モアレ 空間的うなり または 「穴モアレ」


まずは、この話を書きたくなった、きっかけの現象をご覧下さい。

写真1

鉄板に3mm程度の穴が3方向に規則正しく並んでいます。穴は完全な正三角形配列にはなってはおらず、水平方向で8mmくらいの間隔、これに約60度で交わる2方向では少し間隔が大きくなっています。理想的には3つの穴が正三角形になっているとよいのですが、多少ずれていても話の本質は変わりません。それぞれの直線上では等間隔だ、ということが大事です。

そういう穴の開いた鉄板2枚のうち1枚を窓に垂直に立てかけ、10cmほど離してもう1枚をブックエンドと本で立てました。そして2mくらい離れたところから撮ったのが写真1です。ボーっと明るいスポットが三角形を基本形にして並んでいます。

ちょっと見づらいのですが、鉄板の右にあるのが30cmの竹製ものさし。これと見比べていただけると分かると思いますが、明るいスポットの間隔はずいぶん広いですね。

この現象を生み出している要素である「小孔」は直径3mm、間隔が8〜9mmであるのに、現象としてのスポットは、輪郭ははっきりしませんが直径3cmくらいはあります。間隔は7〜8cmはあるでしょう。

なんだか小孔が配列ごと拡大されて見えるような感じですね。

この2枚の鉄板に近づくと、スポットは小さくなり、スポットの間隔も狭くなります。逆に遠ざかればスポットが大きくなり、その間隔も広くなります。

スポットの見え方は、2枚の鉄板の間隔と観察位置までの距離の相対関係で決まります。

写真では止まった状態しか見えませんが、実際に観察しながら頭を動かしたり前後に移動したりすると、それにつれて見え方が変わっていくのでとても面白い現象です。

 

●この現象に気づいたのは、もう5年ほど前でしょうか。勤務先の学校の改築中に、臨時の理科職員室にあったテーブルの側面の鉄板に、小さな穴がこのように三角形配列であいていて、この現象に気づいたのでした。その時は写真も撮らず面白い現象だと思っただけでした。

1年ほど前、近所のスーパーの公衆電話の台で同じ現象を見つけました。でも、店内で写真を撮るのは申し訳ないしどうしようかな、と迷っていたのです。

ところが、私の使っている簡易パソコンデスクにこの鉄板が2枚あることについ最近気づいてしまって、お披露目したくなってしまったわけです。

 

この現象は、モアレ現象です。

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モアレmoiré フランス】(波形模様の意)

@絹織物の一。タフタに木目もくめを織り出した張りの強い織物で、表面に波状の光沢がある。無地。イブニング‐ドレス・カクテル‐ドレスなどに使用。また、リボン用。

A点または線が幾何学的に規則正しく分布したものを重ね合せた時に生ずる縞状の斑紋。網版印刷物を原稿として網版を複製する時などに起りやすい。

[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

 

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%82%A2%E3%83%AC から引用。

モアレまたはモワレ (仏語moiréから)は干渉縞ともいい、規則正しい繰り返し模様を複数重ね合わせた時に、それらの周期のずれにより視覚的に発生する縞模様のことである。

 モアレそのものも周期を持ち、この周期は元になる模様の周期の組み合わせで決まる。物理学的にいうと、モアレとは二つの空間周波数のうなり現象といえる。様々な形態で発生するため、モアレにもいろいろなものがある。モアレを望ましからぬものとして取り除く対象にする場合もあり、逆に発生したモアレを有用なものとして利用する分野もある。

 ・・・

縦横に並んだ模様(金属板に開いた丸穴)の重なりによるモアレの例を示す。これは二次元空間周波数のうなりである。

 ・・・

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上の、Wikipediaからの引用の中に「二つの空間周波数のうなり現象といえる」とあります。また、私が提示した、穴の開いた2枚の板から生じる明暗パターンの写真も掲載されていますが、詳しい説明はありません。

冒頭の私の写真1もこのモアレの実例なのですが、「空間周波数のうなり」といわれても、なかなかスッと理解はしにくいので、説明を試みたいと思います。

 

