| 前世は狐(きつね) |
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今は昔、比叡山の西塔に春命(しゅんみょう)という僧がいました。
春命は幼い頃より比叡山に上り、師に従って法華経を習いましたが、 昼夜法華経を読誦し、他の勤めは全く行いませんでした。 昼は僧房にいて、日が暮れるまで法華経を読誦し、 夜は釈迦堂に籠って、法華経を読誦していました。 春命はもともと貧しい身で、不自由なことが多かったのですが、 ひたすら山に籠って、里へ出て行くことはありませんでした。 春命は、このようにただ法華経を読誦して年月を過ごしていたのですが、 ある時、夢の中に天女が現れました。 天女は、体の半ばを現し、半ばを隠しながら言いました。 「汝の前世は狐(きつね)であり、この山の法華堂の天井に住んでいて、 常に法華経を聞き、法螺の音を聞いていた。 それ故、今、人として生まれ、 ここの僧となって法華経を読誦するようになったのだ。 人には生まれがたいものであり、仏法には会いがたいものなのである。 汝は、いっそう法華経の読誦に励み、決して怠るようなことがあってはならない。」 そこで春命は目が覚めました。 春命は、前世の報いを知り、因果の道理を信じるようになりました。 春命は、ますます熱心に法華経を読誦し、その数六万部にも及びました。 そして春命は、長い年月を法華経を読誦に費やしたのです。 最後のときは病にかかりましたが、ひどくわずらうこともなく、 法華経を読誦しながら命を終えたと語り伝えられているのです。
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