冶金・電気分解


 人間は古代から金属を利用してきました。金は自然金として、銀や銅も少ないながら自然銀や自然銅の産出もあったようです。鉄も初めは隕鉄の利用から始まったという話もあります。しかし、金属は、電子を失って=酸化されて=さびて、酸化物や硫化物として産出するものが圧倒的に多く、金属を利用するためには、還元して金属を取り出すという作業が必要です。これが「冶金」という技術です。人間が昔から利用してきた金属は大抵、炭素=木炭や石炭などを還元剤として用いることで還元できました。身近な金属、鉄、銅、アルミニウム、チタンなどについて簡単な説明をしましょう。

 

★鉄(Fe)

出発は基本的には酸化鉄(V)、Feです。これをコークスとそこから発生する一酸化炭素で還元して鉄を得ます。

        Fe → Fe → FeO → Fe

と還元されます。CとCOが還元剤です。

 

★銅(Cu)

銅鉱石は、硫化銅や酸化銅です。これを還元して金属にしたものが「粗銅」で、約99%程度の純度です。この粗銅を板状に加工し、すでにできている純銅板と交互に並べて硫酸銅溶液に浸し、粗銅板を陽極にして電気分解します。

すると、陽極では粗銅が酸化されて電子を失い、銅イオンとなって溶解します。

陽極:Cu → Cu2+ + 2e

 

一方、陰極では銅イオンが電子をもらって還元され金属の銅が析出します。

        陰極:Cu2+ + 2e → Cu

 


なんだか、溶かして析出させるという無駄なことをしているように見えますが、そうではありません。陽極で粗銅が酸化されて溶出するとき銅以外の物質は溶出できずに固体のまま陽極の下に沈積するのです。これを陽極泥といいます。このように銅だけが溶出していって、銅だけが析出するので、銅の純度が格段に上がるのです。粗銅で約99%だった純度が、約99.99%程度まで上がります。このようにして精製された銅を「電気銅」といいます。

 また、銅の鉱石には金や白金などが「不純物」として含まれることも多いので、陽極泥では逆に金や白金の濃度が上がっていることになります。そこで陽極泥をさらに電極板に成形して、そこから白金や金を取り出します。また、金鉱石から金を取り出すに当たって、専用の炉を作ってもコストが引き合わないことがあります。そこで、金鉱石を銅鉱石に積極的に混入して銅の精錬過程を経て、陽極泥から金を取り出すということもしています。

 

★ハンフリー・デービー(Sir Humphry Davy、 1778〜 1829)は、1807年に、ボルタ電池を用いてさまざまな物質の電気分解を行い、カリウム、ナトリウムを発見し、翌1808年にはやはり電気分解によって、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マグネシウムを発見しました。炭素による還元ではなく、酸化物に直接電子を与えて還元するという方法の始まりです。デービーは硫酸アルミニウムを含む「礬石」の電気分解も試みたようですが、アルミニウム単体の分離には成功しませんでした。

 

★アルミニウム(Al)

 アルミニウムは元素の存在度としては多いのですが、酸化されやすく天然にはイオンとしてしか存在しません。上記のようにデービーも単利には成功していません。成功したのはデンマークの物理学者エルステッド(H.C.Oersted, 1777〜1851)で、1825年のことです。(現在エルステッドは電流の磁気作用を発見した物理学者としてより知られています)。アルミナから塩化アルミニウムを作り、カリウムア・マルガム(液体の水銀に金属が溶けた合金をアマルガムといいます)を加え熱するという化学的方法を考案しました。ここで起こっていることは、カリウムが電子を放出してアルミニウムイオンを還元する、ということです。


 エルステッドが得たアルミニウムは純度の低いものでした。尿素の合成で知られるF.ヴェーラーは、1827年、エルステッドと同様の方法でアルミニウムを得、金属としてのアルミニウムの性質を初めて記述しました。(ヴェーラーは、アルミニウムのほかにベリリウム、イットリウムも同様にカリウムによる還元で得ています)。

フランスの化学者ドヴィーユ(Henri Étienne Sainte Claire Deville, 1818〜1881)は1854年、金属ナトリウムによる還元法を開発し、ナポレオン3世の後援を得て製造法を完成しました。しかし、この方法で得られるアルミニウムは極めて高価な金属でした。1855年のパリの万国博覧会にアルミニウムの見本が出品されたそうです。ドヴィーユはヴェーラーに敬意を表して、ヴェーラーの名前と1827の年号だけの入った簡素なメダルを鋳造し贈呈したという逸話も残っています。