お寺の鐘の音が「グォーン ォーン ォーン・・・」とうなる「音のうなり」をご存知でしょう。鐘の音が空気中を時間と共に進行してきて耳に届き、「うなり」は音の大きさの時間変化として認識されます。

この、時間と共に進行する「うなり」現象の「空間バージョン」といいましょうか、周期的な模様から発生するうなり模様」についてお話します。

 

まずは、「音のうなり」から。

除夜の鐘を遠くで聞いていると、鐘の音が「高低変化」ではなく、「強弱(大小)変化」をしますね。こういう変化を「うなり」といいます。

 一つの鐘から、微妙に振動数の異なる音が2種以上発生していて、その振動数の異なる音が重なり合うと「うなり」が聞こえるのです。

 鐘という音源は一つなのに、どうして複数の音が発生するのか、詳しい説明は略しますが、簡単に言うと、鐘という「鋳物」には文様、文字などいろいろ凸凹があって、質量分布が均一ではありません。そのため、一つの物体でありながら、複数の振動状態(モード)が共存できてしまうのだと考えてください。

「うなり」という現象は除夜の鐘以外では、日常生活ではあまり意識することはありませんが、楽器を弾く人なら意識していらっしゃるかもしれません。絶対音感のない身としては、ベースなどのような低音のチューニングはつらいものですが、標準音と同時に鳴らして「うなる」ようならチューニングがあっていないのですから、うならなくなるまで弦の張力を変えてチューニングすればいいですね。

 

さて、少し音の物理を。

振幅を1とし、位相は省略して、音源の振動は

 y=sin(2πft)

  と書けます。ここで、fは振動数で、周期Tの逆数であり、tは時間です。

下のグラフは、=11の振動と、=10の振動を、ただグラフに描いたものです。2秒間の振動です。

この二つの振動を足し合わせたものを一緒に描きこんでみましょう。

 黒で描いたのが二つの振動の和です。

出だしでは二つの波はほぼ一致していますから和は1+1=2で、振幅が2近くまで行っています。

0.5秒後、二つの波の山と谷が重なるようになって、振幅が非常に小さくなっています。

1.0秒後、再び重なりが大きくなって、振幅が2近くになります。

1秒に1回、音の振幅の最大が来ますね。これが耳には「1秒に1回うなっている」と聞こえるわけです。

 

三角関数の「和の公式」というのを思い出してください。

でした。

では、f=11とf=10 の振動を足してみましょう。

 

ですから、合成波の式は

 となります。

 この式を次のように解釈してみましょう。

  赤で書いたcosの部分を振幅とする波動の式が青で書かれている

すると、合成波の振動数は要素になった波動の振動数の和の半分=10.5

  合成波の振幅の振動数は要素になった波動の振動数の差の半分= 0.5(周期としては2秒になります。)

 です。

アレッ、「うなりは1秒に1回聞こえるんじゃなかったっけ?」

そうです。耳に聞こえる「うなり」は1秒に1回ですが、物理現象としての周期は2秒なのです。それは下のグラフを見て納得してください。

 で描いた合成波(2秒間で21回振動しています)の振幅は1。そこへで描いた振幅を表すcos関数をかけます。コサインの値がマイナスになっても、反転するだけで振幅の大きさは変わりませんから、コサインの周期は2秒ですが、耳に聞こえるうなりは1秒に1回なのです。

うなりを起こす二つの音の振動数の差は小さなものだと言うことが知られています。振動数の差が大きすぎるとうなりは聞こえません。

普通、耳にする音の振動数の桁は100〜1000の桁です。(可聴音は20Hz〜20kHzといいますが。)

 一方の音の振動数をfとし、もう一方の音の振動数をf=f+nとおいたとき、nは1とか2とか、あるいは0.5とかいうような値ですから、fに対して小さなものです。ですから

こう考えて、合成音の振動数は元の音の振動数と同じであると考えてよいでしょう。

うなりの方は、物理的な振動数はn/2ですが、耳に聞こえる回数でいうと

1秒間に−f=n 回聞こえる

のです。

1秒間にうなる回数は、二つの音の振動数の差に等しいのです。

 差が大きい時、うなりがたくさん聞こえ「汚い音」になります。差が小さくなるとうなりの回数は減り、除夜の鐘などでは2秒に1回とか、3秒に1回とかいう、ゆっくりしたうなりになり、振動数の差がない場合、当然、うなりません。

