レンズの働き
幾何光学を一言で正確に定義するのは難しいので、私の理解している範囲でいいますと、光の道筋を直線で表現し、反射の法則と屈折の法則を基礎として、いろいろな光学系の仕組みを作図によって表現するやり方、ではないかと思います。比較的簡単な作図で、光学現象や光学器械の原理が理解できるので、中等教育では大いに利用されるべきだと思います。
ここではごく単純におおざっぱなお話をします。凸レンズも凹レンズも球面レンズで、球面であることによって生じる「球面収差」と呼ばれるズレや、色によって生じる「色収差」というズレは全く無視して考えます。理想的に薄いレンズを考えますので、作図上は線分でレンズを表現します。

@はまず基本中の基本。
★レンズ面の中央をレンズに垂直に貫く直線を光軸といいます。
★凸レンズには「焦点(focus)」というものがあります。凸レンズの場合、光軸に平行な光線がレンズ透過後に集まる点を焦点といいます。太陽は地球から1億5000万kmも離れているので、太陽光線はほぼ平行光線だとみなしてかまいません。ですから、晴れた日に凸レンズで太陽光線を集めるとき、レンズから、小さな太陽像までの距離が焦点距離になります。(紙に黒い模様を描いておいて、太陽光線を集光すると、レンズ面全体に入射した光のエネルギーが一点に集中するので高温となり、紙が焦げます。焦げる点ですから、焦点ですね。オリンピックの聖火はギリシャで太陽光線を凹面鏡によって集光し、その焦点の所にたいまつをかざして点火しました。テレビで見た方も多いと思います。英語の focus の語源はギリシャ語で「火」を意味する「Feuer」だそうです。)
★焦点はレンズの両側に同じ距離で存在します。上図ではfとf‘が焦点です。
★ABを物体とします。物体のあらゆる部分から、あらゆる方向に光が出ているのですが、その中からB点から出る光線についてだけ考察し、物体の他の部分から出る光については「以下同文」の形で済ませます。
★B点から出る光のうち、レンズの光軸に平行に進んできた光線は、レンズの後ろの焦点に向かいます。BCB’です。
★B点から出る光のうち、レンズの中心を通過する光線は、そのまま直進します。BOB’です。
★B点から出る光のうち、レンズ前側の焦点を通過した光線は、レンズ透過後光軸に平行に進みます。BC’B’です。
★この3本の光線を「代表光線」といって、像のでき方の作図に使います。ただ、作図上は3本が1点に交わる作図は結構難しいので、2本で済ませることも多々あります。
★一点Bから出た光線が、レンズ通過後、B’に集まりました。Bより少し下の点からの光はB’より少し上に集まるはずです。以下同文。
★よって、物体ABから出た光は、A’B’のところにそれぞれ集まってきます。A’B’のところにスクリーンを置けば、ABの像がそのスクリーン上に結びます。スクリーンはなくてもそこに像があることには変わりありません。
★このように、実際にある面上に光が集まって、スクリーンを置けばそこに像が映るようなとき、「実像」といいます。
★また、物体に対して、像の位置関係は、正立か倒立かの関係が存在します。
★すると@でできたA’B’は「倒立実像」ということになります。
★凸レンズを用いて、焦点の外側に物体を置く時、必ず倒立実像ができます。(眼で見た時、逆さまの像が見えます。窓の外の風景が逆さまに壁に映ります。判っているようでいてやってみるととても楽しいので、実際に自分の手と眼で確かめてみるといいと思います。)
★物体が遠くなればなるほど、像は焦点に近づきます。逆に、物体が焦点に近づくと像は遠ざかっていきます。物体が焦点の上に来た時、像は「無限遠」に行ってしまいます。
★レンズと物体の距離を a 、レンズと像の距離を b 、焦点距離を f とするとき、下のような関係式が成立します。レンズの公式といいます。
★aが大きくなるとbはfに近づき、aがfに近づくとbは無限に大きくなっていきます。
★f=50mmのレンズのついたカメラで、無限に遠い被写体を写す時はレンズとフィルムの距離bはfに等しく50mmです。a=50cm=500mmの位置の被写体を写すためには、b=55.6mmとなります。フィルムの位置は変えられませんから、レンズを繰り出すことになります。近くの被写体を撮る時はレンズを繰り出さなければならないこと、無限遠から1mまで、ほんの何mmか繰り出せばピントを合わせられることが判りました。

