密度測定の新しい方法について


:ガリレオの「小天秤」という論文を先に紹介しました。そこでは、物体の密度が、天秤の腕の上に分銅をかける「位置」として現れてくるのでした。しかし、現代の天秤は、通常、腕の長さは変えません。等腕にせよ不等腕にせよ天秤の腕の長さは固定されていて、分銅などにより質量の値が求まるか、電子天秤では腕の「歪み」を電気的に取り出して質量として表示します。このような天秤を使って、密度を測定するにはどうしたらよいのか、簡単な説明をするとともに、通常はなされていない、ちょっと「新しい測定法」を提案します。

 

:先ずは、通常の方法について説明しましょう。

 私のような古い理科教育を受けた者には「物理天秤」という道具が頭の中にあります。それはこんなものです。

 こちらが左の皿。右の皿は普通に分銅を置いて質量を測る皿です。

 この左の皿には、上にフックがあり、これを含めて右の皿と空の状態で釣り合わせておきます。

 まず、物体を普通に皿の上に置き、質量を通常の方法で測定します。この値をWとしましょう。

 天秤の支柱の脇には短い棒が立っていて、それを軸としてビーカーを載せる台を回転させて皿の上に持ってくることができるようになっています。

 この台に水を入れたビーカーを置き、物体を糸でフックに吊るして、水の中に完全に沈めます。この状態で測定して、その値をW’としましょう。(糸の質量が問題となるなら、風袋として差し引けるようにしましょう。)

 浮力はFとしましょう。

 

 

(あまり、やらないことですが、物体の密度がわかっていれば、密度未知の液体の密度測定も、全く同じ方法でできます。そのときは

こういう形で求めることになります。)

 

 下の写真は、上に述べた方法で密度測定を行なっているところです。私もちょうどこんなやり方で密度測定をした経験があります。

http://www.kobe-kosen.ac.jp/sci/scifolder/phys-exp.html から引用しました。)

 

 これは、昔の高校物理教科書の挿絵です。台は作り付けではないようです。

 

 古い教科書からこんな図を見つけました。これが私の頭の中にあるイメージそのものです。

 →図

 

 これは、通常の秤量皿の下にフックがあって、物体を吊るして液体の中に浸すことができるようになっているようですね。

http://perso.wanadoo.fr/daniel.giroux/page728.htm から引用しました。)

 

 

密度測定の新しい方法

 1で紹介したオーソドックスな密度測定法は、物体の質量と、水中に没した物体の質量の差から、浮力を求め、それを物体の体積とし、密度を求める方法でした。水中に没した物体の質量を測るために、物体を吊り下げ、その吊り下げている糸(細い針金)を通して、天秤に力を伝えていました。

 ところが、上皿天秤や、現在、教育機関で多用される「電子天秤」では、そのように「吊り下げる」ことが困難です。どうしてもということだと、吊り下げる枠を秤量皿に載せ風袋として差っぴき、更に水を入れるビーカーは別の支えで吊り下げ枠の中にセットする、という手の込んだことになります。

 そのため、物体の体積を知る方法は、メスシリンダーの中の水に物体を浸し、目盛りの上昇から読み取るしかほとんど方法がないのではないでしょうか。

 ある程度の太さのあるメスシリンダーでは、目盛りは「1mL」刻みであり、「0.1mL」は目分量で読むことになりますが、メニスカスもあり、目分量による読み取りは不正確になりがちです。一方、質量測定の方は、上皿天秤でも「0.1g」は当たり前、電子天秤では「0.01g」も簡単に読みとれるはずです。

 最近の高校理科教育では「有効数字」の概念をしっかり身につけてもらうことは難しくなってはいますが、質量だけ精密に測定できても、体積の測定がそれに伴う精密さを持っていなければ、質量/体積としての密度も正確性がなくなるということはわかると思います。

 

2−1:力の関係の考察

 これは、上で使った図の中心部だけ取り出したものです。ここで、力の作用・反作用関係を考えて見ましょう。

Wは地球が物体を引く重力であり、その反作用は物体が地球を引く力です。

糸は物体からW’=(W−F)の力で引かれ、物体をW’=(W−F)の力で引いています。

糸はフックをW’の力で引き、フックはW’の力で糸を引いています。

 

2−2:発想の逆転

物体は浮力Fを受けています。これは簡単にいってしまえば、物体に働く圧力を表面全体にわたって足し合わせたようなものですから、水が物体を押し上げる力として働いています(引き上げる力ではありません)。

 これを作用とした時、反作用はどこへ行ってしまったのでしょう?