 

さて、ここまでは音の波の時間的なうなりを説明しました。

 

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今度は、空間的うなりに移っていきましょう。

図1は、要素の音の振動は描かずに、合成されたうなりの振動だけを描いてみました。横軸は時間で、振幅(音の大きさ)の時間変化のグラフです。

 このうなりが時間の経過と共に耳に入ってくるのでした。

図2は、時間とは無関係です。単位長さ1の中に、10本と11本の線分をそれぞれ等間隔に描いただけです。出発点、長さ1のところ、長さ2のところで線分は一致して重なり、中間では大きくずれています。

図1と2は、横軸の意味は異なりますが、よく対応していますね。図2で線が重なるところでは、対応する図1では波の山と山、谷と谷が重なって振幅が大きくなり、図2で線がずれているところでは、対応する図1では山と谷が重なって振幅が小さくなっています。

図1

図2

図3

 

図3は図2と全く同じなのですが、線分の幅を広げてみました。幅があってくっついたりオーバーラップしたりして、濃淡模様が現れてきました。

 図1との対応づけで言うと、うなりの振幅が大きくなっているところが、図3では明るくなり、うなりの振幅が小さいところが、暗くなっています。

 

ちなみに図2,3は「十進BASIC」というフリーソフトの言語で下のようなプログラムを走らせて描かせたものです。「line width」を1にすると図2が、9にすると図3が描けます。

!------------------------------------------------

set window 0, 2.5, -0.5, 1.5

draw grid

!------------------------------------------------

let f1=10

let f2=11

 

for i = 0 to 25

   set line width 9

   

   plot lines: i*(1/f1), 0;

   plot lines: i*(1/f1), 1

   

   plot lines: i*(1/f2), 0;

   plot lines: i*(1/f2), 1   

next i

!------------------------------------------------

end

 

音のうなりと、線分(縞)の重なりによる「空間的うなり」を対照させておきましょう。

うなり → 時間的周期現象(音)の重ねあわせで「うなり」が聞こえる。

モアレ → 空間的周期現象(縞)の重ねあわせで「明暗模様」が見える。

 

この、明暗模様としてのモアレを、ここではこれから「うなり模様」と言う言葉で表現することにします。「うなり」そのものとは違う、空間的模様・パターンです、ということを意識しておきたいので。

 

足利裕人 編著「すぐ使える型紙つき つくる科学の本 2」株式会社シータスク 発行、2004年1月20日第一刷発行、という本があります。

 この本に、下の写真2のような、3種類のパターンを印刷した透明シートと紙が付録としてついていました。

(足利さんという方は、パソコンの初期の時代からBASICで書いた物理現象シミュレーション・プログラムを雑誌に連載したりして、その方面で有名な方です。)

写真2

↑左側は横方向の平行線、中央は左下がりの平行な斜線、右は横方向の平行線とそれに垂直な方向の平行線が交わる微細な「四角形」パターン、です。

(透明シートへの手差しコピーという環境がない私にとっては、こういう付録は貴重です。)

 

↑縞模様の紙の上に直接縞模様の透明シートを乗せても、向きがそろっている限り、大したことは起こりません。(パソコン画面の画素の並びと写真の縞模様でモアレを生じていたらゴメンナサイ。見る角度を少し変えてみてください。多少は改善されるかもしれません。)(斜めになった時の話はまた後で。)

 

写真3

 そこで、紙と透明シートとの間を離すことを考えます。紙は机の上に置いたまま。木の板を置いた上にガラス板を乗せてそこに透明シートを置きます。紙とシートとの距離は適当に、2〜3cmくらいです。

 この状態で真上から見下ろして写真を撮ったのが写真3です。

●明らかにうなり模様が生じていますね。

 