★実際のカメラではレンズは1枚ではなく、複数のレンズを組み合わせていますので、話はずっとややこしいのですが、それでも主焦点というものを考えれば、おおよそこの話が通用しますので、話の筋書きが誤っているということはありません。
★では、物体が焦点の内側に入ってきた時はどうなるのでしょう?式の上ではaがfより小さくなると、bは負になります。それはいったいどういうことなのでしょう。

Aは凸レンズのもう一つの使い方です。
★物体ABをレンズの焦点の内側に置きました。するとBから出た光はレンズ通過後、交わらず、かえって広がってしまいます。ところが、目で見た場合この広がる光はあたかもB’から出てきたように見えます。物体上の他の点についても以下同文。すると、目で見るとA’B’という大きな像が見えることになります。
★A’B’の位置にスクリーンを置いても像は映りません。何せ、そこに実際に光が集まるわけではないのですから。そこで、このようなスクリーンには映らないが、目で見た場合そこから光が出てきたように見える像を「虚像」といいます。スクリーンには映りませんが、そこから光が出てきたように見えるということは、その位置に物体があるのと同じことですから、写真に撮ることはできるのです。ここは間違えやすいので、要注意。虚像は「ない」のだから写真には写らない、とは考えないでください。
★A’B’は「正立虚像」です。
★この使い方は「虫めがね」ですね。虫めがねでは実物より大きな正立実像を観察するわけです。虫めがねを使う場合、物体は焦点の内側でなるべく焦点に近いところにとらえ、眼はなるべくレンズにくっつけて見る、というのがレンズの性能を十分に発揮させる使い方です。
★この場合も先に挙げた関係式は成立していて、像の位置が物体と同じ側に来てしまったことが「負」という形で表現されているわけです。

Bは凹レンズの性質です。
★凹レンズでは光軸に平行に来た光はレンズ通過後、あたかも焦点から進んできたかのような方向へ進みます。
★レンズの向こう側の焦点へ向かう光は、レンズ通過後光軸に平行に進みます。
★レンズの中心を通る光は、直進します。
★これらの代表光線を使って作図します。
★すると、凹レンズの場合、物体の位置にかかわらず、実物より小さな正立実像ができます。
★凹レンズの場合も@であげた関係式は成立していて、bとfが負で扱われることになります。

Cは、いよいよ顕微鏡の原理です。(作図はいい加減ですが原理だけ理解してください。)
★観察対象は微少なものです。そこで口径は小さいけれど焦点距離の短い対物レンズを用意します。その対物レンズの焦点のすぐ外側に観察対象の物体ABが来るようにします。すると、レンズの後方かなり遠い位置に倒立実像A’B’ができます。
★この倒立実像A’B’が比較的焦点距離の長い接眼レンズの焦点のすぐ内側にできるように、顕微鏡の筒長というものは設定されています。
★接眼レンズは虫めがね的に働いて、A’B’の正立虚像A”B”をつくります。もとのABに対しては倒立の虚像ができたことになります。
★顕微鏡を使ってみればすぐ判りますが、視野の中に見えている物体を右に動かそうと思ったら、スライドグラスは反対の左に動かさなければなりません。そのわけは、倒立像だからですね。
★虚像はカメラに写すことができます。目の位置にカメラを入れて顕微鏡写真を撮影することはできるわけです。

