| 酒呑童子 (しゅてんどうじ) |
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平安の世に、怪しい事件が起こりました。
丹波の国、大江山には鬼が住んでおり、日が暮れると都に出没し、 器量の良い娘をさらっていくのです。 そんなある日のことです。 池田の中納言くにかたの一人娘で、とても美しい姫がさらわれました。 姫を寵愛していた両親の歎きは、語りようもないほどでした。 中納言くにかたは、急ぎ参内して、このことを報告しました。 帝は公卿や大臣を集めて議論しましたが、よい方策が見つかりません。 そんな中、関白殿が進み出て進言しました。 「今ここに、源頼光を召せられて、鬼を退治するよう命じられますように。 貞光、季武、綱、公時、保昌をはじめとする頼光一党は、 鬼も恐れをなすそうです。」 帝は、さっそく源頼光を呼び出して命じました。 「頼光よ、よく聞け。 丹波の国、大江山には鬼どもが住みついて、人々に害を与えている。 私の治める国に鬼どもを住まわせておくわけにはいかない。 大江山の鬼どもを退治せよ。」 頼光は勅命を伺い、思いました。 「鬼は変化自在だから、討手が来たと知れば塵や木の葉に身を変え、 姿を隠してしまうだろう。 そうなると人の目では、見つけることが難しいだろう。」 その夜、頼光は自分の邸に仲間を集めて方策を練りました。 その結果、まず神仏に祈願して後、山伏に身を変え出発することにしました。 源頼光と藤原保昌は、 岩清水八幡へ、 渡辺綱と坂田公時は、 住吉明神へ、 碓井貞光と卜部季武は、 熊野権現へと、 それぞれ参籠し、祈願しました。 それから頼光たち6人は、山伏に姿を変え、丹波の国の大江山へと 向かいました。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]()
大江山に着いたあたりで、頼光一党は柴を刈る人に出会いました。 「山人よ、千丈嶽はどちらだろうか。鬼の岩屋の場所を教えてくれないか。」 頼光が問うと、山人は答えました。 「この峰をあちらへ越え、谷を渡り、さらに峰を越えたあたりです。 しかし、そこは鬼の住みかと申して、決して人が行かない場所です。」 頼光一党は、谷を渡り峰をよじ登って進みました。 しばらく行くと、岩穴がありました。 中を見ると小屋があり、その中に3人の老人がいるのです。 頼光は尋ねました。 「あなた方は、どのような人たちなのですか?」 老人の1人が答えました。 「私どもは、化け物ではありません。 1人は摂津国の闕郡の者、1人は紀伊国の音無の里の者、 もう1人は京に近い山城の者です。 この山の向こうに住む酒呑童子という鬼に妻子をさらわれてしまい、 その敵を討つために、ここまでやって来たのです。 あなた様方は常人ではないようですが、きっと帝の勅命により酒呑童子を 退治にきたものとお見受けいたします。 我ら3人の老人が道案内をいたしましょう。 まずは、しばらくここで疲れを休めてください。」 頼光一党は、一休みすることにしました。 老人の1人が言いました。 「何としても鬼のすみかに忍び込んでください。 かの鬼は、いつも酒を飲んでいるので酒呑童子と名付けました。 酒を飲み酔っ払って寝てしまえば、前後も分からない有様です。 我々3老人は、ここに不思議なお酒を持っているのです。 その名を神便鬼毒と言って、神の方便・鬼の毒酒とよむのです。 この酒を鬼が飲めば、自由に空を飛ぶ力を失い、斬ることは容易いでしょう。 あなた様方が飲めば、逆に薬となるのです。」 さらに老人は星甲を取り出して、頼光に言いました。 「あなたはこれを着て、鬼の首を切って下さい。」 老人はそう言うと、星甲に例の酒を添えて頼光に手渡しました。 頼光たち一党は気付きました。 「三社の神様が、ここへ出現してくださったのだ!」 一党は言葉では言い尽くせないほど感激しました。 それから老人は、道案内をしてくれました。 千丈嶽を登り、暗い岩穴を十丈ほどくぐりました。 しばらく行くと、細い谷川に出ました。 そこで老人は言いました。 「この谷川を上って行かれよ。若い女がいるでしょう。 詳しいことは会ってから尋ねてみて下さい。」 そう言うと老人たちは、かき消すように見えなくなりました。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]()