どうしてでしょう?下の図を見てください。

dは紙と透明シートの距離です。Lは眼(カメラ)と透明シートとの距離です。

さて、眼から角度θの範囲に見える縞の本数を数えてみてください。

 透明シート上の縞は9本、紙の上の縞は11本ありますね。

つまり同一の視角の中で、紙の上と透明シートの上の縞模様の本数が異なっていますから、「空間的うなり」が生じて、うなり模様が見えるようになったのです。(つまり、見かけ上相対的に、紙の上の縞模様の周期が短く、透明シート上の縞模様に周期が長くなったのです。周期の差があればうなりますね。)

 

dがゼロになったときが、直接重ねた場合です。もちろん縞の本数は同じになりうなり模様は生じません。

dはゼロでないとして、Lが大きくて遠くから見るときは、縞模様の周期の差が少ないので明暗のうなり模様は周期が長くなり、Lが小さくて近くから見ると縞模様の周期の差が大きくなって、明暗のうなり模様が細かくいっぱいみえることになります。

 

dとLについてのデータは残っていませんが、同じ紙とシートを使っても、下の写真のように、見えるうなり模様のピッチは全然違うことが分かります。(両方とも5cmの長さで比べています。)

↑これは「一方向うなり模様」というべきものです。

 

上のほうにあった写真3の、写真下方のもともとのパターンが格子模様だった場合のところをもう一度見てください。四角いうなり模様が見えますね。

もともとのパターンが直行する二つの縞模様であって、そのどちらの縞模様に対してもうなり模様が生じますので、このように四角いうなり模様が発生するのです。「二方向うなり模様」とでもいいましょうか。(Wikipediaいうところの「二次元空間周波数のうなり」です。)

↓これは、BASICで描いたものです。1単位長さの中に10本と11本の縞を直交する2方向で描き、線を太くしたものです。

 「二方向うなり模様」が発生しますね。

 

●ついに大詰めです。

写真4       写真5

↑これは写真。三角形の穴の配列がこのパターンを生み出しましたので「穴モアレ」と名付けましょう。写真4は遠くはなれて撮った写真で、明るいスポットは大きくスポット間の距離も開いています。写真5の方は近寄って撮影したものでスポットは小さく、数多く見えています。

 

↑これはBASICで描いたもの。

60度をなす縞模様が、三方向でうなり模様を形成すると「三方向モアレ模様」になるというシミュレーションです。

 

これでやっと、穴モアレはこの三方向モアレ模様の一つだったということが確定しました。

 メデタイ。(結構クタビレマシタ)

 (「二次元空間周波数のうなり」ですが「三方向」なのです。)

 

実際には「穴モアレ」は黒い縞のうなり模様ではなく、暗い背景の中にある、向うが透けている明るい穴が作るうなり模様というべきです。そこを拡大写真で見てください。

↓これは、穴モアレの明るいスポット一つの拡大写真です。中央付近では向うの穴とこちらの穴が完全に重なっていること、外側へ行くとだんだん穴の重なりがずれてくることがよく分かると思います。

重ねてしまえば同じピッチの穴が、間を隔てて立ててあるため、見かけ上のピッチが変わり、そのためにうなり模様を生じていることがよく分かるでしょう。

 

道のりは長かったですが、ちゃんと結論にたどりつけてホッとしています。当初の課題はこれで終わりました。

 

 

●ところで、モアレにはもう一つの現れ方がありますので、その話もしておきましょう。↓

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●足利さんの本の付録のシートですが、今度はちょっと別な形で観察して見ます。

写真6           写真7

 干渉縞模様

 下にパターンを印刷した紙を置き、その上にパターンを印刷した透明シートを直接乗せて、少し角度を変えると、写真6,7のような縞模様が現れます。2枚のズレ角が小さいと縞模様の本数が少なく(写真6)、角を大きくすると縞模様の本数が増えます(写真7)。このことを利用して、微小な角度を測定することもできます。また、右のパターンでは2種類の縞模様が直行して「四角い縞模様」が生じていることにも注目してください。この場合も二方向のモアレ縞模様が発生するのですね。

 

これは「モアレ干渉縞」といわれるパターンです。

 

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普通「干渉」という現象は、複数の波動の重ねあわせによって生じる新たな周期的現象のことです。

同じ振動数の振動体で少し離れた位置の水面を叩くと、2カ所で生じた水波の干渉が起こって、縞模様が見えます。このできごとのシミュレーションは下のホームページで見てください。よく分かります。

http://www-antenna.ee.titech.ac.jp/~hira/hobby/edu/if-j.html 

 

自分でも写真を撮ってみましたがあまりよく写っていません。ものさしの先に針金を巻きつけて2カ所で水面を叩けるようにし、偏心させたモーターとものさしを一緒に握って振動を起こし、水面を叩きました。写真はコントラストを強調してあります。左右同じ写真ですが、右は「ここに節の線が見えます」ということを描きこんだものです。いかがでしょう?