水が物体を押し上げたのですから、物体は同じ大きさで水を押し下げているはずです。

浮力は、物体の体積に等しい水の重さと同じ大きさで上向きです。従って、水の方は、物体の体積に等しい水の重さと同じ大きさで下向きに押されているのです。要するに、押しのけられた体積に等しい分の水が加わったのと同じです。

 

 従来の方法は、フックのところでの力(物体の質量と浮力の合力)を測定するものでした。ビーカーや水の重さは、台に外部から支えさせて、測定の対象外にしてあります。

 私の提案は、フックのところでの力は外部に支えさせてしまって測定の対象外とし、浮力の作用反作用だけを取り出して、秤量皿に加わる浮力の反作用を測定しようというものです。

 

→たとえ話

 

2−3:測定法

まず、ビーカーに水を入れ、ビーカーごと重さを測ります。これをMとしましょう。

次いで、物体を糸に吊るして、完全に水没させ、しかもビーカーの底に接触しない状態に保持します。この時天秤が示す重さをM’としましょう。

 必ず M’>M になります。

 この増加分(M’−M)これが、浮力Fなのです。

 F=(M’−M)

物体の質量Wはあらかじめ測定しておけばいいでしょう。

  別法として、上のように水中に物体を吊るして測定した後、糸を切ってしまえば物体は底に落ち、天秤はM”を示しますが、W=(M”−M)として求めてもかまいません。

物体の密度ρは、

 ρ=W/(M’−M)

 として求まります。

 

 これが、私の提案する新しい密度測定法です。(単純ですね)。

 

2−4:測定の実例

実例1

 私の手元に、傷つき、さびが少し出た上皿天秤用の50g分銅があります。この分銅の密度を測定してみましょう。

 傷つき、さびが出たとはいっても、上皿天秤で秤量すると50.0gでした。

W=50.0

ビーカー+水            =44.6g(M)

ビーカー+水+分銅(浮)=50.6g(M’)

ビーカー+水+分銅(沈)=94.6g(M”)

 

ρ=W/(M’−M)=50.0/(50.6−44.6)=50.0/6.0=8.3[g/cm3]

(M”−M=50.0 ですから、上に書いた物体の質量測定の別法でもいいことがわかります。)

 

 下の写真は、この実験の予備実験のときのものです。分銅がビーカーの水の中に宙吊りになっていることがお分かりいただけるでしょうか。

 

 上のデータで、M’−M=6.0 という形で浮力が求まり、ここから分銅の体積を6.0cmとしたのですが、

 直接メスシリンダーでも体積を測定してみました。

 (終)91.0mL−(初)85.0mL=6.0mL で同じ値が求まりました。

 

 以上のように、密度未知の物体を水中に吊るして水の質量を測定し、水の質量の増加分から浮力を求め、ひいては物体の体積を求めることが可能なのです。

 これなら、上皿天秤でも、電子天秤でも簡単に測定可能です。

(物体を吊るす支えは、私の実験では蛍光灯スタンドです。この程度の精度なら手でぶら下げていても大丈夫です。理科実験室なら、実験用のスタンドがあるでしょうから、そこにクランプなり、リングなりをつけて、糸を吊るせばよいでしょう。)

 

実例2

 下の写真を見てください。鉄製の分銅です。どういう経緯で私の手元にこれがあるのか記憶が不鮮明なのですが、小学生の頃にでも拾ったか、大工さんにもらったか、そんな薄ぼんやりとしたあいまいな記憶があります。

 「理科おじさんの部屋」でU君と棹秤を作ったときに、私の道具箱をひっくり返したら出てきました。あまりちゃんと見たこともなかったのですが、今回よく見てみると、「御秤所」とか、他にも読めない刻印が入っていて、これってひょっとすると、かなりの時代物なのかもしれません。やはり棹秤用の分銅だったものと思います。

 この分銅は200gを超えていて、上皿天秤の秤量を超えています。また、私の持っている100mLメスシリンダーでは細くて体積も測れません。そこで、台所へ出掛けていって、キッチンスケールで実験してみました。

 

●分銅の重さ: W=260g

 コップ+水: M=270g

 分銅を浸す: M’=300g

 