★最後に、余談ながら望遠鏡の原理を。
★Dは天体望遠鏡の原理です。遠い物体を想定しているので、平行光線で話をした方がよいのかもしれませんが、地上の遠くの物体を見ていると考えてください。
★顕微鏡と同じく、物体の倒立実像をつくり、その実像の正立虚像をつくって観察します。ただ、対物レンズは大きく焦点距離は長く、接眼レンズは小さく焦点距離は短く、という作り方になります。
★実物に対して倒立虚像を観察しますので、月や星を見る分にはさして問題はありませんが、地上の物体を見ると逆さまになってしまいます。

★それに対して、Eに示したのは、ガリレイ望遠鏡といって、接眼レンズに凹レンズを使います。すると、物体に対して正立虚像が得られ、観察しやすくなります。倍率は低くなりますが、明るく見やすい像です。(図は実にいい加減です。描いていて嫌になるほどですが、勘弁してください。)
★ガリレオが天体観測に用いた望遠鏡は約30倍の倍率があったようです。1610年1月7日の夜ガリレオは彼の手製の望遠鏡で天体観測を行いました。これが望遠鏡による人類初の天体観測だと言われています。
★銀河が星の集団であること、木星には4つの衛星があること、土星に輪があること、月には山があること、太陽には黒点があることなどを次々と発見しました。この一連の発見は「星界の報告」岩波文庫で読むことができます。
★イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストという木星の4つの衛星は「ガリレオ衛星」と今も呼ばれています。
★ガリレオは、影の長さから月の山の高さも推定しています。
★太陽に黒点があるということは、教会には受け入れられませんでした。完全無欠であるはずの天界の中心たる太陽に「しみ」があるということは受け入れがたいことだったのでしょう。
★上記、岩波文庫の「星界の報告」の後ろに、黒点観測の図が載っています。横軸を時間に、縦軸に図中の黒点の位置をプロットしていくと、正弦曲線の一部が現れてきます(黒点が太陽の向こう側に行ってしまった時は見えませんので、「一部」であることは仕方ありません)。周期は太陽の自転周期に一致しており、ガリレオの観測およびその記録は、恣意や解釈、ねつ造の全く入っていない事実の記録であることが、このことからも保証できます。
★ガリレオは、「物体は力が働かない時円運動をする」と考えており、これをガリレオの慣性といいます。円運動は天体の運動であり、完全な運動であるという考えから完全には脱却できなかったのでしょう。ガリレオの地動説で、太陽を中心として地球が円運動をしていると主張する時、力の働かない場合の円慣性を考えていました。また、木星の衛星が木星の周りを回っている、ということのアナロジーが、地動説を考える上で大きな役割を果たしたものと思われます。(デカルトは直線慣性を考えていましたが、教会をおもんぱかって、現実世界には強く当てはめていません。ニュートンになってやっと、近代的な慣性の法則に辿り着きました。イギリス国教会がローマ教会から離れたポジションをとっていたことがニュートンにとっては有利だったとも考えられます)。
★電子顕微鏡についてひとこと。透過型電子顕微鏡は、ひとことでいうと、ブラウン管テレビに似ています。ブラウン管テレビでは、ブラウン管の根本のところに、電子銃という電子発生源があります。
★電子は負の電荷を持っているので、正の電圧のかかった電極に引かれますので加速することができます。
★電荷を持った粒子は磁場とも相互作用します。そこで偏向コイルという電磁石で電子線の方向をコントロールし、ブラウン管の画面を「走査(スキャン)」します。
★ブラウン管の表面に磁石を近寄せると、画面に映っている像がゆがんだり、色がにじんだりします。これも、電子線が磁石の影響を受けていることの証拠です。
★電子顕微鏡では、ブラウン管と同じように、電子銃があり、電圧をかけて加速します。この電圧が加速電圧といい、電子顕微鏡の倍率に影響してきます。
★ブラウン管では電子線を左右に振ると同時に上下に移動させて画面を描くわけですが、電子顕微鏡では「電子レンズ」といって、コイルを巻いて、電子に対する磁力の影響が、光に対する凸レンズの働きと同じになるようにします。この電子レンズを何枚も組み合わせて拡大像を得るわけです。
★最後に電子線は蛍光板に当たって、目に見える像をつくるのです。