上の写真はつたないながら「波の干渉」の写真です。

下はこれを説明するためによく使う「モアレ干渉縞模様」です。

 同心円の、黒が波の山、白が波の谷、として、山と山・谷と谷が重なるところと、山と谷が重なるところをトレースして縞模様を描き出し、波の干渉縞と対応付けるものです。上図で黒い縞模様が浮き上がって見えますが、ここが山と谷の重なる部分で、水波では互いに打ち消しあって振幅が小さくなっている部分です。

 原理的にこれで間違いはないし、円の重ねあわせで双曲線の縞が現れてくることはとても面白いので、物理教材として悪いものではありません。

 ただ、この演習をやっただけで、現実の水波の干渉が理解できたといえるかどうかは疑問です。

 2点を打って水波を起こしているところを斜め上から撮った写真ですが、全然干渉縞が見えませんね。どこに干渉縞なんてあるのでしょう?

 目を低くして水面に近づけて、反射光で見ると、波源の間やその先に、まるで水面に「シワが寄ったような」感じで縞模様が見えるのです。

 現実の水波には減衰もありますし、とてもではありませんが同心円パターンの重ねあわせで見たような模様は見えません。初めての人には「みれどもみえず」の状態になりますから、どのように見たら、どのようなものが見えるのか、きちっと説明しないと現実の干渉縞は見えてきません。

現実の波の節の線は、重ねあわせパターンとはかなり違ったものです。

「現象とそのモデル」の関係をよく理解していないと、理解をあやまつことがあるということは肝に銘じておくべきことです。

 

そのほか、いくつか干渉の例をご紹介します。

二つのスピーカーを1mくらい離して、両方から同じ正弦波の音を流します。スピーカーの前面を横方向に移動しながら音を聞くと音が大きく聞こえる位置と聞こえにくい位置があることが分かります。これは音の干渉です。

音叉(チューニング・フォークでもいいですよ)を鳴らして、耳のそばで回転させると、音の強弱が変化します。これも、音の干渉です。

アインシュタインが来日中、京都・知恩院で釣り鐘の下にもぐりこんだという逸話を、朝日新聞2006年4月28日付けの記事で読みました。引用します。「鐘は突くと振動して空気が揺れ、ゴーンと聞こえる。ところが鐘の中には、空気に広がる音の波同士が打ち消しあい、音が聞こえない場所ができるのを確かめたかった」のだそうです。

 上図のように、大ざっぱに言って鐘は、赤い形、青い形というような振動をします。すると、中心部では音の波の圧縮と膨張が重なってしまうのです。このような音の「干渉」によって鐘の中では大音量の音は消えてしまうのです。

 

実は私も教員仲間との旅行で、観光客に鐘を突かせてくれるお寺に行ったことがあって、その時一人で突然鐘の下へもぐりこんだのでした。周りの人や教員仲間は「何をバカなことをやっているんだ」と笑っていましたが、同僚の物理教師が私の意図を察して、一緒に鐘にもぐりこみました。

 二人で鐘の中に立って聞いていると、棒が当たった瞬間「ゴン」というか「コン」という音は聞こえます。でも、外で「グォーン」と鳴っている大音量の音は全く聞こえません。面白いですよ。大きな音で耳を悪くするんじゃないか、と心配する人もいましたが、大丈夫です。

 実はさらに古い話で、私が少年の頃、NHKのラジオ科学番組で、この実験を聞いたことがあるのです。マイクロフォンを鐘の中央に持っていった場合音はどのように聞こえるのか、あるいは聞こえないのか、という実験でした。やはりほとんど聞こえないのでした。