密度ρ=W/(M’−M)=260/30=8.7[g/cm3]

 

 ちょっと大きな値ですが、まあ良しとしましょう。キッチンスケールですから。

 

実例3

 何だか妙なものばかり登場するのですが、実は今回の真打・本命はこれです。この実験方法を考案したきっかけになった「もの」です。

 20年以上前、当時の勤務校で、年度末の片付けにゴミを集積場へ運び、燃やせるものは、当時は構わなかったので焼却炉で燃やしていましたら、ゴミの「山のふもと」に、黒いペンダントヘッドらしきものが落ちていたのです。拾ってみると小さい割には持ち重りを指先に感じて、銅がさびたものかなと思って準備室に持ち帰り、文房具の引き出しに放り込んで、そのまま。それからまた数年、異動して、文房具セットを新たな引き出しに放り込んでいたら、これが転げだしてきました。よく見ると、表は

JOHNSON MATTHEY

 FINE GOLD

 5 GRAMS 9999

 REFINERS ASSAYERS」

となっており、裏は

GUARANTEED BY

 Johnson Matthey

 LONDON

 REFINERS & ASSAYERS」

となっています。

「9999」が金の純度表示であることは知っていましたが、なんだかねぇ、色は黒いし、金のペンダントヘッドというものがあることを知らない人でしたから私は、信じがたくて、密度を測定してみようと思い立ったのです。

 体積の見積もりは、11.5mm×20.5mm×1.5mm 程度で、およそ0.3cmくらいでしょう。

 こんな体積だと、メスシリンダーに沈めて体積を測定するのは無理です。そこで、いろいろ考えて考案したのがこの方法だったのです。当時のデータはありませんので、今回改めて、上皿天秤で測定してみました。

↓左が水中に宙吊り、右はビーカーの底に落として、の測定の様子です。

結果は、

  質量測定:5.0g(弱)(5.0gはないのですが、4.9まではいかないようです。)

  水+ビーカー    46.3g(M)

  ペンダント吊るす  46.6g(M’)

  切り落とす     51.3g(M”)

 

体積はM’−M=0.3cm程度ですね。

質量が5.0g 程度です。

密度は 5/0.3≒17[g/cm3] 程度と求まりました。

 

理科年表によると金の密度は 19.32[g/cm3]ですから、こんなちゃちな実験としては、まあまあでしょう。誤差範囲、ごさはんい、ゴサハンイ・・・。

(有効数字が1桁しかないのですから。スミマセン。)

 実際には、実験室の1mgまで測れる電子天秤を用いたので、結構いい値が出たのだったと記憶しています。で「これは金だったのかぁ!」とびっくりしたものです。インターネットで今回改めて「JOHNSON MATTHEY」を検索したら、1817年にJohnsonさんが創立し、1850年にMattheyさんが加わった、という結構な老舗のようです。

 

 私が考えたこの方法は、対象の物体が小さい方が、かえって使う水の量を減らせるので、扱いやすくなります。ぜひ、試してみてください。

 

実例4

 これはお話だけ。上のペンダントヘッドの密度測定に成功したのに気をよくして、当時、「金のしおり」というものの密度を測定したことを覚えています。文房具屋で今も売っていますね。すかし模様の入った薄い金色の板。「24金」とかいう文字が目に入っていたので、密度を測定してみようと思ったのです。

 薄くて、体積を測るのは、普通の方法では無理です。そこで電子天秤を使って上に述べた密度測定を試みた結果、得た値は19などには程遠く、調べてみると銅の密度に非常に近かったのです。

 つまり、銅板に金メッキをしたものだということが、わかりました。そこで、もう一回、商品の能書きをよく読むと「24金メッキ」なのでした。金メッキをするにはおそらく、シアン化金の溶液を電気分解するので、析出する金は金以外の何ものでもないのでして、いかに薄かろうと純金、24金でしかありえません。化学屋の眼からすれば当たり前なのですが、普通の人には「金メッキ」より「24金メッキ」の方がありがたいのだろうなぁ、と笑ったものです。

 

 つまり、正確な密度測定ができれば、そこから、素材金属について情報を得ることができる、ということです。

 


 前回、ガリレオの密度測定法から出発して、今回、電子天秤で可能な簡便な密度測定法の説明にまで発展させました。

 もし、中学・高校で私の話が教材として使えそうでしたら、どんどん試みてください。結果をお聞かせいただければ幸いです。

 

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