前世は白馬
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今は昔、比叡山の東塔に朝禅(ちょうぜん)という人がいました。

朝禅は幼い頃より山に上り、出家して仏法の道を習おうとしましたが、

生まれつき頭が鈍く、なかなか仏法を習得することができませんでした。

そこで師がこう言いました。

「汝は心鈍いので、学問の習得は無理だ。

ただ法華経を読誦(どくじゅ)することのみを、ひたすら行え。」

朝禅は師の教えに従い、法華経を習い、日夜熱心に読誦しました。

昼は僧房にて法華経を読誦し、夜は根本中堂に籠って法華経を読誦しました。

そして朝禅は、ついに法華経の一部を暗誦出来るようになったのです。

そんなある時、優れた人相を占う人が根本中堂にお参りに来ました。

その優れた人相見が礼堂に居るときに、山の多くの僧が集まり来て、

「私の相を見て下さい」と頼みました。

優れた人相見は頼みに応じて、僧たちの相の善悪を見ていたのですが、

朝禅を見て言いました。

「あなたの前世は、白い馬でした。ですから前世の影響で、体が白いのです。

また、声が荒いのも馬走るの足音に似ているのです。

これらはすべて、前世の癖が残っているのです。」

朝禅はこれを聞いて、人相見が帰った後に、周りの僧たちに言いました。

「あの人相見は、口から出まかせを言っている。

顔形を見、声を聞いて、命の長短や貧富を占うことはできても、

何で前世の事が分かろうか。仏様だけが前世の事を知っているのだ。」

朝禅は、人相見の言った事を信用せず、根本中堂に籠って念じました。

「私の前世の報いを知らせ給え。」

すると、夢に老僧が現れ、朝禅にこう告げました。

「人相見の言った事は真実である。

善悪の報いは、すべて影がその身に付きまとっているようなものだ。

汝は前世、白き馬の身であった。

一人の法華持経者が、その馬に乗って、一時道を行ったことがあるが、

その功徳によって、馬の身から転じて人として生まれ、僧となり、

法華経を読誦し、仏法に巡りあうことが出来たのだ。

法華経を受持し、人に勧めて受持させる功徳は大変なものなのである。

汝は、いっそう心をこめて法華経を受持し、怠けたりしないようにせよ。」

そこで朝禅は目が覚めました。

朝禅は自分の前世の報いが分かり、人相見の言葉を信じなかったことを

悔いたのでした。

真の人相見は、前世の報いもよみ占うのです。

朝禅はこれを深く信じて、その後は一層心をこめて修行に励んだと

語り伝えられているのです。



参照、「今昔物語」
比叡山東塔僧朝禅誦法花知前世語

根本中堂 比叡山東塔の中心

根本中堂




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