 これを覚えていたものですから、自分の耳で確認することのできる場に出会った瞬間、思わず身をもって実験に走ったというわけです。

 

昔から、芝居小屋などで舞台の役者の声が聞こえなくなってしまうような席が存在することが知られていました。音楽ホールの設計でも、そのような席が生じることのないように設計します。これも大ざっぱに言って、舞台から直接届く音と、壁や天井から反射して届く音が「干渉」して、その席の場所でちょうど打ち消しあってしまうという現象です。

シャボン玉に虹のような色が現れることは誰でも知っています。これは、シャボン玉の膜に光が当たるとき、膜の外側で反射した光と内側で反射した光が「干渉」しあって、特定の色が強めあい、それ以外色が打ち消しあって生じる現象です。

このように、波動現象の干渉は、その波の波長程度に離れた位置からくる波が重なり合う時に顕著に生じます。水波ならcmの程度、音なら数十cmからmの程度、光なら100nmとかμmの程度の桁ということです。

また、「干渉」が起きるということが、その現象が波であることの証明となります。

17世紀のホイヘンスは光を波だと考えて、反射や屈折を説明しました。一方、ニュートンは粒子的世界観を持ち、光を「粒子」的なものと考え、これが長く続きました。

19世紀の初頭、ヤングはダブルスリットを用いて光の干渉の実験を行い、光が波動であることを証明しました。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%81%AE%E5%AE%9F%E9%A8%93 参照。

 干渉が見られるということは、波動であることの証明なのです。

ところが、アインシュタインは「奇跡の年1905年」に、光電効果を光「量子」で説明し、光の持つ粒子的性質を再度確立しました。

http://jp.hamamatsu.com/hamamatsu/domain/system/technology.html を見てください。浜松ホトニクスのホームページです。

 光を「光子」として1個1個捕まえる装置を使って、ヤングの実験をし、長時間露光すると干渉縞が現れるという写真が見られます。粒子としてとらえながら、波の干渉現象を観測するという、現代物理学の「量子論」の不思議な姿が見られます。

また、http://www.hqrd.hitachi.co.jp/em/doubleslit.cfm をぜひご覧下さい。電子線を使ったダブルスリットの実験のビデオが見られます。

 ダブルスリットを通った電子がどこに来るか、電子を1個1個検出しながら、長時間かけてみていると、明らかな干渉縞が現れてくるのです。電子はもちろん通常は粒子として扱ってかまいません。でも電子は「干渉」も起こすのです。ですから、電子には波の性質もあるのです。不思議ですね。でも、この結論から逃げるわけには行きません。「干渉」という現象は確固たる「波の証明」なのです。

 

以上のように、「干渉」という現象は波動の性質です。

 波が干渉して要素となった波の振動とは異なる周期的な現象が起き、それが縞模様を形成することを「波の干渉縞」と呼びます。

 

●ずいぶん回り道をしてしまいました。

はじめに戻って、細かい縞模様を、少し角度をずらして重ねると新たな縞模様が現れます。「縞模様」は空間的な周期的図形ですが「波動」ではありません。波動のモデルではあります。ですから、私個人としては「干渉縞」と呼ぶことに抵抗があります。「干渉縞模様(パターン)」と呼びたいと思います。

 扱っている対象が波動そのものなのか、そうでないのかは、いつもはっきりさせておきたいと思います。

写真6,7では要素としての縞模様の、黒と白のパターンを、波の山と谷というふうに対応付けて考えてください。

二つの波が出会ったとき、山と山・谷と谷が重なり合うところでは、波は強め合って振幅が大きくなり、山と谷が重なると波は打ち消しあって振幅が小さくなります。そうやってできた新たな周期模様を「干渉縞」というのでした。

写真6,7に見えるのは、二つの周期的図形が重なったときに生じる「干渉縞模様」です。

 

朝日新聞、2006年5月7日(日)の「be on sunday」の「技あり」に「ニセ札判別シート しま模様が出たら一安心」という記事が載りました。

 透明なポリエステルシートに、「1インチ当たり75〜140本の密度で線をシートに印刷」したものだそうです。1mm当りですと2.95〜5.51本の縞模様ということになります。このシートをお札に重ねると「最もくっきりとしま模様が出ることを突き止めた」そうです。