貴金属並みに高価だったアルミニウムは、アルミナと氷晶石の溶融電解法の登場により広く一般的に使われるようになりました。この電解法は、アメリカのホール(Charles  Martin Hall, 1863〜1914)とフランスのエルー(Paul Louis Toussant Héroult, 1863〜1914)により発明され、ホール・エルー法として現在に至っています。この二人は互いに面識もないまま、大西洋を隔てた別々の場所で、同じアルミニウム電解法を発見しました。1888年に、オーストリアのK.J.バイヤーが、ボーキサイトからアルカリ溶液でアルミナを抽出する湿式アルカリ法を発見し、バイヤー法とホール・エルー法を組み合わせることで、現在のようなボーキサイトからアルミナを経てアルミニウムを製造する技術がそろうことになりました。

 

アルミニウムの融解電解の概要

ボーキサイト(アルミニウムの鉱石、主成分はAl・nHO。酸化鉄を含むため色は赤い)。

        ↓ 水酸化ナトリウム溶液に溶解。酸化アルミニウムは溶解し、酸化鉄は溶解しない。

Na[Al(OH)] (アルミン酸ナトリウム)

        ↓ 加水分解

Al(OH) 水酸化アルミニウム

        ↓ 加熱

Al  酸化アルミニウム(融点は約2000℃)

    ↓ 

        ↓← NaAlF(氷晶石)

        ↓ 氷晶石を加えることによって融点が下がるので、約1000℃で融解して液体にする

  電気分解

        ↓

  アルミニウム(アルミニウムの融点は660℃なので融解して状態で電解槽の下にたまる)。

 


陰極での反応(還元):4Al3+ + 12e → 4Al

陽極での反応(酸化):3C + 6O2−     → 3CO + 12e−   

トータル      :2Al3 + 3C   → 4Al + 3CO

 

 電解を繰り返すことで99.999%以上の高純度にできます。

 

 アルミニウムは電気の缶詰め、とよく言われます。清涼飲料水やビールのアルミ缶の重さは,350ml缶で約18gですが、この18gのアルミニウムをつくるために、家庭用の100Wの白熱電球を約53時間灯すだけの電気が必要だ、ともいいます。と「いわれた」だけではつまりません。根拠を探ってみましょう。

Al3+ + 3e → Al

 

 この式が表していることは、アルミニウム原子1個をつくるために、電子が3個必要だ、ということです。アルミニウム原子100個なら電子は300個、アルミニウム原子1兆個なら電子は3兆個・・・アルミニウム原子6000垓個なら電子は3×6000垓個です。この「6000垓個」という個数は化学の世界では重要で、どんな原子も分子もいかに軽いものではあっても、さすがに「6000垓個」も集めれば天秤に引っかかるようになり、ちょうど原子量や分子量に「g(グラム)」をつけただけの重さになるのです。そこで、「6000垓個」の集団のことを化学では「モル(mol)」という名前を付けて扱うのです。トマト「ひとやま」100円、みたいな「ひとまとめ集団」の名前と、気軽に思ってください。たいしたことではありません。

 さて、アルミニウム原子を6000垓個=1mol集めると、(教科書や参考書の資料を見ると、アルミニウムの原子量は27ですので)27gになります。アルミニウムを27g作るには、電子が3×6000垓個=3mol必要だということがわかりました。電子は重さでは扱いません。「電子の液体」とか「電子の結晶」があるわけではナシ。電子が動けば電流です。電流はアンペア(A)という単位で測ることはご存知でしょう。1アンペアとは「1秒間に1クーロンの電気量が移動すること」です。(1A=1C/s)。

 ここで登場するのが「ファラデー定数(F)」です。高校の化学で出てきて頭を悩ませた人も多いと思いますが、何のことはありません、電子の個数と電気量を結びつける媒介の定数です。電子1個が持つ電気量は「1.6×10−19 クーロン(C)」ですから、電子6000垓個の電気量は掛け算すればよいわけで、(定数ですので少し精度を上げて計算すると)

6022垓×1.602×10−19 C = (6.022×1023) × (1.602×10−19 C)≒96500C

ファラデー定数 F=96500 C/mol です。

 

 さて、残るは比例計算。アルミニウム27gを作るのに96500×3C必要ですから、アルミニウム18gを作るには何クーロン必要でしょうか?