頼光たち6人が教えられたとうり川を上っていくと、若い女が泣きながら 血のついた着物を洗っていました。 「貴女は、どのようなお方か?」 頼光が尋ねると、その女が答えました。 「私は都の者ですが、ある夜、鬼にさらわれてここまで連れてこられました。 このような情けなき思いをしているのを哀れとと思いくださいませ。」 女は流れる涙をおさえながら、さらに語りました。 「ここは鬼の岩屋といって、決して人が来るような所ではありません。 あなた方は、何故おいでになったのですか? どうか私を都へ連れ帰って下さい。」 「貴女は、都のどなたのご息女ですか?」 頼光が尋ねると、女は答えました。 「私は花園の中納言のひとり娘です。 私以外にも10人ほどが捕らわれています。 このあいだ、池田の中納言くにかた様の姫君もさらわれてきました。 鬼どもは、酒と称して体から血をしぼりとり、肴と称して体から肉をそぎとり、 それを飲んだり、喰ったりしているのです。 その血のついた着物を、私が洗うとは悲しすぎます。」 女の話を聞いて、頼光は言いました。 「私たちは、鬼どもを退治し貴女方を都へ連れて帰るためにやって来たのです。 鬼のすみかのことを詳しく教えて下さい。」 「この谷川をもう少し上って行くと、鬼のすみかがあります。 鉄で塀を築き、鉄の門を建てていて、入口には鬼が集まって番をしています。 中には、鉄の御所と名付けられた鉄でできた舘があり、 その中で、さらってきた娘たちに、愛撫させたり足や手をさすらせています。 牢の入口には手下どものうち、ほしくま童子、くま童子、とらくま童子、 かね童子、という四天王が番をしています。 酒呑童子の姿は、色は薄赤く、背が高く、髪は結わずに短く切って振り乱し、 昼間は人の姿ですが、夜になると何ともおぞましい姿になります。 酒呑童子は、いつも酒を飲んでいます。 何とかして忍び込み、酒を飲ませて酔わせ、思う存分に討ち取って下さい。」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]()
頼光たちが谷川を上って行くと、ほどなく鉄の門に着きました。 門番の鬼どもが、頼光たちを見つけて言いました。 「何者か、珍しや。 愚かにも、夏の虫のように飛んでくるとは。 最近、人を喰ってないので良い機会だ。 さあ、引き裂いて喰おう。」 そのとき、他の一匹の鬼が制止しました。 「慌てるな、まずお頭に報告しよう。」 結局、頼光たちは縁側へ案内されました。 しばらくすると、酒呑童子が姿を現しました。 酒呑童子の姿は、薄赤く、背が高く、髪は短く切り垂らして振り乱し、 大格子の着物を着、紅の袴を着用し、鉄杖を杖にしていました。 あたりを睨んで立つその姿は、身の毛もよだつものでした。 酒呑童子が言いました。 「このような所までやって来るとは、如何なる理由なのか言え。」 頼光は答えました。 「これは我らの修行のならいです。 役の行者と申した人が、道なき山を踏み分けて、後鬼、前鬼、悪鬼に会い、 呪文を授け餌食を与えてから、今まで毎年絶えることなく、 餌食を与えているのです。 我ら旅僧も、その流れを汲んでいるのです。 道に迷ったおかげで、童子にお目にかかることができました。 これも、役の行者のお導きというものです。 お宿を貸してください。 お酒を持ってきていますので、童子に一献差し上げましょう。 私どもと、夜通し酒盛りをいたしましょう。」 しかし酒呑童子は、なおも頼光の本心を探ろうとして言いました。 