 で、その説明ですが、「シートはポリエステル製。表面には、黒い細線がびっしりと印刷されている。シートに印刷されたこの線と、お札の絵を構成する線のせいで光の干渉作用がおき、「モアレ」というしま模様があらわれるのだ。」とありました。

この説明、まちがっています

光の干渉が見える「グレーティング・シート」というものを売っていますが、これは1mmに数百本から千本という桁の溝を切ったガラスを型にして、そこから取ったレプリカです。このシートを通して蛍光灯などを見ると、「光の干渉」によって光が分光されます。

1mmに5本程度の縞では、光の干渉は起きません。光の波の波長とオーダーが違いすぎます。

シートの縞模様と、お札の縞模様のズレが、新たな大きなピッチの縞模様として見えるのです。ですからこれは「光の干渉縞」ではなく、印刷パターンの「干渉縞模様」なのです。

対象が何であるかを見誤ったために、誤った解説を書いてしまったようですね。

それはそれとして、このシート面白そうですね、何とかして手に入れたいものだと思います。

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追記:黒丸モアレ

↓ネコ用の缶詰の透明なシュリンク・パックに、こんな四角形を基本とした黒丸が印刷されていました。

 

↓このシート2枚の間にガラス板を挟んで、「2方向うなり模様」を発生させたところです。

 右の拡大写真を見ていただくと、黒丸が重なって見えているところからだんだんずれていって、やがてまた重なるまでがよく分かると思います。これが「うなり模様」の原理です。

 

↓2枚をぴったり重ねて、角度を少しずつ大きくしていったのが下の写真の左から右へ、です。「干渉縞模様」の一種ですね。写真6,7の右端の四角パターンから発生する干渉縞模様と比べてください。うなり模様とはでき方が異なることも分かると思います。

こんな模様ができることもありました。

 

↓ロールスロイスの写真です。5月10日付の朝日新聞の記事から引用しました。

 東京都が税滞納者から差し押さえた自動車の公売オークションで、落札されたロールスロイスです。

 前面に、モアレ干渉縞が現れていますが、これは、ラジエーターグリルの縦縞と、新聞写真の網点の間で生じた干渉縞模様です。

 実際の車に存在する縞模様ではありません。

 

パソコンの画素と画像の間でも干渉縞模様が発生することもあります。また、デジカメのファインダーは画素数が少ないので、縞模様を撮影するとファインダー上では縞が発生することがよくあります。実際の画像では画素数が多いので縞模様はない、ということが多いですね。

レースのカーテンの重なり、網戸との重なり、すだれの重なり・・・身の回りに、このようなモアレ干渉縞模様はたくさんあるはずですので、意識して観察してください。面白いですよ。

 

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●最後にちょっと別件なのですが。仏和辞典を引いたところ下のような記述がありました。

 

moire[mwa:r]n.f. 木理(もくめ), 波形

moire[mwa:r]n.m. [植]すいかずら(忍冬)

 

「ムワール」とでも表記すればよいでしょうか。男性名詞で「すいかずら(忍冬)」だそうです。

moiré なら「モアレ」でしょうね。意味としてはやはり「波形模様」で、このページの主題「モアレ」なのですが。

 

すい‐かずら【忍冬】スヒカヅラ:スイカズラ科の常緑蔓性木本。山野に自生。全株に褐色の細軟毛を密生。初夏、芳香のある白色または淡紅色の唇形花を開き、のち黄色に変る。黒色の液果を結ぶ。茎・葉を乾したものは生薬の忍冬(にんどう)で、利尿・健胃・解熱薬、花を乾して吹出物などの洗浄用とする。葉が冬でもしぼまないので、忍冬の名がある。金銀花。<季・夏>。〈本草和名〉   [株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

 

ちなみに英語で「スイカズラ」は、「honeysuckle」です。(蜜吸い、とでも訳しますか。)

 

 

●ちょっと疲れました。書き込みすぎですね。今回はここまで。

 


 

★BASICでプログラムを書き、シミュレーションをして見ました、ご覧下さい。(2006.05.19 追加)

「黒丸のモアレ」