恋の鞘当さやあて
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今は昔、藤原定頼ふじわらのさだより小式部内侍こしきぶのないしと 長い間、情を通わしていました。

その小式部内侍には、藤原教通ふじわらののりみちも通っていました。

ある日のことです。

藤原教通が小式部内侍の部屋で伏していると、

そうと知らずに藤原定頼がやって来て、小式部の部屋の戸を叩きました。

部屋付きの女童が理由を説明したので、定頼は沓を履いて出て行きました。

しかし定頼は、少し歩き去ったかと思うと、

突然大声でお経を読み始めました。

二声ぐらいまでは小式部が少し耳をそばだてるようにしただけだったので、

教通は少し妙だなと思いつつも、特には気にしませんでした。

お経を読む声は遠ざかるように思えて、しかし通り過ぎもしません。

四声五声とお経を読む声は続きました。

「ああ」

小式部はそう溜息をつくと、後ろ向きに伏し返りました。



小式部の部屋に伏していた教通は、

「あれほど堪えがたく、恥ずかしかった事はなかった」

と、後に語ったそうです。



参照、「宇治拾遺物語」
小式部内侍、定頼卿の経にめでたる事


小式部内侍 こしきぶのないし
生年未詳〜1025
母の和泉式部とともに上東門院(藤原彰子)に仕える
父は橘道貞
関白藤原教通の子を産む(静円僧正)
その後、藤原公成の子を産んだ直後、若くして没す
藤原定頼 ふじわらのさだより
995〜1045
大納言藤原公任の子
能書家、誦経の名手
藤原教通 ふじわらののりみち
996〜1075
藤原道長の三男
関白、太政大臣など歴任



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