「持参の酒があるとの事、こちらもまた客僧方に一献差し上げよう。」 そう言うと酒呑童子は、絞った血を入れた銚子と杯を持ってこさせました。 そして杯を取り上げて、まず頼光に差すのでした。 頼光は、杯を受け取ると、さらりと飲みほしました。 酒呑童子は、次に杯を渡辺綱に差しました。 綱も、同じくさらりと飲みほしました。 酒呑童子は、今度は肴を持ってくるよう、手下の鬼に命じました。 すぐに、たった今切ったものらしい腕と股を載せた膳が前に置かれました。 酒呑童子が、手下の鬼に命じました。 「それを料理して参れ。」 手下の鬼がそれを持って立とうとしたとき、頼光が言いました。 「私が料理いたしましょう。」 そう言うと頼光は、脇差を抜き、肉を四、五寸押し切って、 美味そうに食べました。 綱も、同じく肉を切って、美味そうに食べました。 酒呑童子は、この様子を見て言いました。 「客僧方は、どんな山に住んでおられるのか? かくの如き珍しい酒を持参しているとは不思議なことだ!」 頼光は答えました。 「不審に思われるのは当然です。 我ら修行の習いとして、慈悲を受け賜るものあらば、心にそぐわなくても 断ることはありません。 討つも討たれるも夢のようにはかない世の中、この身はそのまま仏なれば、 食うに二つの味はなし。我らもともに悟りを開くのです。」 酒呑童子は、その話を聞いて言いました。 「心にそぐわない酒や肴を差し上げて申し訳なかった。 他の客僧へは無用である。」 それから酒呑童子の表情は、だんだん和らいでいきました。 頼光は、例の酒を取り出して言いました。 「これは都より持参した酒なれば、童子へも一献差し上げましょう。 まずは私が毒見を。」 そう言うと、頼光は一献さらりと飲みほし、盃を酒呑童子に手渡しました。 酒呑童子は、上機嫌で盃を受け取り飲みほしました。 酒呑童子は、その酒の甘露の如き味に大変感激しました。 「我が最愛の女にも飲ませてやろう。」 酒呑童子は、くにかたの姫と花園の姫を座敷へ呼び出しました。 その様子を見て、頼光が言いました。 「これはまた、都の姫にも一献差し上げましょう。」 そう言って、頼光は酌に立ちました。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]()
酒呑童子は上機嫌になり、自分のことを語り始めました。 「私の昔のことをお聞かせしよう。 私は越後の国の生まれで、山寺の稚児であった。 法師に恨みがあったので、多くの法師を刺し殺した。 そして、その夜のうちに比叡山へ向かった。 比叡山は私が住む山だと思ったのだが、伝教大師(最澄)という よけいな者が、仏たちと示し合わせて、私を追い出したのだ。 しかたなく大江山に住んでいると、弘法大師(空海)という愚か者が、 法力で私の力を封じ込め、そこからも追い出したのだ。 しかし今は、そのような法師はいない。 だから私は、この大江山に立ち寄り、都から自分の望む姫を連れてきて、 思うままに召し使っている。 この舘の中は私の思うままだ。 どんな諸天王も、私の真似など出来ないだろう。 ただひとつ気になるのは、頼光と申す大悪人の武士のことだ。 その武士の腕前は、この国に並ぶ者などいないほどだ。 頼光の郎党には、貞光、季武、公時、綱、保昌という文武両道の兵がいる。 これら6人の武士のことが気がかりなのだ。 なぜなら以前、都に使いにやった手下の茨木童子が、渡辺綱と出会った。 茨木童子は女に姿に身を変えていたにもかかわらず、綱に見破られてしまい、 片腕を切り落とされた。 やっと腕を取り返したが、奴らがいるから、私は都へ行かないのだ。」 それから酒呑童子は、しばらく頼光の姿をじっと見つめました。 そのうち酒呑童子は顔色を変えて言いました。 「それにしても不思議だ。 あなたの眼をよく見ると、頼光そのものだ。 その次にいるのは、茨木童子の腕を切り落とした綱だ。 残りの4人は、貞光、季武、公時、それに保昌ではないか。 