27:18=289500:

x=289500×(18/27)=193000C

となりました。

 100Vの電源に100wの電球をつなぐと1Aの電流が流れます。1A=1C/sですから、193000C流れるには193000sかかります。1時間は3600秒ですから、

193000/3600=53.6時間

やっと出た!これが根拠だったんですね。

100wの電気器具で53時間。1000w=1kwなら5時間です。ワット(w)というのはエネルギー消費率です。ワットに時間を掛けると消費エネルギー量になります。つまり、18gのアルミニウムを作るのに100w×53h=5300wh(=5.3kwh)というエネルギーが必要だ、というのが一番本質的な言い方でしょう。(家庭に来る電気の請求書を良く見てください。何に対して電気料金というお金を払っているのでしょう?多分kwhという単位があると思います。つまり、電圧とか電流とか何ワットの冷暖房気を使っているか、ではなくて、「使った電気エネルギーの量」にたいしてお金を払っているのです。)

 電気料金の高い日本ではアルミニウムの地金製造はしていません。水力発電などで電気料金の安い国で作った地金を輸入しています。これは、エネルギーの輸入であり、ある意味で「水の輸入」にもなっているといえましょう。リサイクルでアルミニウム地金を作るのに必要なエネルギーは、ボーキサイトから作るときのエネルギーの20分の1程度といわれています。資源の有効活用であると共に、エネルギーの節約なのです。

 アルミニウムは非常に活性の高い金属で、空気中で酸素と結びついて表面に薄い酸化アルミニウムの膜が形成されています。この膜は丈夫で、内部を保護する膜となります。(鉄のサビは膜にならず、サビができても内部へ内部へとサビが進行していくのとはずいぶん違っています)。この酸化アルミニウムの膜を人工的に厚く作ったのが「アルマイト」です。硫酸酸性の溶液中でアルミニウムを陽極にして電気分解すると、化学的に不活性な電極なら酸素ガスが発生するところですが、アルミニウムは酸化されやすいので表面に酸化膜を生じるわけです。陽極酸化の例です。アルマイトの表面は多孔質の膜なので安定した染色ができカラフルなアルミ製品ができ、付加価値が高まるわけです。(アルマイト処理は、もともと1931年に理化学研究所が商標登録した名称だったそうです)。

 

★チタンの製造

チタンも元素としては存在量の多い元素で、軽くて頑丈なので用途は多岐にわたるのですが、還元が難しく、加工も難しかったので最近まで余り使われてきませんでした。戦闘機のような金に糸目をつけない分野から利用は始まりました。今では、メガネフレーム、カメラボディ、自転車のフレーム、フライパン、時計・・・いろいろなところでお目にかかるようになりました。

一般的なクロール法によるチタン精錬の流れは大雑把に下のようです。

 


この還元では金属のマグネシウムを溶解して(マグネシウムの融点は約650℃です)、そこへ液体の四塩化チタンを滴下して、マグネシウムの還元力で還元しています。これではチタンが高価格になるのはやむを得ません。

 

 

 


1998年12月14日付けの朝日新聞に「マグネシウム発火して爆発:兵庫・尼崎の工場」という見出しの記事があり、同じ日の毎日新聞には「チタン工場爆発・炎上:兵庫・けが人無し」という見出しの記事がありました。 チタン製造工場の火災だったのですが、出動した消防隊は火事が収まるまで放水はできなかったそうです。溶融したマグネシウムに水がかかったら水素が発生して、それこそ大爆発になってしまうからですね。

Mg+2HO → H + Mg(OH)

 

★最後にオマケ:水の電気分解

 水を電気分解すると水素ガスと酸素ガスが体積比2:1で発生するというのはずいぶん低学年で勉強するのではないかと思います。ただ、純粋な水は電気を通しにくいので、硫酸か、水酸化ナトリウムを加えて電気を通りやすくして電気分解します。

 

●酸性の場合(Hが豊富にある)

  陽極:2HO → O + 4H +4e

 

陰極:4H +4e → 2H

 


 この場合は陽極で「水分子の酸化」が起きているわけです。

 

●アルカリ性の場合(OHが豊富にある)

  陽極:4OH → O + 2HO + 4e

 


  陰極:4HO + 4e → 2H + 4OH 

 


 この場合は陰極で「水分子の還元」が起きているわけです。

 

いずれにしても、トータルでは

2HO → 2H + O

で、水が(電気)分解されて水素ガスと酸素ガスが2:1の割合で発生することに変わりはありません。ただ、水分子が酸化されたとか、還元されたということをはっきりと述べている本は少ないような気がします。ここで、改めて理解してください。

 水分子から光のエネルギーを使って電子を奪い取って酸化し、このとき酸素ガスが発生する、という出来事は、実は「光合成」のところで重要な反応ですので、そのときにまたお話します。

 

★もう一つオマケで:金属と水の反応

 高校の化学で、イオン化傾向を勉強すると、カリウムやナトリウムやカルシウムなどの金属は「冷水」と反応し、マグネシウムは「熱水」と反応する、というようなことを学びます。代表例としてナトリウムで考えて見ます。

 2Na + 2HO → H + 2NaOH

(2Na + 2HO → H + 2Na + 2OH

 


 この場合、還元剤としてのNaがとても強いので、安定な水分子が強引に還元されているのだ、という視点はほとんど書かれていません。大事なことだと思うのですが・・・。

 

 

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