行われており、万一事故が発生すれば影響が大きい。 ・頻度として多い原燃工への原料(ウラン粉末)搬入や製品の核燃料の搬出は、府下の高速道路等を通過しており、交通事故に巻き込まれる可能性など事故の可能性が否定できない。 |
| 意見I | (該当箇所資料名:原子力災害応急対策編 第7節放射性物質及び放射線の影響の早期把握のための活動(緊急時環境放射線モニタリング等の実施)) |
| 意見内容 | 緊急時の第一段階モニタリングの測定項目では、環境試料(飲料水、葉菜、原乳及び雨水)中の放射性ヨウ素、ウラン濃度とされているが、放射性セシウムを加えるべきである。 |
| 理由 | ・核分裂生成物の代表的な核種である。 ・第一段階モニタリングの結果により、飲食物摂取制限の実施を検討するとし、飲食物摂取制限に関する指標に放射性セシウムの表を掲げていることと矛盾する。 |
| 意見J | (該当箇所資料名:原子力災害応急対策編 第13節屋内退避・避難誘導) |
| 意見内容 | 退避及び避難に関する指標は、防災指針を引き写すのではなく、想定事故による予測線量から独自に低い値を設定すべきである。 |
| 理由 | ・防災指針の指標値(すなわち計画案の値)は、高すぎてJCO臨界事故でも役に立たなかった。住民避難は防災計画に基づかない村長の決断で実行に移されたが、避難基準がもっと低い値に設定されていれば、もっと早い段階で躊躇なく行うことができたはずだ。事故の教訓を生かすべきである。 ・福井県の防災計画は、防災指針の値よりも低い値を採用している。 ・想定事故での予測被曝線量との関係を説明するべきである。 |
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2000年10月28日、熊取町にある京大原子炉の制御室で火災が発生し、放
射能監視が出来なくなりました。大阪府と熊取町は町の体育館に災害対策本部を設置し・・・
いや、実際の話では幸いにしてありません。大阪府で初めて実施された原子力防災訓練です。
しかし、この訓練「初動体制の確立が図られる模様を映像に組み入れ、地域住民に分りや
すく見てもらえるようにしている」そうで、訓練なのか安全PRなのかわからないシ
ナリオでした。「熊取の防災訓練は漫画です。エライさんたちはすべて、しゃべる言
葉まで決まっていて、シナリオ通りに進行する事故(!!!)に対処しました。」と
の証言もあります。
臨界事故の直後、原子力災害対策特別措置法(以下「原災法」)が制定されまし
た。臨界事故では、国の対応がもっとも遅く、東海村村長の判断で避難が行われたに
もかかわらず、国が事故対策で前面に出るというこの法律には問題が多いと指摘をし
てきました。しかし、「悪いのは法律のせい」では何も解決しません。防災訓練をはじめ
とする対策を検証し、代案を提案することも必要でしょう。
原災法で新たに盛り込まれた対策のうち、目玉のひとつがオフサイトセンターで
す。オフサイトセンタ−とは緊急事態応急対策拠点施設の通称で、原子力災害に際し
て国、府、市町村をはじめとする関係者を一同に集め、情報を共有化し、緊急時の指
揮の調整をはかる所です。全国で21か所、新たに建物を建設することになっていま
す。
ところが、熊取町では京大敷地内、東大阪市では近大敷地内が立地場所として選
定されているのです。熱出力が1ワットと極端に小さい近大原子炉ではそれでもいい
かもしれませんが、熊取町の場合は原子炉と核燃料加工工場に近すぎるのではないで
しょうか。わずか400メートルしか離れていません。ちなみに、神奈川県が選定し
た場所は核燃料加工工場から5キロ、立教大学研究炉から8キロ離れたところです。
立地場所を再考するよう組合(自治労府職)で提案しています。(意見書はこちら)
緊急時、オフサイトセンターには国の現地対策本部が設けられ、総括政務次官が東
京から飛んできて本部長を務めることになっています。到着までの間は、オフサイト
センターに常駐している原子力防災専門官がアドバイスをすることにはなっています
が、臨界事故の例を見ても地元の自治体の即応体制が重要であることがわかります。
そこで、自治体が災害対策本部を迅速に立ち上げることができるかどうかが問題にな
るのですが、全国的に驚くべきことが起こっていることがわかりました。原災法では
国が「緊急事態宣言」を行い災害対策本部を設置する空間放射線量率は500 マイクロ
シーベルト/時とされています。この値は通常値のほぼ1万倍にあたり、わずか2時
間浴びただけで一般人の年間許容線量に達する高い値です。ところが、国は防災計画
策定時の事前協議で自治体の災害対策本部の設置基準についてもこの値に合わせるよ
う指導(!)を行っているのです。愛媛県は当初の改訂案で「5マイクロシーベルト
で災害対策本部の設置」と、国より百倍厳しい値にしていましたが、事前協議の結果
「5マイクロシーベルトで警戒本部又は災害対策本部の設置、500 マイクロシーベル
トで災害対策本部の設置」と後退させられています。大阪府の場合、防災計画改訂案
はまだ明らかにされていませんが、このような高い値にならないよう働きかけをして
いく必要があります。
防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲(EPZ:EMERGENCY PLANNING ZONE)
も、問題です。国のマニュアル(原子力安全委員会の防災指針や県地域防災計画作
成マニュアル)では、臨界事故後の改訂で研究炉や核燃料加工工場にもEPZの「め
やす」が設定されましたが、この「めやす」は災害想定が甘く、極めて狭い範囲(京
大炉の場合500m)とされています。しっかりした事故想定を行って、公開の上議
論し、対策範囲を決定すべきです。その際には住民の被曝限度が問題になります。ア
メリカでは、できる限り被曝量を小さくする防災対策を目指して、「ゼロ被曝避難」
が計画されています。日本の避難基準は、防災指針では50ミリシーベルトが提案され
ていて、この基準に当初の測定値が達しなかったことが臨界事故での避難を遅らせる
結果になりました。基準を見直す必要があるのに、安全委員会は行いません。大阪府
も現行防災計画で同じ値を採用していますが、それでいいのか追及しなければならな
いでしょう。福井県は、指針の値よりも5倍厳しい値を採用しているのですから、や
る気があればできるはずなんです。そして、影響力を持つのは市民の声です。
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