ここに居合わす鬼たちよ、油断するな!」 頼光は、少しも慌てず大声で笑い、そして言いました。 「我ら山伏どもが日本一の兵に似ているとは、さても嬉しき仰せかな。 しかし私は、その者たちの名前さえ知りません。 先ほどのあなたの話を聞くと、その者たちは大悪人であるとの事。 そのような人たちに、我らが似ているとは、なんとひどい事よ。 釈迦如来は前世において、ある時は飢えた鬼を助けるため、 自らその口に入った。 また、ある時は鳩の命を助けるため、身を秤にかけたそうです。 それらの事は、すべて生きるものを助けるためでした。 我ら山伏も、同じ修行をしている者なれば、少しも命など惜しくないのです。」 頼光の言葉を聞いて、酒呑童子は落ちつきを取り戻して言いました。 「仰せを聞けば、なるほど有難い事だ。 頼光一党が、まさかここまで来るはずはないが、いつも気になっているのだ。 今のは酔った上での愚痴だと思い、許されよ。」 それから酒呑童子は心打ち解け、盃をかさね、舞い歌いました。 そのうち神便鬼毒のお酒は、鬼どもの五臓六腑にしみわたっていきました。 そんな中で、いしくま童子が立ち上がり、舞い歌い始めました。 「都よりいかなる人の迷い来て、酒や肴の飾りとはなる、おもしろや」 いしくま童子は、二度三度と繰り返し舞い歌いました。 頼光たちには、その歌の意味するところが理解できました。 ここにいる山伏どもを、酒や肴にすべしという意味でしょう。 次は、綱がさっと立ち上がり、舞い歌いました。 「年を経て鬼の岩屋に春の来て、風や誘ひて花を散らさん、おもしろや」 綱もまた、二度三度と繰り返し舞い歌いました。 この歌の意味は、ここにいる鬼どもを嵐に花が散るように斬ってしまおう というものでした。 しかし、鬼どもは全く気づきません。 鬼どもは、おもしろがりながら酔っ払っていきました。 酒呑童子が言いました。 「ここに居合わせる鬼たちよ、客僧方をもてなせ。 私の代わりに二人の姫を残しておくから、客僧方はそこでしばらく休まれよ。 では、また明日対面しよう。」 そう言うと、酒呑童子は奥へ入って行きました。 残った鬼どもは酔っ払って、死んだように眠っています。 頼光は、二人の姫を呼び寄せて言いました。 「貴女方は、都のどなたの姫ですか?」 一人の姫が答えました。 「私は、池田の中納言くにかたの一人娘ですが、近頃さらわれてきました。」 もう一人の姫も答えました。 「私は、吉田の宰相の妹娘です。命あることを怨めしく思っています。」 それを聞いて、頼光は言いました。 「私どもが今夜、鬼を退治して、貴女方を都へ連れて帰りましょう。 そのために来たのです。 鬼の寝所を教えて下さい。」 二人の姫は、夢かと思うほどに大喜びしました。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]()
頼光たちは、戦支度にとりかかりました。 頼光たち、らんでん鎖といって緋縅の鎧を召し、三社の神より給わった 星甲に、同じ毛の獅子王の甲を重ねて召し、「ちすい」という剣を持ち、 南無八幡大菩薩と祈念して進みました。 他の5人も思い思いの鎧を着、いずれも劣らぬ剣を持ち、進んでいきました。 広い座敷を通り、石橋を越えて、奥へ進んで行きましたが、 鬼どもは皆酔いつぶれています。 やがて座敷の奥に鉄の館が現れました。 館には鉄の扉があり、鉄の太い閂がさしてありました。 人の力では、中へ入れそうにもありません。 牢のすきまから中を見ると、酒呑童子の姿は昼とうって変わっていました。 背丈は二丈あまり、髪は赤く逆立ち、髪の間から角が生え、 鬚も眉毛もぼうぼう茂り、手足は熊のごときものでした。 寝ている姿は身の毛のよだつものです。 その時、頼光たちの前に三社の神が現れました。 「よくぞここまで参った。 鬼の手と足は、我々が鎖でつなぎ、四方の柱に結び付けた。 動くことはできまいぞ。 頼光は首を斬れ。他の者は前後にまわり、ずたずたに斬り捨てよ。」 そう言うと三社の神は、門の扉を押し開き、そのまま消えました。 頼光は、酒呑童子の頭の方へ廻ると、「ちすい」をするりと抜きました。 「南無や三社の御神、力を合せ給え。」 そう言って頼光は、三度礼拝し、そして酒呑童子の首を斬りました。 酒呑童子は、眼を見開き叫びました。 「おのれ客僧ども、偽りなしと聞いていたものを!」 酒呑童子は、起き上がろうとしましたが、手足が鎖に繋がれていて、 起き上がることができません。 酒呑童子は、雷鳴の如きわめき声を上げました。 しかし、頼光たちの太刀先は鋭く、酒呑童子をずたずたに斬り捨てました。 その時、酒呑童子の首が宙に飛び上がったと思うと、頼光をめがけて 飛んできました。 しかし、頼光の召している星甲に恐れをなし、頼光に害は及びませんでした。 斬り捨てた鬼どもの手や足や胴を大庭へ出していると、 一匹の鬼が「茨木童子」と名乗って、向かってきました。 「主を討った者どもよ、我が手並みを見せてくれる。」 そう言う茨木童子に対して、綱が進み出て言いました。 「我が手並みは知っておろう、目にもの見せてやろう。」 茨木童子と綱の戦いがしばらく続きました。 力の馬鹿強い茨木童子が、綱を押し伏せようとした瞬間、 頼光がかけより、茨木童子の首を打ち落としました。 その様子を見た、いくしま童子、かね童子他10匹ほどの鬼が 跳びかかってきました。 頼光たち6人の武士は、鋭い太刀さばきで、それらすべての鬼どもを 斬り倒しました。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]()
すべての鬼を退治し終えてから、頼光が言いました。 「姫君たち、もう心配いりません。 早く出てこられよ。」 姫たちは牢から出てきて、救い出されたことを知り感激しました。 頼光たちが牢の中を見てみると、死骸や白骨それに死にきれない人など、 目もあてられないほどの惨状でした。 その中に、片腕を落とされ、股を削がれ、まだ息のある姫がいました。 頼光は傍にいた姫に尋ねました。 「あの姫は、どなたの姫ですか?」 「あの方は、堀河の中納言の姫君です。」 傍にいた姫が答えました。 頼光は、堀河の姫君の傍に走り寄って言いました。 「姫君、なんとおいたわしいや。 我らは、鬼をことごとく退治しました。 姫君たちを都へ連れて帰ります。 貴女もつれて帰ります。」 そう言う頼光に、堀河の姫が答えました。 「このような姿を人に見せるのは恥ずかしいばかりです。 父母が私のことを知れば、かえって歎くことでしょう。 私の形見だと言って、私の黒髪を切って下さい。 この小袖は、私が最後まで着ていた小袖だと言って、黒髪を包み、 母上に差し上げて、後世の菩提を弔って下さるよう、お伝えください。 そして、あなた方客僧が帰る前に、私にとどめをさしてください。」 息も絶え絶えにそう言うと、堀河の姫は泣きました。 頼光は、その言葉を聞いて言いました。 「まことに道理です。 しかし、都へ戻ったならば、父母にはよきようにお知らせし、 迎えの人をよこさせましょう。」 そう言うと頼光たちは、助けた姫たちを連れて、鬼の岩屋を後にしました。 頼光たちは、大江山の麓「しもむら」という村に着くと、 姫の乗り物を用意させ、都へ伝馬を出しました。 都では、頼光一党の活躍の話でもちきりになりました。 頼光たちが都へ入ろうとする頃には、頼光たちを一目見ようと、 黒山のような人だかりでした。 池田の中納言くにかた夫婦は、姫と再会し泣いて抱き合いました。 頼光が報告のため参内すると、帝は言葉に表せないほど感激していました。 そして、限りないほどの褒美を頼光にくだされました。 それから、この国は長く安全に治まったのです。 この源頼光は、例えようのないほど素晴らしい武士だと、 天皇から平民にいたるまで感心したのです。
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